ターコイズに恋焦がれ
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明日からナイトレイブンカレッジに入学してから初めての長期休み、ウィンターホリデーの始まりだ。そのためかみんななんだかそわそわしているような気がする。
「いいか、仔犬共。明日からのホリデーバケーション……久々にハウスに戻れてはしゃぐ気持ちはわかる。だが、はしゃぐあまりに宿題を忘れて遊び呆けるヤツが毎年いる!そういう仔犬にはキツイお仕置きが待ってるからな。気を抜きすぎないように。一時帰宅には闇の鏡の使用が許可されている。荷物をまとめたら各自鏡の間へ行くように!」
というクルーウェル先生の言葉にみんな「はーい」と返事をする。まぁ私とアズールとジェイドちゃんとフロイドちゃんはウィンターホリデーは帰省しないからあんまり関係ないけど。大体の生徒は帰省するが、帰る場所がないためグリムちゃんとユウちゃんも帰らないらしい。寮のゴースト達とご馳走を食べまくる約束らしい。ゴーストってご飯食べるの?てか、食べられるの?あとそれよりも……
「ユウちゃんとグリムちゃん、ご飯とかどうやって調達するの?食堂も購買部も休みになると思うんだけど」
1番疑問に思った部分を質問してみることにした。
「ふなっ!そういやそうなんだゾ。俺様のご馳走はどうやって調達すりゃいいんだ!?」
グリムちゃんがそう言うと
「学園長が何か考えてくれてる……と思いたい」
ユウちゃんが遠い目をしながら呟く。
「あの学園長がそこまで気が回るとは思えないんだけど……」
「俺もそう思う……」
思わず漏らしてしまった本音に、エースちゃんも同意してきた。そんな私達に向かって「少しだけでも希望持たせて……!」と頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げるユウちゃんが割と本気で可哀想になってくる。
「早急に学園長に確認してみる必要がありそうだな」
「闇の鏡の使用には学園長の許可がいるはずだし今なら鏡の間にいるんじゃね?行ってみようぜ」
というエースちゃんに「そうだね。グリム、行ってみよう」と、少し明るい口調でユウちゃんが答えた。暇だし、このまま寮に帰ったらそのままアズールにこき使われそうだし私も着いて行こう。ついでにエースちゃんとデュースちゃんのこと見送ってあげる~と言ったら「別に頼んでねぇよ」なんてほざくエースちゃんの足を力一杯踏みつける。
◇
鏡の間は人で溢れ返っている。
「もう帰省する生徒でいっぱいだな」
デュースちゃんが呟く。
「はは、なんかみんなそわそわしてんねー。さて、学園長は……と」
そう言いながらエースちゃんがきょろきょろと見渡す。
「おっい…たっ…えっ……」
目的の人物である学園長を見つけたらしい。でも、なんか変な顔してる。口をあんぐりと開けて目を見開きながら一点を凝視している。何があったんだろう。そう思いながらエースちゃんの視線の先を見てみると
「みなさん、闇の鏡に目的地を告げたら荷物をしっかりと持ってください」
そこには学園長がいる。の、だが……
「めっちゃ浮かれてるーーーー!!!」
学園長の服装を見たら、つい絶叫してしまった。そしたら全く同じタイミングでエースちゃんとデュースちゃんとグリムちゃんとユウちゃんも私と同じ言葉を絶叫した。そうしたくなってしまいたいくらい、学園長は浮かれ切った格好をしている。
「この真冬にアロハシャツって!南国に遊びに行く気満々じゃん」
エースちゃんの鋭いつっこみが炸裂する。
「浮かれた気持ちを隠す気がゼロすぎるな」
デュースちゃんにすら呆れられている。
「今時真夏でもあんなアロハシャツ着てる人いなさそうだよね……」
ていうか学園長、びっくりするくらいパステルカラー似合ってない……そう呟いたらユウちゃんに
「そ、そこはほっといてあげよう……」
と言われた。……その言い方するってことは、ユウちゃんも似合ってないって思ってるんだねと言ったらそっと目を逸らされた。
「やいやい、学園長!話があるんだゾ!」
みんなに注意事項等を説明していた学園長にグリムちゃんが詰め寄る。
「おや、皆さんお揃いで。どうしたんです?」
切羽詰まってるグリムちゃんとは対照的に呑気に首を傾げる。この人、やっぱり何にも考えてなさそうな気がするんだけど……エースちゃんにそっと耳打ちすると「だよなー……」と返ってきた。デュースちゃんも「僕もそう思う……」と言っている。やっぱ、イマイチ信用できないよね……。
「ちゃんと元の世界に戻れる方法探してます?あと、ホリデー中の自分とグリムの食事についてとかも考えてます?」
