向日葵
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
死柄木の襲撃を受けた私は、次の日即座に退院させられて寮生活を始めることになった。
病院にいるよりもセキュリティーがしっかりしていて尚且つ、常にヒーローがいる雄英で過ごした方が安全だろうという結論を警察と雄英に出されたためだ。
ただし学校はしばらく休学ということになり、日中は基本的に常に人がいるであろう職員室や保健室、校長室で過ごすようにと言われた。学校から出る時は必ず校長先生と担任の許可を取り、最低でも教員1人の同行のもとにする様にとの条件も出された。「窮屈な思いや不便をかけてしまってすまないね。けれどもそんな風にでもしないと、君を護ることが出来そうにないんだ…」そう言って頭を深々と下げてきた校長先生のことを思い出す。先生方は誰も悪くないのに、そんな謝罪をさせてしまうことになるなんてと、いたたまれない気持ちになった。
「歌歩ちゃん、タンスここに置いていいの?」
個性でタンスを運んでくれているお茶子ちゃんに声を掛けられた。
「あ、うん。お願いします!」
という私の返事を聞くと「はいはーい!」といってタンスを置いてくれた。
「それにしても急に退院と入寮する日が変更になるなんて大変だったね。昨日まで3日くらい後に入寮って聞いてたから今朝相澤先生から今日になったって聞かされてびっくりしたよ」
「ねぇ!大変だったでしょ、病院出てすぐ荷物まとめたりとか」
「クラスのみんなそわそわしてたよね、歌歩ちゃんが今日から入寮することになったって聞いた時」
「そうね、特に爆豪ちゃんなんて1日中落ち着きがなかったわね」
耳朗さんと葉隠さん、お茶子ちゃんと蛙吹さんがそんな会話をしながら部屋の片づけを手伝ってくれている。訓練があったりで私よりもずっと疲れているはずなのに、手伝ってくれるなんてみんな親切で優しいなと、なんだか心が温まったような気がする。いきなり他のクラスで過ごすなんて大丈夫かなと不安だったけれども、そんな心配は全く必要なかったみたいだ。
「ねぇ、砂藤がシフォンケーキ焼いてくれたよー!せっかくだし一旦休みにしてみんなで食べながら女子会しよーよ!」
部屋のドアを叩く音と共にケーキを持った芦戸さんと「お紅茶もございますわよ。よろしければどうぞ」と、紅茶をもった八百万さんが入って来た。とても美味しそう…!私達はみんなでお茶の時間を楽しむことにした。
◇
八百万さんの紅茶と砂藤君のシフォンケーキがとても美味しくて思わず笑みが零れる。
「歌歩ちゃん、デク君の言う通り本当に幸せそうに甘いもの食べるね」
ケーキを食べる私のことをお茶子ちゃんがニコニコとしながら見て言う。なんだか恥ずかしくなってきた。
「あ、甘いもの好きだから、つい…」
そう言うと芦戸さんが「砂藤の作るお菓子は絶品だからねー!ヤオモモの紅茶も美味しいし!」とケーキを頬張りながら言う。
「本当、こんなに美味しいケーキと紅茶が味わえるなんて最高だよねー!」
「みなさんに喜んでいただけて、とても嬉しいですわ」
芦戸さんの意見に同意する葉隠さんと、そんな2人の会話を嬉しそうに笑いながら八百万さんが言う。なんだかすごくプリプリとしていて可愛い。
「ケロッ…無居ちゃん、紅茶がもうなくなっているけれどもお代わりいかが?」
隣に座っている蛙吹さんが私の空になったカップを見て話しかけてきた。
「うん、貰うね。ありがとう、蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで。私、お友達になりたい人にはそう呼んでもらいたいの」
「!うん、わかった。ありがとう、梅雨ちゃん」
私が名前を呼ぶと梅雨ちゃんは嬉しそうに笑って「えぇ、どういたしまして、歌歩ちゃん」と返事をしてくれた。可愛い。A組の女の子たち、みんな可愛い。
「ねぇ無居さん。さっきから気になってたんだけどさ、あそこに飾ってあるのって小さい頃の緑谷と爆豪と一緒に撮った写真?」
ケーキを食べ終えた耳朗さんがタンスの上に飾ってある、幼稚園の時の私と勝己君と出久君が満面の笑顔で映った写真を指さして聞いてきた。
「うん、そうだよ。幼稚園の入園式にね、勝己君のお父さんが撮ってくれたの」
