向日葵
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「見張りの1人もつけないとか随分気ィぬけてんなぁ。仮にもヴィランに誘拐された奴の病室だってのに」
耳元で囁く声は、忘れたくても忘れることなんて出来ない。冷や汗と震えが止まらない。だ、誰か呼ばないと…!そう思って声をあげようとしたが、
「んっ…!」
片手で口をふさがれ、もう片方の手で体を抱き込まれてしまって、声を出すことも身動きを取ることも出来ない。
「そんな怖がんなよー。今日は別に危害加えに来た訳じゃねぇから安心しろ。ゆっくりお話しよーぜ、歌歩ちゃん」
怯えている私のことを声の主―――死柄木弔はとても楽しそうに見ている。
「立ち話もなんだからさー。座って話そうぜ、歌歩ちゃん」
そう言って私をベットの上に座らせ、その隣に死柄木もドカッと座った。
腕が口と身体から離された。今のうちに逃げないと。そう思って立ち上がろうとしたがその瞬間、彼の細い指が私の首を掴んだ。恐怖に、ヒュッと喉が鳴った。
「逃げることねぇだろ、お話しようっつってるだけじゃん」
そう笑いながら言う死柄木の姿は恐怖でしかない。
「お話って、なんですか…!わ、私は貴方と話すことなんてありません…!帰って下さい…」
必死に絞り出した声はやはり震えていて。怖がっているということがバレバレだ。
「釣れないこと言うなよなー。数日間一緒に過ごした仲だろー?お前ほとんど寝てたけど」
ケラケラと笑いながら言う死柄木に恐怖が募る。きっと私の気持ちは全て気付かれているだろう。私を見る顔は心底楽しそうで。まるで子供が虫をいたぶって遊んでいるみたいだ。
「俺らから逃げた後も随分長い事寝てたみたいだなー。眠り姫とでも呼んでやろうか?呼ばねぇけど。それにしてもすげぇ震えてんなぁ。『勝己君は絶対にヴィランになんてならない』って大見得切って来た時とはえっらい違いだなぁ、歌歩ちゃん」
怯えて震えている私のことを相変わらず楽しそうに見ている。
あの路地裏で出会ってしまった荼毘という人と全く同じだ。
「だーい好きな勝己君のこと、好き勝手言われて我慢出来なくなっちまった?愛の力ってやつか?泣かせるねー。気色悪すぎて吐き気がしそうだ」
吐き気がしそうだと言い終わると、突然無表情になった死柄木に悪寒が走る。今すぐに大声を上げて逃げ出したい。だけどもそんなことをしたら首に掛けられた指に力を込められて殺されるか、5本全ての指で触れられて崩壊の個性を使われて跡形もなく消されるかのどちらかだ。どちらも絶対に嫌だ。震える身体と叫びそうになる声をぐっと力一杯抑え込む。そんな私のことを死柄木は退屈そうに見つめていた。
「お前意外と冷静なんだな。つまらねぇ。荼毘の話しじゃもっと面白そうだったのによ」
敵連合は私のことを玩具かなにかだと思っているのだろうか。
「つ、つまらないなら、帰ればいいじゃないですか…!」
こんな人と関わりたくない。だから早く目の前から消えてほしい。
この人たちを見ていると、恐怖と考えたくない事柄で思考を支配されてしまうから嫌なんだ。
「冷たいねぇ。お友達にはあんなに優しくするってのにすげぇ温度差だ」
お友達…出久君と心操君のこと?もしかして長い事見張られていたのだろうか…。そんなことも知らずに呑気に過ごしていたことに恐ろしくなる。
「…と、まぁそろそろ本題に入るか」
死柄木の雰囲気が少し変わったような気がする。本題とは、なんだろう…?
