万有引力には逆らえない
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悪名高いロイド・キャベルと教頭がマッシュ・バーンデッドという生徒により成敗されたらしい。中等部の頃から彼らの悪行の数々はよく耳にしていた。いつか天罰が下るだろうとは思っていたが、まさか1人の生徒によって下されるとは思わなかったな。あの2人がどうなろうが興味はない。そんなのよりも気になるのはあの人達を成敗した方…マッシュ・バーンデッドっていう子の方が気になる。どんな子なのか少し調べてみようと決め、彼の情報を集め始めて数日が経った。違う寮の生徒なので性格とかはわからないけれども魔法はあまり得意ではない様だという印象を受けた。ドゥエロの試合を見るに、箒に乗るのもあんまり得意ではないみたいだった。足を猛スピードでバタバタとさせながら浮いていた姿が目に焼き付いている。飛んでいるというよりも浮いていると言った方がしっくりくる。体力はとんでもないくらいありそうだなと思った。ドゥエロの試合を見る限りの感想だが。箒に乗る技術が未熟な分、それらを全て気力と体力で乗り切った…というとこだろうか。そういったところを鑑みると、私が彼に戦いを挑んだところで手も足も出ないだろう。けど、
「こんにちは、マッシュ・バーンデッド君。ねぇ、私に貴方の持っている級硬貨。それちょうだい」
私には魔法があるんだ。だからこんな筋肉だけの男の子に負けることは絶対にない。
「級硬貨?あげませんけど」
私の言葉に、バーンデッド君はもしゃもしゃと音を立ててシュークリームを食べながら断りの言葉を入れた。神覚者を目指しているらしいし、当然といえば当然か。
「そう。なら私と級硬貨を賭けて勝負しましょう。私が勝ったら貴方の持ってる級硬貨を頂戴」
もちろんそっちが勝ったら私のを上げるから。そう付け足すと、「うっす」とシュークリームを飲み込み返事をした。そんなバーンデッド君を「えっちょっ…!マッ、マッシュ君待って…!シャルロットさんは二線魔導士だよ?!やめた方が良いって!中等部の頃からすごく優秀な子だし!」一緒にいた男の子が慌てて止めている。この子は確か、フィン・エイムズ君だったっけ。お兄さんが去年の神覚者に選ばれたレイン・エイムズさんだったな。…お兄さんはとても優秀だけど、この子は内部進学ボーダーギリギリでお世辞にも優秀とは言えない子、だったと記憶している。すごく優しそうな人ではありそうだけど。
「フィン君知り合い?」
「僕と同じ内部進学組の子で、ルーナ・シャルロットさんっていうんだ。あの名門貴族である、シャルロット家の娘さんだよ」
エイムズ君が懇切丁寧に説明している。名門貴族…ね。あんなの唯のクズの集まりなのに。
「シャーベット家?有名なシャーベット屋さんの娘さんなんだ。いいな、今度食べてみたい」
……何言ってるのこの人。
「いや、シャーベット家じゃなくてシャルロット家だよ…。結構有名なんだけど…知らないんだね…」
エイムズ君が呆れつつも慣れた様につっこんでいる。いつもこんな感じなのかな。まぁ、どうでもいいや。
「早くしましょう。私忙しいの。…アイシクルス」
そう言いながらエイムズ君の前になるべく大きめの氷壁を作る。私のその行動に驚いたらしく、エイムズ君は「うわぁぁぁぁ!!!」と絶叫した。
「エイムズ君はその氷壁の後ろにいた方が良いよ。それ頑丈だから。盾として使って」
そしたらケガしないで済むよ、というと「え…?あ、う、うん…」と戸惑った様子で返事をした。
「シャーベット屋の娘さんだから氷出すの?でも氷だとシャーベットよりもかき氷の方が良さそう」
シャーベットってまだ言ってたこの人。
「だからシャーベット家じゃなくてシャルロット家だよマッシュ君!!!」
なんなのこの人。馬鹿にしてるの?それだけ余裕ってこと?女子生徒相手だからって舐められているのかも。失礼な人。
「アイシクルス」
こんな人に負ける訳ないじゃない。バーンデッド君の立っている地面の下に氷壁を出す。高所まで行かせてそこから落として…やろうとしたが、出現させた氷壁をあっさりと躱された。結構スピード有るはずなのに。まさか躱されるなんて。
「大きい氷。沢山かき氷作れそう」
どんだけかき氷食べたいのこの人。
「どんだけかき氷食べたいのマッシュ君!!」
なんなのこの人。
「貴方ふざけてるの?私は真剣なの。真剣に神覚者を目指してるの。邪魔しないで」
腹が立つ。私は絶対に神覚者にならないといけないんだ。神覚者になってそれで、
『ルーナ…ごめん、ね…。お母さん、何もしてあげられなくて。貴方に、つら、い思いばっか、させ、て…ごめ、なさ…』
貴族社会を壊して、お母さんみたいな思いをする人をなくすんだ!!!
