向日葵
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窓の外にいる鳥が飛ぶ姿を眺めたり、鳴き声を聞いたりして時間を過ごすのがここ最近の日常になっている。自由に空を飛んでいる姿や鳴いている様子を見ると、気が滅入ってしまいそうだ。
「お嬢さん、暇だろ。鬼ごっこでもしない?」
椅子に座らされて縛り付けられて何も出来ずにいる私に向かって、Mr.コンプレスが突然そんな提案をしてきた。
「何言ってるんですか…?」
意味が分からず思わず聞き返す。
「ずっとこんな部屋に閉じ込められてたら気が滅入っちまうだろ?それにずっと椅子に縛り付けられてたら苦しいだろうし運動不足になっちまう」
気が滅入る…?苦しい…?
「監禁しておいてよくそんなこと言えますね」
思わず眉間に皺を寄せながら言い返してしまった。怒りを買ってしまったかもとヒヤッとしたが
「ハハ、夏に連れて来た時も思ったけど君、見た目に反してかなり肝据わってるよね」
とてもじゃないけど誘拐された女の子とは思えないよと愉快そうに笑いながら言う。
「でも、前にも言ったけど口には気を付けた方が身のためだよ。生意気なガキがって言って殺されちまうかも」
なんて言いながらぽんぽんと頭を撫でられてまた眉間に皺が寄る。触られたくない。
「荼毘にボコられて脅されて、完全にもう心折れて言い返してくる元気なんてないと思ってたよ」
ケラケラと笑う声がすごく耳障りだ。
「そんな元気があることだし、ね。鬼ごっこでもしようよ」
今この屋敷ほとんど人が出払ってておじさんも暇なんだよねーなどと言いながら縄を解かれた。
「鬼ごっこなんてしたって何になるって言うんですか…」
したくないです、そう言葉を続けて断ろうとしたら
「もし、逃げ切ることが出来たら解放してあげる。そう言ったらどうする?」
遮られてそんな言葉を投げかけられた。えっ…と声を漏らしてしまう。
「今から1時間でお嬢さんが逃げ切るかこの屋敷の出口まで辿り着き、外に出ることが出来たらお嬢さんの勝ち。ここから解放して、雄英へ帰らせてあげる。そう言ったらどうする?」
と問い掛けてくる声音はとても優しい。だけれども肝心な表情は仮面に隠れていて見えない。
「も、もしも私が負けたら…?」
「そしたら今まで通り。この部屋にずっといてもらうよ」
死柄木が起きるまでずっとね、と穏やかに言われる。ここから解放してもらえる可能性が、少しだけある…。そんなこと言われると、僅かながら希望を持ってしまいそうになる。だけども
「私が、貴方から逃げるなんて出来るわけないじゃないですか…」
体力も運動能力も個性も頭の出来も、恐らくこの人に比べて全て劣っている。しかもこの屋敷のことはこの部屋以外何も知らない。鬼ごっこなんてしたって始まって数分…いや、数秒も持たずにあっという間もなく捕まってしまっておしまいになるに決まってるじゃないか。そんなの、体力を無駄に消費して終わりになるだけだ。
「アッハハ、そうだね。普通にやったら君に勝ち目は一切ない」
偉いねー、自分のことよくわかってて!と手を叩きながら言われてまた、眉間に皺が寄る。
「そんな顔しないでくれよ。可愛い顔が台無しだよ?」
そう言ってまた、頭を撫でられる。
「お嬢さんの言う通り。普通に鬼ごっこなんてしても君が俺…どころかここにいる連中から逃げるなんて不可能だ。だからハンデをあげるよ」
「ハンデ…?」
「そ、ハンデ。でないと退屈だろうからね。君が逃げるまで20分猶予をあげる。20分間この部屋から一歩も出ずに待ってあげるよ。それと君はいくらでも走っていいけど、俺は走らずに常に歩く。そして個性も使わない」
もっとハンデが欲しいって言うのならば考えてあげなくもないよ、どうする?とやはり優しく穏やかな声音で問い掛けられる。確かに、それだけのハンデがあったら私に有利かもしれない。少しだけ、勝てる可能性がありそう。でも、何か裏があるとしか思えない…。そう簡単に乗ったりして大丈夫なの…?どうすればいいの……?
