向日葵
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ヒーロー科のみんなはいよいよインターンが始まった。勝己君と出久君は轟君の紹介でエンデヴァー事務所へ行くことになりそこで毎日揉まれているらしい。他のみんなも各々ヒーロー事務所へ行って実戦を詰んでいるみたいだ。なんだかみんな同い年のはずなのにすごく大人に見えてくる。
そんな忙しい中でも、私の個性を使う練習に付き合ってくれている勝己君や出久君、轟君と飯田君に切島君と八百万さんには感謝してもしきれない。6人のお陰でまだまだ上手くはないけれども、昔よりは個性の扱いを上達することが出来たなと思う。……でもみんなの負担になってないといいな。
「無居、そこ計算ミスしてるぞ」
考えながら数学を解いていると、相澤先生に指摘された。確認してみると言われた通り計算ミスをしていることに気がついた。慌てて計算をし直す。
「最近今まで以上にぼーっとしてること増えてないか」
その調子でいくと留年してしまうかもしれないぞ、と言われぞっとする。確かに今の私の境遇的に留年してもおかしくない。が、頑張らないと…。と気を取り直し、勉強を再開する。そんな私のことを相澤先生がクスッと笑いながら見ていてなんかちょっと恥ずかしい。
ふと、スマホが音を鳴らした。確認してみると、轟君のお姉さんの冬美さんから連絡が入っていた。メッセージアプリを開いてみると
『歌歩ちゃん久しぶり!実はね、今日緑谷君と爆豪君がうちに夕飯を食べに来ることになったんだけども良かったら歌歩ちゃんも一緒にどうかな?』
とのこと。夕飯…。いいな、お邪魔してご迷惑じゃないならぜひ行きたい。でも夜遅くに雄英から出るなんてダメなんじゃないかな…。
「どうかしたのか」
私の様子が気になったのか、相澤先生が尋ねてくる。
「あの、冬美さん…轟君のお姉さんが今夜夕飯を食べに来ないかって誘ってくれたんですけど…」
と、冬美さんからのメッセージの内容を話してみると、相澤先生は考え込み始めた。そして「悪い。少し自習していてくれ」と言い残して教室から出て行ってしまった。
◇
「歌歩ちゃんいらっしゃーい!ごめんね、突然呼んじゃって」
轟君のお家へ到着すると、早速冬美さんが歓迎しながら家の中に招き入れてくれた。
「いえ、こちらこそお言葉に甘えてお邪魔してしまってすみません…」
頭を下げながら謝罪すると、「気にしないでー!呼んだのは私だしねー。久しぶりに会えて嬉しいよ」とニコニコと笑いながら言ってくれる。相変わらず優しくて温かい人。こんなお姉さんがいるから、轟君も優しい人なのかもな。
「あんまり遅くまで居られないんだよね?」
「はい、そうですね。だからあの、図々しいのですがご飯ご馳走になったらすぐにおいとまさせて頂きますね…」
すみません、というと「もう、いちいち謝らないのー!」と笑いながら言われた。
相澤先生と校長先生と担任、エンデヴァーの計らいにより特別に轟君のお家にお邪魔する許可を貰うことが出来た。ただし、ご飯を食べ終わったらすぐに雄英へ戻るという条件付きでだけども。わがままを聞いてもらえてありがたすぎる…。
「夏ー!さっき話してた歌歩ちゃんだよー!」
冬美さんに連れられて居間まで行くと、すでに男の人がいた。この人が轟君のお兄さんかな?
