向日葵
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勝己君と轟君がヒーロー仮免取得30分後に、ヴィランを捕まえるという大活躍をした。その影響で2人にテレビや雑誌の取材が殺到している。の、だが…
「歌歩さん。どうして轟さんは沢山テレビに出てお話してるのにかっちゃんさんは座っているだけでお話してないの?テレビにもあんまり出てないし…」
明らかに勝己君カットされてる。
「あはは、爆豪君は強さは申し分ないけど、言葉遣いとか立ち居振る舞いとかは大問題みたいだね」
通形先輩が全てを察したように言う。そんな先輩と「ですね…」と苦笑しながら相槌を打っている私のことをエリちゃんが不思議そうに首を傾げながら見ていた。
◇
「インタビューの練習?」
「うん!この前の授業でプロヒーローになったらっていう想定でね、やったの」
元気にそう芦戸さんが報告してくる。楽しそうな授業だねと言ったら「ちょー楽しかったよ!」とのこと。
「そんな授業もしたりするんだね。ヒーロー科の授業って体力作り系のしかないのかなって思ってた」
「まぁ確かにそういう授業多いけどな。けど俺らだって、英語とかの普通の授業だってあるし、常に体力作りとかの授業してるってわけじゃねぇよ。高校生だし」
と瀬呂君に言われて「そうなんだ」というと「お前ヒーロー科のこと脳筋だと思ってない?」と呆れた様に言われてしまって笑って誤魔化そうとしたら、更に呆れたような顔をされた。の、脳筋とは思ってないよ…!
「1学期にはね、ヒーロー名決めたりとかしたんだよー」
透ちゃんが元気に手を振りながら言う。
「ヒーロー名って授業で決めるんだ」
「レクリエーションみたいな感じでね。中にはそこで決めた名前をそのままプロになってからも使う人も多いらしいよ」
相澤先生のイレイザー・ヘッドってヒーロー名はマイク先生がその時決めてくれたんだって、とのこと。
「そうなんだ。じゃあみんなももう決めてるの?」
「爆豪以外はみんな決まってるよー。爆豪ね、ミッナイ先生にぜーんぶ没られちゃったのー」
と笑いながら言う芦戸さんに「余計な事言うんじゃねぇ!!」と、勝己君の怒鳴り声が響く。全部没られるってどんなヒーロー名にしようとしたの、爆殺王とか?と適当に言ってみると「おぉー!さっすが幼馴染。よくわかってるー!」とみんなに歓声を上げられた。ほ、本当にそんなヒーロー名にしようとしてたんだ…。
「あ?んだテメェその目は!」
目が合うと思い切り睨みつけながら怒鳴られた。思わず「ひっ…!」と悲鳴を上げてしまう。
「と、ところでみんなのヒーロー名はなんて言うの?」
怖いのですぐに勝己君から目を逸らし他のみんなに話を振る。…勝己君からの視線を感じるけど気付かない振りだ。
「私はねー、ピンキー!!」
と、声高々に言った芦戸さんを合図に他のみんなが一斉にヒーロー名を紹介してくれた。お茶子ちゃんのウラビティとか梅雨ちゃんのフロッピー、飯田君のインゲニウム、轟君のショート…。みんなの個性、よく出てるな。
「出久君のヒーロー名はなんていうの?」
みんなのを聞き終わり、まだ出久君のは教えてもらってなかったので聞いてみた。
「僕はね、デク!」
え…
「デ、デク…?えっそ、それ、良いの…?それ、べっしょ…」
「違うよ」
蔑称なのに…そう言おうとした私の言葉を遮り、出久君が続ける。
「確かに中学までは蔑称だった…。けど、ある人がね、意味を変えてくれたんだ。頑張れって感じで、好きだって、そう言ってくれたんだ」
チラッとお茶子ちゃんを見て、出久君が語る。
「だからね、僕のヒーロー名はデクって言うんだ!」
笑顔で、語る。…ある人って、お茶子ちゃんのことなんだ。
「そう、なんだ。良かったね」
声が震えそうになるのを、表情が引きつりそうになるのを必死に抑え、必死に笑顔を作って、なんとか言葉を紡ぐ。出久君と勝己君が少し怪訝な顔をし、何か言いたそうだったけれども「そろそろ夕飯の時間だな。という訳でみんな、お開きにしよう!」という飯田君の声で、2人に聞かれずに済んでホッと胸を撫で下ろす。
