万有引力には逆らえない
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神覚者になるには、大きく分けて3つの試験がある。一次の級硬貨集め。二次は神覚者候補選抜試験。そして三次、神覚者選定最終試験。その3つがある。二次試験へ進むことが出来るのは、金の級硬貨を5枚以上集めた人のみ。だけれども今年度は無邪気な淵源が起こした大事件の影響により試験が早まって金の級硬貨を3枚以上獲得した人ということになった。私の集めた金の級硬貨は4枚。二次試験へ進む資格を手に入れることが出来た。そして、いよいよ二次試験が開始となる。この試験は神覚者候補を決めるための、とても神聖なもの…
「帰れ!ここはお前みたいなのが来るべきじゃないんだよ!!」
「そうだ、この澱んだ血め!!」
だと思っていたけれども、どうやらそれは私の勘違いだったみたいだとマッシュ君に対してぶつけられる数々の暴言、罵詈雑言を聞きながら思う。観客だけじゃなくて出場者までもが罵声を浴びせているってどういうことよ。思わず眉間に皺が寄る。
「ルーナちゃん。ダメよ、女の子が人前でそんな顔しちゃ」
ヤジを飛ばしていた出場者のことを睨みつけていたら、マカロン先輩に肩をぽん、と叩かれ苦言を呈された。
「お友達のことを貶されて気分が良くないという気持ちはわかるけれども、あんな知性の欠片もないような人達のために貴方自身の評価が下がりかねないような行動をしたりなんてなんの得もないわよ」
ねっとウィンクされる。
「はい…そうですね。わざわざ忠告ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うと、
「わかってくれたのならばもうこれ以上は言わないわ」
と言って、元居た場所まで戻って行った。
…それにしてもまさかマカロン先輩やカルパッチョ君まで参加するなんて。2人共神覚者を目指すとか、そういうタイプではない。特にカルパッチョ君。何か企んでいるのだろうか…。
『ムカつくんだよ、人の足を引っ張る雑魚が。そういうやつを見てると、潰してやりたくなる』
ふと中等部の頃、カルパッチョ君に因縁をつけた生徒を彼がボコボコにした時に言っていた言葉を思い出す。…もしかして、この場を利用して彼の言う『足を引っ張る雑魚』という存在を消そうとしている…とか…?
考えたらぞっとしてきた。あのカルパッチョ・ローヤンなら有り得る。どうしよう、マッシュ君達に…
「それでは、試験スタートです」
司会の生徒が声高々に宣言すると同時に、私達出場者は一斉にステージ内へと飛ばされた。
◇
第1ステージは死霊の森。3体の死霊から逃げながら鍵を手に入れる…というものだ。死霊には魔法が効かないため、こっちに攻撃手段がない。なるべく死霊と鉢合わせない様にして、鍵を見つけて持ち帰らないと。
…それから、フィン君を見つけないと。カルパッチョ君の目的が私の予想通りではない可能性はある。だけれども警戒しておくに越したことはない。
何より、フィン君をこんな所で1人にさせておくなんて心配すぎる。ランス君達3人なら自力で何とかするだろう。でも申し訳ないけど、フィン君にはそんな実力があるとは思えない。死霊に襲われたり、他の出場者…というかカルパッチョ君に標的にされそうで1人にするなんて考えただけでぞっとする。早く見つけないと。そして守らないと。エイムズ先輩への恩返しも兼ねて。
そう思いながら探した甲斐あってか、レンガの影に隠れてカタカタと震えながら泣いているフィン君のことを見つけることが出来た。なるべく物音をたてないようにそっと近づき、優しく肩を叩いて
「フィン君」
と声を掛けるとビクッとして
「ヒィィィッご、ごめんなさ…って、ルーナちゃん…?」
謝罪しかけたが、肩を叩いた人物が私だと気が付くと震えつつも泣き止んだ。まだ涙を溜めてはいるけれども。
「ど、どうしたの…?鍵、もう見つかったの…?」
「ううん、まだよ。鍵も探してたんだけれども、一緒にフィン君のことも探していたの」
そう答えると「えっ僕を?」と不思議そうな顔をする。
「うん。ねぇフィン君。もしもフィン君が良かったらなんだけれども、私と一緒に鍵探さない?」
「えっな、なんで…?」
「それは…」
さすがにフィン君1人にすると死霊や他の出場者に襲われそうで心配だから守りたい、とバカ正直には言えない。
