今にも泣きだしそうな歌歩の顔を見た時、まだそんな風な顔をすることが出来るのかと少し安心した。それと同時に、どうして他人のためにはそんな顔出来るくせして自分の為には出来ねぇんだよと、苛立ちの様なものを覚えた。

『良かった…勝己君ケガしてない…！』

何度目になるか。頭の中で何度も何度もあの時のあいつの、震えた声が、泣き出しそうな声が繰り返される。繰り返されすぎて、もう訳が分からなくなりそうだ。
歌歩、お前何なんだよ。俺のこと嫌いなんじゃねぇのかよ。嫌いなはずなのになんでそんな俺のこと心配するんだよ。



「それにしてもこの前はびっくりしたよなー。まさか爆豪が女の子に抱き着かれてるとこ見る日が来るなんてさー」

モブ共とこの前のヴィランに襲われた件について話していた醤油顔が、ニヤニヤと笑いながら俺の方へ話を振ってきた。

「ほんとビックリしたよー！噂には聞いてたけど無居さんてすごい可愛いねー！」

透明のやつがはしゃいでる様子で言う。なんでそんなテンションたけぇんだコイツ。

「ね、爆豪にはもったいないくらい可愛い子だったね」

ニヤリと笑い俺を見て言う耳。うるせぇ、爆破すんぞ。つかなんだよ俺にはもったいないって。

「不公平だよなー。ズリィよ、爆豪も緑谷も、あんな可愛い女の子が幼馴染なんてさー」
「ハッ。どこが可愛いんだよあんなブス」

羨ましがるように言うアホ面を鼻で笑いながら言うと

「はぁ？！どこがブスだよお前目腐ってんじゃねぇの？！誰がどこからどう見ても可愛いだろ！」

などと絶叫された。クソウルセェ。

「そうだぞふざけんな！あの子の欠点なんておっぱいが小さ…」

玉が何か言おうとしたが、言い切る前に耳とカエルに攻撃され倒れこんだ。今はあいつらに任せて後でとどめを刺そう。

「ていうか！女の子にブスっていうとか失礼じゃん！爆豪最ッ低！！」

黒目が俺に詰め寄りながら言う。それを合図に他のモブ共も俺を非難し始めた。

「うるせぇよ、ブスをブスっつって何が悪いんだよ」

そういうとモブ共は更にギャーギャーと喚き出した。どいつもこいつもうるせぇ。

「緑谷もなんとか言えよー」

クソ髪に話を振られ、デクは「えっ…あー、うん…」という歯切れの悪い返事をしている。それは恐らく俺が何故あいつのことをブスと呼ぶのか知っているからだろう。気色の悪い気遣いやがって腹が立つ。

「なんだよその反応！ったく、お前ら2人そろってあんな可愛い子のことをブスとか思ってんのかよ。揃いも揃って頭可笑しいんじゃねぇの？！」
「お、思ってないよ！歌歩ちゃんがすごく可愛いなんてよくわかってるよ！ただ、なんていうか、ちょっと、あの、その…」

喚き散らすアホ面に向かって焦った様にデクが言う。ゴチャゴチャとうざってぇ喋り方しやがる。そんなデクのことをモブ共が怪訝な顔で見ている。

「みんなー！その話は一旦やめて、席に着きたまえ！授業が始まってしまうぞ！」

そういうクソ眼鏡の号令を合図にモブ共は思い思いに俺へ何か言いながら席へ戻って行った。



ったく、どいつもこいつもマジでクソうぜぇ。今のあいつが可愛い？どこがだよ。可愛くねぇよ。本当のあいつはもっと、もっと可愛いわ。なのにそのことも知らねぇで、表面的な部分しか見てない連中が知ったような口聞いてんじゃねぇよ。