「はい、無言は肯定ってことで。じゃ、鬼ごっこしよう。はいこれ。時間が分からなかったら不便だろうから貸してあげる」
と、無理矢理懐中時計を握らされた。
「じゃ、よーいスタート!ほら、早く逃げな」
と言い、ほとんど強制的に部屋から追い出された。どうやら私の意志は関係ないらしい。……逃げられる可能性があるのなら、腹を括ろう。裏があるかもとか考えずに、少しの希望に縋ろう。
◇
ただひたすら、がむしゃらに屋敷を駆け回った。閉じ込められていた部屋から、少しでも遠くに逃げよう。そう思って、ひたすら足を動かし続けて無我夢中で走り続けた。そうしていたら、ここがどこなのかわからなくなってしまった。いや、そもそもここへ連れてこられてからずっとあの部屋に閉じ込められているからどこに何があるのかとか、このお屋敷がどこに建てられているものなのかとかこの建物の外観とか、なんにもわからない。ここに連れてこられて、どれだけの日数が経つのか、今日という日が一体何月何日なのか、何もわからない。……私の扱いが、雄英でどのようになっているのかもわからない。蛇腔病院に入院していることになっているかもしれないし、行方不明ということにされている可能性もあるかもしれない。最悪、もうすでにこの世にいないことにされている可能性すらも、あるんじゃないかと何度も考えたこともある。そんなの、絶対に嫌……!
だから早く帰らないと。なんとしてもあの人から逃げ切って、みんなのところへ…勝己君のところへ、帰らないと。
……走り続けて、苦しい。一旦どこかで休みたい。かなりの距離を走ったし、多分閉じ込められてた部屋から離れられただろう。少し、足を止めよう。Mr.コンプレスが来てしまったら困るから、一応隠れておこう。そう判断して、物陰に隠れて音をなるべく立てないようにして座る。鬼ごっこを始めてから何分くらいたったのだろうか。渡された懐中時計をそっと確認してみる。と、鬼ごっこを開始してから40分ほど経っていた。…あと20分…あと20分逃げ切るかその間に出口を見つけてそこから出ることが出来たら、私の勝ちで、ここから解放してもらえる………!今のところ、1度もMr.コンプレスのことは見ていない。もしかしたらこのまま逃げ切れ…
「お嬢さんすごいねー、よく頑張るねー。まさかここまで逃げられるとは思わなかったよ」
もっと簡単に捕まえられると思ったんだけどなー。なんて声が耳元に聞こえて来た。あまりにも驚きすぎて、ヒュッと喉が鳴った。恐る恐る振り返ってみると、目と鼻の先にMr.コンプレスがいた。
「いやあぁぁぁっっっ!!!」
思わず叫び声を上げる。必死に足に力を入れて、立ち上がり無我夢中で走り出した。
「あらら惜しかったー。あっわざわざ声掛けなきゃ良かったのか―」
失敗したなーと笑いながら言っている声が聞こえてくる。態と声を掛けてきたのが一目瞭然だ。早く、逃げないと。立ち止まっている余裕はない。泣くのを堪え、歯を食いしばりながらただただひたすら無我夢中になって足を動かし続ける。そうしていると不意に一つの扉が見えてきた。家とかにあるような、鍵がついてるように見える。も、もしかしてあれは出口なんじゃ…!足が縺れそうになりながらも走って、ふらふらになりながらも目の前まで辿り着くことが出来た。思わず泣きそうになる。早く、ここから出ないと……!