◇
『歌歩ちゃん』
小さい頃の出久君に呼ばれ、小さい頃の私が『何、出久君』と答える。
『みんなは僕のこと、デクって呼ぶけど歌歩ちゃんは絶対に呼ばずに出久君って呼ぶよね。…なんで?』
心底不思議そうな顔で出久君が尋ねて来る。
『出久君はダメな奴じゃないもん』
『えっ…?』
私の答えを聞くと、出久君は驚いたように目を見開いた。
『勝己君がね、デクって言うのはなんにも出来ないダメな奴のことを言うって言ってたでしょ?だから出久君はデクだって。…でも違うもん。出久君は、幼稚園の中でいっちばん優しい子だもん。優しくて、いつも一生懸命で…だからダメな奴じゃないの。だから歌歩は出久君のことデクって呼ばない!』
そう言ったら、出久君がすっごくすっごく、嬉しそうな顔で泣きながら笑うから、私も釣られて泣きながら笑ったっけ。
…でも、私は『デク』って言葉の意味を変えてあげることは出来なかった。
『ある人がね、意味を変えてくれたんだ。頑張れって感じで、好きだって、そう言ってくれたんだ』
嬉しそうな顔と声で言ってた出久君を思い出す。
『だからね、僕のヒーロー名はデクって言うんだ!』
出久君、デクって名前好きになれたんだ。良かったね。すごいな、お茶子ちゃん。たった一言で、デクって言葉の意味を変えてあげられるなんて。でも、でも…
「妬ましい…!」
そう呟いたと同時に、涙が一粒、落ちた。その瞬間、我慢出来なくなりその場に蹲り声を押し殺して泣き出す。なんで…なんで…なんで…!!
「無居?何してんだ、こんなとこで」
声を掛けられて、思わず肩を揺らす。恐る恐る顔を上げて声のした方に顔を向けると、轟君と目が合った。すると轟君はぎょっとした様に目を見開きながら「どうした?どっか痛いのか?リカバリーガールのとこ行くか?」と言って私の所までやって来た。そんな轟君に慌てて「大丈夫!!どこも悪くないよ!!」と弁明すると「そ、そうか…?けどじゃあなんで泣いてんだ…?」と聞かれ、口籠ってしまう。
「緑谷か爆豪、呼んでく…」
「やめて!お願い、2人には言わないで!!」
勝己君達を呼ぶため寮へ戻ろうとする轟君の服を思わず掴み大きな声を出してしまう。私のその様子に少し驚きつつも、「わかった」と言ってくれた轟君にお礼を言う。
「……なぁ。何があったのか、聞いてもいいか?」
轟君が言い辛そうに尋ねて来る。
「た、大したことじゃないから!気にしないで!」
そう返答すると、少しムッとした様な顔で「大した事ねぇってそんな顔で言われても信じられねぇよ」と言われてしまった。
「お前がどう思ってるかはわかんねぇけど、俺はお前のこと友達だと思ってる。だから、悩みとかあるなら話して欲しい」
もちろん、無理強いするつもりはねぇけど、真っ直ぐと私を見つめながら力強く言う轟君から目を離せない。
「自分がね、すごく嫌になっちゃったの」
そんな風に真っ直ぐと見ながら、真っ向から言ってくれたからだろうか。気が付くと私は、ぽつりぽつりと話し始めていた。
話し出した私のことを、轟君はただ黙ってじっと見つめながら聞いている。
「出久君のデクって言葉の意味ね、あれ木偶の棒のデクって意味だったの。勝己君やみんなに『デク』って呼ばれる度、出久君悲しそうにしてたの。私、そんな出久君を見るのが嫌で、だから、私だけでも、デクって呼ばずに出久君って呼ぼうって、そもそも出久君は木偶の棒じゃないしって、そう思って出久君って呼び続けたの」
轟君はやはり、黙って私の話を聞いている。
「出久君って呼び続けること、出久君は喜んでくれてね、だから私も、すっごく嬉しかったんだ。…でも、『デク』って言葉の意味を変えてあげることは出来なかった。他のみんなはやっぱり、出久君のことを木偶の棒のデクだって、そう言い続けてた」
そんなことないのに。出久君は頭が良くて、優しくて、当たり前の様に人に親切に出来る、とてもすごい人なのに。