「おー…あっどうも、焦凍の兄の夏雄です」
ゆっくりして行ってね、と笑いながら挨拶してくれる夏雄さんにありがとうございます、とお礼を言いながら頭を下げ、自己紹介をする。
夏雄さんはエンデヴァー似…なのかな?髪型とか体格とか。だけどもエンデヴァーみたいな威圧感とかはないかも。すごく優しそうな印象の人だな。エンデヴァー実際にはまだ会ったことないからあくまでテレビとかでの印象だけども。
「焦凍達そろそろ帰ってくると思うからそれまで3人でゆっくりしてようね」
とお茶を用意しながら冬美さんが言う。手伝いますというと、「気遣わなくていいよ。お客さんなんだから無居さんは座ってなって」と夏雄さんが座椅子を指しながら座るように促してくれる。でも突然お邪魔してしまったのに何もせず座ってるだけで何も手伝わないのは申し訳ないというか…。おろおろしていると「夏の言う通りだよー。座っててー」と冬美さんにも言われた。じゃあお言葉に甘えて…といいながら座らせてもらった。
◇
「んでテメェここに居んだよ!!」
轟君の家に着くや否や、私を見て勝己君が怒鳴る。その様子を隣にいる出久君が焦りながら止めている。
「姉さんが無居も呼んだって言ってただろ」
と冷静に言っている轟君に向かって勝己君は「だぁってろうっせぇ!」と怒っているが轟君は気にも留めていない様子。轟君図太いなぁ…。
「改めまして、私は焦凍の姉の冬美で、こっちは兄の夏雄でーす」
と、冬美さんが明るく自分と夏雄さんの紹介を始めた。それに対して出久君も自分と勝己君の紹介をする。
「君が無居君…か」
不意に声を掛けられた。顔を向けてみると、そこにはエンデヴァーが立っていた。慌てて立ち上がり
「初めまして、無居歌歩です。あの、お邪魔させていただいております、今日はご招待ありがとうございます」
頭を下げながら挨拶をすると「いや…今日はゆっくりしていくといい」と言われた。なんか、テレビとか体育祭で見かけた時よりも柔らかい印象の人だな。もっと怖いイメージだったけど。
ふと、夏雄さんの姿が目に入ってきた。少し険しい顔で、気まずそうにエンデヴァーから目を逸らしている。
そこで体育祭の時の轟君と出久君のしていた会話を思い出した。あんまり、関係良くない、のかな…?
「3人共、嫌いな物とかあったら遠慮せず残してねー」
と言いながら冬美さんが料理を運んで来る。どれもすごく美味しそうだ。こんなに沢山の料理を1人で作っただなんて冬美さんはすごい人だな。出久君も感動したように声を上げている。勝己君もなんとなくテンション上がっている様な気がする。
冬美さんが料理を並べ終えて「さぁ、食べましょ」と言ったのを合図にみんなでいただきますと挨拶し、食べ始める。見た目通り、予想通り、どれもすごく美味しい。
春巻き美味しい!思わず笑顔になってしまう。頬張っていたら向かいの席に座っていた轟君に「無居、幸せそうに食べるな」と言われてちょっと恥ずかしい。それに対して出久君が「歌歩ちゃん昔から美味しい物とか甘い物食べてる時すごく幸せそうな顔するよね」と言われて更に恥ずかしい。
「食いすぎて太んなよ。最近ただでさえオメェ丸くなってきてんだから」
ま、まるっ?!
「勝己君酷い!そんなことないよ、確かに8月から雄英にほぼ篭り切りだけど、う、運動はしてるし…」
と言うと鼻で笑われた。た、体重はそこまで変わってないはずだけどまさか本当に太った…?
「だ、大丈夫だよ。歌歩ちゃん元から細くて小柄だし、そんな対して変わらないよ…!」
話を聞いていた出久君が焦ったように言う。出久君ありがとう、フォローしようとしてくれてるんだね。それはわかる。よーくわかるよ。でも、
「出久君も、私のこと太ったって思ってるんだね」
そんなに焦ってフォローしようとするってことは、つまりはそう言うことだよね、と呟いた自分の声は、自分でもびっくりするくらい冷たかった。すると出久君は余計焦ったように「やっち、ちが、こ、言葉のあやっていうか、なんていうか…!」と必死に弁解しようとしてる。そんな出久君のことを勝己君が嘲笑うように見ている。太々しい顔。腹立つ。少しは貴方も謝ろうとしてよ。女の子に丸くなってきたは失礼でしょ。