「この試験、内容的に1人でやるよりも誰かと一緒に協力した方が良いと思うの。だから一緒にどうかなって思って」
そういうとまた泣きながら「ありがとう…!実は僕、すごく心細くて1人じゃ絶対無理だと思ってたから嬉しい!」と、抱き着かれた。なんか同い年の男の子のはずだけれども弟みたい。可愛い…。マカロン先輩が時々母性がどうのこうのとか言っているけれども、ひょっとしてこのことかなとフィン君の頭を撫でながら考える。
◇
「まずは鍵の場所を見つけないとね。もう何人かは突破しているみたいだから早くしないとね…」
「うん…。あと、どうすれば死霊に遭遇しないで済むかとかも考えないとね…」
魔法が効かないっていうなら打つてないし…と呟いているフィン君に
「あぁ…そうね…。本で読んだのだけどね、死霊って目があまり良くないんですって。その代わり耳がすごく良いから、獲物の居場所は音や声で判断するらしいの。だから大きな物音を立てたり大声を上げたりしなければ遭遇する確率を下げることが出来ると思うの」
まぁ、100%遭遇しない訳ではないけど…と苦笑する。
「な、なるほど物音や大声か…!僕、すぐ大声上げちゃうから気をつけないと…!あの、ルーナちゃん。ごめんね、足引っ張っちゃって…」
そう謝罪してくるフィン君にきょとんとする。
「足引っ張る?そんなことないでしょ」
そもそも私から一緒に探そうって誘ったのにそんな風に思う訳ないじゃない、というフィン君は驚いたように目を見開いたがすぐに嬉しそうに笑い、少しはにかみながら
「うん…。ありがとう」
と呟いた。大袈裟だなーと少し笑いそうに…
「ッ…?!」
「ルーナちゃん?どうしたの?」
突然、足に痛みが走った。思わず悲鳴を上げそうになったがなんとか堪えた。そんな私の様子をフィン君は不思議そうに見ている。痛みを悟られない様に「なんでもない。なんか、変な物を踏んじゃったみたい」と誤魔化し、こっそりと痛みが走った方の足を見てみる。タイツに血が滲んでいる。まるでナイフか何かに刺されたみたいだ。これってまさか…
「あれ、フィンにルーナちゃん?何してんだ2人共」
不意に私達のことを呼ぶ、ドット君の声がした。
「ドット君。鍵、手に入れたんだ」
「おう。俺の爆破魔法とこの試験は相性が良くてな!」
2人はまだか?仕方ねぇな、手伝ってやるよ!と、そういうドット君の頭からは大量の血が流れている。そのことをフィン君が必死に伝えようとしているが、気が付いていない。
これは多分、ドット君が普通に怪我…
「ッ!!」
また足に痛みが走った。今度はさっきの位置より少し上だ。
「あ、あのっ!私、その、もう少しこの辺を探したいの。だから悪いのだけれども、私はここから別行動にさせてもらっていい?」
2人にそういうと「えっ」と不思議そうな顔をされた。そりゃそうよね、ここまで一緒に行動しておいて突然こんなことを言い出したりしたら不審に思われるわよね…。でも他に言い訳が思いつかない。なんとかして2人から離れないと…。
「あの、少し気になることがあるっていうかなんていうかその…」
なんとかしないと。早く2人に上手いこと言って離れないと。そう思うのに、足の痛みのせいで頭が上手く回らない。
「…わかった。じゃあ俺ら2人で先行くわ。また後でな」
行くぞ、フィン。と、何かを察してくれたらしくそう言いながらドット君がフィン君を連れて歩き出してくれた。フィン君は戸惑いつつも「えっう、うん…。ルーナちゃん、ありがとう」と、引き摺られながら声を掛けて来る。
「うん、また後でね」
2人に手を振りながら見送る。
そして2人の姿が見えなくなったのを確認して
「女の子の足をいきなり刺すのはあんまりじゃないの。すごく痛かったのだけども。酷いことするのね」
カルパッチョ君。そう声を掛けると
「正確には君の足を刺した訳じゃないよ。僕の足を刺したんだ」
言いがかりはやめて欲しいね、と言いながら物影からカルパッチョ君が出て来た。何が言いがかりよ。
「何か御用?私、鍵まだ手に入れることが出来てないから早く探しに行きたいのだけれども」
カルパッチョ君と戦って私に勝ち目はない。彼に勝負を仕掛けたりなんてしたら攻撃が全部返って来て戦闘不能になるのは私の方だ。だからなるべく刺激しない様にして、離れないと。
「なんであんな雑魚と関わるの」
微かに不機嫌な様子で問い掛けてきた。雑魚?