「歌歩ちゃん!!!!!!!」
不意に、聞き慣れた人の私のことを呼ぶ声が聞こえて来た。思わず立ち止まり、振り返る。と、そこには思い描いた通り…
「出久、君………?」
息を切らし、少し焦った様子の出久君が立っていた。
「な、なんで出久君がここにいるの…?」
困惑が止まらず、尋ねてしまう。
「歌歩ちゃんが敵連合に誘拐されたって言われて…!それで、助けに来たんだ…!無事みたいでよかったよ」
そう優しく笑いかけながら話掛けてくる出久君の姿に涙が出て来て、その場に崩れ落ちてしまう。すると出久君はぎょっとし走り寄って来て
「大丈夫?!」
と聞いてくる。そんな出久君に思わず抱き着いてしまう。
「わっちょ、歌歩ちゃん?!」
焦ったように名前が呼ばれた。
「怖かった…怖かったよぉ!!」
困らせてしまっているのは百も承知だけども、今はそれどころじゃない。助かったんだ、帰れるんだという安堵感や、色んな感情が入り乱れて、自分以外のことなんて考えられず出久君に抱き着いたまま泣き続ける。
「……歌歩ちゃん」
優しく名前を呼ばれ、背中に手を回された。落ち着くように撫でようとしてくれてるのかな。
「ありがとう、自分から捕まりに来てくれて」
全身の骨を折られるんじゃないかという錯覚に陥りそうになるくらい、キツく抱き締められ、耳元で囁かれ思考が止まりそうになる。
「えっ…はっ…い、いずっ…」
「歌歩ちゃんはやっぱり、ちょーっとだけ頭が足りませんね」
クスクスと笑いながら発せられている声は、出久君のものじゃない。ガタガタと震えながらも、恐る恐る出久君のことを見てみると
「出久君がここに来るわけないじゃないですかぁ。歌歩ちゃんが私達と一緒にいることも知りませんよ。まさかこんなにあっさり騙されてくれるとは思わなかったです。もっと警戒されるかと思ってたのになぁ。歌歩ちゃん迂闊だねぇ。でも、歌歩ちゃんのそういう迂闊で抜けてるところがとってもとーっも、私はだーい好きだよぉ」
と言いながら頬を赤らめ、恍惚とした表情を浮かべているトガヒミコと目が合った。
「ヒッ…!あっ…やっ…」
声が、上手く出ない。に、逃げ…
「ミスター!歌歩ちゃん捕まえましたよー!私達の勝ちです!」
逃げないとと藻掻こうとした瞬間、より一層キツく抱き締められて、声を上げられた。
「やったねトガちゃん!協力してくれてありがとね」
そう言いながら物陰からMr.コンプレスが出て来た。
「てか、服着ようね。ほら、預かってたから」
「はーい!ミスターありがとう」
なんて会話をしている2人を見つつ、頭をなんとか働かせようとする。
「きょ、協力…?な、なんで…」
私とあなたで鬼ごっこするって話じゃ…そう呟くことしか出来ない。
「え?そんなこと言ったっけ?鬼ごっこしようとは言ったけど、2人きりでしようとは一言もいわなかったハズだけど」
変なこと言うねーなんて笑いながら言われた。
「そ、そんなの…!」
聞いてない!というと
「うん、聞かれなかったからね。だからわざわざ言わなくてもいいかと思って。あっひょとして俺と2人だけでしたかったの?だったらそう言ってくれれば良かったのに」
そしたら2人だけでしてあげたのにー!と笑いながら言われて、血の気が引くような感覚がしてくる。
「えー!私だけ仲間外れなんてやですー!!」
そんなのダメですからねー!と、頬を膨らませながらいうトガヒミコをMr.コンプレスは「はいはい、ごめんて」と軽くあしらっている。2人のやり取りに、震えが止まらない。
「と、お嬢さん。君の負けだ。じゃ、部屋に戻ろうね」
といって腕を掴まれる。嫌…!と振り解こうとするが、出来るわけもなく無駄に終わる。
「嫌って…約束しただろ、君が負けたら今まで通りあの部屋で過ごすって」
約束はちゃんと守らないとだめだよ?とまるで、子供に諭すような声音で言われる。
「そ、それを言うなら貴方だって…!」
ガタガタと震えながらも、
「個性は使わないって、ハンデをくれるって…!」
言ったじゃ、ないですか…!と必死に言い返した。
「うん、言ったね。ハンデとして”俺は”個性を使わないって」