「お前、俺と一緒に来ないか?」
死柄木の言葉の意味が理解出来ない。
「一緒にって…何を言ってるんですか…?」
「言葉の通りだよ。俺と一緒に来ないかって言ってんだよ」
「それは、私に敵連合に入れ…ってことですか…?」
そう尋ねると死柄木は鼻で笑い
「お前みたいな弱い上にまともに個性使えねェような奴いれたって何も役にたたねぇだろ。そうじゃねぇよ」
と言った。余計意味が分からない。自分と一緒に来いというのに、敵連合に勧誘するという訳じゃないなんて理解出来る訳ないじゃないか。
「お前、大切な奴が沢山いるだろ?だからそいつらのために、俺と一緒に来ないかっていってんだよ」
大切な人が沢山いるから一緒に来い…?言ってること滅茶苦茶じゃないか。
「大切な人が沢山いるのに、貴方について行ったりする訳ないでしょう…!だから…」
「お前と一緒にいたら、その大切な人たちみんな不幸になっちまうかもしれねぇな」
その一言に、心臓を握られているんじゃないかという感覚に陥る。だけどここで黙りこんだりなんてしたら思う壷だ。何か言い返さないと。そう思って必死に口を開いた。
「そんな訳、ないじゃないですか!わ、私、は…」
「お前は疫病神だ。関わる奴全てを不幸へと導くな」
死柄木が楽しそうに笑いながら言う。
「だってそうだろ?お前のせいで父親はいなくなっちまった。そんで母親は自殺未遂した。どっちもお前が大切に思ってる連中だよな?そいつらが立て続けに不幸になってるんだぜ?次は婆ちゃんが不幸になるかもな。それか緑谷か爆豪かもしれない。つかあいつらはもうひでぇ目に遭ってるか。戦いで死ぬような大怪我してボロボロになったり、誘拐されたりで。この調子じゃ次はもっとひでぇ目に遭うかもなァ。死んじまったりして。だってアイツらは……爆豪は、お前がだーい好きな奴だもんなァ。下手したらこの世で1番の不幸者になっちまうかもなァ」
口を吊り上げて厭らしく、楽しそうに嗤いながら話す死柄木から目が離せない。震えが止まらない。握られている心臓をそのまま潰されてしまうような感覚はこんな感じなのだろうか。
冷や汗が止まらず震えている私のことを満足気に見ている死柄木に恐怖が更に増す。
「お前が大切に思ってる奴はみんな、不幸になるんだ。お前だってガキの頃からずっとそう思ってるんだろ?」
耳を塞ぎたい。今すぐに逃げ出してしまいたい。なのに動けない。
「もしお前のせいで不幸になったりしたら、アイツらは『お前のせいで不幸になった、お前さえいなければこんな風にはならなかった』って言うかもな。耐えられるか?アイツらにそんなふうに言われて。耐えれないだろ?だからさァ、お前の為だよ。お前がこれ以上辛い思いしないで済むようにって俺は優しさで、お前に言ってんだよ。一緒に来ないかって」
勝己君と出久君にそんなふうに言われたら……?
「何、言ってるんですか。勝己君と出久君がそんなこと言うわけないじゃないですか」
死柄木の言葉を聞いたら、先程までの恐怖がどこかへ行ったと言ったら嘘になってしまうが、それでも腹が立ってしまい思わずいいかえしてしまった。
「勝己君も出久君も、自分が酷い目に遭ったりしたことを人のせいにしたりなんてしません。そんなことで誰かを責めたりなんて、しません」
この人はなんでいつもいつも勝己君のことも出久君のことも、何も知らないくせに知ったような口を聞くんだ。心底不愉快だ。
「私の幼馴染達を、侮辱しないでください」
勝己君も出久君も、自分の不幸を呪って人を恨んだりなんてしない。私のことを疫病神だなんて言うわけが無い。
そもそも、
「もし仮に2人がそう言ったとしても。貴方について行ったりなんてする訳ないじゃないですか」
これ以上、祖母や周囲の人達に迷惑や心配をかけたくない。
震える拳を強く握り、唇を噛み締める。
私のことを死柄木が無表情で見つめている。
蛇に睨まれた蛙とは正しくこのことだろうか。全身から汗が滝のように流れて、気持ち悪い。
「……やっぱお前。胸糞悪いガキだな」
「ッ……!」
首に置かれた指に、力を込められた。
