向日葵
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「無居、お前も仮免試験見に行くか?」
職員室で実習をしていると、相澤先生にそんな提案をされた。
「仮免試験…ですか?」
「あぁ。職員会議で、そんな提案が出たんだ。お前にとってもいい経験になるんじゃないかってな。色んな奴の個性を使っているところを見るだけでも得られるものはあるんじゃないかって。何より、いつも雄英に籠ってたら気も滅入るだろうからたまには外に出て息抜きでもするべきじゃないかって意見も出てな」
勿論強制はしないが、どうする?という相澤先生の言葉に、少し考えてみた。確かに先生方の言う通り、沢山の人が個性を使っている所を間近で見れることなんてめったにないチャンスだろう。ならせっかくだし、見学させてもらおう。
「ありがとうございます、私も一緒に行きたいです」
そう言うと相澤先生は「わかった」と微かに笑って同行することを許可してくれた。それを近くで聞いていた他の先生達に「会場では相澤君から離れないようにね!」「絶対1人でどこかに行かないようにするのよ」「迷子にならねー様に気をつけろよ!」などなど沢山注意された。……なんか小さい子供になった気分。
◇
あっという間に日数が過ぎて、いよいよ仮免試験当日になった。みんなそわそわしていて、すごく緊張しているみたいだ。なんだか私まで緊張してきた…。あ、峰田君が相澤先生に喝入れられてる。
「いやぁキンチョ―するぅー!無居、応援しててね!」
「うん、勿論!観客席から全力で応援するね!頑張ってね!」
そう言うと芦戸さんは嬉しそうに私に抱き着きながら「ありがとー!!」とニコニコと笑っている。初めて会った時は正直苦手なタイプかと思っていたけれども仲良くなってみたらそんなことはなかった。話しやすくて友達思いの、すごく優しい子だ。芦戸さんだけじゃない。A組の子達はみんな、優しくて友達思いの良い人達だ。誰1人と欠けることなく、みんなでヒーローになって欲しいと願わずにはいられない。
「ねぇ無居。爆豪には言わないの?」
芦戸さんとじゃれていると耳朗さんが私の所までやってきて耳打ちしてきた。
「えっ?何を?」
「頑張ってねって。アイツ、アンタに言ってもらうの待ってると思うよ」
「あっうん、えっと、私が応援なんてしなくても、勝己君なら大丈夫だよ。寧ろ、うるせえって怒られちゃうかも」
そう言うと耳朗さんは「いやでも…」と何か言いたげな様子だったけれどもそれは切島君の「よーし、んじゃ、いつものいくぞ!プルす…」という掛け声と、知らない人の「ウルトラーー!!!」という絶叫で遮られた。聞き覚えのない声に驚いて見てみると違う学校の人が雄英の円陣に加わって来ていた。同じ学校の人に他校の円陣に加わるのはよくないと注意されている。あの制服は確か、士傑高校のものだっただろうか。雄英と並ぶ、名門校。
…円陣に加わって来た人、凄い勢いで謝ってる。頭地面にぶつけてる。血が出ててかなり痛々しい。ていうかちょっと怖い。
「アイツは強いぞ」
ドン引きしている私達に相澤先生が言う。知り合いなんですかと聞かれると、なんでも今年の推薦入試の時に1位で通過したにもかかわらず何故か雄英を蹴ったらしい。実力だけなら轟君以上だとかなんとか。あの轟君以上の実力の人がいるなんて、それだけみんなが目指すものはハードっていうことなのか。ふと目線の先にいる勝己君の姿が目に入って来た。…勝己君とは、校舎裏でのあの一見以来、1度も話していない。話したいけれども、どうしたらいいか分からず、声を掛けたりすることが出来ない。せっかく小さい頃みたいに話せるようになっていたのに、結局こんなことになってしまうなんて…。私は、どこで何をどう間違えてしまったの。早く答えを見つけたいのに、見つけられない。
「イレイザー?イレイザーじゃないか!!」
突然相澤先生のことを呼ぶ女の人の声がしてきた。視線をそっちへ向けると、バンダナをつけたエメラルドグリーンの髪色をした女の人がいた。テンション高く相澤先生に絡んでいるその人はMs.ジョークというらしい。出久君が目を輝かせながら解説している。相変わらずヒーローについて語ると止まらなくなるんだなぁと思いながら見ていると、ジョークさんが自分の受け持っている生徒達を呼んだ。学年は私達よりも1つ上らしい。
