万有引力には逆らえない
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マッシュ君に級硬貨を賭けて勝負を挑んで来た女の子、ルーナちゃんと僕達は仲良くなり3人でかき氷を食べていた。そこにレモンちゃんがやって来て修羅場に…!なるかと思ったら続いてやって来たランス君を見たルーナちゃんが顔を赤くしだしたかと思うと壊れた玩具のようにラララララ…と言い出して突然倒れ気を失い、修羅場にはならなかった。その代わりもっと大変なことになった気がする。思わずレモンちゃんと2人で絶叫して「大丈夫?!」と声を掛けたが気絶してるルーナちゃんから返事は返って来ない。
「またか…」
ランス君が気絶したルーナちゃんの腕を引き地面に倒れないように支えながら呟いた。また…?ていうか…
「ランス君とルーナちゃんて知り合いなの?」
僕と同じことを思ったらしいマッシュ君が尋ねた。
「小学校同じだった」
その質問にランス君はルーナちゃんを抱き抱えながら答えた。すごく自然にお姫様抱っこしてる…。
「シャルロット家ってあの名門貴族のですか?」
「あぁ。コイツはそのシャルロット家の次女だ」
…まぁ、色々と複雑な事情があるみたいだがな、とルーナちゃんのことを見つめながらボソッと呟いた。ひょっとしてランス君もルーナちゃんが妾の娘で周りからあまりよく思われていない事とか知ってるのかな。…それにしても
「ランス君、さっきルーナちゃんが倒れた時またかって言ってたけど、よく倒れるの?ひょっとして、身体が、弱い、とか…?」
お母さんが身体を壊して亡くなったと言ってたからまさかルーナちゃんも…!そう心配になり聞いてみると、「いや…そういう訳ではない」と否定された。
「コイツ、どういう訳か昔から俺を見ると今みたいに顔真っ赤にしてラって連呼してそのままぶっ倒れるんだ」
寮分けの時も倒れてただろ?変な奴なんだ…と溜息を吐きながら言う。あぁ、そういえば確かに寮分けの儀式の時倒れてたな…。あれはそういうことだったのか。…てかえっ。いや…いやいやいや、ラ、ランス君気付いてないみたいだけど…!
「それってつまりはそういうことじゃ…!」
僕と同じことを考えたらしいレモンちゃんと同時に声を上げた。そんな僕達のことをランス君は怪訝な顔で、マッシュ君はシュークリームをもしゃもしゃと食べながら見ていた。
◇
寮分けの儀式なんて暇で嫌になる。わざわざこんなことしなくても寮分けなんて適当でいいじゃないか。退屈だなと、欠伸をしていたら「デカい欠伸。貴族の娘とは思えないね」と、呆れた様に言われた。
「だって仕方ないでしょ、退屈なんだから」
そう言いながら隣に立つ人物――カルパッチョ・ローヤンの方に目を向ける。
「まぁ退屈なのは同感だけど。でも仮にも貴族の…ていうか女の子が人前で大口開けて欠伸するのはどうかと思うよ」
少しは恥じらいとか持てばと言ってくるカルパッチョ君に「余計なお世話」と返すと「あっそ」と大して興味なさそうな声音で返ってきた。
カルパッチョ君と私は特別仲が良い…という訳ではないがまぁ何かあればそれなりに話はする…そんな感じの仲だ。けど正直、私はカルパッチョ君が少し苦手だ。別に悪い人ではない…のだが少し…いやかなり。かなりヤバい人だ。だからあまり関わりたくないと言うのが本音だ。だけれども何故か、どういう訳か今みたいに何かと絡まれる。どうしてなんだろう…。別にそんなに友好的に接してるとかそういう訳ではないのに。
「にしてもなんか異様に時間かかってない?」
カルパッチョ君の言葉に、言われてみればさっきから1人の生徒にとてつもなく時間がかかっているということに気が付く。どうしたのだろうと思い見てみると、
「シュークリームとは、生地を中が空洞になるよう焼きその空洞にカスタードクリームを詰めた菓子の一種である。特にクッキーシューは硬さのある生地にトロトロのクリームが入っており…」
突然ユニコーンがシュークリームのうんちくについて語り出した。え…何、ユニコーン壊れた…?