「何年経っても、他のみんなにとって出久君はなんにも出来ない、木偶の棒のデクのままなんだって、雄英に入って2人と再会した時も思ったの。…でも、違ったんだね」
お茶子ちゃんが、たった一言で意味を変えていた。
「頑張れって感じのデクって出久君が言った時、すごく嬉しかった…嬉しかったんだけど、ね。それ以上に、すごく、お茶子ちゃんのこと妬ましいって、思っちゃったの…」
また涙で、視界が歪んで来た。
「私、幼馴染なのに…!小さい頃からずっと、一緒だったのに…!離れてた年数もあるけれどでも、それでも、それでも、私の方がお茶子ちゃんよりも長い付き合いなのに、『デク』って言葉の意味、変えて、あげられなかったのが、すっごく悔しくて羨ましくて妬ましくて…!」
耐えられなくなり、また泣き出してしまった。
「そしたらどんどん、嫌な気持ちが溢れて来ちゃって…。私は『デク』って言葉を変えてあげられなかった。なのにお茶子ちゃんは出会ってすぐに、あっさりと意味を変えてあげられた。その事実を知ったら、なんか、お茶子ちゃんに嫉妬しちゃって…。私は、2人と授業を受けられないのに、お茶子ちゃんは受けれて良いなとか、私はお茶子ちゃんみたいに、体育祭でやってたみたいに勝己君と勝負出来ないのに、お茶子ちゃんはなんで出来るんだろ、とか、そんなことばっかり考えちゃって、そんなことばっかり考えてる自分が、嫌になっちゃって、気付いたらここに来ててそれで、泣いてたの…」
轟君は黙って最後まで聞いてくれた。でも、どう思ったのだろう。性格の悪い女だと思われてしまっただろうか。面倒くさい奴だと思われただろうか。こんな汚くて、ドロドロな私の本心を聞いても尚、友達だと言ってくれるだろうか。今更怖くなってきた。轟君の顔を見るのが、怖い。思わず目を逸らし、俯いてしまう。
「確かにお前は麗日みたいにデクって言葉の意味を変えてやれなかったのかもしれねぇ。ヒーロー科じゃねぇから、あいつらと一緒に授業受けられねぇし、体育祭の時の爆豪と麗日みたいな勝負なんて出来る訳ねぇ」
今まで黙って聞いていた轟君が口を開き、グサグサと痛いとこを突いて来る。
「あ、あの…轟君、私今ちょっと、割と本気で落ち込んでるというか何というかだからその、あんまり鋭利な言葉でズバッと言われると受け止めきれない…もう少しオブラートに…」
「けど。麗日は緑谷のこと、『出久』とは呼んでやれなかった。あいつを…緑谷を、『緑谷出久』のままでいさせてやることが出来たのはお前だけだろ」
轟君がじっと、私から一切目を逸らさずに言う。
「きっと、それはあいつにとって『デク』って言葉の意味を変えてくれた麗日と同じくらい嬉しくて、ありがたいことだったんじゃねぇかな」
俺は緑谷じゃねぇからはっきりとそうだとは断言出来ねぇけど、と付け足しつつ続ける。
「お前は自分と麗日を比べて、麗日ばっかりあの2人と出来ることが沢山ある…そう思ってるのか?」
と問いかけられた。改めて言われると、少し心が痛いと思いつつこくりと頷く。
「それはある種事実なのかもしれねぇ。でもそれは、お前にも言えることなんじゃねぇの」
「えっ…?」
轟君の発言に驚き、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「…連合から救出されてお前が目覚ました時、A組全員で見舞いに行ったらお前、爆豪に抱き着いてたよな。爆豪に抱き着くことが出来る奴なんて、お前以外いねぇよ。しかもその時爆豪、すげぇ穏やかな顔してたし。アイツにそんな顔させることが出来るのなんてお前だけだ」
微かに微笑みながら言われる。
「この前の合同演習の時、お前が緑谷のこと心配して色々言った後、緑谷『僕歌歩ちゃんのそういう優しいところ大好きだよ』って言ってたな。あれすげぇ驚いたよ。緑谷が真っ直ぐですぐに本音を言える奴だってことは知ってたつもりだ。でも、大好きとかそういう言葉は言えねぇし言わねぇ奴だと思ってたんだ。それで考えてみて思ったんだ。相手が、無居だったから言えたんだろうなって」
私だから…?