「雑魚って誰のこと?」
「フィン・エイムズ。君だって知ってるだろ、あいつが落ちこぼれだって」
あんなのといると君が損するだけだよ。関わるのやめた方が良いよというカルパッチョ君の言葉に眉間に皺が寄る。
「損なんてしてないわよ」
「してるでしょ。未だに鍵を手に入れられてないのが証拠だろ」
フィンの面倒なんか見ずに1人で行動してたら君なら鍵くらい楽々手に入れられたでしょ、と相変わらず不機嫌そうなまま言う。
「面倒を見ていた訳じゃないわよ。友達と協力していたの」
と言い返すと露骨に苛立っている顔をされた。いつも通り無表情だけれども、いつもよりも感情が分かりやすい気がする。どうして苛立っているのかはわからないけれども。
「中等部の頃、言ったこと覚えてる?」
「何?」
「人の足を引っ張る雑魚が1番嫌いだって」
じっと私から目を逸らさずに続ける。
「僕は君のこと、強い奴だって思ってる」
アホで考えなしで単純だとも思ってるけどと余計な一言を付け足しつつ。
「…何が言いたいの」
足の痛みが酷くなってきた。このままだと鍵を見つけることが出来ずに失格になってしまう。一刻も早くカルパッチョ君をなんとかしないと。
「僕が強いと認めている奴が、あんな雑魚に足を引っ張られているのがすごく不快なんだ」
不快って…
「私は、フィン君に足を引っ張られているなんて思ってもいないわ。勝手なこと言わないで。ていうか、フィン君は私の大切な友達なの。それを雑魚雑魚って…言わないでよ。不快は私のセリフよ」
確かにフィン君は臆病だし、成績もあまり良くない。中等部の頃から落第寸前で、お兄さんと比べられてダメな子と言われていた。けど、そんなことない。
「フィン君は、人のために怒ったり一生懸命行動出来る、とても強い人よ。カルパッチョ君よりもずっと、ずっと強いわ」
正直、この一言は余計だったなと言った後に思った。けど、どうしても我慢できなかった。
「そう…わかったよ」
私の話を黙って聞いていたカルパッチョ君が。静かに呟いた。そして
「ッッッ!!」
私の肩から、出血した。
カルパッチョ君の肩に、ナイフが刺さっている。本当、厄介な魔法。こんなのどうやって対応すればいいのよ。下手に反撃出来ない。
だからなるべく鉢合わせたくなかっ…
「イッ…!」
今度はさっき刺された肩をまた刺された。思わず傷を抑え込んでその場に蹲ってしまう。仮にも同じ寮で、中等部の頃からそれなりに長い付き合いと言っても過言ではない女子生徒…それもよく一緒に行動している生徒に向かってここまでする?ヤバい子だっていうのは知っていたつもりだけど、どこかで私には加減してくれるんじゃないかとか思っていた。甘かった…。そんなことを考えている間にも、腕やら足やら沢山刺された。そのせいで地面に倒れ込んでしまった。
「もう動けない?」
いつの間にかカルパッチョ君が目の前まで来ていて、しゃがみ込んでじっと私のことを見つめていた。動けないかなんて、聞くまでもないでしょ…!と内心悪態を吐きつつも何も答えずにいると
「ッ…イッ…ちょっ、と…!イタイッ!離してッ…!」
髪を鷲掴みにされ、引っ張られた。
「もう動けないんでしょ。だからこのまま出口まで連れて行ってあげるよ」
そう言いながら私の髪を掴んだまま引き摺って歩き出した。嘘でしょ抜ける…!痛い痛い痛い!!傷む傷む傷む!!!毛根が死ぬ!!!!勘弁してよ、いつも髪の手入れには何よりも手間と時間とお金をかけてるのに!!!抵抗しようとしてみるが、当然この状況でそんなこと出来る訳もなく、されるがままになるしかなく、ずるずると引き摺られることしか出来ない。と、そういう時に限って遠くから雄叫びが聞こえてきた。
まさか…と思いながら見てみると案の定というかなんというか。死霊が猛スピードでやって来ている。なんて漫画みたいなタイミング。最悪だ。ていうかこの状況、私だけじゃなくてカルパッチョ君にとってもまずいんじゃ…
「死霊の攻撃に当たったら強制的にスタジアムに戻るんだっけ」
不意にカルパッチョ君が問い掛けてきた。
「えっ…うん、確かそう説明されたけれども…えっ」
ちょ、ちょっと待ってまさかこの人…!
