万有引力には逆らえない
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森サソリについてのレポートを提出したら高得点を貰うことが出来て、銀の級硬貨を2枚手に入れることが出来た。この調子でコツコツと級硬貨を貯めて行きたいものだ。人事を尽くして天命を待つって言うしね。
でもレポートだけだと試験に間に合わない可能性ありそうで不安だ。やはり級硬貨を持った人に挑みに行くべきだろうか。魔法をもっと磨くか。あと体力や魔法以外も磨かないとかな。私は体格にあまり恵まれていないからフィジカル面がな…。その辺のこともっと考えなくては。あと……
「ねぇマッシュ君。今、確か薬草学の課題で出された、変身薬を作ろうとしてるんだよね?」
「うす。変身薬作ろうとしてます」
「だよねー。変身薬だよねー。……じゃあなんでシュークリームが出来上がってんの?!もうシュークリーム10個目だよマジでどうなってんの!何をどうしてそうしてあぁしたらこうなるの?!魔法?!作ろうとした物全部シュークリームになる魔法でも使ってんの?!」
「そんな魔法あるんだ。いいな、僕も出来るようになりたい」
「ある訳ねぇだろうが!!!」
どうやったらマッシュ君が変身薬をシュークリームにすることなく完成させることが出来るのか…その答えを早く見つけ出さなくては。
「ルーナちゃん大丈夫?シュークリームでも食べて落ち着いて」
「いや危機感!危機感持ってマッシュ君!!薬草学の課題終わらないと退学になっちゃう可能性あるんだよわかってる?!ていうかそのシュークリーム変身薬の材料で作ったやつだよね…?大丈夫なの食べて…」
そう問い掛けるとマッシュ君は少し考えるようなそぶりを見せたかと思うと、おもむろに変身薬の材料で作られたシュークリームをもしゃっと音をさせながら食べ始め、「…うん、案外イケる」と言った。す、少しは躊躇おうよ…。
ランス君に頼まれてマッシュ君に変身薬の作り方を教えてくれと言われて受け入れたは良いけれども心が折れそうだ。頼んで来た時ランス君もレモンちゃんもフィン君もドット君もなんだかヤケにげっそりしているなとは思ったけれどもこういうことだったのね…。
教え始めてまだ30分くらいしか経っていないけれども早くも気が遠くなってきた…。ていうか本当にどういう原理で全部シュークリームになっているの?こんな摩訶不思議なことが起きているのに、魔法じゃないってどういうことなの。まだ作ったものが全てシュークリームになってしまうという固有魔法を使っていると言ってくれた方が納得出来る気がする。
私の説明が悪いのかと思って1から10まで全部一緒に作ってみたがそれでもシュークリームになってしまったしもう何もかもわからない。マッシュ・バーンデッドっていう人間の存在そのものの意味がわからない。なんなのこの人。
「ごめん」
頭を抱えて考え込んでいると、マッシュ君に謝罪された。
「えっ?」
「僕はポンコツだから、みんなに迷惑ばっかりかけて。……困ってる時に助けてくれる友達が沢山いて、幸せ者だ」
……そんなこと言われてしまったら、文句も何も言えないじゃないか。
「変身薬作り、もう少し頑張ろっか。出来るまで付き合うわ」
「うっす」
私も、マッシュ君やみんなみたいな友達が沢山出来て幸せだよ。友達になってくれてありがとう。…なんて照れ臭いこと、絶対に本人達には言わないけど。
◇
「ちょっとルーナ」
マッシュ君と別れ、1人寮に戻るため歩いていると声を掛けられた。思わず眉間に皺が寄る。無視して歩みを進めようとすると
「無視するんじゃないわよ」
腕を掴まれ阻止された。
「…何。学校内で話しかけてくるなって言ってきたのはそっちでしょ、エマ」
軽く睨みながら言うと「話しかけるなとは言ってないでしょと言い返された。
「それよりさっき。あんたアドラのあの無駄に目立つマッシュ・バーンデッドとかいう子と一緒にいるとこ見たわよ」
険しい顔で言ってくるエマにウンザリする。
「だから何」
「何じゃないわよ。いつも言ってるでしょ、あんまり変な人と関わるなって。またお父様に怒られるわよ、シャルロット家の名前に傷がつくって」
やっぱりその話か。くだらない。付き合ってられない。早く寮へ戻ろう。