ユウちゃんに少しキツイ口調で尋ねられると
「あっ!あぁ~~~!!元の世界に戻る方法ねぇ。ははは、嫌ですねぇ、ちゃんと探してますとも。食事についても考えてますよ~~~」
絶対忘れてたなこの人。
「この冬期休暇は、まだ行ったことがない南の地域へ調査範囲を広げようと思ってるんですよ。私、とっても真面目なんで」
すごい、ここまで言葉に説得力ない人っているんだ。学園長に比べたらアズールってまだ胡散臭くないんだ。
「調査に向かうって恰好じゃない気するけど……」
「そうだそうだ!思う存分休暇を満喫する気なんだゾ!」
エースちゃんとグリムちゃんのツッコミに対して
「何を仰います。南の国ではこれが正装。郷に入っては郷に従え。冬の寒さを逃れ、南国で穏やかな海を眺めつつハンモックでココナッツジュースを飲む……そんな優雅なバケーションを満喫しようなんてちっとも思ってませんとも。えぇ」
満喫する気なんだ、優雅なバケーション……。なんかもうツッコミ入れるのも馬鹿らしくなってきた。グリムちゃんに自分達も南国へ連れて行けと騒がれている。そりゃ言いたくもなるよな。グリムちゃんの立場だったら私も絶対同じこと言って騒ぐ自信ある。学園長は何を言っても連れて行く気なんてないんだろうけども。楽しい休暇が台無しだとか小声で言ってるし。この人これでよく学園長なんて上位の立場でいられるな。
「君らを連れて行くには危険な調査になりそうですからここは私が1人で向かいます」
アロハシャツで行く調査ってどんな調査よ。
「それに、君達には学園に残り重要な任務にあたってほしいのです。ナイトレイブンカレッジの存続に関わるとても重要な任務です」
「また調子のいいことを」
ユウちゃん……とうとう学園長にキレッキレな返しをしたよ。色々溜まってるんだな……。
「この任務を請け負ってくれるなら休暇中の食料の補給はもちろん……ホリデーのご馳走についてもお約束します。ローストターキーにケーキにジンジャーブレットハウス……そうだ、アツアツのスペアリブやフライドポテトも山盛りお付けしましょう。いかがですか?」
いかがですか?じゃないでしょ。さすがのこの2人でもそんなので釣られるわけ…
「ふなっ!?アツアツのスペアリブとフライドポテト……!?ふ、ふん。話くらいは聞いてやってもいいんだゾ」
あったか。駄目だコイツ。グリムちゃん、いい加減学習しなよ……。
「ホンットお手軽だねー、お前……」
エースちゃんも呆れてるみたいだ。
「ゴホン。この学園の暖炉の火は全て火の妖精の魔法によって賄われています。彼らは長年、大食堂の暖炉に住み着いているのですが……毎日よく乾燥した薪を与えなければ消えてしまうのです。火の妖精がいなくなれば、学園は冬の度に凍えるような寒さに包まれることになります」
あっやっぱいつも学園中が温かいのは魔法なんだ。エースちゃんとデュースちゃんもそういうことかーみたいなリアクションをしている。
「今までは長期休暇中も厨房係のゴーストが火の番をしてくれていたのですが……今年は娘夫婦にお子さんが産まれたそうで初孫を見にあの世に帰省するんだとか。ですので、彼の代わりに君達に火の番を頼みたいのです」
ゴ、ゴーストに初孫………?
「そうなんですか、おめでたいですねそれは……わかりましたよ、やりますよ……やりゃいいんでしょ……」
ユウちゃん、つっこむのも面倒臭くなったんだね。もうどうにでもなれと言わんばかりにヤケクソ気味に引き受けちゃったよ。
「今までの無茶振りに比べれば超楽チンなんだ気がするんだゾ」
あんたはもう少し物事をしっかり考えろ。そんなだからいつもいつも面倒事押し付けられるんだよ。
「そうでしょう?こう見えて私、とても優しいので」
学園長が優しいんだったらこの世に優しくない人は存在しないことになりそう。
「あぁ、そうそう。私が長期不在にするのでこれを君達に渡しておこうと思ったんです」
そう言う学園長の手にはスマホがある。
「何か緊急の用事があればこのスマホで私に連絡してください。こちらはあくまで緊急連絡手段です。マジカメ巡りなどに没頭して通信制限を受けたりしないように」
と言ってユウちゃんにスマホを渡すと「さて、私は生徒達をご実家へ転送する仕事がありますので後は任せましたよ、2人共」なんて言葉を残して闇の鏡の所へ行く。出掛ける前にパンフレットの確認がどうのとか聞こえたのは気のせいだろうか。
「にゃっはー!コレでホリデーはご馳走がたんまり食えるんだゾ!」
単純なんだからもう……。まぁ本人が納得してるんならいっかー……。ユウちゃんはヤケクソって感じだけど。
「はいはーい!そこの君達。道のど真ん中に突っ立てないで、どいたどいた!」