「アイシクルス」
先程よりも大きな氷壁を出す。今度は躱せな…
「ふんっ」
バーンデッド君の声と共に凄まじい轟音が響き、氷壁が倒れた。えっ…えっ?嘘…私の氷壁、蹴りで壊され…えっ?ひょ、氷壁、蹴りで壊された…。えっ怖っ。私の氷壁、かなり頑丈で生身の人間が蹴ったくらいじゃどうにもならないハズ…。魔法を使った…?いや、そんな素振りは見せてなかった…。
「ストームアイシクルス!!」
でもごちゃごちゃ考えたって仕方ない。考えるのはこの子に勝ってからだ。バーンデッド君に暴風雨の如く氷柱と氷をぶつけ…
「ふんっ」
ようとしたが、パシッと氷柱を一本キャッチした。何をする気なのかと疑問に思った次の瞬間、
「ふんふんふんっ」
氷柱をバッドの様にして振りながら氷と氷柱を打ち返してきた。いや…は?
「ア、アイシクルス!!」
何が起きたのか一瞬理解出来ず、呆然としかけてしまったが大量の氷と氷柱が跳ね返ってきているのを見て正気に戻り、慌てて自分の前に氷壁を出して盾にする。ど、どうしよう…。氷壁を出したところでさっきみたいにあっさりと破壊され…
「ふんふんふんふんふんふんふんふんっっっ」
バーンデッド君の声と一緒に何かを削る様な音はする。何この音…。そっと氷壁から顔を覗かせて見ると、
「えっ…はっ…?」
バーンデッド君が氷柱で氷壁を削り、どこからどうやって出したのか大きめの紙コップに削った氷を落としている。何、してるの…?てかえっこれってまさか…
「フィン君、かき氷いっぱい出来たよ。食べよー」
私の出した氷壁で、かき氷作ってる…!…いや、どゆこと?は…え…は?なっえっか、かき氷…?
「なんで?!」
思わず声を上げると、見事にエイムズ君と同じタイミングでつっこんでしまった。
「氷沢山あったから」
いやいやいやいやいや…
「はい、これは君の分。せっかくだから3人で食べよう」
美味しいんじゃないかな、と言いながらかき氷を渡され「えっあ、ありがとう…?」と言って受け取ってしまった。
受け取ったはいいけどどうすればいいの…?ていうか、普通地面から生えた氷でかき氷作って食べる…?どういう神経してるの怖っ…。エイムズ君もちょっと引いてるし…。これ、私の負けになるの…?えっ私、かき氷に負けるの…?そんなの嫌っ…!