「ちょっと!まだ話してる途中でしょ?!」
「私が誰と仲良くしようとエマにもあの人にも関係ないでしょ。いちいち干渉して来ないで」
そう言って今度こそ寮への道を歩き出す。
「あっそう。じゃあもう口出ししないわよ。けど1つだけ忠告しておくわ。あんた、あのマッシュって子と関わるなら気をつけなさい。あの子、目付けられてるから」
思わず立ち止まり、「目を付けられてる?」と聞き返してしまった。すると溜息を吐きながら
「うちの…レアンの寮長、アベル・ウォーカーに。あの人級硬貨欲しがりだから。1年で金の級硬貨持ってるってことで興味あるみたい。」
アベル・ウォーカー…レアンの寮長で今年の神覚者候補筆頭の生徒だったか。去年の神覚者に選ばれたフィン君のお兄さん、レイン・エイムズさんやうちの寮の寮長であるマーガレット・マカロンさんに並ぶ実力者…。そんな人がマッシュ君に興味を持つなんて大丈夫だろうか。
「じゃあ忠告はしたからね。あんまり変なことに首突っ込むんじゃないわよ」
言い終わるとエマは去って行った。…鬱陶しい。早く寮へ戻ろう。
戻ったら明日の授業の準備と予習をして、今日やった授業についてのレポートを書いて、マッシュ君にどう教えたら変身薬作りを成功させることが出来るか…というかその前にどうして変身薬がシュークリームになってしまうのかについてじっくりと考えてそれから図書室で借りた本を読んでゆっくりとお風呂に入って寝よう。
◇
「ねぇ、カルパッチョ君…何度作っても作っても、変身薬がシュークリームになるってどういう原理なのかわかる…?」
「まず君の言ってる言葉の意味が分からないんだけど何の話してんの」
変身薬がシュークリームとか何わけわかんないこと言ってんの、頭でも打った?と言ってくるカルパッチョ君に乾いた笑いを返すことしか出来ない。
「いや…今ちょっとね、勉強があまり得意じゃない子に変身薬の作り方を教えてるんだけど…どういう訳かその子何度やっても変身薬がシュークリームになるの」
「詳細聞いても意味わからないんだけど」
「うん、私も言ってて意味わからない…私は何を相手にしてるの?!」
「知らないよ。僕そいつに会った事ないし現場も見てないんだから」
そう淡々と言い返されてぐうの音も出なくなる。
「変身薬なんて初級も初級じゃん。そんなのも作れないとかそいつヤバすぎるだろ」
そんな奴ほっとけば、というカルパッチョ君に友達見捨てるようなこと出来ないというと、なぜかその日1日カルパッチョ君の機嫌が悪かった。
◇
「マッシュ君!今日こそは!今日こそは変身薬の作り方マスターしますよ!」
「うっす」
レモンちゃんの言葉に、マッシュ君はやる気があるんだかないんだかわからないテンションで返事をする。
「今日で3日目だな、変身薬の作り方教え始めて…そして期限は明日だな…」
「5人係で教えてここまで覚えれねぇとはな…今日も出来なかったらさすがに心折れそうだ…」
ランス君とドット君がげっそりとしながら言う。この2人こんなに静かになることあるんだ…。
「で、でもほらあの、シュークリームになるってことはなくなったしさ、えっと、も、もう少し、で、なんとか、なる、んじゃな、い、かな…」
フィン君がフォローしているが、どんどん声が消え入りそうになっている。
「そうですよ!あと一歩です!多分…」
レモンちゃん味方するなら最後までしっかり味方してあげて…!マッシュ君傷つ…
「あっ大変だ、もうこんな時間だ。プロテインを飲まなくては」
くわけないか。ここ3日でげっそりしている私達とは対照的に元気だな…。みんなもうマッシュ君のマイペースっぷりに気力もないのか誰もつっこまなかった。
「えっと…、まずはこれをこうして、そこにこれを入れて…」
プロテインを飲み終えるとマッシュ君は変身薬を作り始めた。手順は完璧のはずなのに、どういう訳かいつも途中でシュークリームになっていたのだけれども今日ようやくシュークリームになるということはなくなってくれた。だからレモンちゃんの言う通り、あと一歩なのかもしれない。ていうかあと一歩であってくれ……。さすがに今日もまたダメだったらドット君の言う通り、私達の心が音を立てて折れる…。そしてマッシュ君の学園生活も終了のお知らせになる…!