すっかり場の空気が変になってしまった。轟君達に申し訳ない。
「太った?そんなことねぇだろ。無居はずっと細いし可愛いままだと思うぞ」
黙って話を聞いていた轟君が不思議そうな顔で首を傾げながら言う。か、か、かっ…?!顔が熱い。見えないけど、真っ赤になってることがよくわかる。
「どうした?なんか赤くねぇか?」
涼しい顔で轟君が言う。なんなのこのイケメン。
夏雄さんがぼそっと「俺の弟怖っ…」と言っている姿と、そわそわ楽しそうにしている冬美さん、気まずそうな顔で食事をとるエンデヴァー、この世の終わりみたいな顔をしている出久君に、明らかにイライラしている勝己君がいる。頭を抱えたくなってきた。
「あっ、わっ、ど、どれもめちゃくちゃ美味しいです!」
出久君が空気を変えようとしたらしく声を上げる。それに対して冬美さんが嬉しそうに「ありがとう!」と笑っている。
「あっこの竜田揚げも!味がしっかり染み込んでるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が歓喜の…」
とはしゃいだ様子で竜田揚げの分析を始めた出久君に勝己君が「飯まで分析すんな!!」と怒っている。
「そらそうだよ。お手伝いさんが腰やっちゃって引退してからずっと姉ちゃんが作ってたんだから」
と2人に夏雄さんが少し自慢げに言うと、冬美さんが「夏も作ってたじゃん、かわりばんこで!」と笑う。
「え!?じゃあ俺も食べてた!?」
冬美さんの言葉に驚いたように質問している轟君に向かって夏雄さんは「あーどうだろ俺のは味濃かったから…」と言いながら
「エンデヴァーが止めてたかもな」
と、エンデヴァーを睨みながら言う。瞬間、場の空気が凍り付いた。私も勝己君も出久君も、動けなくなる。空気がさっきとは比べ物にならないくらい重い。
なんとか冬美さんが明るく場の空気を変えようとしたりしていたが、結局夏雄さんは「ごめん姉ちゃん、やっぱムリだ…」と言う言葉を残してその場を後にしてしまった。
◇
食事を終えて、私は勝己君達よりも先に帰る時間となった。冬美さんに片付けを手伝えないことを謝罪すると「気にしないでー」とにこやかに言われた。
後ろ髪引かれる思いをしつつもありがとうございますとお礼を言い、帰り支度を始めた。そして帰る前にエンデヴァーに挨拶をしなくてはと思い冬美さんにエンデヴァーのいる部屋に案内してもらった。
「お父さーん、歌歩ちゃん帰る時間だって」
と言いながら部屋へ入れてくれた。私達のことを見ると「あぁ、もうそんな時間か」と呟く。
「今日はありがとうございました。えっと、とても楽しかったです」
と頭を下げながら言うと「そうか…ならよかった。もし君が嫌じゃなかったらまた来るといい」冬美と焦凍も喜ぶ、と言ってくれた。お礼を言ったら微かに微笑まれた。
エンデヴァーはお線香をあげていたみたいだ。仏壇の前に座り、冬美さんの作った夕飯が置いてある。さっき話に出ていた、1番上のお兄さんの仏壇…かな。飾ってある遺影が中学生くらいの男の子だし。なんとなく、遺影のことを見つめる。…あ、れ…?この写真の人の目、誰かに似てる…?
「歌歩ちゃん?どうかしたの?」
冬美さんに声を掛けられて、ハッとした。すみません、ちょっとぼーっとしちゃって。と慌てて答える。
…誰かに似てる、なんて当たり前か。家族だもんね。きっと轟君達の誰かに似てるんだ。兄弟だしね。と、自分を納得させることにした。
そしてエンデヴァーにまた改めてお礼を言い、部屋を後にして3人に先に帰ると一声かけて帰り支度をしていたらしい夏雄さんにも挨拶をして冬美さんに見送られながら迎えに来てくれた雄英の車に乗り込んでから窓を開け、
「冬美さん、今日はありがとうございました」
とお礼を言うと「こちらこそだよー。ごめんね、ちょっと気まずくなっちゃって…」という冬美さんにそんなことないですよ、楽しかったですと返したらほっとした様な顔で「ありがとう。お父さんも言ってたけど、また来てね」と言ってくれた。はい、お願いしますと返し、別れた。
「楽しめたか?」