だから俺は使わなかっただろ?と、
「"俺は"個性を使わない。そうは言ったけれども、"他のヤツが"個性を使わないとは、言わなかっただろ」
嘲笑われる。
「そ、そんなの、屁理屈じゃないですか…!」
嘘吐き…!必死に泣くのを堪え、唇を噛み締めながら抗議の声を上げる。
「嘘吐き?心外だなー!聞かれなかったから答えなかっただけなのに」
なのにそんな風に言われちゃ、傷付いちまうぜと笑う姿は微塵も傷付いたなんて思って無さそうだ。
「そんなこと、事前に説明して貰わないとわかるわけ…」
ない、じゃないですか……そう力なく呟き、項垂れることしか出来ない。
「そうなのかい。それはすまなかったね」
次こういう機会があったら覚えておくといいよ、ルールはきちんと確認してしっかり把握した方がいいってねと、また頭を撫でて来る。その手を振り払いたいのに、もうそんな気力すら沸いてこない。
「ミスター。歌歩ちゃんもう疲れちゃったみたいですよー」
早くお部屋へ連れて行ってあげましょうよーというトガヒミコに対して「それもそうだね」と答えたかと思うと、私のことを軽々と肩に担いで歩き出した。
このまま連れて行かれたらまた、あの部屋に閉じ込められる。1日の大半を椅子に縛り付けられて、窓の外にいる鳥達を眺めるだけの日々に逆戻りになる。それはもう、嫌……!
「あっちょっと暴れないでよお嬢さん」
危ないよーと言われるが無視して暴れ続ける。
「………そのまま暴れ続けるようだったら、落とすぞガキ」
底冷えするような低い声で脅されて、あまりの恐怖に動けなくなる。
「ふふ、大人しく出来て歌歩ちゃんお利口さんだねー」
脅されて怯えて身動き取ることが出来なくなった私を見て、トガヒミコは嬉しそうに笑う。
「にしてもトガちゃん、よくとってあったね。緑谷出久君の血」
てっきりもう使い切ったと思ってたよとMr.コンプレスに声をかけられると
「弔君に言われたんです。歌歩ちゃんを連れて来た時に絶対役に立つだろうから、出久君に変身して上げたら歌歩ちゃんがすごーく喜ぶだろうから、だから少しでも出久君の血は残しておけって」
嬉しそうに笑いながら答える。
「弔君の言う通り、歌歩ちゃんとても嬉しそうでしたね。出久君に変身した私を見た時とってもかぁいかったよぉ。あんなに喜んで貰えるんだったらもっと早くやれば良かったし、もっと沢山血残すなり取るなりすればよかった」
と言いながら私の頬を突く。………喜ぶわけ、ないじゃないか。
「出久君の姿であんなに喜ぶんだったら、爆豪君に変身したらもーっと喜んでくれたのかなー」
爆豪君の血も手に入れられてたら良かったのに!とニコニコ笑って言うこの子の言葉は一体、どこまでが本気の善意なんだろう。
「………ハハ、君も大変だね。厄介で怖いやつらに、気に入られて」
そう笑いながら言うMr.コンプレスはきっと、1から100まで全部悪意の塊だ。
あぁ、そうだ忘れてた。私は、無数の糸が張り巡らされて作られた蜘蛛の巣に捕らわれた、哀れな獲物だったんだった。獲物が蜘蛛の巣の中でどんなに足掻いても、逃げられるわけなかったんだ。足掻けば足掻くほど、もがけばもがくほど、糸は巻き付いてきて、全身を覆ってきて、そのまま身動きひとつ取れなくされてしまうんだ。
「歌歩ちゃん、今日はすごく頑張ったからご褒美に甘い物沢山食べさせてあげるね。パジャマもとびきりかぁいいのを着させてあげる」
恋バナもいっぱいしようねぇ、楽しみだねぇと、頬を赤らめてとても嬉しそうに声をかけてくるトガヒミコの姿に、視界が歪んできた。
もういっそのこと、心を殺せてしまったら楽になれるのかな。
「お嬢さん、暇だろ。鬼ごっこでもしない?」
椅子に座らされて縛り付けられて何も出来ずにいる私に向かって、Mr.コンプレスが突然そんな提案をしてきた。
「何言ってるんですか…?」
意味が分からず思わず聞き返す。
「ずっとこんな部屋に閉じ込められてたら気が滅入っちまうだろ?それにずっと椅子に縛り付けられてたら苦しいだろうし運動不足になっちまう」
気が滅入る…?苦しい…?