「なら、僕が連れて行くよりもこうした方が早いか」
「はっ?ちょっ、嘘でしょ…!」
予想通り、カルパッチョ君は私を思い切り死霊に向かってぶん投げた。本当に容赦ないな…!そう叫び声を上げる間もなく、死霊に思い切り鉈を振り下ろされた。
◇
カルパッチョ君が容赦ない人だということは知っていた。つもり、だった。けどもどうやらつもりだっただけらしいということを、今更思い知った。
死霊に斬り付けられた場所と、カルパッチョ君に刺された箇所が痛い。油断すると気を失ってしまいそうだ。でも、まだ失う訳には…
「ルーナ!!!!!!!」
ランス君の、私を呼ぶ声が聞こえる。力を振り絞って声の方に顔を向けてみると、ランス君とマッシュ君、フィン君にドット君が走り寄って来ていた。あぁ、良かった。みんな試験を突破出来たんだ。って、そんなこと言っている場合じゃない。早く伝えないと。カルパッチョ君に気を付ける様にって。
ランス君以外の3人は彼の中で雑魚認定されている可能性が恐らく高い。きっと再起不能になるレベルで潰される。そもそも、彼の反転魔法に対応する術なんてないだろう。
特にマッシュ君とカルパッチョ君が戦うなんてことになったら洒落にならない。マッシュ君のあのパワーが全て、マッシュ君自身に返ってくることになるんだから。早く、言わないと。
「マッシュ、くん」
「…何。仇取ってって話なら任せて」
そんな目に遭わせてきた人の名前を教えてくれたら僕が倒すよ、グーパンで。と宣言された。私の為に怒ってくれているみたいで正直嬉しい。けどそんなのダメなのよ。
「仇、取って欲しいじゃ、ない、の。カルパッチョ・ローヤンって生、徒…」
「その人を倒せばいいんだねわかった」
「ち、がう…!」
この脳筋野郎全く人の話聞く気ねぇ…!誰か翻訳機開発して、マッシュ・バーンデッド専用の翻訳機!!
って、あっ…ヤバい、意識が遠退いてきた…周囲の喧騒が聞こえにくく、なってき、た。
とその瞬間、ふわりと身体が宙に浮いた。誰かに抱き上げられているみたいだ。力を振り絞って、抱き上げてくれている人のことを見ようとしたが
「大丈夫だ。お前はもう休んでいい。後は俺達に任せろ」
と、その誰かに声を掛けられた。すごく聞き覚えのある声…。その声を聞いていたらなんだか安心して、意識を手放した。
「帰れ!ここはお前みたいなのが来るべきじゃないんだよ!!」
「そうだ、この澱んだ血め!!」
だと思っていたけれども、どうやらそれは私の勘違いだったみたいだとマッシュ君に対してぶつけられる数々の暴言、罵詈雑言を聞きながら思う。観客だけじゃなくて出場者までもが罵声を浴びせているってどういうことよ。思わず眉間に皺が寄る。
「ルーナちゃん。ダメよ、女の子が人前でそんな顔しちゃ」
ヤジを飛ばしていた出場者のことを睨みつけていたら、マカロン先輩に肩をぽん、と叩かれ苦言を呈された。
「お友達のことを貶されて気分が良くないという気持ちはわかるけれども、あんな知性の欠片もないような人達のために貴方自身の評価が下がりかねないような行動をしたりなんてなんの得もないわよ」
ねっとウィンクされる。
「はい…そうですね。わざわざ忠告ありがとうございます」
頭を下げてお礼を言うと、
「わかってくれたのならばもうこれ以上は言わないわ」
と言って、元居た場所まで戻って行った。
…それにしてもまさかマカロン先輩やカルパッチョ君まで参加するなんて。2人共神覚者を目指すとか、そういうタイプではない。特にカルパッチョ君。何か企んでいるのだろうか…。
『ムカつくんだよ、人の足を引っ張る雑魚が。そういうやつを見てると、潰してやりたくなる』
ふと中等部の頃、カルパッチョ君に因縁をつけた生徒を彼がボコボコにした時に言っていた言葉を思い出す。…もしかして、この場を利用して彼の言う『足を引っ張る雑魚』という存在を消そうとしている…とか…?