冬美さんと別れ車が発車すると、隣に座る相澤先生に声を掛けられた。
「はい。今日は外出許可出してくれてありがとうございました」
お陰でリラックス出来ましたと言うと、「そうか。それは良かった」と微かに笑いながら言われた。
「まさか許可出してもらえるとは思いませんでした」
夜遅くに雄英から出るのはダメだと言われるものだと思ってましたと言うと
「エンデヴァーの家なら安全だろうと言う話になってな。エンデヴァーも許可出してくれていたし、ずっと雄英に篭っていたらお前も気が滅入るだろうって話も出ていたところだったし、色々とちょうど良かったんだ」
との回答が。な、なるほど。
「それにお前、また月曜日から入院だろう」
だから今日を逃したら外出出来る日が次いつ来るかわからないだろうからな、とも言われた。
あぁ、そっか。もう入院まで2日しかないのか。そしたらまた、しばらくみんなと会えなくなっちゃうのか…。寂しいなぁ…。検査入院だけだから、そんなに長い期間の入院にはならないと言われてはいるけど、やっぱりあまりいい気はしない。
改めて今日誘ってくれた冬美さんには感謝しないとな。後でまたメッセージ入れておこうとか考えていたら、雄英に着いた。
そんな忙しい中でも、私の個性を使う練習に付き合ってくれている勝己君や出久君、轟君と飯田君に切島君と八百万さんには感謝してもしきれない。6人のお陰でまだまだ上手くはないけれども、昔よりは個性の扱いを上達することが出来たなと思う。……でもみんなの負担になってないといいな。
「無居、そこ計算ミスしてるぞ」
考えながら数学を解いていると、相澤先生に指摘された。確認してみると言われた通り計算ミスをしていることに気がついた。慌てて計算をし直す。
「最近今まで以上にぼーっとしてること増えてないか」
その調子でいくと留年してしまうかもしれないぞ、と言われぞっとする。確かに今の私の境遇的に留年してもおかしくない。が、頑張らないと…。と気を取り直し、勉強を再開する。そんな私のことを相澤先生がクスッと笑いながら見ていてなんかちょっと恥ずかしい。
ふと、スマホが音を鳴らした。確認してみると、轟君のお姉さんの冬美さんから連絡が入っていた。メッセージアプリを開いてみると
『歌歩ちゃん久しぶり!実はね、今日緑谷君と爆豪君がうちに夕飯を食べに来ることになったんだけども良かったら歌歩ちゃんも一緒にどうかな?』
とのこと。夕飯…。いいな、お邪魔してご迷惑じゃないならぜひ行きたい。でも夜遅くに雄英から出るなんてダメなんじゃないかな…。
「どうかしたのか」
私の様子が気になったのか、相澤先生が尋ねてくる。
「あの、冬美さん…轟君のお姉さんが今夜夕飯を食べに来ないかって誘ってくれたんですけど…」
と、冬美さんからのメッセージの内容を話してみると、相澤先生は考え込み始めた。そして「悪い。少し自習していてくれ」と言い残して教室から出て行ってしまった。
◇
「歌歩ちゃんいらっしゃーい!ごめんね、突然呼んじゃって」
轟君のお家へ到着すると、早速冬美さんが歓迎しながら家の中に招き入れてくれた。
「いえ、こちらこそお言葉に甘えてお邪魔してしまってすみません…」
頭を下げながら謝罪すると、「気にしないでー!呼んだのは私だしねー。久しぶりに会えて嬉しいよ」とニコニコと笑いながら言ってくれる。相変わらず優しくて温かい人。こんなお姉さんがいるから、轟君も優しい人なのかもな。
「あんまり遅くまで居られないんだよね?」
「はい、そうですね。だからあの、図々しいのですがご飯ご馳走になったらすぐにおいとまさせて頂きますね…」
すみません、というと「もう、いちいち謝らないのー!」と笑いながら言われた。
相澤先生と校長先生と担任、エンデヴァーの計らいにより特別に轟君のお家にお邪魔する許可を貰うことが出来た。ただし、ご飯を食べ終わったらすぐに雄英へ戻るという条件付きでだけども。わがままを聞いてもらえてありがたすぎる…。
「夏ー!さっき話してた歌歩ちゃんだよー!」
冬美さんに連れられて居間まで行くと、すでに男の人がいた。この人が轟君のお兄さんかな?