「出来ました」
マッシュ君がそう言いながら出来上がったらしく、変身薬を私達に見せてくる。
「確かに見た目は変身薬だな」
マッシュ君の持つ薬をじっと見ながらランス君が言う。まだ半信半疑みたいだ。
「飲んでみねぇとわかんねぇよな、上手くいってんのか…」
でも、飲む、のか…と、ドット君が顔を青くしている。成功しているのかいないのか。それすらもわからない薬を、飲む…のか…と、みんな顔を引きつらせている。恐らく私も。どうしたらいいのかな…そう考え込んでいると
「いただきます」
という言葉がした次の瞬間、マッシュ君は喉をごくごくと鳴らしながら変身薬(?)を飲み始めた。
みんな「えっちょっ」とか、「そんな一瞬の躊躇いもなく…!」などなど言ってるが、マッシュ君は気にせず飲み続ける。と、急にぴたりと動きを止め、
「まっず……!」
と、変身薬(仮)を口から微かに垂らしながら言う。変身薬って本当、すっごくまずいんだよな…。私も初めて飲んだ時あまりのまずさに急いでトイレへ駆け込んだっけな…。…あっていうことはもしかして!せいこ…
「うっ…!」
成功したのかと思った瞬間、マッシュ君が小さくうめき声を上げて蹲った。慌ててみんなで駆け寄ろうとすると、ぼんっという音と共にマッシュ君の身体全体を白い煙が覆った。コレ…!変身薬の効果が出る時の特徴…!ということはやっぱり…!
「ゲホッゲホッ…!…ん?なんじゃこりゃ…あれ、僕…」
煙が明けるとそこには…
「僕、シュークリームになってる…?」
巨大なシュークリームが佇んでいた。…ま、ま、ま…!
「またシュークリーム…!」
私達5人の絶叫が、辺り一面に木霊した。
◇
「みんなありがとう。みんなが協力してくれたから、そのお陰でなんとか変身薬を作り上げることが出来たよ」
大感謝大感謝、と手をパタパタとさせながらマッシュ君は言う。
シュークリームだと変身薬の作成が成功したのかそれともまた、マッシュ君の不思議な能力…作る物全てがシュークリームになってしまうというものが発揮されてしまって失敗してしまったのかいまいち判断がつかないので、念の為もう一度作ってみろというランス君の提案に従ってもう一度作ってみると、今度はちゃんとマッシュ君の姿がうさぎの姿へと変えたため無事、変身薬を作ることに成功出来たのであった。
「良かったね、マッシュ君!期限までに何とかギリギリ変身薬作り上げること成功出来て!」
そうニコニコと笑いながら言うフィン君に、マッシュ君は「うん」と頷いている。
良かった…本当に良かった、何とか完成させることが出来て…。
「悪かったな、違う寮であるお前にまで付き合わせてしまって」
マッシュ君とフィン君のやり取りを見つめていると、ランス君に話しかけられた。
「ううん、こちらこそあんまり役に立てなくてごめんね」
そういうと「いや…俺達4人だけだったらきっと投げ出してた」と言ってくれて、少し嬉しくなった。そして少し、顔が熱くなってきた。
ふと、なんだか視線を感じる。なんだろうと思いながら視線の方を見てみるとレモンちゃんがニコニコと笑いながら私のことを見ていた。目が合うと「良かったですね」と、口パクで言われた。その瞬間、更に顔が熱くなってきた。レモンちゃんなんでよかったねなんて言うの…?ま、まさか私がランス君のことを好きだって知っているの?!いや、いやいやいや…!そんな話したことないもんね、なのに知ってるわけないじゃないか…!しかもまだ出会って数日しか経ってないのに…!