「でも出久君、昔からよく大好きっていってくれたよ?」
私が大好きだよって言うと僕も大好きって笑顔で返してくれてたと報告すると「だから、それはお前に対してだけだって」と少し呆れた様に言われてしまった。
「少なくとも俺は、緑谷が他の女子相手に大好きっつってるとこなんて見たことねぇよ。そもそもあいつ、最初の頃なんて女子とまともに話せてなかったし」
事あるごとにおろおろして、コイツ大丈夫かって思うレベルだったと、付け足された。
「爆豪をあんな穏やかな顔にさせることが出来る女子も、緑谷に大好きって言葉を言わすことが出来る女子も、俺の知る限りお前だけだ」
やっぱり轟君は痛いくらい、怖いくらい真っ直ぐと私のことを見つめながら続ける。
「今言ったこと以外にも、お前にしかあの2人にしてやれないことは沢山ある。麗日は麗日、無居は無居だ。比べることなんてねぇだろ」
私は私…お茶子ちゃんはお茶子ちゃん…。確かにそうだ。比べたって何の意味もない。でも、
「でも私、友達、なのに…お茶子ちゃんにあんなに親切にしてもらってるのに、仲良くしてもらってる、のに…。なのに、嫉妬しちゃったんだよ。私の方が先に2人と出会ったのに、私の方が絶対、絶対に2人のこと大好きで、ずっと一緒にいたのに、お茶子ちゃんの存在がすごく大きくなってるように見えて、ずるい、って…!そんな最低なことを考えちゃったんだよ…!友達なのに…!大好き、なのに…!あんなに親切にしてもらってるのに…!なのに、なのに、そんなお茶子ちゃんに向かって…!」
言いながらまた、涙が出そうになる。友達だと思ってるってせっかく言ってくれたのに。なのに私のこんなに汚い感情を知ってしまったら幻滅されてしまうかもしれない。嫌われてしまうかも。また、轟君の顔を見るのが怖くなり、再び俯いてしまう。
「……そんな感情、人間誰しも多かれ少なかれ持ってるもんじゃねぇの」
「えっ…」
予想外の返答に、思わず声を上げてしまった。
「俺だってお前と爆豪、緑谷の関係が羨ましいって思うことも、ズリィなって思ったことも何度だってある。俺には名前で呼び合えるような幼馴染いねぇから。きっと他の奴らだって、大なり小なり嫉妬してると思う。だから何も、そこまで自己嫌悪することなんてないよ」
優しく笑いながら言われて、また涙が零れ、泣いてしまった。そんな私のことを、轟君は落ち着かせるように背中を擦ってくれた。
◇
「轟君、話聞いてくれてありがとう。おかげで少し、気が楽になれたよ」
話を聞いてくれて慰めてくれたことにお礼を言うと「いや…助けになれたんならよかった」と微笑みながら言われた。
「……なぁ、無居」
ふと、轟君が少し言い辛そうに私のことを呼ぶ。どうしたの?と尋ねると、「俺もちょっと、相談に乗ってもらいたいんだ…聞いてもらってもいいか?」と、なんだか深刻そうな顔で言う。勿論いいよ!どうしたの?と聞いてみると、
「俺、笑顔で人を殺しちまうみたいなんだ…!」
何言ってんだこの人。
「は…や…あの、え?何言ってんの?」
なんか前にもこんなことがあった気が…。
「実はこの前、インタビューの練習したって言っただろ?その時Mt.レディに俺に微笑みかけられた人はイチコロだって言われちまったんだ…!」
轟君…
「それ、多分そういう意味じゃない…!」
最近気が付いた。轟焦凍って人は、びっくりするくらい天然ボケなんだ、と。
「歌歩さん。どうして轟さんは沢山テレビに出てお話してるのにかっちゃんさんは座っているだけでお話してないの?テレビにもあんまり出てないし…」
明らかに勝己君カットされてる。
「あはは、爆豪君は強さは申し分ないけど、言葉遣いとか立ち居振る舞いとかは大問題みたいだね」
通形先輩が全てを察したように言う。そんな先輩と「ですね…」と苦笑しながら相槌を打っている私のことをエリちゃんが不思議そうに首を傾げながら見ていた。