「シュークリーム好きはアドラ寮!!」
えっシュークリームで寮決めた?何それ…
「シュークリームとアドラ寮になんの因果関係があるんだよ…」
ぼそっとカルパッチョ君の呟く声が聞こえた。珍しく困惑したような声音だ。そんな彼に「ほんと、どうしたんだろうね」と、相槌を…
「次。ランス・クラウン」
うとうとしたが、その名前を聞いた瞬間、私の頭はそれどころではなくなった。今…今…!ランス・クラウンって言った…?聞き違い…?それとも、同姓同名…?
「ルーナ?」
カルパッチョ君が、不思議そうに私の名前を呼んでいる。すぐ隣にいるはずなのに、カルパッチョ君の声がとても遠くに聞こえる。私の心臓の音が、喧しくてその音に声をかき消されてしまっている。
恐る恐る顔を上げて、たった今ユニコーンの前に立っているであろう人物の方を見る。と、そこには…!
「ラ…ララ、ラララララ…!」
「ラ?は、何。どうしたの」
カルパッチョ君が困惑した声を出し、私に話しかけてくる。が、そんなの気にしている余裕なんてない。
「ラ、ララ、ララララ、ラ、ラン、ランス君…!」
「ランス?今寮分けしてる奴?」
カルパッチョ君がそういった瞬間。ばっちりと。ばっちりと、目が合った。彼――ランス・クラウンと。
それを最後に、その日の記憶が全くない。
◇
目を開くと、視界に入って来たのは見覚えのある天井。この天井は確か、保健室の天井だ。なんで保健室に?
あれ、なんか前にもこんなことがあったような…あっ。そうだあれだ。寮分けの儀式の時だ。寮分けの儀式の時に、小学生の頃の初恋であり、未だ絶賛片思い中である人物…ランス・クラウンがいて驚き、狼狽えていたらランス君とばっちりと目が合って驚きのあまり倒れたんだ。カルパッチョ君が保健室まで連れて行ってくれたらしい。目を覚ました後しばらくグチグチと文句を言われて面倒くさかった。…保険室まで運んでくれたことには感謝しているけど。
…あれ。私、今回はどうして倒れたんだっけ。マッシュ君と戦って、色々あってかき氷食べて、マッシュ君とフィン君と仲良くなって談笑してたらそこに可愛い女の子がやって来て、その子に誤解されてそれでその子と修羅場になりかけて…あぁ、そうだ思い出した。
「ランス君が…来たんだ。でもあれ、幻かなんかだったんだろうなきっと…」
「誰が幻だ。勝手に人の存在消し去るな」
現実逃避をしようと独り言を呟くと、そんなつっこみが入ってきた。って、あっ?!こ、この声…!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ラッ!ラララ、ラ、ラン、ランス君???!!!」
「うるせぇ…お前、俺の耳を破壊する気か…」
私の叫び声に、ランス君は眉間に皺を寄せ、耳を塞ぎながら迷惑そうな顔をする。
「ご、ごめん…。…あ、あの…お久し…ぶり、です…」
そう挨拶すると「おう」と、ぶっきらぼうな返事が返って来た。
「小学校の卒業式以来だな」
ランス君が椅子に座り直しながら言う。
「う、うん、そ、そうだね…。びっくりした…。寮分けの時、ランス君の名前呼ばれてて…」
何年ぶりだろう。話をするの。心臓の音が喧しい。このまま壊れてしまうんじゃないかという気さえしてくる。変なこと言ってしまったらどうしよう…。
「あの時もお前倒れてたな」
み、見られてた…!
「気づかれてたんだ…」
「そりゃあんな人が集まる中ぶっ倒れたら気付くわ」
倒れる前に思い切り目が合ったしな、と付け足された。や、やっぱり目合ってたんだ…!
「お前なんなんだ昔から…。俺の顔見る度ぶっ倒れやがって」
心底不思議だ…と言いたそうな顔で、そして少々不機嫌そうな表情で尋ねられた。倒れたくて倒れてる訳じゃないよ…そう返すと、好き好んで倒れられてたらたまったもんじゃねぇよ、と返された。
それ以降、ランス君は黙り込んでしまった。黙り込んでいる間も、じっと見つめて来る。視線が痛い。だらだらと、汗が止まらなくなって来た。顔が熱い。な、なんだろう。私、顔に何かついてる?!ど、どうしよう…。寝てたからメイクが悲惨なことになってるとかだったら泣く…!