「先生がさァ、言ってたんだよ。俺とお前は仲良くなれるかもしれない、友達になれるかもしれない。だから1度ゆっくり話してみるといいって。そんで今話してみてよーく分かった。お前と仲良くなんて絶対なれない。だって俺、お前のことだーいっ嫌いだからさ。お前もそうだろ?俺のこと大っ嫌いだろ。お互いがお互いのことここまで嫌いあってんだからさァ、友達になんてなれる訳ねぇよなァ」
先程までの無表情とは一変して、不気味に笑いながら私の首を絞める死柄木に、さっきまでとは比べ物にならない恐怖が襲って来る。
首を絞める力が徐々に強くなっていく。指を外そうと精一杯抵抗してみようとするが、適うはずも無い。
苦痛に歪んでいるであろう私の顔を見つめながら、死柄木は今まで見た事ないくらい楽しそうに首を絞め続けている。もうダメだ、殺される…そう過った瞬間
「歌歩ちゃんごめん!スマホ忘れちゃったみたい…で…」
扉の開く音と、出久君の声が聞こえてきた。
◇
「心操君て歌歩ちゃんと仲良いんだね」
「まぁ…席隣だからな。それなりってとこ」
エレベーターを降りてバス停までの道を歩きながらそんな会話をする。それなり…って言っているけどきっとすごく仲が良いのだろう。学校で一緒にいる所をよく見かけるし、そもそも仲良くないとわざわざお見舞いになんて来るとは考えにくい。だからきっと仲のいい友達なんだと思う。
「何ニヤついてんの」
「えっあっごめん!嬉しくてつい!」
僕の返事を聞くと心操君は怪訝な顔で「嬉しい?何が」と聞いてきた。
「歌歩ちゃんて、愛想良いし優しいから周りの子に嫌われたりとかトラブルになったりとかすることもないし、話しをしたりする人だっているんだけどさ。だけど昔から、友達って言える存在があんまりいないんだ。あとその、かっちゃん関連でちょっと…1部の女の子から嫌なことされたりもしてたり、してたんだ……かっちゃん、女の子に人気あったから……。だから雄英に入って心操君とか麗日さんとかと友達になれてるみたいで良かったなーって嬉しいんだ」
そういうと心操君は「お前は母親かよ」と少し呆れたように笑いながら言った。
そんな話をしているとバス停に着いた。2人でベンチに座り、あっそう言えば砂藤君にケーキのお礼を言おうと思いスマホを取り出そうとして気がつく。
「あれ?!ない!!」
僕の絶叫が辺り一面に響き渡った。
「な、なんだよ突然叫んで…」
隣に座る心操君がびくりと肩を震わせながら僕のことを見て言う。
「スマホがないんだ…」
「えっ」
「多分、歌歩ちゃんの病室に忘れてきちゃったんだ…ごめん、僕取ってくる!心操君先帰ってて!」
そういうと「お、おう…じゃあ帰り遅れるって一応先生に言っとくわ」と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
まぁそれでもきっと、相澤先生には怒られるだろうなぁ…反省文何枚分書かされるかなぁ…そんなことを考えながら病院へと急いだ。
◇
病院へ戻ると急いで歌歩ちゃんの病室へと向かって走って看護士さんに「走らないで下さい!」と怒られてしまい謝罪しつつ早歩きで病室に行き、ノックもせずに扉を開いて
「歌歩ちゃんごめん!スマホ忘れちゃったみたい…で…」
取りに来たんだ!そう言おうとした僕の目に入って来たのは
「死柄木弔!?」
歌歩ちゃんの首を絞めている死柄木と、苦しそうにしながら必死に抵抗しようとしている歌歩ちゃんだった。
死柄木が僕に気づくとニヤッと笑って歌歩ちゃんの首から指を離し、「なんだ戻って来たのかよ」と話しかけてきた。
「もう少しお話したかったのになァ、歌歩ちゃーん」
そう言いながら首をさすって噎せている歌歩ちゃんの頭を撫でている死柄木に、形容し難い怒りに襲われる。
「死柄木!歌歩ちゃんから離れろ!」
怒鳴りながら2人に駆け寄ると死柄木は素早く窓へと飛び移った。
「うるせぇな、いちいち大声あげるなっての。殺した訳でもねぇんだしよ」
そう笑いながら言う死柄木を睨むがアイツはそんな僕を嘲笑う様に見ている。
「あーあ、せっかく楽しくお話してたのに台無しだなァ。もっと話したかったけどもう今日はいいや。じゃーな、また今度ゆっくりお話しよーぜ、歌歩ちゃーん」