「監禁しておいてよくそんなこと言えますね」
思わず眉間に皺を寄せながら言い返してしまった。怒りを買ってしまったかもとヒヤッとしたが
「ハハ、夏に連れて来た時も思ったけど君、見た目に反してかなり肝据わってるよね」
とてもじゃないけど誘拐された女の子とは思えないよと愉快そうに笑いながら言う。
「でも、前にも言ったけど口には気を付けた方が身のためだよ。生意気なガキがって言って殺されちまうかも」
なんて言いながらぽんぽんと頭を撫でられてまた眉間に皺が寄る。触られたくない。
「荼毘にボコられて脅されて、完全にもう心折れて言い返してくる元気なんてないと思ってたよ」
ケラケラと笑う声がすごく耳障りだ。
「そんな元気があることだし、ね。鬼ごっこでもしようよ」
今この屋敷ほとんど人が出払ってておじさんも暇なんだよねーなどと言いながら縄を解かれた。
「鬼ごっこなんてしたって何になるって言うんですか…」
したくないです、そう言葉を続けて断ろうとしたら
「もし、逃げ切ることが出来たら解放してあげる。そう言ったらどうする?」
遮られてそんな言葉を投げかけられた。えっ…と声を漏らしてしまう。
「今から1時間でお嬢さんが逃げ切るかこの屋敷の出口まで辿り着き、外に出ることが出来たらお嬢さんの勝ち。ここから解放して、雄英へ帰らせてあげる。そう言ったらどうする?」
と問い掛けてくる声音はとても優しい。だけれども肝心な表情は仮面に隠れていて見えない。
「も、もしも私が負けたら…?」
「そしたら今まで通り。この部屋にずっといてもらうよ」
死柄木が起きるまでずっとね、と穏やかに言われる。ここから解放してもらえる可能性が、少しだけある…。そんなこと言われると、僅かながら希望を持ってしまいそうになる。だけども
「私が、貴方から逃げるなんて出来るわけないじゃないですか…」
体力も運動能力も個性も頭の出来も、恐らくこの人に比べて全て劣っている。しかもこの屋敷のことはこの部屋以外何も知らない。鬼ごっこなんてしたって始まって数分…いや、数秒も持たずにあっという間もなく捕まってしまっておしまいになるに決まってるじゃないか。そんなの、体力を無駄に消費して終わりになるだけだ。
「アッハハ、そうだね。普通にやったら君に勝ち目は一切ない」
偉いねー、自分のことよくわかってて!と手を叩きながら言われてまた、眉間に皺が寄る。
「そんな顔しないでくれよ。可愛い顔が台無しだよ?」
そう言ってまた、頭を撫でられる。
「お嬢さんの言う通り。普通に鬼ごっこなんてしても君が俺…どころかここにいる連中から逃げるなんて不可能だ。だからハンデをあげるよ」
「ハンデ…?」
「そ、ハンデ。でないと退屈だろうからね。君が逃げるまで20分猶予をあげる。20分間この部屋から一歩も出ずに待ってあげるよ。それと君はいくらでも走っていいけど、俺は走らずに常に歩く。そして個性も使わない」
もっとハンデが欲しいって言うのならば考えてあげなくもないよ、どうする?とやはり優しく穏やかな声音で問い掛けられる。確かに、それだけのハンデがあったら私に有利かもしれない。少しだけ、勝てる可能性がありそう。でも、何か裏があるとしか思えない…。そう簡単に乗ったりして大丈夫なの…?どうすればいいの……?