「そうなんだ。いい写真だね。3人とも可愛い」
「ね!爆豪にすらこんな可愛い頃があったなんてびっくり!」
といった芦戸さんに他の子達もみんな同意していた。思わず苦笑してしまった。
◇
お茶子ちゃん達が手伝ってくれたお陰でなんとか部屋の片づけをその日の夕方前には終わらせることが出来た。A組の人達は女子も男子もみんな優しくて、とても安心だ。
みんなもうすぐで仮免試験で忙しいハズなのに部屋の片づけを手伝ってくれたりケーキや紅茶を用意してくれたり気にかけてくれたりで、ありがたいと思う反面、私ばかり色々なことをしてもらっていいのだろうかと疑問だ。みんなの優しさに触れれば触れるほど、申し訳なさがどんどん膨れ上がっていく。
考え込んでいるとふと、ドアをノックする音が聴こえてきた。慌ててはい、と言ってドアを開けると
「あ…」
部屋の外に、勝己君が立っていた。
「勝己君…どうしたの?」
「ちょっと来い」
「えっ…ちょっ…」
腕を引かれて部屋から連れ出された。途中で共有スペースにいた切島君達に声を掛けられたりしたが、そんな声を勝己君は全て無視して私の腕を引いたまま寮を出てしまった。
◇
勝己君に腕を引かれてやってきたのは、勝己君と出久君に再会した日に連れて来られた校舎裏だった。夕焼けで、辺りが赤くなり始めている。昨日、死柄木がやってきた時間帯と同じだ。
『お前は疫病神だ。関わる奴全てを不幸へと導くな』
唐突に死柄木に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。気分が悪い。
「何があったんだよ」
黙り込んでいた勝己君が不意に口を開いた。
「えっ…何が…?」
「なんかあったんだろ、昨日。だから急に今日、退院と入寮ってことになったんだろ。何があった』
じっと見つめてくる勝己君から目を逸らし、
「なんでも、ないよ。お医者さんにもう大丈夫だから早く退院した方がいいって言われたの。だから急だけども今日に変わっただけだよ」
誰かに聞かれたらそう答える様にと言われた内容を話した。
「んな嘘、俺に通じると思ってんのか」
聞き終わった勝己君は、無感情でそういった。その声にぞっとして、思わず顔を上げてしまった。目に入ってきた勝己君の顔は、今まで見たことがないような、無表情で。いつもとは違った迫力がある。勝己君、本気で怒ってる。
「歌歩。昨日何があった。言え」
勝己君が射る様な目で見つめてくる。どうしよう。何か言わないと。でも言葉が出てこない。昨日死柄木が来たことを話すわけにはいかない。出久君と学校だけじゃなくて勝己君にまで迷惑や心配かけちゃう。ただでさえ沢山迷惑や心配を掛けてしまったんだ。これ以上迷惑かけたら勝己君は私の事完全に嫌いになってしまうだろう。そんなの嫌。せっかく昔みたいに話せるようになったのに。せっかく、小さい頃みたいに戻れてきたような気がするのに、ここでまた迷惑かけたら今度こそ完全に嫌われちゃう。そんなの嫌。絶対に嫌。勝己君に嫌われたくない。だからもう心配掛けられない。迷惑かけられない。笑わないと。笑って何もなかったって伝えなくちゃ。
「何も、なかったよ。勝己君の考えすぎだよ、大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから、心配しないで…」
勝己君が相変わらず無表情で私のことを見つめている。何を考えているのか見当もつかない。その目に見つめられ続けるのが耐えられなくなって、また勝己君から目を逸らしてしまった。
「……俺には訳も話せねぇってのかよ」
消え入りそうな小さな声で、勝己君が呟いた。
「えっ……?」
今まで聞いたことのない勝己君の声に驚いて、顔を上げてしまった。顔を上げて目に入ってきた勝己君の顔は、悲しそうな、辛そうな顔をしていた。
『爆豪は、お前がだーい好きな奴だもんなァ。下手したらこの世で1番の不幸者になっちまうかもなァ』
死柄木の言葉が、また耳に響いてくる。
『お前が大切に思ってる奴はみんな、不幸になるんだ』
私が、勝己君のことを大切に思ってるから…だから勝己君にこんな悲しそうな顔をさせてしまった…?私のせいで、勝己君はこんなに辛そうな顔をしているの…?