「かき氷なんて食べてる場合じゃないの!私と賭けを…」
「もう終わりにしよう。かき氷もあるし」
ね、3人で食べよ。と、かき氷をもしゃもしゃと食べながら話をされた。
「冗談でしょ?早く、賭けの続きを…!」
「無駄だよ。だって君より、僕の方が強いし」
相変わらずかき氷を食べながら言う。
「なっ…!」
「大丈夫。君の級硬貨貰う気ないから。君、良い人そうだし」
そんなことよりほら、溶ける前にかき氷食べようよと、私にかき氷を食べる様にという。なんか、気が抜けてきた…。
「良い人そうって…。賭けを挑んで来るような人のことをどうしてそう思うの…」
呆れて思わず呟いてしまった。
「フィン君のこと。巻き込まない様にしてたから」
「えっ…」
「君、僕に攻撃する前にフィン君巻き込まない様に氷壁で盾を作ってたでしょ。大抵の人は、周囲のことなんて考えないと思うんだ。酷い人なら、フィン君を人質とかにしそうだし」
バーンデッド君の言葉に「怖いこと言わないでよマッシュ君!!」とエイムズ君が絶叫する。
「あ…でも、うん。僕も、そう思うよ。シャルロットさんていい人だなって。わざわざ僕のこと気にかけてくれてさ」
戦うってなると、周りへの被害とか考えれなくなっちゃう人がほとんどなんじゃないかなと、ボソッと呟かれた。
「それにシャルロットさん、中等部の時親切にしてくれたし」
中等部の時…?なんの話だろう。眉間に皺を寄せながら考え込んでいると、「覚えてない?」と聞かれた。こくりと頷くと、ぽつりぽつりとエイムズ君が語り出した。
「中等部の時に、僕が中庭を1人で掃除してたらシャルロットさん、どうして1人で掃除してるのって話し掛けてくれたんだよ。それで、他の子達に押し付けられたって言ったら手伝ってくれて……。僕、その頃君のこと、あんまり良い噂を聞かなかったからさ、その…。すごく嫌な人だって勝手に思ってたんだ…。けど、実際のシャルロットさんは見ず知らずの人のことを当たり前の様に手伝うような良い人なんだって、思ったんだ」
だから僕も、マッシュ君の言う様に君はすごく優しくて良い人なんだって思うよ、と。そう続けた。
「…そんなの、別に。お母さんが、困ってそうな人がいたら手伝ってあげるんだよ、って。そう言っていたから手伝っただけだし…」
ていうか私そのこと覚えてないし…俯きながらそう思っていると、
「じゃあそんな教えをした君のお母さんはすごく良い人で、その良い人の娘である君もやっぱり良い人だね」
バーンデッド君のそんな言葉が耳に入って来た。驚いて顔を上げてバーンデッド君の方を見ると、
「ひひゃー、ひょんひょ、ひぃひひょ」
さっきのかき氷を音を立てながら食べ、話している。
「いや台無し!良いこと言ってる風だけど台無しだよマッシュ君!!」
そしてエイムズ君のつっこみが響き渡った。なんかこのやり取りさっきも見た様な…。……お母さんのこと、良い人だなんて言ってくれた人、初めてだな。
『あんたの母親は最低最悪な泥棒猫よ!』
『母親は頭の出来も残念で、魔法の才能もない無能だったがお前は違ってよかった』
『あの女面の皮分厚いにも程があるわよね、あんな身分の癖に旦那様と子供を設けるなんて』
『本当よね。挙句の果てに身体壊して娘遺して死ぬなんて』
『二線魔導士の娘を生んだ以外、なんの役にも立たなかった女だったな』
あの家の、あのクズ共とは大違いだ。なんか…馬鹿馬鹿しくなってきた。思わず声を上げて笑ってしまうと、バーンデッド君もエイムズ君も私のことを引きながら見ている。失礼な人達。
「完敗ね。私の負け。…級硬貨、いらないって言ったけれどそれだとなんか人としても負けた気がして悔しいからあげる。受け取って」
そう言いながら渡すと、「えっマジすか。ども」と言って受け取ってくれた。
「じゃ3人でかき氷食べよう」
「食べるの?!」
私とエイムズ君のつっこみを気にも留めず、1人でかき氷を頬張るバーンデッド君。…なんか、調子狂うな。エイムズ君と目が合うと、2人して思わず苦笑した。
◇
「へぇ、ルーナちゃんて貴族の娘なんだ。シャーベット屋の娘さんじゃなかったんだね」