不意にそんな声が響いた。見てみると、ラギー先輩が大量の荷物を抱えていた。
「ブッチ先輩!なんですかその大量の荷物!」
「あぁ、これっスか?シシシッ、大食堂と購買部の消費期限切れそうな食材、ぜんぶ貰って来たんスよ」
え…この量を全部……?こんなに食べきれるわけないんじゃ…という疑問の声に「こんなの、近所の悪ガキ共に配ったらあっという間になくなるっスよ」とのこと。近所に配るんだ。でもなんで…と聞く前に冷凍食品が溶けちゃうから、と言って「んじゃ、また来年っスー!」と颯爽と去って行った。
「近所の悪ガキ共………って?」
デュースちゃんが不思議そうな顔をしていると
「ラギー先輩の地元は、貧しい暮らしをしている家庭が多いらしい。だから長期休暇の度に沢山食べ物を持って帰って近所の子供にも食わせてやってるんだと」
と解説しながら両手いっぱいに植木鉢を抱えたジャックちゃんが登場した。
「何その大量の植木鉢……」
「植木屋でも始めんのか?」
そうきくと「これは趣味で育ててるサボテンだ。休暇中に水やりしなかったら枯れちまうだろうが」とのこと。趣味でサボテン育ててるんだ。意外。
「ラギーのヤツ、赤の他人に飯を分けてやろうなんて意外といいヤツなんだゾ」
グリムちゃんが感心したように言うと
「捕らえた獲物は弱者にも分け隔てなく与える。それがハイエナだ。ラギー先輩もそうやって育ってきたんだろ」
すかさずジャックちゃんが言う。陸も生きるに色々と大変なんだなー。
「ガキを何人も集めて炊き出しなんて考えただけでゾッとするぜ」
そう言いながら溜息と共にレオナ先輩が会話に入ってきた。1人いるだけでもうるさくてかなわねぇってのにとぼやいている。
「あれ、レオナ先輩……ご実家には戻らないんですか」
ジャックちゃんに言われて気が付く。レオナ先輩、荷物何も持ってない。ラギー先輩とかの見送りかな?と思ったが帰らないと後が煩いので帰るという。
「えっ手ぶらでですか?」
思わず聞いてしまった。そしたら「あ?」と怪訝な顔をして
「財布とスマホがありゃいいだろ。私服は置きっぱなしだし」
と返される。いやいやいや…えー…。
「宿題すら持って帰らない開き直りっぷり……」
「宿題なんか休みが明けてからやりゃいいんだよ。ホリデーは休むのが仕事だろ」
なんて極論……。
「あーそういやお前」
レオナ先輩が不意に私に話し掛けてきた。
「なんですか?」
「毛玉が『またティアナお姉ちゃんと遊びたい』だってよ」
え……
「チェカちゃん、ですか?」
「あぁ。そういうワケだ。次またアイツがここ来た時は面倒見てやってくれな、ティアナお姉ちゃん」
ニヤッと笑いながら私の肩をぽん、と叩き言う。
「遠慮させて頂いても…」
と断りを入れようとする私を見て
「そう言うなって!遊んでやれよ、ティアナお姉ちゃん」
「エースの言う通りだ。きっと喜ばれるぞ?ティアナお姉ちゃん」
「王子様に貸しを作るチャンスだよ。せっかくだから遊んであげなよ、ティアナお姉ちゃん」
ニヤニヤと笑いながらエースちゃんとデュースちゃんとユウちゃんが言う。こいつら他人事だと思って……!あの子と遊んで疲れて授業中に爆睡しちゃった時もこんな顔されたっけ、なんて思っていたら「じゃあな、草食動物共」と言い残してレオナ先輩は去って行った。
「えっほ、ほんとに手ぶらで帰っちゃった……」
ユウちゃんが若干引き気味に呟く。
「真面目にやりゃなんでもやれる実力がありながらなんでやらねぇんだあの人は……」
ジャックちゃんが溜息を吐く。
「俺は宿題全部キッチリ終わらせてくるぜ。お前らもサボるんじゃねぇぞ。じゃあな」
と言って鏡に向かって行くジャックちゃんに向かって「出た真面目クン。はいはい、また来年なー」と言いながらエースちゃんが見送る。
「キングスカラー先輩……あそこまでくると逆に感心するものがあるな」
とデュースちゃんが言うと
「こらこら、1年生達~。ああいう悪い先輩は見習っちゃダメだからね」
「宿題未提出なんて、ウチの寮じゃリドルに首をはねられるぞ」
なんて言葉が聞こえてきた。ケイト先輩とトレイ先輩だ。2人共発言が保護者みたい。ハーツラビュルの先輩達ってそんな感じの人が多いよなぁって印象。
ケイト先輩も実家に帰るのが憂鬱らしい。姉ちゃん達2人共帰って来てるだろうからコキ使われると嘆いている。先輩、お姉さんいるんだ。流行に敏感でコスメに詳しいのも、お姉さん達の影響もあるのかな。と、トレイ先輩の家にホームステイさせてくれと言っているケイト先輩を見ながら思う。
「あ、ローズハート寮長!道を塞いですんません!」
デュースちゃんの声を聞いて、そこにリドル先輩がいることに気が付く。なんだかいつもと様子が違うような……?