◇
「インタビューの練習?」
「うん!この前の授業でプロヒーローになったらっていう想定でね、やったの」
元気にそう芦戸さんが報告してくる。楽しそうな授業だねと言ったら「ちょー楽しかったよ!」とのこと。
「そんな授業もしたりするんだね。ヒーロー科の授業って体力作り系のしかないのかなって思ってた」
「まぁ確かにそういう授業多いけどな。けど俺らだって、英語とかの普通の授業だってあるし、常に体力作りとかの授業してるってわけじゃねぇよ。高校生だし」
と瀬呂君に言われて「そうなんだ」というと「お前ヒーロー科のこと脳筋だと思ってない?」と呆れた様に言われてしまって笑って誤魔化そうとしたら、更に呆れたような顔をされた。の、脳筋とは思ってないよ…!
「1学期にはね、ヒーロー名決めたりとかしたんだよー」
透ちゃんが元気に手を振りながら言う。
「ヒーロー名って授業で決めるんだ」
「レクリエーションみたいな感じでね。中にはそこで決めた名前をそのままプロになってからも使う人も多いらしいよ」
相澤先生のイレイザー・ヘッドってヒーロー名はマイク先生がその時決めてくれたんだって、とのこと。
「そうなんだ。じゃあみんなももう決めてるの?」
「爆豪以外はみんな決まってるよー。爆豪ね、ミッナイ先生にぜーんぶ没られちゃったのー」
と笑いながら言う芦戸さんに「余計な事言うんじゃねぇ!!」と、勝己君の怒鳴り声が響く。全部没られるってどんなヒーロー名にしようとしたの、爆殺王とか?と適当に言ってみると「おぉー!さっすが幼馴染。よくわかってるー!」とみんなに歓声を上げられた。ほ、本当にそんなヒーロー名にしようとしてたんだ…。
「あ?んだテメェその目は!」
目が合うと思い切り睨みつけながら怒鳴られた。思わず「ひっ…!」と悲鳴を上げてしまう。
「と、ところでみんなのヒーロー名はなんて言うの?」
怖いのですぐに勝己君から目を逸らし他のみんなに話を振る。…勝己君からの視線を感じるけど気付かない振りだ。
「私はねー、ピンキー!!」
と、声高々に言った芦戸さんを合図に他のみんなが一斉にヒーロー名を紹介してくれた。お茶子ちゃんのウラビティとか梅雨ちゃんのフロッピー、飯田君のインゲニウム、轟君のショート…。みんなの個性、よく出てるな。
「出久君のヒーロー名はなんていうの?」
みんなのを聞き終わり、まだ出久君のは教えてもらってなかったので聞いてみた。
「僕はね、デク!」
え…
「デ、デク…?えっそ、それ、良いの…?それ、べっしょ…」
「違うよ」
蔑称なのに…そう言おうとした私の言葉を遮り、出久君が続ける。
「確かに中学までは蔑称だった…。けど、ある人がね、意味を変えてくれたんだ。頑張れって感じで、好きだって、そう言ってくれたんだ」
チラッとお茶子ちゃんを見て、出久君が語る。
「だからね、僕のヒーロー名はデクって言うんだ!」
笑顔で、語る。…ある人って、お茶子ちゃんのことなんだ。
「そう、なんだ。良かったね」
声が震えそうになるのを、表情が引きつりそうになるのを必死に抑え、必死に笑顔を作って、なんとか言葉を紡ぐ。出久君と勝己君が少し怪訝な顔をし、何か言いたそうだったけれども「そろそろ夕飯の時間だな。という訳でみんな、お開きにしよう!」という飯田君の声で、2人に聞かれずに済んでホッと胸を撫で下ろす。
◇
『歌歩ちゃん』
小さい頃の出久君に呼ばれ、小さい頃の私が『何、出久君』と答える。
『みんなは僕のこと、デクって呼ぶけど歌歩ちゃんは絶対に呼ばずに出久君って呼ぶよね。…なんで?』
心底不思議そうな顔で出久君が尋ねて来る。
『出久君はダメな奴じゃないもん』
『えっ…?』
私の答えを聞くと、出久君は驚いたように目を見開いた。