かき氷を早々に完食したマッシュ君が、シュークリームをもしゃもしゃと音を立てて食べながら言う。
「うん、さんざっぱら言ったよね、シャーベット屋じゃないって」
そんな彼に、フィン君が呆れた様子で言う。
「シャルロット家のこと知らない人に初めて出会ったよ」
ここ数分のやり取りで、マッシュ君がとてつもなくマイペースな人物なんだということがよく分かった。
「…あの、ルーナちゃん。こんなこと聞いたら、気を悪くしちゃうかもしれないけど、さ…。聞いても良い、かな…?」
フィン君が俯き気味に、そして言い辛そうに尋ねてきた。「何?」と聞くと、覚悟を決めた様に
「中等部の頃、君の悪い噂を沢山聞いたって言ったでしょ?それってやっぱり、その、君が…」
そこまで言ってまた、俯いて黙り込んでしまった。君が…の続きは多分、
「えぇ。私が正妻の娘ではなく、妾の娘だからよ。妾の娘である私が、二線魔導士でしかもこの名門校であるイーストンに入学したことが気に食わない連中が流したんでしょうね」
妾の娘だから?そう続けたかったのだろうと思い、答えるとフィン君は「やっぱりそうなんだ……酷い……」と、怒った様にボソッと呟いた。…この子やっぱり優しい。思ってた以上に優しい子なのかな。
「貴族なんてそんなもんだよ。みんながみんなそうとは言わないけど、クズが多いの。たまたまお金持ちの良い家に生まれたってだけなのに、自分の努力とかで手に入れたってわけじゃないのに、みんな自分のこと偉いって思い込んで何してもいいって思い込んじゃってる人ばっかり。……妾ってだけで、私のお母さんは周囲から沢山酷いことされたの。そのせいで身も心も壊してしまって、亡くなっちゃった」
だから私は、神覚者になって貴族社会を潰し、お母さんみたいな辛い思いをする人を少しでも減らすんだ。
「…あっごめん、こんな話してしまって」
思わず熱弁してしまい、慌てて2人に謝罪すると「大丈夫だよ」とフィン君が言ってくれた。マッシュ君も、気にしていない様でほっと胸を撫で下ろす。
「マッシュくーん、フィンくーん!」
少し遠くの方から女の子の2人を呼ぶ声が聞こえてきた。視線を向けてみると、黄色の髪にオレンジのリボンカチューシャを着けた可愛らしい女の子が手を振りながら走って来ていた。2人の友達だろうか。
「あっレモンちゃん!」
フィン君が女の子に声を掛けながら手を振り返している。あの子はレモンっていうのか。
「2人共探しましたよー!」
そう言いながらレモンちゃんという子がニコニコと笑い2人に声を掛けている。近くで見るともっと可愛い子だな。美少女って感じで。アドラ寮服着てるし、2人の友達で間違いないのだろう。
「ん?こちらの方は?」
私のことに気が付いたらしい大きくてくりくりとした印象的な目と目が合った。と、次の瞬間
「まっまさか!浮気ですか?!マッシュ君私というものがありながら!!!」
突然叫び出し、そしてマッシュ君の肩を掴みガクガクと揺らしている。ものすごく激しくて、実際にやられたら酔ってしまいそうだがマッシュ君は「んごごごご…」と謎の言葉を発しながらシュークリームを食べている。こんな状況下で食べる普通…?どんなメンタルしてるのこの人…。
浮気…って言われてるということはマッシュ君とこの子付き合ってるの?私とんでもない誤解を生んでる…?ど、どうしよう早く誤解を解かないと…!と、2人の間に入ろうとすると、
「ルーナちゃん、大丈夫だよ、そっとしておいて…」
肩をぽん、とフィン君に叩かれ止められた。フィン君なんか疲れてる…?急にげっそりとしだした気が…。いつも、こんな感じなのかな…?
「おい。何してんだお前ら」
突然聞こえてきたその人の声に、どっくん。と、心臓の音が波打ちだした。こ、この声…!
「あっシスターコンプレックス」
マッシュ君のそんな声が遠くに聞こえる。
「ったく、お前ら放課後は勉強会だと伝えていただろ。課題もまだ終わっていないのに何こんなとこで油売ってんだ。しかもどうしてオルカ寮の奴といるんだよ」
不機嫌そうな、呆れたような声で話す、この声…!
