君の隣
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6月某日。私は、どうしよう、傘忘れた…!と、ザアザアと降り続ける雨を見つめ、昇降口前で立ち尽くすことしか出来ずにいた。
朝寮から出る前は晴れていたし、15時くらいには大雨になるだろうと言っていたが、学校に置き傘があるし大丈夫だろうと思っていた数時間前の自分を殴りたい。何も大丈夫じゃない。折り畳み傘壊れたから買い直さないといけなかったの忘れてた……。どうしよう、濡れる覚悟で寮まで走って帰るかそれとも教室に戻って雨が弱まるまで明日から始まる期末テストの勉強をするかのどちらかしかないかな……。
仕方ない、雨が弱まるまで教室で勉強しよう。それで弱まってきたら全力疾走で帰ろう。
それにしても、今日部活がなくてよかった。傘を忘れたことや壊れていたことを忘れていたことを知られたら、葉山くんたちや黛に何言われるかわかったもんじゃない。絶対しばらくネタにされてしまうだろう。
*****
「八島?何してんだ」
赤司にスタメンだけでミーティングをするから来いと呼び出されたため、帰りが遅くなってしまった。こんな時間だからもう誰もいないだろうと思いながら教室の扉を開くと、八島が1人で残っていた。俺が声を掛けると、アイツは声を上げて椅子から転がり落ちた。
「ま、ままま、まゆ、まゆ、黛?!なんでいるの?!」
それはこっちのセリフだ。いちいちそんなデカいリアクションしなくてもいいだろ。コイツ、黙ってりゃ美人な部類に入るのに残念な奴だ。
「赤司に呼ばれてミーティング」
そういうと八島はなんだかバツの悪そうな顔をした。
「つーか何してんだ。帰らないのか」
と聞くと、ぎくりと背中を震わせた。コイツ、まさか…
「なぁ…この大雨の中、傘忘れたとか言わないよな?」
そういうと、あからさまに焦りながら「そ、そんなことないよ嫌だなー!!」と言った。わかりやすすぎるだろ……。
「今日天気予報、見てないのか?」
「見ました……」
「15時くらいから100%雨降るって聞かなかったのか?」
「聞きました……」
じゃあなんで持ってこなかったのかと尋ねると「置き傘あると思ったんだもん…」と俯き気味に答えた。
俺の記憶が正しければ確か、先週風に煽られたことが原因で折り畳み傘が壊れたから買い直さなくちゃとか言っていた気がするのだが。
「うわぁ今バカだコイツって思った?!思ったよね!!そうですよ、私はバカですよぉぉぉ!!」
目が合うと突然叫び出した。うるさいったらありゃしない。さすが俺が残念な美人という言葉を覚えた元凶。黙ってりゃマジで美人なのに口を開くととことん残念な奴。
「思ってねぇよ…。つかお前どうする気だ」
「雨弱まるまでテスト勉強してようかと…。それで弱くなったら全力疾走で帰ろうかと……」
「今日弱まらずずっと降り続けるらしいぞ」
え…嘘…と、顔を青ざめさせて凍り付いた。いつも思うが、表情のコロコロ変わる奴だ。よくここまで瞬時に変えられるもんだ。
ふと窓の外を見る。雨は先ほどよりも強くなっている。俺はハァ、とため息を吐き、ぶつぶつと頭を抱えながら何か言っている八島に声を掛けた。
「帰るぞ。傘入ってけよ。送ってく」
「えっ」
「早くしろよ。雨、また強くなっちまうぞ」
「いや、いいよ悪いって!男子寮と女子寮方向逆じゃん!走って帰るから気にしないで!!」
「いいから入ってけよ。風邪ひいてテスト受けれなくて再試験になりましたとでもなれば、今度の練習試合行けなくなって迷惑かかるぞ。マネージャーが選手に迷惑かけてもいいのか」
そういうとうぅ…と声を出しながらも帰り仕度を始めた。
*****
ヤバい…ドキドキと心臓がうるさい。なんだこの少女漫画の主人公みたいなセリフ。いやまずこの大雨の中、好きな男の子と相合傘で下校するっていう展開が少女漫画か。
うわぁ、近い、緊張する、化粧落ちてないかな大丈夫かな。というか何話せばいいんだろう、いつもどうやって話してたっけ。どうしよう、わかんない。どうしよう、せっかくの相合傘なのに何も言えないなんて、勿体なさすぎる。何か言わなくちゃ。何か…何か…何話そう…!