「はい、無言は肯定ってことで。じゃ、鬼ごっこしよう。はいこれ。時間が分からなかったら不便だろうから貸してあげる」
と、無理矢理懐中時計を握らされた。
「じゃ、よーいスタート!ほら、早く逃げな」
と言い、ほとんど強制的に部屋から追い出された。どうやら私の意志は関係ないらしい。……逃げられる可能性があるのなら、腹を括ろう。裏があるかもとか考えずに、少しの希望に縋ろう。
◇
ただひたすら、がむしゃらに屋敷を駆け回った。閉じ込められていた部屋から、少しでも遠くに逃げよう。そう思って、ひたすら足を動かし続けて無我夢中で走り続けた。そうしていたら、ここがどこなのかわからなくなってしまった。いや、そもそもここへ連れてこられてからずっとあの部屋に閉じ込められているからどこに何があるのかとか、このお屋敷がどこに建てられているものなのかとかこの建物の外観とか、なんにもわからない。ここに連れてこられて、どれだけの日数が経つのか、今日という日が一体何月何日なのか、何もわからない。……私の扱いが、雄英でどのようになっているのかもわからない。蛇腔病院に入院していることになっているかもしれないし、行方不明ということにされている可能性もあるかもしれない。最悪、もうすでにこの世にいないことにされている可能性すらも、あるんじゃないかと何度も考えたこともある。そんなの、絶対に嫌……!
だから早く帰らないと。なんとしてもあの人から逃げ切って、みんなのところへ…勝己君のところへ、帰らないと。
……走り続けて、苦しい。一旦どこかで休みたい。かなりの距離を走ったし、多分閉じ込められてた部屋から離れられただろう。少し、足を止めよう。Mr.コンプレスが来てしまったら困るから、一応隠れておこう。そう判断して、物陰に隠れて音をなるべく立てないようにして座る。鬼ごっこを始めてから何分くらいたったのだろうか。渡された懐中時計をそっと確認してみる。と、鬼ごっこを開始してから40分ほど経っていた。…あと20分…あと20分逃げ切るかその間に出口を見つけてそこから出ることが出来たら、私の勝ちで、ここから解放してもらえる………!今のところ、1度もMr.コンプレスのことは見ていない。もしかしたらこのまま逃げ切れ…
「お嬢さんすごいねー、よく頑張るねー。まさかここまで逃げられるとは思わなかったよ」
もっと簡単に捕まえられると思ったんだけどなー。なんて声が耳元に聞こえて来た。あまりにも驚きすぎて、ヒュッと喉が鳴った。恐る恐る振り返ってみると、目と鼻の先にMr.コンプレスがいた。
「いやあぁぁぁっっっ!!!」
思わず叫び声を上げる。必死に足に力を入れて、立ち上がり無我夢中で走り出した。
「あらら惜しかったー。あっわざわざ声掛けなきゃ良かったのか―」
失敗したなーと笑いながら言っている声が聞こえてくる。態と声を掛けてきたのが一目瞭然だ。早く、逃げないと。立ち止まっている余裕はない。泣くのを堪え、歯を食いしばりながらただただひたすら無我夢中になって足を動かし続ける。そうしていると不意に一つの扉が見えてきた。家とかにあるような、鍵がついてるように見える。も、もしかしてあれは出口なんじゃ…!足が縺れそうになりながらも走って、ふらふらになりながらも目の前まで辿り着くことが出来た。思わず泣きそうになる。早く、ここから出ないと……!