『勝己君がね、デクって言うのはなんにも出来ないダメな奴のことを言うって言ってたでしょ?だから出久君はデクだって。…でも違うもん。出久君は、幼稚園の中でいっちばん優しい子だもん。優しくて、いつも一生懸命で…だからダメな奴じゃないの。だから歌歩は出久君のことデクって呼ばない!』
そう言ったら、出久君がすっごくすっごく、嬉しそうな顔で泣きながら笑うから、私も釣られて泣きながら笑ったっけ。
…でも、私は『デク』って言葉の意味を変えてあげることは出来なかった。
『ある人がね、意味を変えてくれたんだ。頑張れって感じで、好きだって、そう言ってくれたんだ』
嬉しそうな顔と声で言ってた出久君を思い出す。
『だからね、僕のヒーロー名はデクって言うんだ!』
出久君、デクって名前好きになれたんだ。良かったね。すごいな、お茶子ちゃん。たった一言で、デクって言葉の意味を変えてあげられるなんて。でも、でも…
「妬ましい…!」
そう呟いたと同時に、涙が一粒、落ちた。その瞬間、我慢出来なくなりその場に蹲り声を押し殺して泣き出す。なんで…なんで…なんで…!!
「無居?何してんだ、こんなとこで」
声を掛けられて、思わず肩を揺らす。恐る恐る顔を上げて声のした方に顔を向けると、轟君と目が合った。すると轟君はぎょっとした様に目を見開きながら「どうした?どっか痛いのか?リカバリーガールのとこ行くか?」と言って私の所までやって来た。そんな轟君に慌てて「大丈夫!!どこも悪くないよ!!」と弁明すると「そ、そうか…?けどじゃあなんで泣いてんだ…?」と聞かれ、口籠ってしまう。
「緑谷か爆豪、呼んでく…」
「やめて!お願い、2人には言わないで!!」
勝己君達を呼ぶため寮へ戻ろうとする轟君の服を思わず掴み大きな声を出してしまう。私のその様子に少し驚きつつも、「わかった」と言ってくれた轟君にお礼を言う。
「……なぁ。何があったのか、聞いてもいいか?」
轟君が言い辛そうに尋ねて来る。
「た、大したことじゃないから!気にしないで!」
そう返答すると、少しムッとした様な顔で「大した事ねぇってそんな顔で言われても信じられねぇよ」と言われてしまった。
「お前がどう思ってるかはわかんねぇけど、俺はお前のこと友達だと思ってる。だから、悩みとかあるなら話して欲しい」
もちろん、無理強いするつもりはねぇけど、真っ直ぐと私を見つめながら力強く言う轟君から目を離せない。
「自分がね、すごく嫌になっちゃったの」
そんな風に真っ直ぐと見ながら、真っ向から言ってくれたからだろうか。気が付くと私は、ぽつりぽつりと話し始めていた。
話し出した私のことを、轟君はただ黙ってじっと見つめながら聞いている。
「出久君のデクって言葉の意味ね、あれ木偶の棒のデクって意味だったの。勝己君やみんなに『デク』って呼ばれる度、出久君悲しそうにしてたの。私、そんな出久君を見るのが嫌で、だから、私だけでも、デクって呼ばずに出久君って呼ぼうって、そもそも出久君は木偶の棒じゃないしって、そう思って出久君って呼び続けたの」
轟君はやはり、黙って私の話を聞いている。
「出久君って呼び続けること、出久君は喜んでくれてね、だから私も、すっごく嬉しかったんだ。…でも、『デク』って言葉の意味を変えてあげることは出来なかった。他のみんなはやっぱり、出久君のことを木偶の棒のデクだって、そう言い続けてた」
そんなことないのに。出久君は頭が良くて、優しくて、当たり前の様に人に親切に出来る、とてもすごい人なのに。
「何年経っても、他のみんなにとって出久君はなんにも出来ない、木偶の棒のデクのままなんだって、雄英に入って2人と再会した時も思ったの。…でも、違ったんだね」
お茶子ちゃんが、たった一言で意味を変えていた。