「みんな、3日間本当にありがとう。これ、ささやかだけれども僕からのお礼」
マッシュ君が私達に語り掛けてくる。お礼?なんだろう。少しワクワクとしながらマッシュ君の方に目線を向けてみると
「みんなでシュークリームパーチ―をしよう」
大きなお皿に大量のシュークリームを乗せ、私達に見せて来ていた。
「もうシュークリームは勘弁してくれ!!!!!!!!」
私達5人の絶叫が再び、辺り一面に響き渡った。もうしばらくの間シュークリームのことは見たくない。
ちなみに私はそこから1週間ほど、シュークリームの海で溺れたり、シュークリームの山に押しつぶされそうになると言った悪夢に魘されることとなった。シュークリームのことが嫌いになりそうだった。そしてトラウマになりそうだった。匂いも嗅ぎたくない。
カルパッチョ君曰く、授業中に居眠りしながら高確率で魘されて、「シュークリームが襲ってくる…!シュークリームに殺される…!」というような感じの寝言を言っていたらしい。
カルパッチョ君に不思議そうな顔で「何。シュークリームに殺されるって。授業中にどんな夢見てんの。どんな夢見たらシュークリームに殺されるなんて寝言が出てくるの」と聞かれた。だからシュークリームの海で溺れたり、シュークリームの山に埋もれかけて窒息しかける夢を見たと話したら「君、数日休めば」疲れてるんじゃない?と、結構まともなアドバイスをされた。
でもレポートだけだと試験に間に合わない可能性ありそうで不安だ。やはり級硬貨を持った人に挑みに行くべきだろうか。魔法をもっと磨くか。あと体力や魔法以外も磨かないとかな。私は体格にあまり恵まれていないからフィジカル面がな…。その辺のこともっと考えなくては。あと……
「ねぇマッシュ君。今、確か薬草学の課題で出された、変身薬を作ろうとしてるんだよね?」
「うす。変身薬作ろうとしてます」
「だよねー。変身薬だよねー。……じゃあなんでシュークリームが出来上がってんの?!もうシュークリーム10個目だよマジでどうなってんの!何をどうしてそうしてあぁしたらこうなるの?!魔法?!作ろうとした物全部シュークリームになる魔法でも使ってんの?!」
「そんな魔法あるんだ。いいな、僕も出来るようになりたい」
「ある訳ねぇだろうが!!!」
どうやったらマッシュ君が変身薬をシュークリームにすることなく完成させることが出来るのか…その答えを早く見つけ出さなくては。
「ルーナちゃん大丈夫?シュークリームでも食べて落ち着いて」
「いや危機感!危機感持ってマッシュ君!!薬草学の課題終わらないと退学になっちゃう可能性あるんだよわかってる?!ていうかそのシュークリーム変身薬の材料で作ったやつだよね…?大丈夫なの食べて…」
そう問い掛けるとマッシュ君は少し考えるようなそぶりを見せたかと思うと、おもむろに変身薬の材料で作られたシュークリームをもしゃっと音をさせながら食べ始め、「…うん、案外イケる」と言った。す、少しは躊躇おうよ…。
ランス君に頼まれてマッシュ君に変身薬の作り方を教えてくれと言われて受け入れたは良いけれども心が折れそうだ。頼んで来た時ランス君もレモンちゃんもフィン君もドット君もなんだかヤケにげっそりしているなとは思ったけれどもこういうことだったのね…。
教え始めてまだ30分くらいしか経っていないけれども早くも気が遠くなってきた…。ていうか本当にどういう原理で全部シュークリームになっているの?こんな摩訶不思議なことが起きているのに、魔法じゃないってどういうことなの。まだ作ったものが全てシュークリームになってしまうという固有魔法を使っていると言ってくれた方が納得出来る気がする。