「マッシュと級硬貨を賭けて勝負したそうだな」
不意にランス君が口を開いた。
「えっ…う、うん…」
なんだ、顔に何かついてるとかそういう訳ではないのか。良かった…。
「神覚者目指してるのか」
相変わらず私のことをじっと見つめながら尋ねて来る。どうしてそんなこと聞くのだろうと疑問に思いつつもこくりと頷くと、
「お前には無理だ。諦めろ」
そうはっきりと、私から一切目を逸らさずに少しキツイ口調で言い切られた。
「は?」
思わずそんな単語が漏れた。
「どうして?」
「神覚者になるには過酷な道を進まないといけない。もちろん、なってからもな。お前が想像しているよりもずっと、ずっと大変で過酷な辛い道になる。お前みたいな弱い泣き虫ないじめられっ子が絶えれるわけがない。だから諦めろと、やめろと言ってるんだ」
弱い、泣き虫ないじめられっ子…
「そんなの、昔の話でしょ。私はもう、弱くない。泣き虫じゃない。いじめられっ子じゃない」
さっきまで喧しかった心臓が、今じゃ信じられないくらい静かになった。顔ももう、熱くない。驚くくらい、冷静になった。体温がいつも以上に低くなった気がする。
ランス君の表情が少し、険しくなった。
「ランス君の中で私のイメージは、いつも周りの子にいじめられて、何もできずにただめそめそ泣いてただけの、何も出来ないどうしようもない女の子…ルーナ・シャルロットのままなんだろうね。それは仕方ないと思う。だって事実だもん。私が弱い泣き虫ないじめられっ子だったのはまごうことなき事実だから。けど今は違う。ちゃんといじめっ子に立ち向かっていけるくらい、強くなったの。前に進んだの」
でも。そんなのどうでもいい。いくらランス君でも、いくら初恋の人でも、こんな好き勝手言われて黙ってられるほど私は大人じゃない。
「私は誰が何と言おうと神覚者を目指す。試験を受ける。そして神覚者になって、お母さんみたいな思いをする人を減らすの」
ランス君の目をじっと見つめ言い返す。お互い何も言わずにしばらく見つめ合う。
「そんなの…」
「まぁまぁランス君そんな頭ごなしに否定しないで。シュークリームでも食べて頭冷やしな」
「むぐっ?!」
ランス君が何か言おうとした瞬間、どこからともなくマッシュ君が現れ、ランス君の口にシュークリームを無理矢理突っ込んで黙らせた。
「マ、マッシュ君…!何も口にシュークリーム突っ込むことはないんじゃ…!」
「そ、そうですよ…!も、もう少しなんか、なんか…!」
あわあわと焦ったようにマッシュ君にフィン君とレモンちゃんという子が止めようとする。
「いやー、ランス君なんかイライラしてたみたいだから。イライラしてる時には甘い物が良いと思って」
そう言いながらマッシュ君が自分でもシュークリームを食べ始めた。この子、ほんとマイペースだな…。
「ふざけるなお前…!今俺はコイツに大切な話を…」
「神覚者を目指すの諦めろとかやめろなんて、ランス君が言うべきじゃないと思うよ」
文句を言おうとしたであろうランス君の言葉を遮ってマッシュ君が言う。
「…あ?」
「ランス君さっき、ルーナちゃんに神覚者目指すの諦めろとかやめろって言ってたけど、そんなこと君が言うべきじゃないと思うよ。目指す目指さないはその人…ルーナちゃん本人が決めるべきことであって、ランス君はもちろん、僕やフィン君、レモンちゃんとか他人が口出しすることじゃないんじゃないかな」
マッシュ君が真っ直ぐとランス君を見つめながらはっきりとした口調で言う。
「…ていうか。ランス君らしくないよ、そんな風に自分の意見人に押し付けようとするなんて」
どうしたの?なんかあった?と尋ねるマッシュ君に、ランス君がバツの悪そうな顔をしつつ
「…悪い。少し、頭冷やしてくる」
そう呟き、保健室から出て行ってしまった。
………。は、初恋の人と久しぶりの再会だったのに…!久しぶりの会話だったのに…!なのにまさかこんな、こんな修羅場になってしまうなんて…!泣きたい…。