ど、どうしよう、後ろ、振り向けない…!
「お前も。いい度胸だな、1人で他寮の奴が沢山いる中に来るなんて…て、あ?お前…」
私の目の前に突然、水色の髪に水色の目、右の頬に伸びる二本線と、土星のピアスを着けた整った顔立ちの少年が、ドアップで現れる。あぁ、やっぱり…!
「ラ、ラララ、ラララララ、ラ、ラララ…!」
目の前にはやはり、思い描いた通りの人物―――ランス・クラウンの姿があった。
「お前、シャルロット家の…」
と彼、ランス君が口にしたと同時に私の意識は途切れた。
「こんにちは、マッシュ・バーンデッド君。ねぇ、私に貴方の持っている級硬貨。それちょうだい」
私には魔法があるんだ。だからこんな筋肉だけの男の子に負けることは絶対にない。
「級硬貨?あげませんけど」
私の言葉に、バーンデッド君はもしゃもしゃと音を立ててシュークリームを食べながら断りの言葉を入れた。神覚者を目指しているらしいし、当然といえば当然か。
「そう。なら私と級硬貨を賭けて勝負しましょう。私が勝ったら貴方の持ってる級硬貨を頂戴」
もちろんそっちが勝ったら私のを上げるから。そう付け足すと、「うっす」とシュークリームを飲み込み返事をした。そんなバーンデッド君を「えっちょっ…!マッ、マッシュ君待って…!シャルロットさんは二線魔導士だよ?!やめた方が良いって!中等部の頃からすごく優秀な子だし!」一緒にいた男の子が慌てて止めている。この子は確か、フィン・エイムズ君だったっけ。お兄さんが去年の神覚者に選ばれたレイン・エイムズさんだったな。…お兄さんはとても優秀だけど、この子は内部進学ボーダーギリギリでお世辞にも優秀とは言えない子、だったと記憶している。すごく優しそうな人ではありそうだけど。
「フィン君知り合い?」
「僕と同じ内部進学組の子で、ルーナ・シャルロットさんっていうんだ。あの名門貴族である、シャルロット家の娘さんだよ」
エイムズ君が懇切丁寧に説明している。名門貴族…ね。あんなの唯のクズの集まりなのに。
「シャーベット家?有名なシャーベット屋さんの娘さんなんだ。いいな、今度食べてみたい」
……何言ってるのこの人。
「いや、シャーベット家じゃなくてシャルロット家だよ…。結構有名なんだけど…知らないんだね…」
エイムズ君が呆れつつも慣れた様につっこんでいる。いつもこんな感じなのかな。まぁ、どうでもいいや。
「早くしましょう。私忙しいの。…アイシクルス」
そう言いながらエイムズ君の前になるべく大きめの氷壁を作る。私のその行動に驚いたらしく、エイムズ君は「うわぁぁぁぁ!!!」と絶叫した。
「エイムズ君はその氷壁の後ろにいた方が良いよ。それ頑丈だから。盾として使って」
そしたらケガしないで済むよ、というと「え…?あ、う、うん…」と戸惑った様子で返事をした。
「シャーベット屋の娘さんだから氷出すの?でも氷だとシャーベットよりもかき氷の方が良さそう」
シャーベットってまだ言ってたこの人。
「だからシャーベット家じゃなくてシャルロット家だよマッシュ君!!!」
なんなのこの人。馬鹿にしてるの?それだけ余裕ってこと?女子生徒相手だからって舐められているのかも。失礼な人。
「アイシクルス」
こんな人に負ける訳ないじゃない。バーンデッド君の立っている地面の下に氷壁を出す。高所まで行かせてそこから落として…やろうとしたが、出現させた氷壁をあっさりと躱された。結構スピード有るはずなのに。まさか躱されるなんて。
「大きい氷。沢山かき氷作れそう」
どんだけかき氷食べたいのこの人。
「どんだけかき氷食べたいのマッシュ君!!」
なんなのこの人。
「貴方ふざけてるの?私は真剣なの。真剣に神覚者を目指してるの。邪魔しないで」
腹が立つ。私は絶対に神覚者にならないといけないんだ。神覚者になってそれで、
『ルーナ…ごめん、ね…。お母さん、何もしてあげられなくて。貴方に、つら、い思いばっか、させ、て…ごめ、なさ…』
貴族社会を壊して、お母さんみたいな思いをする人をなくすんだ!!!