「…………ん?ああ、お前達か。まだ長話するつもりなら、壁際によけるのだね」
そういうリドル先輩はやっぱりいつもと様子が違う。
「なんかアイツ、元気ねぇんだゾ」
グリムちゃんが小声で言う。やっぱそうだよね…と同じく小声で同調するとエースちゃんが小声で
「ほら、寮長は家で噂のエグめの教育ママが待ってるから、一時帰宅が憂鬱になるんじゃね?」
と言う。な、なるほど……。
「……リドル。俺はお前の家に立ち入り禁止だからケーキを届けたりはしてやれないけど……。いつでも遊びに来いよ。チェーニャも遊びに来るだろうし」
そう優しくリドル先輩に話し掛けるトレイ先輩はやっぱりパパみたいだ。チェーニャって言うのは確か、前にハーツラビュルのなんでもない日のパーティーのお茶会に乱入して来た、ロイヤルソードアカデミーの人だったっけ。そういえば3人は幼馴染だとか言ってたな。
「そう、だね。僕もお母様と少し……話をしてみようと思う。……聞いてもらえるかはわからないけど……」
「……そうか。頑張れ」
なんてやり取りをする先輩達は、親子や兄弟みたいだ。私とジェイドちゃんとフロイドちゃんや、アズールとジェイドちゃんとフロイドちゃんの関係とは全然違う感じだなぁ。
「なぁにぃ、金魚ちゃん。おうちに帰りたくないの?」
そんなことを考えていたら、急にフロイドちゃんの声が聞こえてきた。リドル先輩の顔が、険しくなった。なら帰らないで俺らと一緒に学校に残ろうよと言った瞬間、また更に険しくなった。……あー……なんとなく予想はしてたけど、フロイドちゃんとリドル先輩ってやっぱ、相性悪い…の、か…。何も知らないくせに、口を挟まないでくれ、不愉快だ、という顔が本当に嫌そうだ。
「そうですよ。ご家庭の事情に無闇に首を突っ込むものではありません」
こういうこと言ってるとこ見ると、まともな人に見えるんだよなぁジェイドちゃん。
「えー…だってさぁ、いつも同じメンツで年越しすんのつまんねぇじゃん。ティアナだってそう思うでしょ?」
いや私に振られても。どう反応すればいいかわからないよ。ていうか毎年同じって……。私今年初めて陸で過ごす年越しなんだけど。
「アズールも、金魚ちゃんなら小さいから飼っていいって言うと思うし~」
今、なんかとんでもない地雷を踏みぬいたような……。
「今、なんとお言いだい?」
ほらやっぱり…!
「ハーツラビュルの長たる僕によくもそんな口が利けたものだね。今すぐ首をはねてやる!!」
わぁー、リドル先輩真っ赤になってる!完璧にブチギレてる!!ケイト先輩とトレイ先輩が止めてくれてるけど、今にでもフロイドちゃんに向かって襲い掛かりそうだ。相性悪いのはなんとなく予想ついてたけどまさかここまでとは……。
「えぇーっと、フロイド君達の実家って確か珊瑚の海だよね?なんで帰らないの?」
話題を変えようと判断したらしくケイト先輩が私達に問い掛けてくる。
「アズールとティアナと僕達兄弟の故郷は珊瑚の海の中でも北の方でして。この時期は海面が流氷で覆われてるんです」
「そーそー。流氷があると帰んの大変なんだよねぇ。あと、帰ってもつまんないし」
だから、俺達4人は氷が溶けた春休みに帰るんだーとフロイドちゃんが説明するとトレイ先輩が海の下に実家があるのも色々と大変なんだなと感心したように言う。
「フン!君達オクタヴィネルと一緒に年越しなんて、絶対にゴメンだね。ティアナ、こんな先輩達は見習わないように!」
そう言われて苦笑いすると
「ティアナ~、なぁ~にぃその反応」
「僕達に何かご不満でもおありですか?」
2人に両サイドから腕を巻き付くように掴まれる。ものすっごい笑顔。わっ迫力満点。圧が強い。こっっっわ。背中が汗でぐっしょりしてきた。この2人に絞められてた人達みんなこんな気持ちだったのかな。
「僕はこれで失礼する。みな、良いホリデーを」
えっちょっなんのフォローもしないで帰んないでリドル先輩……!やれやれ、少しいつもの調子に戻ったか?じゃなくてあの、このウツボ達から助けてもらえませんかトレイ先輩。なんて願いが届くワケもなく。休暇中に羽目を外し過ぎるなよという言葉を残して去って行った。
「さて、俺も帰りますかぁ~。あ、帰る前に記念に1枚。ティアナちゃんも一緒に撮ろうよぉ~」
ニコニコと笑いながら手招きしてくるケイト先輩がなんかもう神々しく見えるよ。はいー!!なんて返事をして2人の腕からすり抜けてみんなの中に入れて貰って一緒に写真を撮らせてもらう。あっメイク直しておけば良かったなぁ。
「んじゃ、みんなハッピーホリデー★」
マジカメに写真を上げると語尾に星が付きそうなくらい明るく挨拶してケイト先輩は鏡へ向かって行った。
「あれ、そういえばジェイド先輩とフロイド先輩はなんで鏡の間に来たんですか?」
実家に帰らないなら用事なくないですか?とユウちゃんが2人に聞く。
「僕達、ティアナを迎えに来たんです」
「アズールにマジカメに連絡しても全然返信来ねぇから連れてこいっつわれたんだー」
今ならカニちゃん達見送るため鏡の間にいるだろうからってさぁとニヤつきながら言う。マジカメ?あっそういえばずっと通知来てたな。
「ティアナ、明日はアンジェラさん達と出掛けるからその分みっちり働くとアズールと約束したんでしょう?早く帰って来いとお怒りでしたよ」
うっわめんどくさ……
「放課後友達と少し喋る時間くらいちょうだいよ~」
やんなっちゃう!とボヤいてみる。
「はいはい、後はモストロ・ラウンジで聞くから帰るよー」
という言葉と共にフロイドちゃんに肩に担がれる。
「あっちょっと!降ろしてよー!!」
抗議の声を上げながらじたばたと暴れてみるが「はいはーい、下着見えるよー。暴れないのー」と軽くあしらわれる。
「ティアナー、また来年なぁー」
「いいホリデー過ごせよー」
「気が向いたら遊びに行ってやってもいいんだゾー」
「ご飯でも食べようねぇー」
少しは助ける素振りくらい見せろよ薄情者共……!!!