言い終わると死柄木は病室から出て行った。
「待て!!死柄木!!!」
急いで窓に叫びながら走り寄ったが、死柄木の姿はすでに見えなくなっていた。
「い、出久君…」
僕を呼ぶ歌歩ちゃんの声にハッとして慌てて駆け寄り大丈夫かと聞くとカタカタと震えながらも笑って「大丈夫、大丈夫…だよ…。大丈夫だから、心配、しないで…」と言った。
…僕を心配させないためにそうしているんだということが、嫌というほどよく伝わってきた。
歌歩ちゃんにこの笑顔を辞めさせたいと思っているのに、なのにそう思っている僕がこの笑顔をさせる原因になってどうするんだよ。これで2度目じゃないか。体育祭の時と、今で、2度目…。
ごめん、ごめんね、歌歩ちゃん。いまここにいるのが僕じゃなくてかっちゃんだったらきっと、君にそんな笑顔させずに済んだよね。神野の時みたいに、君に言葉を掛けながら死柄木と戦えたんだ。でも僕には出来なかった。ごめんね、今日この場に来たのがかっちゃんじゃなくて僕で、ごめん。
歌歩ちゃんが少し落ち着いてから、看護師さんや警察、オールマイトと相澤先生と校長先生と歌歩ちゃんのクラスの担任の先生そして歌歩ちゃんのおばあちゃんを呼んだ。警察に色々なことを聞かれたりした。
これ以上歌歩ちゃんを病院に置いておくのは危険だということになり、急だが歌歩ちゃんは明日退院することになった。
死柄木が病院へ来たということは内密にと命じられた。マスコミにリークされたりでもしたら歌歩ちゃんの所へマスコミが殺到してしまい精神的にも肉体的にも負担になってしまうからというのと、歌歩ちゃん本人からの願いもありそういうことになった。
『出久君お願い!何があっても他の人には…!勝己君には言わないで!!もうすぐで仮免なのに、今すごく大切な時なのに、私の所に死柄木が来たなんて知ったら勝己君の邪魔になっちゃう…!そんなこと、絶対にしたくない…だから、お願い…言わないで……』青褪めてガタガタと震えながら縋りつくようにしてそう訴えてきた歌歩ちゃんに僕はただ、わかったと言って頷くことしか出来なかった。
耳元で囁く声は、忘れたくても忘れることなんて出来ない。冷や汗と震えが止まらない。だ、誰か呼ばないと…!そう思って声をあげようとしたが、
「んっ…!」
片手で口をふさがれ、もう片方の手で体を抱き込まれてしまって、声を出すことも身動きを取ることも出来ない。
「そんな怖がんなよー。今日は別に危害加えに来た訳じゃねぇから安心しろ。ゆっくりお話しよーぜ、歌歩ちゃん」
怯えている私のことを声の主―――死柄木弔はとても楽しそうに見ている。
「立ち話もなんだからさー。座って話そうぜ、歌歩ちゃん」
そう言って私をベットの上に座らせ、その隣に死柄木もドカッと座った。
腕が口と身体から離された。今のうちに逃げないと。そう思って立ち上がろうとしたがその瞬間、彼の細い指が私の首を掴んだ。恐怖に、ヒュッと喉が鳴った。
「逃げることねぇだろ、お話しようっつってるだけじゃん」
そう笑いながら言う死柄木の姿は恐怖でしかない。
「お話って、なんですか…!わ、私は貴方と話すことなんてありません…!帰って下さい…」
必死に絞り出した声はやはり震えていて。怖がっているということがバレバレだ。
「釣れないこと言うなよなー。数日間一緒に過ごした仲だろー?お前ほとんど寝てたけど」
ケラケラと笑いながら言う死柄木に恐怖が募る。きっと私の気持ちは全て気付かれているだろう。私を見る顔は心底楽しそうで。まるで子供が虫をいたぶって遊んでいるみたいだ。
「俺らから逃げた後も随分長い事寝てたみたいだなー。眠り姫とでも呼んでやろうか?呼ばねぇけど。それにしてもすげぇ震えてんなぁ。『勝己君は絶対にヴィランになんてならない』って大見得切って来た時とはえっらい違いだなぁ、歌歩ちゃん」
怯えて震えている私のことを相変わらず楽しそうに見ている。
あの路地裏で出会ってしまった荼毘という人と全く同じだ。
「だーい好きな勝己君のこと、好き勝手言われて我慢出来なくなっちまった?愛の力ってやつか?泣かせるねー。気色悪すぎて吐き気がしそうだ」