1人すごくさわやかなイケメンって感じの人がニコニコと笑いながらみんなに握手して声を掛けている。君達は強いとかなんとかかんとか。みんなのことを褒め称えているけれどもなんだか噓くさい。面とセリフが合っていない。そういう勝己君のことを切島君が注意しているがその人…真堂さんは気にしなくていいと言っている。なんとなくその様子を見つめていると私の視線に気づいたのか、思い切り目が合ってしまった。すると真堂さんは微笑んで私の所まで来て私の手を取り、
「そうそう、神野といえば君も凄かったね、無居歌歩さん!普通科の生徒で、ヴィランや戦いとは無縁であるハズなのに、誘拐されて怖かっただろうに…だけど無事生還して今も元気に過ごしているなんて君も心の強い子だね!」
と言われた。どう反応すれば良いか分からず、とりあえずお礼を言っておいた。
それにしても、みんないろんな学校の人達に声を掛けられている。なんだかすごく有名人みたいだなぁ。
◇
試験の準備をするみんなと別れて、私は相澤先生とジョークさんと一緒に客席に行った。
第一試験に受かるのは100人らしい。事前に聞いていた合格人数よりもずっと少ない。みんなは受かることが出来るのだろうか…。私が受けるわけじゃないのにドキドキする。
「それにしても、20人とはなァ。お前が除籍してないなんて珍しいじゃん。気に入ってんだ?今回のクラス」
そう楽しそうに話しかけてきているジョークさんに相澤先生は「別に」と言った。するとジョークさんは笑いながら
「照れんなよ、ダッセェなァ」
と言った。なんだかマイク先生とのやりとりに似ている気がする。相澤先生は賑やかな人を引き寄せる力でもあるのだろうか。
「しっかし、それなら変な話だぜ。お前があのことを知らないわけがない」
急にジョークさんが真面目なトーンで言い出した。
「あのこと?」
私が聞くと、ジョークさんは「あぁ」と言って
「例年形式は変われど、この仮免試験には1つの慣習に近いものがある。…無居さん、それは何かわかるかい?」
と、質問してきた。1つの慣習に近いもの…?なんだろう…。考えてみても全く分からない。なので素直にそうわからないというと「そうか。まァ、わかんないよな!」と笑って説明を始めてくれた。
「この試験は全国の高校が競い合う。同じ学校同士の者達はお互いの個性は知っているが他校の生徒の個性は知らない。……ただし唯一、全国の人々に個性を知られている学校がある」
全国の人に個性を知られている…あっ。
「雄英体育祭…!」
「そう!雄英は体育祭が全国で生中継されるため唯一、個性不明というアドバンテージを失っているうえ、弱点・スタイルまで割れている。そうなりゃ、まぁやることは自ずと決まってくるもんさ」
やること…そっか、他の学校の人達からしたらどんな個性を持っているのか知っている雄英の生徒を狙わないなんて手はないってことか…!他校の人達が雄英生のことを知っていたのも体育祭で見ていたからだったんだ…!そう言っている私に、「そういうこと!君、結構勘いいねー。さっすが雄英生!」ジョークさんが笑いながら言った。
「可愛い教え子達なら教えてやればいいのに。毎年行われる雄英潰しのこと、お前が知らない訳ないだろ」
というジョークさんに、相澤先生は教えたところでやることは変わらない、プロになれば個性を晒すなんて当たり前、うちは目先のものよりももっと先を見ている、と主張した。
その言葉の通りだ、とでもいう様にA組のみんなが他校の生徒達に立ち向かって行っている姿がモニターに映った。体育祭の時にも思ったけれども、A組の子達ってみんな判断早いよな。この調子でいけばみんな揃って仮免試験合格出来るんじゃ…!そう思った瞬間だった。モニター越しでもわかるような振動で地面が揺れたかと思うと、地面が割れてA組の子達が分断されてしまった。どうやら先程の真堂さんの個性の様だ。ジョークさんが相澤先生に自分達だけが先を見ている訳ではないというようなことを言っている。が、みんなの安否が気になりすぎて会話が耳に入って来ない。みんな、今ので怪我してない…?勝己君…はいなかった。そもそも勝己君がそんな簡単に怪我なんてする訳ない。だけどさっき、出久君は映っていた。ということはあの場にいたということだよね。てことは、あの雪崩に巻き込まれてしまったんじゃ…。出久君、また怪我してない…?心配だ。気になるけれども、客席からじゃわからない。