「またか…」
ランス君が気絶したルーナちゃんの腕を引き地面に倒れないように支えながら呟いた。また…?ていうか…
「ランス君とルーナちゃんて知り合いなの?」
僕と同じことを思ったらしいマッシュ君が尋ねた。
「小学校同じだった」
その質問にランス君はルーナちゃんを抱き抱えながら答えた。すごく自然にお姫様抱っこしてる…。
「シャルロット家ってあの名門貴族のですか?」
「あぁ。コイツはそのシャルロット家の次女だ」
…まぁ、色々と複雑な事情があるみたいだがな、とルーナちゃんのことを見つめながらボソッと呟いた。ひょっとしてランス君もルーナちゃんが妾の娘で周りからあまりよく思われていない事とか知ってるのかな。…それにしても
「ランス君、さっきルーナちゃんが倒れた時またかって言ってたけど、よく倒れるの?ひょっとして、身体が、弱い、とか…?」
お母さんが身体を壊して亡くなったと言ってたからまさかルーナちゃんも…!そう心配になり聞いてみると、「いや…そういう訳ではない」と否定された。
「コイツ、どういう訳か昔から俺を見ると今みたいに顔真っ赤にしてラって連呼してそのままぶっ倒れるんだ」
寮分けの時も倒れてただろ?変な奴なんだ…と溜息を吐きながら言う。あぁ、そういえば確かに寮分けの儀式の時倒れてたな…。あれはそういうことだったのか。…てかえっ。いや…いやいやいや、ラ、ランス君気付いてないみたいだけど…!
「それってつまりはそういうことじゃ…!」
僕と同じことを考えたらしいレモンちゃんと同時に声を上げた。そんな僕達のことをランス君は怪訝な顔で、マッシュ君はシュークリームをもしゃもしゃと食べながら見ていた。
◇
寮分けの儀式なんて暇で嫌になる。わざわざこんなことしなくても寮分けなんて適当でいいじゃないか。退屈だなと、欠伸をしていたら「デカい欠伸。貴族の娘とは思えないね」と、呆れた様に言われた。
「だって仕方ないでしょ、退屈なんだから」
そう言いながら隣に立つ人物――カルパッチョ・ローヤンの方に目を向ける。
「まぁ退屈なのは同感だけど。でも仮にも貴族の…ていうか女の子が人前で大口開けて欠伸するのはどうかと思うよ」
少しは恥じらいとか持てばと言ってくるカルパッチョ君に「余計なお世話」と返すと「あっそ」と大して興味なさそうな声音で返ってきた。
カルパッチョ君と私は特別仲が良い…という訳ではないがまぁ何かあればそれなりに話はする…そんな感じの仲だ。けど正直、私はカルパッチョ君が少し苦手だ。別に悪い人ではない…のだが少し…いやかなり。かなりヤバい人だ。だからあまり関わりたくないと言うのが本音だ。だけれども何故か、どういう訳か今みたいに何かと絡まれる。どうしてなんだろう…。別にそんなに友好的に接してるとかそういう訳ではないのに。
「にしてもなんか異様に時間かかってない?」
カルパッチョ君の言葉に、言われてみればさっきから1人の生徒にとてつもなく時間がかかっているということに気が付く。どうしたのだろうと思い見てみると、
「シュークリームとは、生地を中が空洞になるよう焼きその空洞にカスタードクリームを詰めた菓子の一種である。特にクッキーシューは硬さのある生地にトロトロのクリームが入っており…」
突然ユニコーンがシュークリームのうんちくについて語り出した。え…何、ユニコーン壊れた…?
「シュークリーム好きはアドラ寮!!」
えっシュークリームで寮決めた?何それ…
「シュークリームとアドラ寮になんの因果関係があるんだよ…」
ぼそっとカルパッチョ君の呟く声が聞こえた。珍しく困惑したような声音だ。そんな彼に「ほんと、どうしたんだろうね」と、相槌を…
「次。ランス・クラウン」
うとうとしたが、その名前を聞いた瞬間、私の頭はそれどころではなくなった。今…今…!ランス・クラウンって言った…?聞き違い…?それとも、同姓同名…?