吐き気がしそうだと言い終わると、突然無表情になった死柄木に悪寒が走る。今すぐに大声を上げて逃げ出したい。だけどもそんなことをしたら首に掛けられた指に力を込められて殺されるか、5本全ての指で触れられて崩壊の個性を使われて跡形もなく消されるかのどちらかだ。どちらも絶対に嫌だ。震える身体と叫びそうになる声をぐっと力一杯抑え込む。そんな私のことを死柄木は退屈そうに見つめていた。
「お前意外と冷静なんだな。つまらねぇ。荼毘の話しじゃもっと面白そうだったのによ」
敵連合は私のことを玩具かなにかだと思っているのだろうか。
「つ、つまらないなら、帰ればいいじゃないですか…!」
こんな人と関わりたくない。だから早く目の前から消えてほしい。
この人たちを見ていると、恐怖と考えたくない事柄で思考を支配されてしまうから嫌なんだ。
「冷たいねぇ。お友達にはあんなに優しくするってのにすげぇ温度差だ」
お友達…出久君と心操君のこと?もしかして長い事見張られていたのだろうか…。そんなことも知らずに呑気に過ごしていたことに恐ろしくなる。
「…と、まぁそろそろ本題に入るか」
死柄木の雰囲気が少し変わったような気がする。本題とは、なんだろう…?
「お前、俺と一緒に来ないか?」
死柄木の言葉の意味が理解出来ない。
「一緒にって…何を言ってるんですか…?」
「言葉の通りだよ。俺と一緒に来ないかって言ってんだよ」
「それは、私に敵連合に入れ…ってことですか…?」
そう尋ねると死柄木は鼻で笑い
「お前みたいな弱い上にまともに個性使えねェような奴いれたって何も役にたたねぇだろ。そうじゃねぇよ」
と言った。余計意味が分からない。自分と一緒に来いというのに、敵連合に勧誘するという訳じゃないなんて理解出来る訳ないじゃないか。
「お前、大切な奴が沢山いるだろ?だからそいつらのために、俺と一緒に来ないかっていってんだよ」
大切な人が沢山いるから一緒に来い…?言ってること滅茶苦茶じゃないか。
「大切な人が沢山いるのに、貴方について行ったりする訳ないでしょう…!だから…」
「お前と一緒にいたら、その大切な人たちみんな不幸になっちまうかもしれねぇな」
その一言に、心臓を握られているんじゃないかという感覚に陥る。だけどここで黙りこんだりなんてしたら思う壷だ。何か言い返さないと。そう思って必死に口を開いた。
「そんな訳、ないじゃないですか!わ、私、は…」
「お前は疫病神だ。関わる奴全てを不幸へと導くな」
死柄木が楽しそうに笑いながら言う。
「だってそうだろ?お前のせいで父親はいなくなっちまった。そんで母親は自殺未遂した。どっちもお前が大切に思ってる連中だよな?そいつらが立て続けに不幸になってるんだぜ?次は婆ちゃんが不幸になるかもな。それか緑谷か爆豪かもしれない。つかあいつらはもうひでぇ目に遭ってるか。戦いで死ぬような大怪我してボロボロになったり、誘拐されたりで。この調子じゃ次はもっとひでぇ目に遭うかもなァ。死んじまったりして。だってアイツらは……爆豪は、お前がだーい好きな奴だもんなァ。下手したらこの世で1番の不幸者になっちまうかもなァ」
口を吊り上げて厭らしく、楽しそうに嗤いながら話す死柄木から目が離せない。震えが止まらない。握られている心臓をそのまま潰されてしまうような感覚はこんな感じなのだろうか。
冷や汗が止まらず震えている私のことを満足気に見ている死柄木に恐怖が更に増す。
「お前が大切に思ってる奴はみんな、不幸になるんだ。お前だってガキの頃からずっとそう思ってるんだろ?」
耳を塞ぎたい。今すぐに逃げ出してしまいたい。なのに動けない。
「もしお前のせいで不幸になったりしたら、アイツらは『お前のせいで不幸になった、お前さえいなければこんな風にはならなかった』って言うかもな。耐えられるか?アイツらにそんなふうに言われて。耐えれないだろ?だからさァ、お前の為だよ。お前がこれ以上辛い思いしないで済むようにって俺は優しさで、お前に言ってんだよ。一緒に来ないかって」
勝己君と出久君にそんなふうに言われたら……?