「い、出久君…!」
「俺の生徒はそんなヤワじゃない」
私が呟くと相澤先生がキッパリと言った。
「えっ…?」
「お前今、緑谷が怪我してないかと心配してるだろ。そんな心配不要だよ。アイツはお前が思っているよりずっと強い」
出久君は、私が思っているよりもずっと強い…。
「で、でも…!」
「入学した当初のアイツは確かに弱かった。個性もまともに使えなくてな。そこから考えるにきっと、お前の知っている頃のアイツはその時以上に弱かったんだろうな。けど、アイツはそこから強くなった。お前の知っている頃の緑谷とはもう、違うよ」
そういってみんなの試験をじっと見つめている相澤先生の目はとても強くて。出久君やみんなのことを本気で信じているんだということがよく伝わってきた。
……そうだ、出久君はもう、泣き虫で無個性のいじめられっ子な男の子じゃない。ヴィランのアジトに乗り込んで、捕まっている人を助けに来てくれるくらい、強くなったんだ。
出久君は、勝己君や他のみんなと同じ土俵に立って一緒にヒーローを目指す、雄英高校1年A組に所属するヒーロー志望の、緑谷出久なんだ。
もう私の知っている、あの頃の弱虫な出久君とは違うんだ。あの頃のままなのは、私の方だ。勝己君も、出久君ももう、前に進んでいるんだ。…私も、いい加減進まないと。
「相澤先生」
私の呼ぶ声を聞くと、先生はこちらに視線を向けてくれた。
「ありがとうございます」
お陰で少し、前に進むことが出来そうですという私に対して「俺は別に何もしてない」と言って視線を試験の方へと戻した。
そんな相澤先生のことを「素直じゃないな、イレイザーは!」とジョークさんがケラケラと笑いながら見ているが、相澤先生は完全に無視を決め込んでいる様だった。
職員室で実習をしていると、相澤先生にそんな提案をされた。
「仮免試験…ですか?」
「あぁ。職員会議で、そんな提案が出たんだ。お前にとってもいい経験になるんじゃないかってな。色んな奴の個性を使っているところを見るだけでも得られるものはあるんじゃないかって。何より、いつも雄英に籠ってたら気も滅入るだろうからたまには外に出て息抜きでもするべきじゃないかって意見も出てな」
勿論強制はしないが、どうする?という相澤先生の言葉に、少し考えてみた。確かに先生方の言う通り、沢山の人が個性を使っている所を間近で見れることなんてめったにないチャンスだろう。ならせっかくだし、見学させてもらおう。
「ありがとうございます、私も一緒に行きたいです」
そう言うと相澤先生は「わかった」と微かに笑って同行することを許可してくれた。それを近くで聞いていた他の先生達に「会場では相澤君から離れないようにね!」「絶対1人でどこかに行かないようにするのよ」「迷子にならねー様に気をつけろよ!」などなど沢山注意された。……なんか小さい子供になった気分。
◇
あっという間に日数が過ぎて、いよいよ仮免試験当日になった。みんなそわそわしていて、すごく緊張しているみたいだ。なんだか私まで緊張してきた…。あ、峰田君が相澤先生に喝入れられてる。
「いやぁキンチョ―するぅー!無居、応援しててね!」
「うん、勿論!観客席から全力で応援するね!頑張ってね!」
そう言うと芦戸さんは嬉しそうに私に抱き着きながら「ありがとー!!」とニコニコと笑っている。初めて会った時は正直苦手なタイプかと思っていたけれども仲良くなってみたらそんなことはなかった。話しやすくて友達思いの、すごく優しい子だ。芦戸さんだけじゃない。A組の子達はみんな、優しくて友達思いの良い人達だ。誰1人と欠けることなく、みんなでヒーローになって欲しいと願わずにはいられない。
「ねぇ無居。爆豪には言わないの?」
芦戸さんとじゃれていると耳朗さんが私の所までやってきて耳打ちしてきた。