「アイシクルス」
先程よりも大きな氷壁を出す。今度は躱せな…
「ふんっ」
バーンデッド君の声と共に凄まじい轟音が響き、氷壁が倒れた。えっ…えっ?嘘…私の氷壁、蹴りで壊され…えっ?ひょ、氷壁、蹴りで壊された…。えっ怖っ。私の氷壁、かなり頑丈で生身の人間が蹴ったくらいじゃどうにもならないハズ…。魔法を使った…?いや、そんな素振りは見せてなかった…。
「ストームアイシクルス!!」
でもごちゃごちゃ考えたって仕方ない。考えるのはこの子に勝ってからだ。バーンデッド君に暴風雨の如く氷柱と氷をぶつけ…
「ふんっ」
ようとしたが、パシッと氷柱を一本キャッチした。何をする気なのかと疑問に思った次の瞬間、
「ふんふんふんっ」
氷柱をバッドの様にして振りながら氷と氷柱を打ち返してきた。いや…は?
「ア、アイシクルス!!」
何が起きたのか一瞬理解出来ず、呆然としかけてしまったが大量の氷と氷柱が跳ね返ってきているのを見て正気に戻り、慌てて自分の前に氷壁を出して盾にする。ど、どうしよう…。氷壁を出したところでさっきみたいにあっさりと破壊され…
「ふんふんふんふんふんふんふんふんっっっ」
バーンデッド君の声と一緒に何かを削る様な音はする。何この音…。そっと氷壁から顔を覗かせて見ると、
「えっ…はっ…?」
バーンデッド君が氷柱で氷壁を削り、どこからどうやって出したのか大きめの紙コップに削った氷を落としている。何、してるの…?てかえっこれってまさか…
「フィン君、かき氷いっぱい出来たよ。食べよー」
私の出した氷壁で、かき氷作ってる…!…いや、どゆこと?は…え…は?なっえっか、かき氷…?
「なんで?!」
思わず声を上げると、見事にエイムズ君と同じタイミングでつっこんでしまった。
「氷沢山あったから」
いやいやいやいやいや…
「はい、これは君の分。せっかくだから3人で食べよう」
美味しいんじゃないかな、と言いながらかき氷を渡され「えっあ、ありがとう…?」と言って受け取ってしまった。
受け取ったはいいけどどうすればいいの…?ていうか、普通地面から生えた氷でかき氷作って食べる…?どういう神経してるの怖っ…。エイムズ君もちょっと引いてるし…。これ、私の負けになるの…?えっ私、かき氷に負けるの…?そんなの嫌っ…!
「かき氷なんて食べてる場合じゃないの!私と賭けを…」
「もう終わりにしよう。かき氷もあるし」
ね、3人で食べよ。と、かき氷をもしゃもしゃと食べながら話をされた。
「冗談でしょ?早く、賭けの続きを…!」
「無駄だよ。だって君より、僕の方が強いし」
相変わらずかき氷を食べながら言う。
「なっ…!」
「大丈夫。君の級硬貨貰う気ないから。君、良い人そうだし」
そんなことよりほら、溶ける前にかき氷食べようよと、私にかき氷を食べる様にという。なんか、気が抜けてきた…。
「良い人そうって…。賭けを挑んで来るような人のことをどうしてそう思うの…」
呆れて思わず呟いてしまった。
「フィン君のこと。巻き込まない様にしてたから」
「えっ…」
「君、僕に攻撃する前にフィン君巻き込まない様に氷壁で盾を作ってたでしょ。大抵の人は、周囲のことなんて考えないと思うんだ。酷い人なら、フィン君を人質とかにしそうだし」
バーンデッド君の言葉に「怖いこと言わないでよマッシュ君!!」とエイムズ君が絶叫する。
「あ…でも、うん。僕も、そう思うよ。シャルロットさんていい人だなって。わざわざ僕のこと気にかけてくれてさ」
戦うってなると、周りへの被害とか考えれなくなっちゃう人がほとんどなんじゃないかなと、ボソッと呟かれた。
「それにシャルロットさん、中等部の時親切にしてくれたし」