私の説明が悪いのかと思って1から10まで全部一緒に作ってみたがそれでもシュークリームになってしまったしもう何もかもわからない。マッシュ・バーンデッドっていう人間の存在そのものの意味がわからない。なんなのこの人。
「ごめん」
頭を抱えて考え込んでいると、マッシュ君に謝罪された。
「えっ?」
「僕はポンコツだから、みんなに迷惑ばっかりかけて。……困ってる時に助けてくれる友達が沢山いて、幸せ者だ」
……そんなこと言われてしまったら、文句も何も言えないじゃないか。
「変身薬作り、もう少し頑張ろっか。出来るまで付き合うわ」
「うっす」
私も、マッシュ君やみんなみたいな友達が沢山出来て幸せだよ。友達になってくれてありがとう。…なんて照れ臭いこと、絶対に本人達には言わないけど。
◇
「ちょっとルーナ」
マッシュ君と別れ、1人寮に戻るため歩いていると声を掛けられた。思わず眉間に皺が寄る。無視して歩みを進めようとすると
「無視するんじゃないわよ」
腕を掴まれ阻止された。
「…何。学校内で話しかけてくるなって言ってきたのはそっちでしょ、エマ」
軽く睨みながら言うと「話しかけるなとは言ってないでしょと言い返された。
「それよりさっき。あんたアドラのあの無駄に目立つマッシュ・バーンデッドとかいう子と一緒にいるとこ見たわよ」
険しい顔で言ってくるエマにウンザリする。
「だから何」
「何じゃないわよ。いつも言ってるでしょ、あんまり変な人と関わるなって。またお父様に怒られるわよ、シャルロット家の名前に傷がつくって」
やっぱりその話か。くだらない。付き合ってられない。早く寮へ戻ろう。
「ちょっと!まだ話してる途中でしょ?!」
「私が誰と仲良くしようとエマにもあの人にも関係ないでしょ。いちいち干渉して来ないで」
そう言って今度こそ寮への道を歩き出す。
「あっそう。じゃあもう口出ししないわよ。けど1つだけ忠告しておくわ。あんた、あのマッシュって子と関わるなら気をつけなさい。あの子、目付けられてるから」
思わず立ち止まり、「目を付けられてる?」と聞き返してしまった。すると溜息を吐きながら
「うちの…レアンの寮長、アベル・ウォーカーに。あの人級硬貨欲しがりだから。1年で金の級硬貨持ってるってことで興味あるみたい。」
アベル・ウォーカー…レアンの寮長で今年の神覚者候補筆頭の生徒だったか。去年の神覚者に選ばれたフィン君のお兄さん、レイン・エイムズさんやうちの寮の寮長であるマーガレット・マカロンさんに並ぶ実力者…。そんな人がマッシュ君に興味を持つなんて大丈夫だろうか。
「じゃあ忠告はしたからね。あんまり変なことに首突っ込むんじゃないわよ」
言い終わるとエマは去って行った。…鬱陶しい。早く寮へ戻ろう。
戻ったら明日の授業の準備と予習をして、今日やった授業についてのレポートを書いて、マッシュ君にどう教えたら変身薬作りを成功させることが出来るか…というかその前にどうして変身薬がシュークリームになってしまうのかについてじっくりと考えてそれから図書室で借りた本を読んでゆっくりとお風呂に入って寝よう。
◇
「ねぇ、カルパッチョ君…何度作っても作っても、変身薬がシュークリームになるってどういう原理なのかわかる…?」
「まず君の言ってる言葉の意味が分からないんだけど何の話してんの」
変身薬がシュークリームとか何わけわかんないこと言ってんの、頭でも打った?と言ってくるカルパッチョ君に乾いた笑いを返すことしか出来ない。
「いや…今ちょっとね、勉強があまり得意じゃない子に変身薬の作り方を教えてるんだけど…どういう訳かその子何度やっても変身薬がシュークリームになるの」