「頑張れって感じのデクって出久君が言った時、すごく嬉しかった…嬉しかったんだけど、ね。それ以上に、すごく、お茶子ちゃんのこと妬ましいって、思っちゃったの…」
また涙で、視界が歪んで来た。
「私、幼馴染なのに…!小さい頃からずっと、一緒だったのに…!離れてた年数もあるけれどでも、それでも、それでも、私の方がお茶子ちゃんよりも長い付き合いなのに、『デク』って言葉の意味、変えて、あげられなかったのが、すっごく悔しくて羨ましくて妬ましくて…!」
耐えられなくなり、また泣き出してしまった。
「そしたらどんどん、嫌な気持ちが溢れて来ちゃって…。私は『デク』って言葉を変えてあげられなかった。なのにお茶子ちゃんは出会ってすぐに、あっさりと意味を変えてあげられた。その事実を知ったら、なんか、お茶子ちゃんに嫉妬しちゃって…。私は、2人と授業を受けられないのに、お茶子ちゃんは受けれて良いなとか、私はお茶子ちゃんみたいに、体育祭でやってたみたいに勝己君と勝負出来ないのに、お茶子ちゃんはなんで出来るんだろ、とか、そんなことばっかり考えちゃって、そんなことばっかり考えてる自分が、嫌になっちゃって、気付いたらここに来ててそれで、泣いてたの…」
轟君は黙って最後まで聞いてくれた。でも、どう思ったのだろう。性格の悪い女だと思われてしまっただろうか。面倒くさい奴だと思われただろうか。こんな汚くて、ドロドロな私の本心を聞いても尚、友達だと言ってくれるだろうか。今更怖くなってきた。轟君の顔を見るのが、怖い。思わず目を逸らし、俯いてしまう。
「確かにお前は麗日みたいにデクって言葉の意味を変えてやれなかったのかもしれねぇ。ヒーロー科じゃねぇから、あいつらと一緒に授業受けられねぇし、体育祭の時の爆豪と麗日みたいな勝負なんて出来る訳ねぇ」
今まで黙って聞いていた轟君が口を開き、グサグサと痛いとこを突いて来る。
「あ、あの…轟君、私今ちょっと、割と本気で落ち込んでるというか何というかだからその、あんまり鋭利な言葉でズバッと言われると受け止めきれない…もう少しオブラートに…」
「けど。麗日は緑谷のこと、『出久』とは呼んでやれなかった。あいつを…緑谷を、『緑谷出久』のままでいさせてやることが出来たのはお前だけだろ」
轟君がじっと、私から一切目を逸らさずに言う。
「きっと、それはあいつにとって『デク』って言葉の意味を変えてくれた麗日と同じくらい嬉しくて、ありがたいことだったんじゃねぇかな」
俺は緑谷じゃねぇからはっきりとそうだとは断言出来ねぇけど、と付け足しつつ続ける。
「お前は自分と麗日を比べて、麗日ばっかりあの2人と出来ることが沢山ある…そう思ってるのか?」
と問いかけられた。改めて言われると、少し心が痛いと思いつつこくりと頷く。
「それはある種事実なのかもしれねぇ。でもそれは、お前にも言えることなんじゃねぇの」
「えっ…?」
轟君の発言に驚き、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「…連合から救出されてお前が目覚ました時、A組全員で見舞いに行ったらお前、爆豪に抱き着いてたよな。爆豪に抱き着くことが出来る奴なんて、お前以外いねぇよ。しかもその時爆豪、すげぇ穏やかな顔してたし。アイツにそんな顔させることが出来るのなんてお前だけだ」
微かに微笑みながら言われる。
「この前の合同演習の時、お前が緑谷のこと心配して色々言った後、緑谷『僕歌歩ちゃんのそういう優しいところ大好きだよ』って言ってたな。あれすげぇ驚いたよ。緑谷が真っ直ぐですぐに本音を言える奴だってことは知ってたつもりだ。でも、大好きとかそういう言葉は言えねぇし言わねぇ奴だと思ってたんだ。それで考えてみて思ったんだ。相手が、無居だったから言えたんだろうなって」
私だから…?