「歌歩ちゃん!!!!!!!」
不意に、聞き慣れた人の私のことを呼ぶ声が聞こえて来た。思わず立ち止まり、振り返る。と、そこには思い描いた通り…
「出久、君………?」
息を切らし、少し焦った様子の出久君が立っていた。
「な、なんで出久君がここにいるの…?」
困惑が止まらず、尋ねてしまう。
「歌歩ちゃんが敵連合に誘拐されたって言われて…!それで、助けに来たんだ…!無事みたいでよかったよ」
そう優しく笑いかけながら話掛けてくる出久君の姿に涙が出て来て、その場に崩れ落ちてしまう。すると出久君はぎょっとし走り寄って来て
「大丈夫?!」
と聞いてくる。そんな出久君に思わず抱き着いてしまう。
「わっちょ、歌歩ちゃん?!」
焦ったように名前が呼ばれた。
「怖かった…怖かったよぉ!!」
困らせてしまっているのは百も承知だけども、今はそれどころじゃない。助かったんだ、帰れるんだという安堵感や、色んな感情が入り乱れて、自分以外のことなんて考えられず出久君に抱き着いたまま泣き続ける。
「……歌歩ちゃん」
優しく名前を呼ばれ、背中に手を回された。落ち着くように撫でようとしてくれてるのかな。
「ありがとう、自分から捕まりに来てくれて」
全身の骨を折られるんじゃないかという錯覚に陥りそうになるくらい、キツく抱き締められ、耳元で囁かれ思考が止まりそうになる。
「えっ…はっ…い、いずっ…」
「歌歩ちゃんはやっぱり、ちょーっとだけ頭が足りませんね」
クスクスと笑いながら発せられている声は、出久君のものじゃない。ガタガタと震えながらも、恐る恐る出久君のことを見てみると
「出久君がここに来るわけないじゃないですかぁ。歌歩ちゃんが私達と一緒にいることも知りませんよ。まさかこんなにあっさり騙されてくれるとは思わなかったです。もっと警戒されるかと思ってたのになぁ。歌歩ちゃん迂闊だねぇ。でも、歌歩ちゃんのそういう迂闊で抜けてるところがとってもとーっも、私はだーい好きだよぉ」
と言いながら頬を赤らめ、恍惚とした表情を浮かべているトガヒミコと目が合った。
「ヒッ…!あっ…やっ…」
声が、上手く出ない。に、逃げ…
「ミスター!歌歩ちゃん捕まえましたよー!私達の勝ちです!」
逃げないとと藻掻こうとした瞬間、より一層キツく抱き締められて、声を上げられた。
「やったねトガちゃん!協力してくれてありがとね」
そう言いながら物陰からMr.コンプレスが出て来た。
「てか、服着ようね。ほら、預かってたから」
「はーい!ミスターありがとう」
なんて会話をしている2人を見つつ、頭をなんとか働かせようとする。
「きょ、協力…?な、なんで…」
私とあなたで鬼ごっこするって話じゃ…そう呟くことしか出来ない。
「え?そんなこと言ったっけ?鬼ごっこしようとは言ったけど、2人きりでしようとは一言もいわなかったハズだけど」
変なこと言うねーなんて笑いながら言われた。
「そ、そんなの…!」
聞いてない!というと
「うん、聞かれなかったからね。だからわざわざ言わなくてもいいかと思って。あっひょとして俺と2人だけでしたかったの?だったらそう言ってくれれば良かったのに」
そしたら2人だけでしてあげたのにー!と笑いながら言われて、血の気が引くような感覚がしてくる。
「えー!私だけ仲間外れなんてやですー!!」
そんなのダメですからねー!と、頬を膨らませながらいうトガヒミコをMr.コンプレスは「はいはい、ごめんて」と軽くあしらっている。2人のやり取りに、震えが止まらない。
「と、お嬢さん。君の負けだ。じゃ、部屋に戻ろうね」
といって腕を掴まれる。嫌…!と振り解こうとするが、出来るわけもなく無駄に終わる。
「嫌って…約束しただろ、君が負けたら今まで通りあの部屋で過ごすって」
約束はちゃんと守らないとだめだよ?とまるで、子供に諭すような声音で言われる。