「詳細聞いても意味わからないんだけど」
「うん、私も言ってて意味わからない…私は何を相手にしてるの?!」
「知らないよ。僕そいつに会った事ないし現場も見てないんだから」
そう淡々と言い返されてぐうの音も出なくなる。
「変身薬なんて初級も初級じゃん。そんなのも作れないとかそいつヤバすぎるだろ」
そんな奴ほっとけば、というカルパッチョ君に友達見捨てるようなこと出来ないというと、なぜかその日1日カルパッチョ君の機嫌が悪かった。
◇
「マッシュ君!今日こそは!今日こそは変身薬の作り方マスターしますよ!」
「うっす」
レモンちゃんの言葉に、マッシュ君はやる気があるんだかないんだかわからないテンションで返事をする。
「今日で3日目だな、変身薬の作り方教え始めて…そして期限は明日だな…」
「5人係で教えてここまで覚えれねぇとはな…今日も出来なかったらさすがに心折れそうだ…」
ランス君とドット君がげっそりとしながら言う。この2人こんなに静かになることあるんだ…。
「で、でもほらあの、シュークリームになるってことはなくなったしさ、えっと、も、もう少し、で、なんとか、なる、んじゃな、い、かな…」
フィン君がフォローしているが、どんどん声が消え入りそうになっている。
「そうですよ!あと一歩です!多分…」
レモンちゃん味方するなら最後までしっかり味方してあげて…!マッシュ君傷つ…
「あっ大変だ、もうこんな時間だ。プロテインを飲まなくては」
くわけないか。ここ3日でげっそりしている私達とは対照的に元気だな…。みんなもうマッシュ君のマイペースっぷりに気力もないのか誰もつっこまなかった。
「えっと…、まずはこれをこうして、そこにこれを入れて…」
プロテインを飲み終えるとマッシュ君は変身薬を作り始めた。手順は完璧のはずなのに、どういう訳かいつも途中でシュークリームになっていたのだけれども今日ようやくシュークリームになるということはなくなってくれた。だからレモンちゃんの言う通り、あと一歩なのかもしれない。ていうかあと一歩であってくれ……。さすがに今日もまたダメだったらドット君の言う通り、私達の心が音を立てて折れる…。そしてマッシュ君の学園生活も終了のお知らせになる…!
「出来ました」
マッシュ君がそう言いながら出来上がったらしく、変身薬を私達に見せてくる。
「確かに見た目は変身薬だな」
マッシュ君の持つ薬をじっと見ながらランス君が言う。まだ半信半疑みたいだ。
「飲んでみねぇとわかんねぇよな、上手くいってんのか…」
でも、飲む、のか…と、ドット君が顔を青くしている。成功しているのかいないのか。それすらもわからない薬を、飲む…のか…と、みんな顔を引きつらせている。恐らく私も。どうしたらいいのかな…そう考え込んでいると
「いただきます」
という言葉がした次の瞬間、マッシュ君は喉をごくごくと鳴らしながら変身薬(?)を飲み始めた。
みんな「えっちょっ」とか、「そんな一瞬の躊躇いもなく…!」などなど言ってるが、マッシュ君は気にせず飲み続ける。と、急にぴたりと動きを止め、
「まっず……!」
と、変身薬(仮)を口から微かに垂らしながら言う。変身薬って本当、すっごくまずいんだよな…。私も初めて飲んだ時あまりのまずさに急いでトイレへ駆け込んだっけな…。…あっていうことはもしかして!せいこ…
「うっ…!」
成功したのかと思った瞬間、マッシュ君が小さくうめき声を上げて蹲った。慌ててみんなで駆け寄ろうとすると、ぼんっという音と共にマッシュ君の身体全体を白い煙が覆った。コレ…!変身薬の効果が出る時の特徴…!ということはやっぱり…!