「あ、あの、勝己、君…ごめん、なさい…」
私の謝罪を聞くと勝己君は眉間に皺を寄せて、
「軽々しく謝ってんじゃねぇよ…!」
絞り出すような声で言った。息が詰まる。どうして勝己君が怒っているのか、なんでこんなに悲しそうで辛そうなのか、わからない。
「俺はッ!俺は、テメェに謝られたい訳じゃねぇんだよ…!俺はただ、ただッ…!」
そう声を荒げると、勝己君はそれきり黙り込んでしまった。
「かっちゃん!歌歩ちゃん!!」
私達の沈黙を破ったのは、出久君の私たちのことを呼ぶ焦った様な声だった。その声を聞くと勝己君は舌打ちをした。
「よ、良かった、いた…」
「……何しに来やがった」
「や、あの…切島君達から、かっちゃんが歌歩ちゃん連れてどっか行ったって聞いたから、どこに行ったのかなって、気になって…」
バツが悪そうに言う出久君のことを勝己君はじっと見つめたかと思うとすぐに目線を外し、
「テメェには関係ねぇだろ。ウゼェんだよ、クソナードが」
そう吐き捨てて、1人で校舎裏を後にした。
「………歌歩ちゃん、大丈夫?」
出久君が遠慮がちに聞いてくる。うん、と頷くと「良かった。…僕達も、寮戻ろっか」というので頷いて2人で帰路へと着いた。
寮への道を歩きながらまた、あの勝己君の悲しそうな顔が過って胸が苦しくなる。
勝己君は、世界で1番の不幸者になってしまうかもしれない…。死柄木のあの言葉が、耳にこびりついて離れなくなってしまいそうだ。
病院にいるよりもセキュリティーがしっかりしていて尚且つ、常にヒーローがいる雄英で過ごした方が安全だろうという結論を警察と雄英に出されたためだ。
ただし学校はしばらく休学ということになり、日中は基本的に常に人がいるであろう職員室や保健室、校長室で過ごすようにと言われた。学校から出る時は必ず校長先生と担任の許可を取り、最低でも教員1人の同行のもとにする様にとの条件も出された。「窮屈な思いや不便をかけてしまってすまないね。けれどもそんな風にでもしないと、君を護ることが出来そうにないんだ…」そう言って頭を深々と下げてきた校長先生のことを思い出す。先生方は誰も悪くないのに、そんな謝罪をさせてしまうことになるなんてと、いたたまれない気持ちになった。
「歌歩ちゃん、タンスここに置いていいの?」
個性でタンスを運んでくれているお茶子ちゃんに声を掛けられた。
「あ、うん。お願いします!」
という私の返事を聞くと「はいはーい!」といってタンスを置いてくれた。
「それにしても急に退院と入寮する日が変更になるなんて大変だったね。昨日まで3日くらい後に入寮って聞いてたから今朝相澤先生から今日になったって聞かされてびっくりしたよ」
「ねぇ!大変だったでしょ、病院出てすぐ荷物まとめたりとか」
「クラスのみんなそわそわしてたよね、歌歩ちゃんが今日から入寮することになったって聞いた時」
「そうね、特に爆豪ちゃんなんて1日中落ち着きがなかったわね」
耳朗さんと葉隠さん、お茶子ちゃんと蛙吹さんがそんな会話をしながら部屋の片づけを手伝ってくれている。訓練があったりで私よりもずっと疲れているはずなのに、手伝ってくれるなんてみんな親切で優しいなと、なんだか心が温まったような気がする。いきなり他のクラスで過ごすなんて大丈夫かなと不安だったけれども、そんな心配は全く必要なかったみたいだ。
「ねぇ、砂藤がシフォンケーキ焼いてくれたよー!せっかくだし一旦休みにしてみんなで食べながら女子会しよーよ!」
部屋のドアを叩く音と共にケーキを持った芦戸さんと「お紅茶もございますわよ。よろしければどうぞ」と、紅茶をもった八百万さんが入って来た。とても美味しそう…!私達はみんなでお茶の時間を楽しむことにした。