「そ、それを言うなら貴方だって…!」
ガタガタと震えながらも、
「個性は使わないって、ハンデをくれるって…!」
言ったじゃ、ないですか…!と必死に言い返した。
「うん、言ったね。ハンデとして”俺は”個性を使わないって」
だから俺は使わなかっただろ?と、
「"俺は"個性を使わない。そうは言ったけれども、"他のヤツが"個性を使わないとは、言わなかっただろ」
嘲笑われる。
「そ、そんなの、屁理屈じゃないですか…!」
嘘吐き…!必死に泣くのを堪え、唇を噛み締めながら抗議の声を上げる。
「嘘吐き?心外だなー!聞かれなかったから答えなかっただけなのに」
なのにそんな風に言われちゃ、傷付いちまうぜと笑う姿は微塵も傷付いたなんて思って無さそうだ。
「そんなこと、事前に説明して貰わないとわかるわけ…」
ない、じゃないですか……そう力なく呟き、項垂れることしか出来ない。
「そうなのかい。それはすまなかったね」
次こういう機会があったら覚えておくといいよ、ルールはきちんと確認してしっかり把握した方がいいってねと、また頭を撫でて来る。その手を振り払いたいのに、もうそんな気力すら沸いてこない。
「ミスター。歌歩ちゃんもう疲れちゃったみたいですよー」
早くお部屋へ連れて行ってあげましょうよーというトガヒミコに対して「それもそうだね」と答えたかと思うと、私のことを軽々と肩に担いで歩き出した。
このまま連れて行かれたらまた、あの部屋に閉じ込められる。1日の大半を椅子に縛り付けられて、窓の外にいる鳥達を眺めるだけの日々に逆戻りになる。それはもう、嫌……!
「あっちょっと暴れないでよお嬢さん」
危ないよーと言われるが無視して暴れ続ける。
「………そのまま暴れ続けるようだったら、落とすぞガキ」
底冷えするような低い声で脅されて、あまりの恐怖に動けなくなる。
「ふふ、大人しく出来て歌歩ちゃんお利口さんだねー」
脅されて怯えて身動き取ることが出来なくなった私を見て、トガヒミコは嬉しそうに笑う。
「にしてもトガちゃん、よくとってあったね。緑谷出久君の血」
てっきりもう使い切ったと思ってたよとMr.コンプレスに声をかけられると
「弔君に言われたんです。歌歩ちゃんを連れて来た時に絶対役に立つだろうから、出久君に変身して上げたら歌歩ちゃんがすごーく喜ぶだろうから、だから少しでも出久君の血は残しておけって」
嬉しそうに笑いながら答える。
「弔君の言う通り、歌歩ちゃんとても嬉しそうでしたね。出久君に変身した私を見た時とってもかぁいかったよぉ。あんなに喜んで貰えるんだったらもっと早くやれば良かったし、もっと沢山血残すなり取るなりすればよかった」
と言いながら私の頬を突く。………喜ぶわけ、ないじゃないか。
「出久君の姿であんなに喜ぶんだったら、爆豪君に変身したらもーっと喜んでくれたのかなー」
爆豪君の血も手に入れられてたら良かったのに!とニコニコ笑って言うこの子の言葉は一体、どこまでが本気の善意なんだろう。
「………ハハ、君も大変だね。厄介で怖いやつらに、気に入られて」
そう笑いながら言うMr.コンプレスはきっと、1から100まで全部悪意の塊だ。
あぁ、そうだ忘れてた。私は、無数の糸が張り巡らされて作られた蜘蛛の巣に捕らわれた、哀れな獲物だったんだった。獲物が蜘蛛の巣の中でどんなに足掻いても、逃げられるわけなかったんだ。足掻けば足掻くほど、もがけばもがくほど、糸は巻き付いてきて、全身を覆ってきて、そのまま身動きひとつ取れなくされてしまうんだ。
「歌歩ちゃん、今日はすごく頑張ったからご褒美に甘い物沢山食べさせてあげるね。パジャマもとびきりかぁいいのを着させてあげる」
恋バナもいっぱいしようねぇ、楽しみだねぇと、頬を赤らめてとても嬉しそうに声をかけてくるトガヒミコの姿に、視界が歪んできた。
もういっそのこと、心を殺せてしまったら楽になれるのかな。