中等部の時…?なんの話だろう。眉間に皺を寄せながら考え込んでいると、「覚えてない?」と聞かれた。こくりと頷くと、ぽつりぽつりとエイムズ君が語り出した。
「中等部の時に、僕が中庭を1人で掃除してたらシャルロットさん、どうして1人で掃除してるのって話し掛けてくれたんだよ。それで、他の子達に押し付けられたって言ったら手伝ってくれて……。僕、その頃君のこと、あんまり良い噂を聞かなかったからさ、その…。すごく嫌な人だって勝手に思ってたんだ…。けど、実際のシャルロットさんは見ず知らずの人のことを当たり前の様に手伝うような良い人なんだって、思ったんだ」
だから僕も、マッシュ君の言う様に君はすごく優しくて良い人なんだって思うよ、と。そう続けた。
「…そんなの、別に。お母さんが、困ってそうな人がいたら手伝ってあげるんだよ、って。そう言っていたから手伝っただけだし…」
ていうか私そのこと覚えてないし…俯きながらそう思っていると、
「じゃあそんな教えをした君のお母さんはすごく良い人で、その良い人の娘である君もやっぱり良い人だね」
バーンデッド君のそんな言葉が耳に入って来た。驚いて顔を上げてバーンデッド君の方を見ると、
「ひひゃー、ひょんひょ、ひぃひひょ」
さっきのかき氷を音を立てながら食べ、話している。
「いや台無し!良いこと言ってる風だけど台無しだよマッシュ君!!」
そしてエイムズ君のつっこみが響き渡った。なんかこのやり取りさっきも見た様な…。……お母さんのこと、良い人だなんて言ってくれた人、初めてだな。
『あんたの母親は最低最悪な泥棒猫よ!』
『母親は頭の出来も残念で、魔法の才能もない無能だったがお前は違ってよかった』
『あの女面の皮分厚いにも程があるわよね、あんな身分の癖に旦那様と子供を設けるなんて』
『本当よね。挙句の果てに身体壊して娘遺して死ぬなんて』
『二線魔導士の娘を生んだ以外、なんの役にも立たなかった女だったな』
あの家の、あのクズ共とは大違いだ。なんか…馬鹿馬鹿しくなってきた。思わず声を上げて笑ってしまうと、バーンデッド君もエイムズ君も私のことを引きながら見ている。失礼な人達。
「完敗ね。私の負け。…級硬貨、いらないって言ったけれどそれだとなんか人としても負けた気がして悔しいからあげる。受け取って」
そう言いながら渡すと、「えっマジすか。ども」と言って受け取ってくれた。
「じゃ3人でかき氷食べよう」
「食べるの?!」
私とエイムズ君のつっこみを気にも留めず、1人でかき氷を頬張るバーンデッド君。…なんか、調子狂うな。エイムズ君と目が合うと、2人して思わず苦笑した。
◇
「へぇ、ルーナちゃんて貴族の娘なんだ。シャーベット屋の娘さんじゃなかったんだね」
かき氷を早々に完食したマッシュ君が、シュークリームをもしゃもしゃと音を立てて食べながら言う。
「うん、さんざっぱら言ったよね、シャーベット屋じゃないって」
そんな彼に、フィン君が呆れた様子で言う。
「シャルロット家のこと知らない人に初めて出会ったよ」
ここ数分のやり取りで、マッシュ君がとてつもなくマイペースな人物なんだということがよく分かった。
「…あの、ルーナちゃん。こんなこと聞いたら、気を悪くしちゃうかもしれないけど、さ…。聞いても良い、かな…?」
フィン君が俯き気味に、そして言い辛そうに尋ねてきた。「何?」と聞くと、覚悟を決めた様に
「中等部の頃、君の悪い噂を沢山聞いたって言ったでしょ?それってやっぱり、その、君が…」
そこまで言ってまた、俯いて黙り込んでしまった。君が…の続きは多分、
「えぇ。私が正妻の娘ではなく、妾の娘だからよ。妾の娘である私が、二線魔導士でしかもこの名門校であるイーストンに入学したことが気に食わない連中が流したんでしょうね」