◇
八百万さんの紅茶と砂藤君のシフォンケーキがとても美味しくて思わず笑みが零れる。
「歌歩ちゃん、デク君の言う通り本当に幸せそうに甘いもの食べるね」
ケーキを食べる私のことをお茶子ちゃんがニコニコとしながら見て言う。なんだか恥ずかしくなってきた。
「あ、甘いもの好きだから、つい…」
そう言うと芦戸さんが「砂藤の作るお菓子は絶品だからねー!ヤオモモの紅茶も美味しいし!」とケーキを頬張りながら言う。
「本当、こんなに美味しいケーキと紅茶が味わえるなんて最高だよねー!」
「みなさんに喜んでいただけて、とても嬉しいですわ」
芦戸さんの意見に同意する葉隠さんと、そんな2人の会話を嬉しそうに笑いながら八百万さんが言う。なんだかすごくプリプリとしていて可愛い。
「ケロッ…無居ちゃん、紅茶がもうなくなっているけれどもお代わりいかが?」
隣に座っている蛙吹さんが私の空になったカップを見て話しかけてきた。
「うん、貰うね。ありがとう、蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで。私、お友達になりたい人にはそう呼んでもらいたいの」
「!うん、わかった。ありがとう、梅雨ちゃん」
私が名前を呼ぶと梅雨ちゃんは嬉しそうに笑って「えぇ、どういたしまして、歌歩ちゃん」と返事をしてくれた。可愛い。A組の女の子たち、みんな可愛い。
「ねぇ無居さん。さっきから気になってたんだけどさ、あそこに飾ってあるのって小さい頃の緑谷と爆豪と一緒に撮った写真?」
ケーキを食べ終えた耳朗さんがタンスの上に飾ってある、幼稚園の時の私と勝己君と出久君が満面の笑顔で映った写真を指さして聞いてきた。
「うん、そうだよ。幼稚園の入園式にね、勝己君のお父さんが撮ってくれたの」
「そうなんだ。いい写真だね。3人とも可愛い」
「ね!爆豪にすらこんな可愛い頃があったなんてびっくり!」
といった芦戸さんに他の子達もみんな同意していた。思わず苦笑してしまった。
◇
お茶子ちゃん達が手伝ってくれたお陰でなんとか部屋の片づけをその日の夕方前には終わらせることが出来た。A組の人達は女子も男子もみんな優しくて、とても安心だ。
みんなもうすぐで仮免試験で忙しいハズなのに部屋の片づけを手伝ってくれたりケーキや紅茶を用意してくれたり気にかけてくれたりで、ありがたいと思う反面、私ばかり色々なことをしてもらっていいのだろうかと疑問だ。みんなの優しさに触れれば触れるほど、申し訳なさがどんどん膨れ上がっていく。
考え込んでいるとふと、ドアをノックする音が聴こえてきた。慌ててはい、と言ってドアを開けると
「あ…」
部屋の外に、勝己君が立っていた。
「勝己君…どうしたの?」
「ちょっと来い」
「えっ…ちょっ…」
腕を引かれて部屋から連れ出された。途中で共有スペースにいた切島君達に声を掛けられたりしたが、そんな声を勝己君は全て無視して私の腕を引いたまま寮を出てしまった。
◇
勝己君に腕を引かれてやってきたのは、勝己君と出久君に再会した日に連れて来られた校舎裏だった。夕焼けで、辺りが赤くなり始めている。昨日、死柄木がやってきた時間帯と同じだ。
『お前は疫病神だ。関わる奴全てを不幸へと導くな』
唐突に死柄木に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。気分が悪い。
「何があったんだよ」
黙り込んでいた勝己君が不意に口を開いた。
「えっ…何が…?」
「なんかあったんだろ、昨日。だから急に今日、退院と入寮ってことになったんだろ。何があった』
じっと見つめてくる勝己君から目を逸らし、