「いいか、仔犬共。明日からのホリデーバケーション……久々にハウスに戻れてはしゃぐ気持ちはわかる。だが、はしゃぐあまりに宿題を忘れて遊び呆けるヤツが毎年いる!そういう仔犬にはキツイお仕置きが待ってるからな。気を抜きすぎないように。一時帰宅には闇の鏡の使用が許可されている。荷物をまとめたら各自鏡の間へ行くように!」
というクルーウェル先生の言葉にみんな「はーい」と返事をする。まぁ私とアズールとジェイドちゃんとフロイドちゃんはウィンターホリデーは帰省しないからあんまり関係ないけど。大体の生徒は帰省するが、帰る場所がないためグリムちゃんとユウちゃんも帰らないらしい。寮のゴースト達とご馳走を食べまくる約束らしい。ゴーストってご飯食べるの?てか、食べられるの?あとそれよりも……
「ユウちゃんとグリムちゃん、ご飯とかどうやって調達するの?食堂も購買部も休みになると思うんだけど」
1番疑問に思った部分を質問してみることにした。
「ふなっ!そういやそうなんだゾ。俺様のご馳走はどうやって調達すりゃいいんだ!?」
グリムちゃんがそう言うと
「学園長が何か考えてくれてる……と思いたい」
ユウちゃんが遠い目をしながら呟く。
「あの学園長がそこまで気が回るとは思えないんだけど……」
「俺もそう思う……」
思わず漏らしてしまった本音に、エースちゃんも同意してきた。そんな私達に向かって「少しだけでも希望持たせて……!」と頭を抱えながら悲痛な叫び声を上げるユウちゃんが割と本気で可哀想になってくる。
「早急に学園長に確認してみる必要がありそうだな」
「闇の鏡の使用には学園長の許可がいるはずだし今なら鏡の間にいるんじゃね?行ってみようぜ」
というエースちゃんに「そうだね。グリム、行ってみよう」と、少し明るい口調でユウちゃんが答えた。暇だし、このまま寮に帰ったらそのままアズールにこき使われそうだし私も着いて行こう。ついでにエースちゃんとデュースちゃんのこと見送ってあげる~と言ったら「別に頼んでねぇよ」なんてほざくエースちゃんの足を力一杯踏みつける。
◇
鏡の間は人で溢れ返っている。
「もう帰省する生徒でいっぱいだな」
デュースちゃんが呟く。
「はは、なんかみんなそわそわしてんねー。さて、学園長は……と」
そう言いながらエースちゃんがきょろきょろと見渡す。
「おっい…たっ…えっ……」
目的の人物である学園長を見つけたらしい。でも、なんか変な顔してる。口をあんぐりと開けて目を見開きながら一点を凝視している。何があったんだろう。そう思いながらエースちゃんの視線の先を見てみると
「みなさん、闇の鏡に目的地を告げたら荷物をしっかりと持ってください」
そこには学園長がいる。の、だが……
「めっちゃ浮かれてるーーーー!!!」
学園長の服装を見たら、つい絶叫してしまった。そしたら全く同じタイミングでエースちゃんとデュースちゃんとグリムちゃんとユウちゃんも私と同じ言葉を絶叫した。そうしたくなってしまいたいくらい、学園長は浮かれ切った格好をしている。
「この真冬にアロハシャツって!南国に遊びに行く気満々じゃん」
エースちゃんの鋭いつっこみが炸裂する。
「浮かれた気持ちを隠す気がゼロすぎるな」
デュースちゃんにすら呆れられている。
「今時真夏でもあんなアロハシャツ着てる人いなさそうだよね……」
ていうか学園長、びっくりするくらいパステルカラー似合ってない……そう呟いたらユウちゃんに
「そ、そこはほっといてあげよう……」
と言われた。……その言い方するってことは、ユウちゃんも似合ってないって思ってるんだねと言ったらそっと目を逸らされた。
「やいやい、学園長!話があるんだゾ!」
みんなに注意事項等を説明していた学園長にグリムちゃんが詰め寄る。
「おや、皆さんお揃いで。どうしたんです?」
切羽詰まってるグリムちゃんとは対照的に呑気に首を傾げる。この人、やっぱり何にも考えてなさそうな気がするんだけど……エースちゃんにそっと耳打ちすると「だよなー……」と返ってきた。デュースちゃんも「僕もそう思う……」と言っている。やっぱ、イマイチ信用できないよね……。
「ちゃんと元の世界に戻れる方法探してます?あと、ホリデー中の自分とグリムの食事についてとかも考えてます?」
ユウちゃんに少しキツイ口調で尋ねられると
「あっ!あぁ~~~!!元の世界に戻る方法ねぇ。ははは、嫌ですねぇ、ちゃんと探してますとも。食事についても考えてますよ~~~」
絶対忘れてたなこの人。
「この冬期休暇は、まだ行ったことがない南の地域へ調査範囲を広げようと思ってるんですよ。私、とっても真面目なんで」