「ルーナ?」
カルパッチョ君が、不思議そうに私の名前を呼んでいる。すぐ隣にいるはずなのに、カルパッチョ君の声がとても遠くに聞こえる。私の心臓の音が、喧しくてその音に声をかき消されてしまっている。
恐る恐る顔を上げて、たった今ユニコーンの前に立っているであろう人物の方を見る。と、そこには…!
「ラ…ララ、ラララララ…!」
「ラ?は、何。どうしたの」
カルパッチョ君が困惑した声を出し、私に話しかけてくる。が、そんなの気にしている余裕なんてない。
「ラ、ララ、ララララ、ラ、ラン、ランス君…!」
「ランス?今寮分けしてる奴?」
カルパッチョ君がそういった瞬間。ばっちりと。ばっちりと、目が合った。彼――ランス・クラウンと。
それを最後に、その日の記憶が全くない。
◇
目を開くと、視界に入って来たのは見覚えのある天井。この天井は確か、保健室の天井だ。なんで保健室に?
あれ、なんか前にもこんなことがあったような…あっ。そうだあれだ。寮分けの儀式の時だ。寮分けの儀式の時に、小学生の頃の初恋であり、未だ絶賛片思い中である人物…ランス・クラウンがいて驚き、狼狽えていたらランス君とばっちりと目が合って驚きのあまり倒れたんだ。カルパッチョ君が保健室まで連れて行ってくれたらしい。目を覚ました後しばらくグチグチと文句を言われて面倒くさかった。…保険室まで運んでくれたことには感謝しているけど。
…あれ。私、今回はどうして倒れたんだっけ。マッシュ君と戦って、色々あってかき氷食べて、マッシュ君とフィン君と仲良くなって談笑してたらそこに可愛い女の子がやって来て、その子に誤解されてそれでその子と修羅場になりかけて…あぁ、そうだ思い出した。
「ランス君が…来たんだ。でもあれ、幻かなんかだったんだろうなきっと…」
「誰が幻だ。勝手に人の存在消し去るな」
現実逃避をしようと独り言を呟くと、そんなつっこみが入ってきた。って、あっ?!こ、この声…!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ラッ!ラララ、ラ、ラン、ランス君???!!!」
「うるせぇ…お前、俺の耳を破壊する気か…」
私の叫び声に、ランス君は眉間に皺を寄せ、耳を塞ぎながら迷惑そうな顔をする。
「ご、ごめん…。…あ、あの…お久し…ぶり、です…」
そう挨拶すると「おう」と、ぶっきらぼうな返事が返って来た。
「小学校の卒業式以来だな」
ランス君が椅子に座り直しながら言う。
「う、うん、そ、そうだね…。びっくりした…。寮分けの時、ランス君の名前呼ばれてて…」
何年ぶりだろう。話をするの。心臓の音が喧しい。このまま壊れてしまうんじゃないかという気さえしてくる。変なこと言ってしまったらどうしよう…。
「あの時もお前倒れてたな」
み、見られてた…!
「気づかれてたんだ…」
「そりゃあんな人が集まる中ぶっ倒れたら気付くわ」
倒れる前に思い切り目が合ったしな、と付け足された。や、やっぱり目合ってたんだ…!
「お前なんなんだ昔から…。俺の顔見る度ぶっ倒れやがって」
心底不思議だ…と言いたそうな顔で、そして少々不機嫌そうな表情で尋ねられた。倒れたくて倒れてる訳じゃないよ…そう返すと、好き好んで倒れられてたらたまったもんじゃねぇよ、と返された。
それ以降、ランス君は黙り込んでしまった。黙り込んでいる間も、じっと見つめて来る。視線が痛い。だらだらと、汗が止まらなくなって来た。顔が熱い。な、なんだろう。私、顔に何かついてる?!ど、どうしよう…。寝てたからメイクが悲惨なことになってるとかだったら泣く…!