「ゲホッゲホッ…!…ん?なんじゃこりゃ…あれ、僕…」
煙が明けるとそこには…
「僕、シュークリームになってる…?」
巨大なシュークリームが佇んでいた。…ま、ま、ま…!
「またシュークリーム…!」
私達5人の絶叫が、辺り一面に木霊した。
◇
「みんなありがとう。みんなが協力してくれたから、そのお陰でなんとか変身薬を作り上げることが出来たよ」
大感謝大感謝、と手をパタパタとさせながらマッシュ君は言う。
シュークリームだと変身薬の作成が成功したのかそれともまた、マッシュ君の不思議な能力…作る物全てがシュークリームになってしまうというものが発揮されてしまって失敗してしまったのかいまいち判断がつかないので、念の為もう一度作ってみろというランス君の提案に従ってもう一度作ってみると、今度はちゃんとマッシュ君の姿がうさぎの姿へと変えたため無事、変身薬を作ることに成功出来たのであった。
「良かったね、マッシュ君!期限までに何とかギリギリ変身薬作り上げること成功出来て!」
そうニコニコと笑いながら言うフィン君に、マッシュ君は「うん」と頷いている。
良かった…本当に良かった、何とか完成させることが出来て…。
「悪かったな、違う寮であるお前にまで付き合わせてしまって」
マッシュ君とフィン君のやり取りを見つめていると、ランス君に話しかけられた。
「ううん、こちらこそあんまり役に立てなくてごめんね」
そういうと「いや…俺達4人だけだったらきっと投げ出してた」と言ってくれて、少し嬉しくなった。そして少し、顔が熱くなってきた。
ふと、なんだか視線を感じる。なんだろうと思いながら視線の方を見てみるとレモンちゃんがニコニコと笑いながら私のことを見ていた。目が合うと「良かったですね」と、口パクで言われた。その瞬間、更に顔が熱くなってきた。レモンちゃんなんでよかったねなんて言うの…?ま、まさか私がランス君のことを好きだって知っているの?!いや、いやいやいや…!そんな話したことないもんね、なのに知ってるわけないじゃないか…!しかもまだ出会って数日しか経ってないのに…!
「みんな、3日間本当にありがとう。これ、ささやかだけれども僕からのお礼」
マッシュ君が私達に語り掛けてくる。お礼?なんだろう。少しワクワクとしながらマッシュ君の方に目線を向けてみると
「みんなでシュークリームパーチ―をしよう」
大きなお皿に大量のシュークリームを乗せ、私達に見せて来ていた。
「もうシュークリームは勘弁してくれ!!!!!!!!」
私達5人の絶叫が再び、辺り一面に響き渡った。もうしばらくの間シュークリームのことは見たくない。
ちなみに私はそこから1週間ほど、シュークリームの海で溺れたり、シュークリームの山に押しつぶされそうになると言った悪夢に魘されることとなった。シュークリームのことが嫌いになりそうだった。そしてトラウマになりそうだった。匂いも嗅ぎたくない。
カルパッチョ君曰く、授業中に居眠りしながら高確率で魘されて、「シュークリームが襲ってくる…!シュークリームに殺される…!」というような感じの寝言を言っていたらしい。
カルパッチョ君に不思議そうな顔で「何。シュークリームに殺されるって。授業中にどんな夢見てんの。どんな夢見たらシュークリームに殺されるなんて寝言が出てくるの」と聞かれた。だからシュークリームの海で溺れたり、シュークリームの山に埋もれかけて窒息しかける夢を見たと話したら「君、数日休めば」疲れてるんじゃない?と、結構まともなアドバイスをされた。