すごい、ここまで言葉に説得力ない人っているんだ。学園長に比べたらアズールってまだ胡散臭くないんだ。
「調査に向かうって恰好じゃない気するけど……」
「そうだそうだ!思う存分休暇を満喫する気なんだゾ!」
エースちゃんとグリムちゃんのツッコミに対して
「何を仰います。南の国ではこれが正装。郷に入っては郷に従え。冬の寒さを逃れ、南国で穏やかな海を眺めつつハンモックでココナッツジュースを飲む……そんな優雅なバケーションを満喫しようなんてちっとも思ってませんとも。えぇ」
満喫する気なんだ、優雅なバケーション……。なんかもうツッコミ入れるのも馬鹿らしくなってきた。グリムちゃんに自分達も南国へ連れて行けと騒がれている。そりゃ言いたくもなるよな。グリムちゃんの立場だったら私も絶対同じこと言って騒ぐ自信ある。学園長は何を言っても連れて行く気なんてないんだろうけども。楽しい休暇が台無しだとか小声で言ってるし。この人これでよく学園長なんて上位の立場でいられるな。
「君らを連れて行くには危険な調査になりそうですからここは私が1人で向かいます」
アロハシャツで行く調査ってどんな調査よ。
「それに、君達には学園に残り重要な任務にあたってほしいのです。ナイトレイブンカレッジの存続に関わるとても重要な任務です」
「また調子のいいことを」
ユウちゃん……とうとう学園長にキレッキレな返しをしたよ。色々溜まってるんだな……。
「この任務を請け負ってくれるなら休暇中の食料の補給はもちろん……ホリデーのご馳走についてもお約束します。ローストターキーにケーキにジンジャーブレットハウス……そうだ、アツアツのスペアリブやフライドポテトも山盛りお付けしましょう。いかがですか?」
いかがですか?じゃないでしょ。さすがのこの2人でもそんなので釣られるわけ…
「ふなっ!?アツアツのスペアリブとフライドポテト……!?ふ、ふん。話くらいは聞いてやってもいいんだゾ」
あったか。駄目だコイツ。グリムちゃん、いい加減学習しなよ……。
「ホンットお手軽だねー、お前……」
エースちゃんも呆れてるみたいだ。
「ゴホン。この学園の暖炉の火は全て火の妖精の魔法によって賄われています。彼らは長年、大食堂の暖炉に住み着いているのですが……毎日よく乾燥した薪を与えなければ消えてしまうのです。火の妖精がいなくなれば、学園は冬の度に凍えるような寒さに包まれることになります」
あっやっぱいつも学園中が温かいのは魔法なんだ。エースちゃんとデュースちゃんもそういうことかーみたいなリアクションをしている。
「今までは長期休暇中も厨房係のゴーストが火の番をしてくれていたのですが……今年は娘夫婦にお子さんが産まれたそうで初孫を見にあの世に帰省するんだとか。ですので、彼の代わりに君達に火の番を頼みたいのです」
ゴ、ゴーストに初孫………?
「そうなんですか、おめでたいですねそれは……わかりましたよ、やりますよ……やりゃいいんでしょ……」
ユウちゃん、つっこむのも面倒臭くなったんだね。もうどうにでもなれと言わんばかりにヤケクソ気味に引き受けちゃったよ。
「今までの無茶振りに比べれば超楽チンなんだ気がするんだゾ」
あんたはもう少し物事をしっかり考えろ。そんなだからいつもいつも面倒事押し付けられるんだよ。
「そうでしょう?こう見えて私、とても優しいので」
学園長が優しいんだったらこの世に優しくない人は存在しないことになりそう。
「あぁ、そうそう。私が長期不在にするのでこれを君達に渡しておこうと思ったんです」
そう言う学園長の手にはスマホがある。
「何か緊急の用事があればこのスマホで私に連絡してください。こちらはあくまで緊急連絡手段です。マジカメ巡りなどに没頭して通信制限を受けたりしないように」
と言ってユウちゃんにスマホを渡すと「さて、私は生徒達をご実家へ転送する仕事がありますので後は任せましたよ、2人共」なんて言葉を残して闇の鏡の所へ行く。出掛ける前にパンフレットの確認がどうのとか聞こえたのは気のせいだろうか。
「にゃっはー!コレでホリデーはご馳走がたんまり食えるんだゾ!」
単純なんだからもう……。まぁ本人が納得してるんならいっかー……。ユウちゃんはヤケクソって感じだけど。
「はいはーい!そこの君達。道のど真ん中に突っ立てないで、どいたどいた!」
不意にそんな声が響いた。見てみると、ラギー先輩が大量の荷物を抱えていた。
「ブッチ先輩!なんですかその大量の荷物!」