「何、言ってるんですか。勝己君と出久君がそんなこと言うわけないじゃないですか」
死柄木の言葉を聞いたら、先程までの恐怖がどこかへ行ったと言ったら嘘になってしまうが、それでも腹が立ってしまい思わずいいかえしてしまった。
「勝己君も出久君も、自分が酷い目に遭ったりしたことを人のせいにしたりなんてしません。そんなことで誰かを責めたりなんて、しません」
この人はなんでいつもいつも勝己君のことも出久君のことも、何も知らないくせに知ったような口を聞くんだ。心底不愉快だ。
「私の幼馴染達を、侮辱しないでください」
勝己君も出久君も、自分の不幸を呪って人を恨んだりなんてしない。私のことを疫病神だなんて言うわけが無い。
そもそも、
「もし仮に2人がそう言ったとしても。貴方について行ったりなんてする訳ないじゃないですか」
これ以上、祖母や周囲の人達に迷惑や心配をかけたくない。
震える拳を強く握り、唇を噛み締める。
私のことを死柄木が無表情で見つめている。
蛇に睨まれた蛙とは正しくこのことだろうか。全身から汗が滝のように流れて、気持ち悪い。
「……やっぱお前。胸糞悪いガキだな」
「ッ……!」
首に置かれた指に、力を込められた。
「先生がさァ、言ってたんだよ。俺とお前は仲良くなれるかもしれない、友達になれるかもしれない。だから1度ゆっくり話してみるといいって。そんで今話してみてよーく分かった。お前と仲良くなんて絶対なれない。だって俺、お前のことだーいっ嫌いだからさ。お前もそうだろ?俺のこと大っ嫌いだろ。お互いがお互いのことここまで嫌いあってんだからさァ、友達になんてなれる訳ねぇよなァ」
先程までの無表情とは一変して、不気味に笑いながら私の首を絞める死柄木に、さっきまでとは比べ物にならない恐怖が襲って来る。
首を絞める力が徐々に強くなっていく。指を外そうと精一杯抵抗してみようとするが、適うはずも無い。
苦痛に歪んでいるであろう私の顔を見つめながら、死柄木は今まで見た事ないくらい楽しそうに首を絞め続けている。もうダメだ、殺される…そう過った瞬間
「歌歩ちゃんごめん!スマホ忘れちゃったみたい…で…」
扉の開く音と、出久君の声が聞こえてきた。
◇
「心操君て歌歩ちゃんと仲良いんだね」
「まぁ…席隣だからな。それなりってとこ」
エレベーターを降りてバス停までの道を歩きながらそんな会話をする。それなり…って言っているけどきっとすごく仲が良いのだろう。学校で一緒にいる所をよく見かけるし、そもそも仲良くないとわざわざお見舞いになんて来るとは考えにくい。だからきっと仲のいい友達なんだと思う。
「何ニヤついてんの」
「えっあっごめん!嬉しくてつい!」
僕の返事を聞くと心操君は怪訝な顔で「嬉しい?何が」と聞いてきた。
「歌歩ちゃんて、愛想良いし優しいから周りの子に嫌われたりとかトラブルになったりとかすることもないし、話しをしたりする人だっているんだけどさ。だけど昔から、友達って言える存在があんまりいないんだ。あとその、かっちゃん関連でちょっと…1部の女の子から嫌なことされたりもしてたり、してたんだ……かっちゃん、女の子に人気あったから……。だから雄英に入って心操君とか麗日さんとかと友達になれてるみたいで良かったなーって嬉しいんだ」
そういうと心操君は「お前は母親かよ」と少し呆れたように笑いながら言った。
そんな話をしているとバス停に着いた。2人でベンチに座り、あっそう言えば砂藤君にケーキのお礼を言おうと思いスマホを取り出そうとして気がつく。
「あれ?!ない!!」
僕の絶叫が辺り一面に響き渡った。
「な、なんだよ突然叫んで…」
隣に座る心操君がびくりと肩を震わせながら僕のことを見て言う。
「スマホがないんだ…」
「えっ」