「でも出久君、昔からよく大好きっていってくれたよ?」
私が大好きだよって言うと僕も大好きって笑顔で返してくれてたと報告すると「だから、それはお前に対してだけだって」と少し呆れた様に言われてしまった。
「少なくとも俺は、緑谷が他の女子相手に大好きっつってるとこなんて見たことねぇよ。そもそもあいつ、最初の頃なんて女子とまともに話せてなかったし」
事あるごとにおろおろして、コイツ大丈夫かって思うレベルだったと、付け足された。
「爆豪をあんな穏やかな顔にさせることが出来る女子も、緑谷に大好きって言葉を言わすことが出来る女子も、俺の知る限りお前だけだ」
やっぱり轟君は痛いくらい、怖いくらい真っ直ぐと私のことを見つめながら続ける。
「今言ったこと以外にも、お前にしかあの2人にしてやれないことは沢山ある。麗日は麗日、無居は無居だ。比べることなんてねぇだろ」
私は私…お茶子ちゃんはお茶子ちゃん…。確かにそうだ。比べたって何の意味もない。でも、
「でも私、友達、なのに…お茶子ちゃんにあんなに親切にしてもらってるのに、仲良くしてもらってる、のに…。なのに、嫉妬しちゃったんだよ。私の方が先に2人と出会ったのに、私の方が絶対、絶対に2人のこと大好きで、ずっと一緒にいたのに、お茶子ちゃんの存在がすごく大きくなってるように見えて、ずるい、って…!そんな最低なことを考えちゃったんだよ…!友達なのに…!大好き、なのに…!あんなに親切にしてもらってるのに…!なのに、なのに、そんなお茶子ちゃんに向かって…!」
言いながらまた、涙が出そうになる。友達だと思ってるってせっかく言ってくれたのに。なのに私のこんなに汚い感情を知ってしまったら幻滅されてしまうかもしれない。嫌われてしまうかも。また、轟君の顔を見るのが怖くなり、再び俯いてしまう。
「……そんな感情、人間誰しも多かれ少なかれ持ってるもんじゃねぇの」
「えっ…」
予想外の返答に、思わず声を上げてしまった。
「俺だってお前と爆豪、緑谷の関係が羨ましいって思うことも、ズリィなって思ったことも何度だってある。俺には名前で呼び合えるような幼馴染いねぇから。きっと他の奴らだって、大なり小なり嫉妬してると思う。だから何も、そこまで自己嫌悪することなんてないよ」
優しく笑いながら言われて、また涙が零れ、泣いてしまった。そんな私のことを、轟君は落ち着かせるように背中を擦ってくれた。
◇
「轟君、話聞いてくれてありがとう。おかげで少し、気が楽になれたよ」
話を聞いてくれて慰めてくれたことにお礼を言うと「いや…助けになれたんならよかった」と微笑みながら言われた。
「……なぁ、無居」
ふと、轟君が少し言い辛そうに私のことを呼ぶ。どうしたの?と尋ねると、「俺もちょっと、相談に乗ってもらいたいんだ…聞いてもらってもいいか?」と、なんだか深刻そうな顔で言う。勿論いいよ!どうしたの?と聞いてみると、
「俺、笑顔で人を殺しちまうみたいなんだ…!」
何言ってんだこの人。
「は…や…あの、え?何言ってんの?」
なんか前にもこんなことがあった気が…。
「実はこの前、インタビューの練習したって言っただろ?その時Mt.レディに俺に微笑みかけられた人はイチコロだって言われちまったんだ…!」
轟君…
「それ、多分そういう意味じゃない…!」
最近気が付いた。轟焦凍って人は、びっくりするくらい天然ボケなんだ、と。