「どうかしたのか」
「えっ?!」
急に声を掛けられて驚き、無駄なまでに大きな反応をしてしまった。
「いつもはうるさいくらいベラベラ喋るくせに今日はやけに静かじゃねぇか」
うるさいくらいベラベラ…そんな風に思われてたんだ……。
「なんか緊張しちゃって…」
「緊張?」
「だ、だってさ、距離、近い、し…」
「まぁ2人で傘入ってるからな」
この朴念仁何も感じてないのか。化粧落ちてないかなと不安になったり、ドキドキしたりしている私がバカみたいだ。
「相合傘だよ?!ドキドキしない?!」
「別に。つーか1年の頃もしたじゃねーか」
「1年の頃?」
「覚えてないのか?」
あぁ、そういえば…
「あったね、そんなこと…すっかり忘れてた…」
1年生の頃、傘を壊されてしまって困っていたら今日みたいに傘に入れてくれて寮まで送ってくれたんだった。
「よく覚えてたね…」
「……まぁ、初めてだったから」
女子と相合傘で帰ったの。と、ぼそっと呟いた。
…そうだ、あの日もこんな風に大粒の雨が降っていた日だった。
あの頃私は、嫌がらせを受けていた。その嫌がらせの一環で、買ったばかりだったお気に入りの傘を壊されてしまってどうしようもなく、途方に暮れていた。そんな時だった。「入ってくか?」と、傘を差した全体的に色素の薄い、どことなく儚げな印象の男子生徒が声を掛けてきてくれたのは。
「あの日が初めてだったね、話したの」
「………そうだな」
今にして思うと、あれがきっかけだったのだろう。私が、黛千尋という人を好きになったのは。そんな大切な日のことを、忘れていたなんて呆れた話だ。
「あの時、どうして傘に入れて寮まで送ってくれたの?」
「別に。ただの気まぐれだ」
あぁ、確かあの日もこんな返しをされたな。
「黛って意外とお人好しだよね」
「は?そんなことないだろ」
「そんなことあるよ!大体の人は、話したこともない女子を傘に入れて家まで送るなんてしないと思うよ」
しかも、周りから浮いていた女子なんて、関わり合いになんてなりたくないだろう。実際、部活関係の人以外で話しかけてくる人もあまりいなかったし。だから、すごく驚いた。私に話しかけてくる人が、バスケ部以外にいるなんてって。
……まぁその後、話してみたらこの人もバスケ部でしかもクラスメイトだってことを知ってさらにビックリしたんだけど。あの頃もう1年の2学期だったのになぁ…。この人の影が薄すぎるのか、私の記憶力がなさすぎるのかどっちだろうって少し考え込んだっけ。
だけどそれ以上に、嬉しかったし、救われた気持ちになったんだった。そんな大切なことを忘れてたなんて、私はとんでもないバカだ。
ありがとう、黛。…いつか、好きだよっていう思いと、沢山のありがとうをちゃんと伝えられるといいな。
*****
しばらく歩いていると、寮にあっという間に着いてしまった。
「送ってくれてありがとう。こんな雨の中、遠回りさせちゃってごめんね」
お礼を言うと「別に」と、目を逸らされた。
お茶でも飲んでいくかと聞こうと思ったが、女子寮に男子を入れるのはダメかと思い直した。その代わりにと思って
「今度お礼にお菓子作ってあげるね!」
と言ったら
「それだけはやめてくれ」
と、真っ青になって答えられた。
どうして、そこまで全力で拒否するのかな、黛くん。
朝寮から出る前は晴れていたし、15時くらいには大雨になるだろうと言っていたが、学校に置き傘があるし大丈夫だろうと思っていた数時間前の自分を殴りたい。何も大丈夫じゃない。折り畳み傘壊れたから買い直さないといけなかったの忘れてた……。どうしよう、濡れる覚悟で寮まで走って帰るかそれとも教室に戻って雨が弱まるまで明日から始まる期末テストの勉強をするかのどちらかしかないかな……。