「おー…あっどうも、焦凍の兄の夏雄です」
ゆっくりして行ってね、と笑いながら挨拶してくれる夏雄さんにありがとうございます、とお礼を言いながら頭を下げ、自己紹介をする。
夏雄さんはエンデヴァー似…なのかな?髪型とか体格とか。だけどもエンデヴァーみたいな威圧感とかはないかも。すごく優しそうな印象の人だな。エンデヴァー実際にはまだ会ったことないからあくまでテレビとかでの印象だけども。
「焦凍達そろそろ帰ってくると思うからそれまで3人でゆっくりしてようね」
とお茶を用意しながら冬美さんが言う。手伝いますというと、「気遣わなくていいよ。お客さんなんだから無居さんは座ってなって」と夏雄さんが座椅子を指しながら座るように促してくれる。でも突然お邪魔してしまったのに何もせず座ってるだけで何も手伝わないのは申し訳ないというか…。おろおろしていると「夏の言う通りだよー。座っててー」と冬美さんにも言われた。じゃあお言葉に甘えて…といいながら座らせてもらった。
◇
「んでテメェここに居んだよ!!」
轟君の家に着くや否や、私を見て勝己君が怒鳴る。その様子を隣にいる出久君が焦りながら止めている。
「姉さんが無居も呼んだって言ってただろ」
と冷静に言っている轟君に向かって勝己君は「だぁってろうっせぇ!」と怒っているが轟君は気にも留めていない様子。轟君図太いなぁ…。
「改めまして、私は焦凍の姉の冬美で、こっちは兄の夏雄でーす」
と、冬美さんが明るく自分と夏雄さんの紹介を始めた。それに対して出久君も自分と勝己君の紹介をする。
「君が無居君…か」
不意に声を掛けられた。顔を向けてみると、そこにはエンデヴァーが立っていた。慌てて立ち上がり
「初めまして、無居歌歩です。あの、お邪魔させていただいております、今日はご招待ありがとうございます」
頭を下げながら挨拶をすると「いや…今日はゆっくりしていくといい」と言われた。なんか、テレビとか体育祭で見かけた時よりも柔らかい印象の人だな。もっと怖いイメージだったけど。
ふと、夏雄さんの姿が目に入ってきた。少し険しい顔で、気まずそうにエンデヴァーから目を逸らしている。
そこで体育祭の時の轟君と出久君のしていた会話を思い出した。あんまり、関係良くない、のかな…?
「3人共、嫌いな物とかあったら遠慮せず残してねー」
と言いながら冬美さんが料理を運んで来る。どれもすごく美味しそうだ。こんなに沢山の料理を1人で作っただなんて冬美さんはすごい人だな。出久君も感動したように声を上げている。勝己君もなんとなくテンション上がっている様な気がする。
冬美さんが料理を並べ終えて「さぁ、食べましょ」と言ったのを合図にみんなでいただきますと挨拶し、食べ始める。見た目通り、予想通り、どれもすごく美味しい。
春巻き美味しい!思わず笑顔になってしまう。頬張っていたら向かいの席に座っていた轟君に「無居、幸せそうに食べるな」と言われてちょっと恥ずかしい。それに対して出久君が「歌歩ちゃん昔から美味しい物とか甘い物食べてる時すごく幸せそうな顔するよね」と言われて更に恥ずかしい。
「食いすぎて太んなよ。最近ただでさえオメェ丸くなってきてんだから」
ま、まるっ?!
「勝己君酷い!そんなことないよ、確かに8月から雄英にほぼ篭り切りだけど、う、運動はしてるし…」
と言うと鼻で笑われた。た、体重はそこまで変わってないはずだけどまさか本当に太った…?
「だ、大丈夫だよ。歌歩ちゃん元から細くて小柄だし、そんな対して変わらないよ…!」
話を聞いていた出久君が焦ったように言う。出久君ありがとう、フォローしようとしてくれてるんだね。それはわかる。よーくわかるよ。でも、
「出久君も、私のこと太ったって思ってるんだね」
そんなに焦ってフォローしようとするってことは、つまりはそう言うことだよね、と呟いた自分の声は、自分でもびっくりするくらい冷たかった。すると出久君は余計焦ったように「やっち、ちが、こ、言葉のあやっていうか、なんていうか…!」と必死に弁解しようとしてる。そんな出久君のことを勝己君が嘲笑うように見ている。太々しい顔。腹立つ。少しは貴方も謝ろうとしてよ。女の子に丸くなってきたは失礼でしょ。
すっかり場の空気が変になってしまった。轟君達に申し訳ない。
「太った?そんなことねぇだろ。無居はずっと細いし可愛いままだと思うぞ」
黙って話を聞いていた轟君が不思議そうな顔で首を傾げながら言う。か、か、かっ…?!顔が熱い。見えないけど、真っ赤になってることがよくわかる。
「どうした?なんか赤くねぇか?」
涼しい顔で轟君が言う。なんなのこのイケメン。
夏雄さんがぼそっと「俺の弟怖っ…」と言っている姿と、そわそわ楽しそうにしている冬美さん、気まずそうな顔で食事をとるエンデヴァー、この世の終わりみたいな顔をしている出久君に、明らかにイライラしている勝己君がいる。頭を抱えたくなってきた。