「あぁ、これっスか?シシシッ、大食堂と購買部の消費期限切れそうな食材、ぜんぶ貰って来たんスよ」
え…この量を全部……?こんなに食べきれるわけないんじゃ…という疑問の声に「こんなの、近所の悪ガキ共に配ったらあっという間になくなるっスよ」とのこと。近所に配るんだ。でもなんで…と聞く前に冷凍食品が溶けちゃうから、と言って「んじゃ、また来年っスー!」と颯爽と去って行った。
「近所の悪ガキ共………って?」
デュースちゃんが不思議そうな顔をしていると
「ラギー先輩の地元は、貧しい暮らしをしている家庭が多いらしい。だから長期休暇の度に沢山食べ物を持って帰って近所の子供にも食わせてやってるんだと」
と解説しながら両手いっぱいに植木鉢を抱えたジャックちゃんが登場した。
「何その大量の植木鉢……」
「植木屋でも始めんのか?」
そうきくと「これは趣味で育ててるサボテンだ。休暇中に水やりしなかったら枯れちまうだろうが」とのこと。趣味でサボテン育ててるんだ。意外。
「ラギーのヤツ、赤の他人に飯を分けてやろうなんて意外といいヤツなんだゾ」
グリムちゃんが感心したように言うと
「捕らえた獲物は弱者にも分け隔てなく与える。それがハイエナだ。ラギー先輩もそうやって育ってきたんだろ」
すかさずジャックちゃんが言う。陸も生きるに色々と大変なんだなー。
「ガキを何人も集めて炊き出しなんて考えただけでゾッとするぜ」
そう言いながら溜息と共にレオナ先輩が会話に入ってきた。1人いるだけでもうるさくてかなわねぇってのにとぼやいている。
「あれ、レオナ先輩……ご実家には戻らないんですか」
ジャックちゃんに言われて気が付く。レオナ先輩、荷物何も持ってない。ラギー先輩とかの見送りかな?と思ったが帰らないと後が煩いので帰るという。
「えっ手ぶらでですか?」
思わず聞いてしまった。そしたら「あ?」と怪訝な顔をして
「財布とスマホがありゃいいだろ。私服は置きっぱなしだし」
と返される。いやいやいや…えー…。
「宿題すら持って帰らない開き直りっぷり……」
「宿題なんか休みが明けてからやりゃいいんだよ。ホリデーは休むのが仕事だろ」
なんて極論……。
「あーそういやお前」
レオナ先輩が不意に私に話し掛けてきた。
「なんですか?」
「毛玉が『またティアナお姉ちゃんと遊びたい』だってよ」
え……
「チェカちゃん、ですか?」
「あぁ。そういうワケだ。次またアイツがここ来た時は面倒見てやってくれな、ティアナお姉ちゃん」
ニヤッと笑いながら私の肩をぽん、と叩き言う。
「遠慮させて頂いても…」
と断りを入れようとする私を見て
「そう言うなって!遊んでやれよ、ティアナお姉ちゃん」
「エースの言う通りだ。きっと喜ばれるぞ?ティアナお姉ちゃん」
「王子様に貸しを作るチャンスだよ。せっかくだから遊んであげなよ、ティアナお姉ちゃん」
ニヤニヤと笑いながらエースちゃんとデュースちゃんとユウちゃんが言う。こいつら他人事だと思って……!あの子と遊んで疲れて授業中に爆睡しちゃった時もこんな顔されたっけ、なんて思っていたら「じゃあな、草食動物共」と言い残してレオナ先輩は去って行った。
「えっほ、ほんとに手ぶらで帰っちゃった……」
ユウちゃんが若干引き気味に呟く。
「真面目にやりゃなんでもやれる実力がありながらなんでやらねぇんだあの人は……」
ジャックちゃんが溜息を吐く。
「俺は宿題全部キッチリ終わらせてくるぜ。お前らもサボるんじゃねぇぞ。じゃあな」
と言って鏡に向かって行くジャックちゃんに向かって「出た真面目クン。はいはい、また来年なー」と言いながらエースちゃんが見送る。
「キングスカラー先輩……あそこまでくると逆に感心するものがあるな」
とデュースちゃんが言うと
「こらこら、1年生達~。ああいう悪い先輩は見習っちゃダメだからね」
「宿題未提出なんて、ウチの寮じゃリドルに首をはねられるぞ」
なんて言葉が聞こえてきた。ケイト先輩とトレイ先輩だ。2人共発言が保護者みたい。ハーツラビュルの先輩達ってそんな感じの人が多いよなぁって印象。
ケイト先輩も実家に帰るのが憂鬱らしい。姉ちゃん達2人共帰って来てるだろうからコキ使われると嘆いている。先輩、お姉さんいるんだ。流行に敏感でコスメに詳しいのも、お姉さん達の影響もあるのかな。と、トレイ先輩の家にホームステイさせてくれと言っているケイト先輩を見ながら思う。
「あ、ローズハート寮長!道を塞いですんません!」
デュースちゃんの声を聞いて、そこにリドル先輩がいることに気が付く。なんだかいつもと様子が違うような……?