「多分、歌歩ちゃんの病室に忘れてきちゃったんだ…ごめん、僕取ってくる!心操君先帰ってて!」
そういうと「お、おう…じゃあ帰り遅れるって一応先生に言っとくわ」と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。
まぁそれでもきっと、相澤先生には怒られるだろうなぁ…反省文何枚分書かされるかなぁ…そんなことを考えながら病院へと急いだ。
◇
病院へ戻ると急いで歌歩ちゃんの病室へと向かって走って看護士さんに「走らないで下さい!」と怒られてしまい謝罪しつつ早歩きで病室に行き、ノックもせずに扉を開いて
「歌歩ちゃんごめん!スマホ忘れちゃったみたい…で…」
取りに来たんだ!そう言おうとした僕の目に入って来たのは
「死柄木弔!?」
歌歩ちゃんの首を絞めている死柄木と、苦しそうにしながら必死に抵抗しようとしている歌歩ちゃんだった。
死柄木が僕に気づくとニヤッと笑って歌歩ちゃんの首から指を離し、「なんだ戻って来たのかよ」と話しかけてきた。
「もう少しお話したかったのになァ、歌歩ちゃーん」
そう言いながら首をさすって噎せている歌歩ちゃんの頭を撫でている死柄木に、形容し難い怒りに襲われる。
「死柄木!歌歩ちゃんから離れろ!」
怒鳴りながら2人に駆け寄ると死柄木は素早く窓へと飛び移った。
「うるせぇな、いちいち大声あげるなっての。殺した訳でもねぇんだしよ」
そう笑いながら言う死柄木を睨むがアイツはそんな僕を嘲笑う様に見ている。
「あーあ、せっかく楽しくお話してたのに台無しだなァ。もっと話したかったけどもう今日はいいや。じゃーな、また今度ゆっくりお話しよーぜ、歌歩ちゃーん」
言い終わると死柄木は病室から出て行った。
「待て!!死柄木!!!」
急いで窓に叫びながら走り寄ったが、死柄木の姿はすでに見えなくなっていた。
「い、出久君…」
僕を呼ぶ歌歩ちゃんの声にハッとして慌てて駆け寄り大丈夫かと聞くとカタカタと震えながらも笑って「大丈夫、大丈夫…だよ…。大丈夫だから、心配、しないで…」と言った。
…僕を心配させないためにそうしているんだということが、嫌というほどよく伝わってきた。
歌歩ちゃんにこの笑顔を辞めさせたいと思っているのに、なのにそう思っている僕がこの笑顔をさせる原因になってどうするんだよ。これで2度目じゃないか。体育祭の時と、今で、2度目…。
ごめん、ごめんね、歌歩ちゃん。いまここにいるのが僕じゃなくてかっちゃんだったらきっと、君にそんな笑顔させずに済んだよね。神野の時みたいに、君に言葉を掛けながら死柄木と戦えたんだ。でも僕には出来なかった。ごめんね、今日この場に来たのがかっちゃんじゃなくて僕で、ごめん。
歌歩ちゃんが少し落ち着いてから、看護師さんや警察、オールマイトと相澤先生と校長先生と歌歩ちゃんのクラスの担任の先生そして歌歩ちゃんのおばあちゃんを呼んだ。警察に色々なことを聞かれたりした。
これ以上歌歩ちゃんを病院に置いておくのは危険だということになり、急だが歌歩ちゃんは明日退院することになった。
死柄木が病院へ来たということは内密にと命じられた。マスコミにリークされたりでもしたら歌歩ちゃんの所へマスコミが殺到してしまい精神的にも肉体的にも負担になってしまうからというのと、歌歩ちゃん本人からの願いもありそういうことになった。
『出久君お願い!何があっても他の人には…!勝己君には言わないで!!もうすぐで仮免なのに、今すごく大切な時なのに、私の所に死柄木が来たなんて知ったら勝己君の邪魔になっちゃう…!そんなこと、絶対にしたくない…だから、お願い…言わないで……』青褪めてガタガタと震えながら縋りつくようにしてそう訴えてきた歌歩ちゃんに僕はただ、わかったと言って頷くことしか出来なかった。