「えっ?何を?」
「頑張ってねって。アイツ、アンタに言ってもらうの待ってると思うよ」
「あっうん、えっと、私が応援なんてしなくても、勝己君なら大丈夫だよ。寧ろ、うるせえって怒られちゃうかも」
そう言うと耳朗さんは「いやでも…」と何か言いたげな様子だったけれどもそれは切島君の「よーし、んじゃ、いつものいくぞ!プルす…」という掛け声と、知らない人の「ウルトラーー!!!」という絶叫で遮られた。聞き覚えのない声に驚いて見てみると違う学校の人が雄英の円陣に加わって来ていた。同じ学校の人に他校の円陣に加わるのはよくないと注意されている。あの制服は確か、士傑高校のものだっただろうか。雄英と並ぶ、名門校。
…円陣に加わって来た人、凄い勢いで謝ってる。頭地面にぶつけてる。血が出ててかなり痛々しい。ていうかちょっと怖い。
「アイツは強いぞ」
ドン引きしている私達に相澤先生が言う。知り合いなんですかと聞かれると、なんでも今年の推薦入試の時に1位で通過したにもかかわらず何故か雄英を蹴ったらしい。実力だけなら轟君以上だとかなんとか。あの轟君以上の実力の人がいるなんて、それだけみんなが目指すものはハードっていうことなのか。ふと目線の先にいる勝己君の姿が目に入って来た。…勝己君とは、校舎裏でのあの一見以来、1度も話していない。話したいけれども、どうしたらいいか分からず、声を掛けたりすることが出来ない。せっかく小さい頃みたいに話せるようになっていたのに、結局こんなことになってしまうなんて…。私は、どこで何をどう間違えてしまったの。早く答えを見つけたいのに、見つけられない。
「イレイザー?イレイザーじゃないか!!」
突然相澤先生のことを呼ぶ女の人の声がしてきた。視線をそっちへ向けると、バンダナをつけたエメラルドグリーンの髪色をした女の人がいた。テンション高く相澤先生に絡んでいるその人はMs.ジョークというらしい。出久君が目を輝かせながら解説している。相変わらずヒーローについて語ると止まらなくなるんだなぁと思いながら見ていると、ジョークさんが自分の受け持っている生徒達を呼んだ。学年は私達よりも1つ上らしい。
1人すごくさわやかなイケメンって感じの人がニコニコと笑いながらみんなに握手して声を掛けている。君達は強いとかなんとかかんとか。みんなのことを褒め称えているけれどもなんだか噓くさい。面とセリフが合っていない。そういう勝己君のことを切島君が注意しているがその人…真堂さんは気にしなくていいと言っている。なんとなくその様子を見つめていると私の視線に気づいたのか、思い切り目が合ってしまった。すると真堂さんは微笑んで私の所まで来て私の手を取り、
「そうそう、神野といえば君も凄かったね、無居歌歩さん!普通科の生徒で、ヴィランや戦いとは無縁であるハズなのに、誘拐されて怖かっただろうに…だけど無事生還して今も元気に過ごしているなんて君も心の強い子だね!」
と言われた。どう反応すれば良いか分からず、とりあえずお礼を言っておいた。
それにしても、みんないろんな学校の人達に声を掛けられている。なんだかすごく有名人みたいだなぁ。
◇
試験の準備をするみんなと別れて、私は相澤先生とジョークさんと一緒に客席に行った。
第一試験に受かるのは100人らしい。事前に聞いていた合格人数よりもずっと少ない。みんなは受かることが出来るのだろうか…。私が受けるわけじゃないのにドキドキする。
「それにしても、20人とはなァ。お前が除籍してないなんて珍しいじゃん。気に入ってんだ?今回のクラス」
そう楽しそうに話しかけてきているジョークさんに相澤先生は「別に」と言った。するとジョークさんは笑いながら
「照れんなよ、ダッセェなァ」
と言った。なんだかマイク先生とのやりとりに似ている気がする。相澤先生は賑やかな人を引き寄せる力でもあるのだろうか。
「しっかし、それなら変な話だぜ。お前があのことを知らないわけがない」
急にジョークさんが真面目なトーンで言い出した。
「あのこと?」
私が聞くと、ジョークさんは「あぁ」と言って
「例年形式は変われど、この仮免試験には1つの慣習に近いものがある。…無居さん、それは何かわかるかい?」