「なんでも、ないよ。お医者さんにもう大丈夫だから早く退院した方がいいって言われたの。だから急だけども今日に変わっただけだよ」
誰かに聞かれたらそう答える様にと言われた内容を話した。
「んな嘘、俺に通じると思ってんのか」
聞き終わった勝己君は、無感情でそういった。その声にぞっとして、思わず顔を上げてしまった。目に入ってきた勝己君の顔は、今まで見たことがないような、無表情で。いつもとは違った迫力がある。勝己君、本気で怒ってる。
「歌歩。昨日何があった。言え」
勝己君が射る様な目で見つめてくる。どうしよう。何か言わないと。でも言葉が出てこない。昨日死柄木が来たことを話すわけにはいかない。出久君と学校だけじゃなくて勝己君にまで迷惑や心配かけちゃう。ただでさえ沢山迷惑や心配を掛けてしまったんだ。これ以上迷惑かけたら勝己君は私の事完全に嫌いになってしまうだろう。そんなの嫌。せっかく昔みたいに話せるようになったのに。せっかく、小さい頃みたいに戻れてきたような気がするのに、ここでまた迷惑かけたら今度こそ完全に嫌われちゃう。そんなの嫌。絶対に嫌。勝己君に嫌われたくない。だからもう心配掛けられない。迷惑かけられない。笑わないと。笑って何もなかったって伝えなくちゃ。
「何も、なかったよ。勝己君の考えすぎだよ、大丈夫、大丈夫だよ。大丈夫だから、心配しないで…」
勝己君が相変わらず無表情で私のことを見つめている。何を考えているのか見当もつかない。その目に見つめられ続けるのが耐えられなくなって、また勝己君から目を逸らしてしまった。
「……俺には訳も話せねぇってのかよ」
消え入りそうな小さな声で、勝己君が呟いた。
「えっ……?」
今まで聞いたことのない勝己君の声に驚いて、顔を上げてしまった。顔を上げて目に入ってきた勝己君の顔は、悲しそうな、辛そうな顔をしていた。
『爆豪は、お前がだーい好きな奴だもんなァ。下手したらこの世で1番の不幸者になっちまうかもなァ』
死柄木の言葉が、また耳に響いてくる。
『お前が大切に思ってる奴はみんな、不幸になるんだ』
私が、勝己君のことを大切に思ってるから…だから勝己君にこんな悲しそうな顔をさせてしまった…?私のせいで、勝己君はこんなに辛そうな顔をしているの…?
「あ、あの、勝己、君…ごめん、なさい…」
私の謝罪を聞くと勝己君は眉間に皺を寄せて、
「軽々しく謝ってんじゃねぇよ…!」
絞り出すような声で言った。息が詰まる。どうして勝己君が怒っているのか、なんでこんなに悲しそうで辛そうなのか、わからない。
「俺はッ!俺は、テメェに謝られたい訳じゃねぇんだよ…!俺はただ、ただッ…!」
そう声を荒げると、勝己君はそれきり黙り込んでしまった。
「かっちゃん!歌歩ちゃん!!」
私達の沈黙を破ったのは、出久君の私たちのことを呼ぶ焦った様な声だった。その声を聞くと勝己君は舌打ちをした。
「よ、良かった、いた…」
「……何しに来やがった」
「や、あの…切島君達から、かっちゃんが歌歩ちゃん連れてどっか行ったって聞いたから、どこに行ったのかなって、気になって…」
バツが悪そうに言う出久君のことを勝己君はじっと見つめたかと思うとすぐに目線を外し、
「テメェには関係ねぇだろ。ウゼェんだよ、クソナードが」
そう吐き捨てて、1人で校舎裏を後にした。
「………歌歩ちゃん、大丈夫?」
出久君が遠慮がちに聞いてくる。うん、と頷くと「良かった。…僕達も、寮戻ろっか」というので頷いて2人で帰路へと着いた。
寮への道を歩きながらまた、あの勝己君の悲しそうな顔が過って胸が苦しくなる。
勝己君は、世界で1番の不幸者になってしまうかもしれない…。死柄木のあの言葉が、耳にこびりついて離れなくなってしまいそうだ。