仕方ない、雨が弱まるまで教室で勉強しよう。それで弱まってきたら全力疾走で帰ろう。
それにしても、今日部活がなくてよかった。傘を忘れたことや壊れていたことを忘れていたことを知られたら、葉山くんたちや黛に何言われるかわかったもんじゃない。絶対しばらくネタにされてしまうだろう。
*****
「八島?何してんだ」
赤司にスタメンだけでミーティングをするから来いと呼び出されたため、帰りが遅くなってしまった。こんな時間だからもう誰もいないだろうと思いながら教室の扉を開くと、八島が1人で残っていた。俺が声を掛けると、アイツは声を上げて椅子から転がり落ちた。
「ま、ままま、まゆ、まゆ、黛?!なんでいるの?!」
それはこっちのセリフだ。いちいちそんなデカいリアクションしなくてもいいだろ。コイツ、黙ってりゃ美人な部類に入るのに残念な奴だ。
「赤司に呼ばれてミーティング」
そういうと八島はなんだかバツの悪そうな顔をした。
「つーか何してんだ。帰らないのか」
と聞くと、ぎくりと背中を震わせた。コイツ、まさか…
「なぁ…この大雨の中、傘忘れたとか言わないよな?」
そういうと、あからさまに焦りながら「そ、そんなことないよ嫌だなー!!」と言った。わかりやすすぎるだろ……。
「今日天気予報、見てないのか?」
「見ました……」
「15時くらいから100%雨降るって聞かなかったのか?」
「聞きました……」
じゃあなんで持ってこなかったのかと尋ねると「置き傘あると思ったんだもん…」と俯き気味に答えた。
俺の記憶が正しければ確か、先週風に煽られたことが原因で折り畳み傘が壊れたから買い直さなくちゃとか言っていた気がするのだが。
「うわぁ今バカだコイツって思った?!思ったよね!!そうですよ、私はバカですよぉぉぉ!!」
目が合うと突然叫び出した。うるさいったらありゃしない。さすが俺が残念な美人という言葉を覚えた元凶。黙ってりゃマジで美人なのに口を開くととことん残念な奴。
「思ってねぇよ…。つかお前どうする気だ」
「雨弱まるまでテスト勉強してようかと…。それで弱くなったら全力疾走で帰ろうかと……」
「今日弱まらずずっと降り続けるらしいぞ」
え…嘘…と、顔を青ざめさせて凍り付いた。いつも思うが、表情のコロコロ変わる奴だ。よくここまで瞬時に変えられるもんだ。
ふと窓の外を見る。雨は先ほどよりも強くなっている。俺はハァ、とため息を吐き、ぶつぶつと頭を抱えながら何か言っている八島に声を掛けた。
「帰るぞ。傘入ってけよ。送ってく」
「えっ」
「早くしろよ。雨、また強くなっちまうぞ」
「いや、いいよ悪いって!男子寮と女子寮方向逆じゃん!走って帰るから気にしないで!!」
「いいから入ってけよ。風邪ひいてテスト受けれなくて再試験になりましたとでもなれば、今度の練習試合行けなくなって迷惑かかるぞ。マネージャーが選手に迷惑かけてもいいのか」
そういうとうぅ…と声を出しながらも帰り仕度を始めた。
*****
ヤバい…ドキドキと心臓がうるさい。なんだこの少女漫画の主人公みたいなセリフ。いやまずこの大雨の中、好きな男の子と相合傘で下校するっていう展開が少女漫画か。
うわぁ、近い、緊張する、化粧落ちてないかな大丈夫かな。というか何話せばいいんだろう、いつもどうやって話してたっけ。どうしよう、わかんない。どうしよう、せっかくの相合傘なのに何も言えないなんて、勿体なさすぎる。何か言わなくちゃ。何か…何か…何話そう…!