「あっ、わっ、ど、どれもめちゃくちゃ美味しいです!」
出久君が空気を変えようとしたらしく声を上げる。それに対して冬美さんが嬉しそうに「ありがとう!」と笑っている。
「あっこの竜田揚げも!味がしっかり染み込んでるのに衣はザクザクで仕込みの丁寧さに舌が歓喜の…」
とはしゃいだ様子で竜田揚げの分析を始めた出久君に勝己君が「飯まで分析すんな!!」と怒っている。
「そらそうだよ。お手伝いさんが腰やっちゃって引退してからずっと姉ちゃんが作ってたんだから」
と2人に夏雄さんが少し自慢げに言うと、冬美さんが「夏も作ってたじゃん、かわりばんこで!」と笑う。
「え!?じゃあ俺も食べてた!?」
冬美さんの言葉に驚いたように質問している轟君に向かって夏雄さんは「あーどうだろ俺のは味濃かったから…」と言いながら
「エンデヴァーが止めてたかもな」
と、エンデヴァーを睨みながら言う。瞬間、場の空気が凍り付いた。私も勝己君も出久君も、動けなくなる。空気がさっきとは比べ物にならないくらい重い。
なんとか冬美さんが明るく場の空気を変えようとしたりしていたが、結局夏雄さんは「ごめん姉ちゃん、やっぱムリだ…」と言う言葉を残してその場を後にしてしまった。
◇
食事を終えて、私は勝己君達よりも先に帰る時間となった。冬美さんに片付けを手伝えないことを謝罪すると「気にしないでー」とにこやかに言われた。
後ろ髪引かれる思いをしつつもありがとうございますとお礼を言い、帰り支度を始めた。そして帰る前にエンデヴァーに挨拶をしなくてはと思い冬美さんにエンデヴァーのいる部屋に案内してもらった。
「お父さーん、歌歩ちゃん帰る時間だって」
と言いながら部屋へ入れてくれた。私達のことを見ると「あぁ、もうそんな時間か」と呟く。
「今日はありがとうございました。えっと、とても楽しかったです」
と頭を下げながら言うと「そうか…ならよかった。もし君が嫌じゃなかったらまた来るといい」冬美と焦凍も喜ぶ、と言ってくれた。お礼を言ったら微かに微笑まれた。
エンデヴァーはお線香をあげていたみたいだ。仏壇の前に座り、冬美さんの作った夕飯が置いてある。さっき話に出ていた、1番上のお兄さんの仏壇…かな。飾ってある遺影が中学生くらいの男の子だし。なんとなく、遺影のことを見つめる。…あ、れ…?この写真の人の目、誰かに似てる…?
「歌歩ちゃん?どうかしたの?」
冬美さんに声を掛けられて、ハッとした。すみません、ちょっとぼーっとしちゃって。と慌てて答える。
…誰かに似てる、なんて当たり前か。家族だもんね。きっと轟君達の誰かに似てるんだ。兄弟だしね。と、自分を納得させることにした。
そしてエンデヴァーにまた改めてお礼を言い、部屋を後にして3人に先に帰ると一声かけて帰り支度をしていたらしい夏雄さんにも挨拶をして冬美さんに見送られながら迎えに来てくれた雄英の車に乗り込んでから窓を開け、
「冬美さん、今日はありがとうございました」
とお礼を言うと「こちらこそだよー。ごめんね、ちょっと気まずくなっちゃって…」という冬美さんにそんなことないですよ、楽しかったですと返したらほっとした様な顔で「ありがとう。お父さんも言ってたけど、また来てね」と言ってくれた。はい、お願いしますと返し、別れた。
「楽しめたか?」
冬美さんと別れ車が発車すると、隣に座る相澤先生に声を掛けられた。
「はい。今日は外出許可出してくれてありがとうございました」
お陰でリラックス出来ましたと言うと、「そうか。それは良かった」と微かに笑いながら言われた。
「まさか許可出してもらえるとは思いませんでした」
夜遅くに雄英から出るのはダメだと言われるものだと思ってましたと言うと
「エンデヴァーの家なら安全だろうと言う話になってな。エンデヴァーも許可出してくれていたし、ずっと雄英に篭っていたらお前も気が滅入るだろうって話も出ていたところだったし、色々とちょうど良かったんだ」
との回答が。な、なるほど。
「それにお前、また月曜日から入院だろう」
だから今日を逃したら外出出来る日が次いつ来るかわからないだろうからな、とも言われた。
あぁ、そっか。もう入院まで2日しかないのか。そしたらまた、しばらくみんなと会えなくなっちゃうのか…。寂しいなぁ…。検査入院だけだから、そんなに長い期間の入院にはならないと言われてはいるけど、やっぱりあまりいい気はしない。
改めて今日誘ってくれた冬美さんには感謝しないとな。後でまたメッセージ入れておこうとか考えていたら、雄英に着いた。
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