妾の娘だから?そう続けたかったのだろうと思い、答えるとフィン君は「やっぱりそうなんだ……酷い……」と、怒った様にボソッと呟いた。…この子やっぱり優しい。思ってた以上に優しい子なのかな。
「貴族なんてそんなもんだよ。みんながみんなそうとは言わないけど、クズが多いの。たまたまお金持ちの良い家に生まれたってだけなのに、自分の努力とかで手に入れたってわけじゃないのに、みんな自分のこと偉いって思い込んで何してもいいって思い込んじゃってる人ばっかり。……妾ってだけで、私のお母さんは周囲から沢山酷いことされたの。そのせいで身も心も壊してしまって、亡くなっちゃった」
だから私は、神覚者になって貴族社会を潰し、お母さんみたいな辛い思いをする人を少しでも減らすんだ。
「…あっごめん、こんな話してしまって」
思わず熱弁してしまい、慌てて2人に謝罪すると「大丈夫だよ」とフィン君が言ってくれた。マッシュ君も、気にしていない様でほっと胸を撫で下ろす。
「マッシュくーん、フィンくーん!」
少し遠くの方から女の子の2人を呼ぶ声が聞こえてきた。視線を向けてみると、黄色の髪にオレンジのリボンカチューシャを着けた可愛らしい女の子が手を振りながら走って来ていた。2人の友達だろうか。
「あっレモンちゃん!」
フィン君が女の子に声を掛けながら手を振り返している。あの子はレモンっていうのか。
「2人共探しましたよー!」
そう言いながらレモンちゃんという子がニコニコと笑い2人に声を掛けている。近くで見るともっと可愛い子だな。美少女って感じで。アドラ寮服着てるし、2人の友達で間違いないのだろう。
「ん?こちらの方は?」
私のことに気が付いたらしい大きくてくりくりとした印象的な目と目が合った。と、次の瞬間
「まっまさか!浮気ですか?!マッシュ君私というものがありながら!!!」
突然叫び出し、そしてマッシュ君の肩を掴みガクガクと揺らしている。ものすごく激しくて、実際にやられたら酔ってしまいそうだがマッシュ君は「んごごごご…」と謎の言葉を発しながらシュークリームを食べている。こんな状況下で食べる普通…?どんなメンタルしてるのこの人…。
浮気…って言われてるということはマッシュ君とこの子付き合ってるの?私とんでもない誤解を生んでる…?ど、どうしよう早く誤解を解かないと…!と、2人の間に入ろうとすると、
「ルーナちゃん、大丈夫だよ、そっとしておいて…」
肩をぽん、とフィン君に叩かれ止められた。フィン君なんか疲れてる…?急にげっそりとしだした気が…。いつも、こんな感じなのかな…?
「おい。何してんだお前ら」
突然聞こえてきたその人の声に、どっくん。と、心臓の音が波打ちだした。こ、この声…!
「あっシスターコンプレックス」
マッシュ君のそんな声が遠くに聞こえる。
「ったく、お前ら放課後は勉強会だと伝えていただろ。課題もまだ終わっていないのに何こんなとこで油売ってんだ。しかもどうしてオルカ寮の奴といるんだよ」
不機嫌そうな、呆れたような声で話す、この声…!
ど、どうしよう、後ろ、振り向けない…!
「お前も。いい度胸だな、1人で他寮の奴が沢山いる中に来るなんて…て、あ?お前…」
私の目の前に突然、水色の髪に水色の目、右の頬に伸びる二本線と、土星のピアスを着けた整った顔立ちの少年が、ドアップで現れる。あぁ、やっぱり…!
「ラ、ラララ、ラララララ、ラ、ラララ…!」
目の前にはやはり、思い描いた通りの人物―――ランス・クラウンの姿があった。
「お前、シャルロット家の…」
と彼、ランス君が口にしたと同時に私の意識は途切れた。