「どうかしたのか」
「えっ?!」
急に声を掛けられて驚き、無駄なまでに大きな反応をしてしまった。
「いつもはうるさいくらいベラベラ喋るくせに今日はやけに静かじゃねぇか」
うるさいくらいベラベラ…そんな風に思われてたんだ……。
「なんか緊張しちゃって…」
「緊張?」
「だ、だってさ、距離、近い、し…」
「まぁ2人で傘入ってるからな」
この朴念仁何も感じてないのか。化粧落ちてないかなと不安になったり、ドキドキしたりしている私がバカみたいだ。
「相合傘だよ?!ドキドキしない?!」
「別に。つーか1年の頃もしたじゃねーか」
「1年の頃?」
「覚えてないのか?」
あぁ、そういえば…
「あったね、そんなこと…すっかり忘れてた…」
1年生の頃、傘を壊されてしまって困っていたら今日みたいに傘に入れてくれて寮まで送ってくれたんだった。
「よく覚えてたね…」
「……まぁ、初めてだったから」
女子と相合傘で帰ったの。と、ぼそっと呟いた。
…そうだ、あの日もこんな風に大粒の雨が降っていた日だった。
あの頃私は、嫌がらせを受けていた。その嫌がらせの一環で、買ったばかりだったお気に入りの傘を壊されてしまってどうしようもなく、途方に暮れていた。そんな時だった。「入ってくか?」と、傘を差した全体的に色素の薄い、どことなく儚げな印象の男子生徒が声を掛けてきてくれたのは。
「あの日が初めてだったね、話したの」
「………そうだな」
今にして思うと、あれがきっかけだったのだろう。私が、黛千尋という人を好きになったのは。そんな大切な日のことを、忘れていたなんて呆れた話だ。
「あの時、どうして傘に入れて寮まで送ってくれたの?」
「別に。ただの気まぐれだ」
あぁ、確かあの日もこんな返しをされたな。
「黛って意外とお人好しだよね」
「は?そんなことないだろ」
「そんなことあるよ!大体の人は、話したこともない女子を傘に入れて家まで送るなんてしないと思うよ」
しかも、周りから浮いていた女子なんて、関わり合いになんてなりたくないだろう。実際、部活関係の人以外で話しかけてくる人もあまりいなかったし。だから、すごく驚いた。私に話しかけてくる人が、バスケ部以外にいるなんてって。
……まぁその後、話してみたらこの人もバスケ部でしかもクラスメイトだってことを知ってさらにビックリしたんだけど。あの頃もう1年の2学期だったのになぁ…。この人の影が薄すぎるのか、私の記憶力がなさすぎるのかどっちだろうって少し考え込んだっけ。
だけどそれ以上に、嬉しかったし、救われた気持ちになったんだった。そんな大切なことを忘れてたなんて、私はとんでもないバカだ。
ありがとう、黛。…いつか、好きだよっていう思いと、沢山のありがとうをちゃんと伝えられるといいな。
*****
しばらく歩いていると、寮にあっという間に着いてしまった。
「送ってくれてありがとう。こんな雨の中、遠回りさせちゃってごめんね」
お礼を言うと「別に」と、目を逸らされた。
お茶でも飲んでいくかと聞こうと思ったが、女子寮に男子を入れるのはダメかと思い直した。その代わりにと思って
「今度お礼にお菓子作ってあげるね!」
と言ったら
「それだけはやめてくれ」
と、真っ青になって答えられた。
どうして、そこまで全力で拒否するのかな、黛くん。