「マッシュと級硬貨を賭けて勝負したそうだな」
不意にランス君が口を開いた。
「えっ…う、うん…」
なんだ、顔に何かついてるとかそういう訳ではないのか。良かった…。
「神覚者目指してるのか」
相変わらず私のことをじっと見つめながら尋ねて来る。どうしてそんなこと聞くのだろうと疑問に思いつつもこくりと頷くと、
「お前には無理だ。諦めろ」
そうはっきりと、私から一切目を逸らさずに少しキツイ口調で言い切られた。
「は?」
思わずそんな単語が漏れた。
「どうして?」
「神覚者になるには過酷な道を進まないといけない。もちろん、なってからもな。お前が想像しているよりもずっと、ずっと大変で過酷な辛い道になる。お前みたいな弱い泣き虫ないじめられっ子が絶えれるわけがない。だから諦めろと、やめろと言ってるんだ」
弱い、泣き虫ないじめられっ子…
「そんなの、昔の話でしょ。私はもう、弱くない。泣き虫じゃない。いじめられっ子じゃない」
さっきまで喧しかった心臓が、今じゃ信じられないくらい静かになった。顔ももう、熱くない。驚くくらい、冷静になった。体温がいつも以上に低くなった気がする。
ランス君の表情が少し、険しくなった。
「ランス君の中で私のイメージは、いつも周りの子にいじめられて、何もできずにただめそめそ泣いてただけの、何も出来ないどうしようもない女の子…ルーナ・シャルロットのままなんだろうね。それは仕方ないと思う。だって事実だもん。私が弱い泣き虫ないじめられっ子だったのはまごうことなき事実だから。けど今は違う。ちゃんといじめっ子に立ち向かっていけるくらい、強くなったの。前に進んだの」
でも。そんなのどうでもいい。いくらランス君でも、いくら初恋の人でも、こんな好き勝手言われて黙ってられるほど私は大人じゃない。
「私は誰が何と言おうと神覚者を目指す。試験を受ける。そして神覚者になって、お母さんみたいな思いをする人を減らすの」
ランス君の目をじっと見つめ言い返す。お互い何も言わずにしばらく見つめ合う。
「そんなの…」
「まぁまぁランス君そんな頭ごなしに否定しないで。シュークリームでも食べて頭冷やしな」
「むぐっ?!」
ランス君が何か言おうとした瞬間、どこからともなくマッシュ君が現れ、ランス君の口にシュークリームを無理矢理突っ込んで黙らせた。
「マ、マッシュ君…!何も口にシュークリーム突っ込むことはないんじゃ…!」
「そ、そうですよ…!も、もう少しなんか、なんか…!」
あわあわと焦ったようにマッシュ君にフィン君とレモンちゃんという子が止めようとする。
「いやー、ランス君なんかイライラしてたみたいだから。イライラしてる時には甘い物が良いと思って」
そう言いながらマッシュ君が自分でもシュークリームを食べ始めた。この子、ほんとマイペースだな…。
「ふざけるなお前…!今俺はコイツに大切な話を…」
「神覚者を目指すの諦めろとかやめろなんて、ランス君が言うべきじゃないと思うよ」
文句を言おうとしたであろうランス君の言葉を遮ってマッシュ君が言う。
「…あ?」
「ランス君さっき、ルーナちゃんに神覚者目指すの諦めろとかやめろって言ってたけど、そんなこと君が言うべきじゃないと思うよ。目指す目指さないはその人…ルーナちゃん本人が決めるべきことであって、ランス君はもちろん、僕やフィン君、レモンちゃんとか他人が口出しすることじゃないんじゃないかな」
マッシュ君が真っ直ぐとランス君を見つめながらはっきりとした口調で言う。
「…ていうか。ランス君らしくないよ、そんな風に自分の意見人に押し付けようとするなんて」
どうしたの?なんかあった?と尋ねるマッシュ君に、ランス君がバツの悪そうな顔をしつつ
「…悪い。少し、頭冷やしてくる」
そう呟き、保健室から出て行ってしまった。
………。は、初恋の人と久しぶりの再会だったのに…!久しぶりの会話だったのに…!なのにまさかこんな、こんな修羅場になってしまうなんて…!泣きたい…。