「…………ん?ああ、お前達か。まだ長話するつもりなら、壁際によけるのだね」
そういうリドル先輩はやっぱりいつもと様子が違う。
「なんかアイツ、元気ねぇんだゾ」
グリムちゃんが小声で言う。やっぱそうだよね…と同じく小声で同調するとエースちゃんが小声で
「ほら、寮長は家で噂のエグめの教育ママが待ってるから、一時帰宅が憂鬱になるんじゃね?」
と言う。な、なるほど……。
「……リドル。俺はお前の家に立ち入り禁止だからケーキを届けたりはしてやれないけど……。いつでも遊びに来いよ。チェーニャも遊びに来るだろうし」
そう優しくリドル先輩に話し掛けるトレイ先輩はやっぱりパパみたいだ。チェーニャって言うのは確か、前にハーツラビュルのなんでもない日のパーティーのお茶会に乱入して来た、ロイヤルソードアカデミーの人だったっけ。そういえば3人は幼馴染だとか言ってたな。
「そう、だね。僕もお母様と少し……話をしてみようと思う。……聞いてもらえるかはわからないけど……」
「……そうか。頑張れ」
なんてやり取りをする先輩達は、親子や兄弟みたいだ。私とジェイドちゃんとフロイドちゃんや、アズールとジェイドちゃんとフロイドちゃんの関係とは全然違う感じだなぁ。
「なぁにぃ、金魚ちゃん。おうちに帰りたくないの?」
そんなことを考えていたら、急にフロイドちゃんの声が聞こえてきた。リドル先輩の顔が、険しくなった。なら帰らないで俺らと一緒に学校に残ろうよと言った瞬間、また更に険しくなった。……あー……なんとなく予想はしてたけど、フロイドちゃんとリドル先輩ってやっぱ、相性悪い…の、か…。何も知らないくせに、口を挟まないでくれ、不愉快だ、という顔が本当に嫌そうだ。
「そうですよ。ご家庭の事情に無闇に首を突っ込むものではありません」
こういうこと言ってるとこ見ると、まともな人に見えるんだよなぁジェイドちゃん。
「えー…だってさぁ、いつも同じメンツで年越しすんのつまんねぇじゃん。ティアナだってそう思うでしょ?」
いや私に振られても。どう反応すればいいかわからないよ。ていうか毎年同じって……。私今年初めて陸で過ごす年越しなんだけど。
「アズールも、金魚ちゃんなら小さいから飼っていいって言うと思うし~」
今、なんかとんでもない地雷を踏みぬいたような……。
「今、なんとお言いだい?」
ほらやっぱり…!
「ハーツラビュルの長たる僕によくもそんな口が利けたものだね。今すぐ首をはねてやる!!」
わぁー、リドル先輩真っ赤になってる!完璧にブチギレてる!!ケイト先輩とトレイ先輩が止めてくれてるけど、今にでもフロイドちゃんに向かって襲い掛かりそうだ。相性悪いのはなんとなく予想ついてたけどまさかここまでとは……。
「えぇーっと、フロイド君達の実家って確か珊瑚の海だよね?なんで帰らないの?」
話題を変えようと判断したらしくケイト先輩が私達に問い掛けてくる。
「アズールとティアナと僕達兄弟の故郷は珊瑚の海の中でも北の方でして。この時期は海面が流氷で覆われてるんです」
「そーそー。流氷があると帰んの大変なんだよねぇ。あと、帰ってもつまんないし」
だから、俺達4人は氷が溶けた春休みに帰るんだーとフロイドちゃんが説明するとトレイ先輩が海の下に実家があるのも色々と大変なんだなと感心したように言う。
「フン!君達オクタヴィネルと一緒に年越しなんて、絶対にゴメンだね。ティアナ、こんな先輩達は見習わないように!」
そう言われて苦笑いすると
「ティアナ~、なぁ~にぃその反応」
「僕達に何かご不満でもおありですか?」
2人に両サイドから腕を巻き付くように掴まれる。ものすっごい笑顔。わっ迫力満点。圧が強い。こっっっわ。背中が汗でぐっしょりしてきた。この2人に絞められてた人達みんなこんな気持ちだったのかな。
「僕はこれで失礼する。みな、良いホリデーを」
えっちょっなんのフォローもしないで帰んないでリドル先輩……!やれやれ、少しいつもの調子に戻ったか?じゃなくてあの、このウツボ達から助けてもらえませんかトレイ先輩。なんて願いが届くワケもなく。休暇中に羽目を外し過ぎるなよという言葉を残して去って行った。
「さて、俺も帰りますかぁ~。あ、帰る前に記念に1枚。ティアナちゃんも一緒に撮ろうよぉ~」
ニコニコと笑いながら手招きしてくるケイト先輩がなんかもう神々しく見えるよ。はいー!!なんて返事をして2人の腕からすり抜けてみんなの中に入れて貰って一緒に写真を撮らせてもらう。あっメイク直しておけば良かったなぁ。
「んじゃ、みんなハッピーホリデー★」
マジカメに写真を上げると語尾に星が付きそうなくらい明るく挨拶してケイト先輩は鏡へ向かって行った。
「あれ、そういえばジェイド先輩とフロイド先輩はなんで鏡の間に来たんですか?」
実家に帰らないなら用事なくないですか?とユウちゃんが2人に聞く。
「僕達、ティアナを迎えに来たんです」
「アズールにマジカメに連絡しても全然返信来ねぇから連れてこいっつわれたんだー」
今ならカニちゃん達見送るため鏡の間にいるだろうからってさぁとニヤつきながら言う。マジカメ?あっそういえばずっと通知来てたな。
「ティアナ、明日はアンジェラさん達と出掛けるからその分みっちり働くとアズールと約束したんでしょう?早く帰って来いとお怒りでしたよ」
うっわめんどくさ……
「放課後友達と少し喋る時間くらいちょうだいよ~」
やんなっちゃう!とボヤいてみる。
「はいはい、後はモストロ・ラウンジで聞くから帰るよー」
という言葉と共にフロイドちゃんに肩に担がれる。
「あっちょっと!降ろしてよー!!」
抗議の声を上げながらじたばたと暴れてみるが「はいはーい、下着見えるよー。暴れないのー」と軽くあしらわれる。
「ティアナー、また来年なぁー」
「いいホリデー過ごせよー」
「気が向いたら遊びに行ってやってもいいんだゾー」
「ご飯でも食べようねぇー」
少しは助ける素振りくらい見せろよ薄情者共……!!!