と、質問してきた。1つの慣習に近いもの…?なんだろう…。考えてみても全く分からない。なので素直にそうわからないというと「そうか。まァ、わかんないよな!」と笑って説明を始めてくれた。
「この試験は全国の高校が競い合う。同じ学校同士の者達はお互いの個性は知っているが他校の生徒の個性は知らない。……ただし唯一、全国の人々に個性を知られている学校がある」
全国の人に個性を知られている…あっ。
「雄英体育祭…!」
「そう!雄英は体育祭が全国で生中継されるため唯一、個性不明というアドバンテージを失っているうえ、弱点・スタイルまで割れている。そうなりゃ、まぁやることは自ずと決まってくるもんさ」
やること…そっか、他の学校の人達からしたらどんな個性を持っているのか知っている雄英の生徒を狙わないなんて手はないってことか…!他校の人達が雄英生のことを知っていたのも体育祭で見ていたからだったんだ…!そう言っている私に、「そういうこと!君、結構勘いいねー。さっすが雄英生!」ジョークさんが笑いながら言った。
「可愛い教え子達なら教えてやればいいのに。毎年行われる雄英潰しのこと、お前が知らない訳ないだろ」
というジョークさんに、相澤先生は教えたところでやることは変わらない、プロになれば個性を晒すなんて当たり前、うちは目先のものよりももっと先を見ている、と主張した。
その言葉の通りだ、とでもいう様にA組のみんなが他校の生徒達に立ち向かって行っている姿がモニターに映った。体育祭の時にも思ったけれども、A組の子達ってみんな判断早いよな。この調子でいけばみんな揃って仮免試験合格出来るんじゃ…!そう思った瞬間だった。モニター越しでもわかるような振動で地面が揺れたかと思うと、地面が割れてA組の子達が分断されてしまった。どうやら先程の真堂さんの個性の様だ。ジョークさんが相澤先生に自分達だけが先を見ている訳ではないというようなことを言っている。が、みんなの安否が気になりすぎて会話が耳に入って来ない。みんな、今ので怪我してない…?勝己君…はいなかった。そもそも勝己君がそんな簡単に怪我なんてする訳ない。だけどさっき、出久君は映っていた。ということはあの場にいたということだよね。てことは、あの雪崩に巻き込まれてしまったんじゃ…。出久君、また怪我してない…?心配だ。気になるけれども、客席からじゃわからない。
「い、出久君…!」
「俺の生徒はそんなヤワじゃない」
私が呟くと相澤先生がキッパリと言った。
「えっ…?」
「お前今、緑谷が怪我してないかと心配してるだろ。そんな心配不要だよ。アイツはお前が思っているよりずっと強い」
出久君は、私が思っているよりもずっと強い…。
「で、でも…!」
「入学した当初のアイツは確かに弱かった。個性もまともに使えなくてな。そこから考えるにきっと、お前の知っている頃のアイツはその時以上に弱かったんだろうな。けど、アイツはそこから強くなった。お前の知っている頃の緑谷とはもう、違うよ」
そういってみんなの試験をじっと見つめている相澤先生の目はとても強くて。出久君やみんなのことを本気で信じているんだということがよく伝わってきた。
……そうだ、出久君はもう、泣き虫で無個性のいじめられっ子な男の子じゃない。ヴィランのアジトに乗り込んで、捕まっている人を助けに来てくれるくらい、強くなったんだ。
出久君は、勝己君や他のみんなと同じ土俵に立って一緒にヒーローを目指す、雄英高校1年A組に所属するヒーロー志望の、緑谷出久なんだ。
もう私の知っている、あの頃の弱虫な出久君とは違うんだ。あの頃のままなのは、私の方だ。勝己君も、出久君ももう、前に進んでいるんだ。…私も、いい加減進まないと。
「相澤先生」
私の呼ぶ声を聞くと、先生はこちらに視線を向けてくれた。
「ありがとうございます」
お陰で少し、前に進むことが出来そうですという私に対して「俺は別に何もしてない」と言って視線を試験の方へと戻した。
そんな相澤先生のことを「素直じゃないな、イレイザーは!」とジョークさんがケラケラと笑いながら見ているが、相澤先生は完全に無視を決め込んでいる様だった。