考えたらぞっとしてきた。あのカルパッチョ・ローヤンなら有り得る。どうしよう、マッシュ君達に…
「それでは、試験スタートです」
司会の生徒が声高々に宣言すると同時に、私達出場者は一斉にステージ内へと飛ばされた。
◇
第1ステージは死霊の森。3体の死霊から逃げながら鍵を手に入れる…というものだ。死霊には魔法が効かないため、こっちに攻撃手段がない。なるべく死霊と鉢合わせない様にして、鍵を見つけて持ち帰らないと。
…それから、フィン君を見つけないと。カルパッチョ君の目的が私の予想通りではない可能性はある。だけれども警戒しておくに越したことはない。
何より、フィン君をこんな所で1人にさせておくなんて心配すぎる。ランス君達3人なら自力で何とかするだろう。でも申し訳ないけど、フィン君にはそんな実力があるとは思えない。死霊に襲われたり、他の出場者…というかカルパッチョ君に標的にされそうで1人にするなんて考えただけでぞっとする。早く見つけないと。そして守らないと。エイムズ先輩への恩返しも兼ねて。
そう思いながら探した甲斐あってか、レンガの影に隠れてカタカタと震えながら泣いているフィン君のことを見つけることが出来た。なるべく物音をたてないようにそっと近づき、優しく肩を叩いて
「フィン君」
と声を掛けるとビクッとして
「ヒィィィッご、ごめんなさ…って、ルーナちゃん…?」
謝罪しかけたが、肩を叩いた人物が私だと気が付くと震えつつも泣き止んだ。まだ涙を溜めてはいるけれども。
「ど、どうしたの…?鍵、もう見つかったの…?」
「ううん、まだよ。鍵も探してたんだけれども、一緒にフィン君のことも探していたの」
そう答えると「えっ僕を?」と不思議そうな顔をする。
「うん。ねぇフィン君。もしもフィン君が良かったらなんだけれども、私と一緒に鍵探さない?」
「えっな、なんで…?」
「それは…」
さすがにフィン君1人にすると死霊や他の出場者に襲われそうで心配だから守りたい、とバカ正直には言えない。
「この試験、内容的に1人でやるよりも誰かと一緒に協力した方が良いと思うの。だから一緒にどうかなって思って」
そういうとまた泣きながら「ありがとう…!実は僕、すごく心細くて1人じゃ絶対無理だと思ってたから嬉しい!」と、抱き着かれた。なんか同い年の男の子のはずだけれども弟みたい。可愛い…。マカロン先輩が時々母性がどうのこうのとか言っているけれども、ひょっとしてこのことかなとフィン君の頭を撫でながら考える。
◇
「まずは鍵の場所を見つけないとね。もう何人かは突破しているみたいだから早くしないとね…」
「うん…。あと、どうすれば死霊に遭遇しないで済むかとかも考えないとね…」
魔法が効かないっていうなら打つてないし…と呟いているフィン君に
「あぁ…そうね…。本で読んだのだけどね、死霊って目があまり良くないんですって。その代わり耳がすごく良いから、獲物の居場所は音や声で判断するらしいの。だから大きな物音を立てたり大声を上げたりしなければ遭遇する確率を下げることが出来ると思うの」
まぁ、100%遭遇しない訳ではないけど…と苦笑する。
「な、なるほど物音や大声か…!僕、すぐ大声上げちゃうから気をつけないと…!あの、ルーナちゃん。ごめんね、足引っ張っちゃって…」
そう謝罪してくるフィン君にきょとんとする。
「足引っ張る?そんなことないでしょ」
そもそも私から一緒に探そうって誘ったのにそんな風に思う訳ないじゃない、というフィン君は驚いたように目を見開いたがすぐに嬉しそうに笑い、少しはにかみながら
「うん…。ありがとう」
と呟いた。大袈裟だなーと少し笑いそうに…
「ッ…?!」
「ルーナちゃん?どうしたの?」
突然、足に痛みが走った。思わず悲鳴を上げそうになったがなんとか堪えた。そんな私の様子をフィン君は不思議そうに見ている。痛みを悟られない様に「なんでもない。なんか、変な物を踏んじゃったみたい」と誤魔化し、こっそりと痛みが走った方の足を見てみる。タイツに血が滲んでいる。まるでナイフか何かに刺されたみたいだ。これってまさか…
「あれ、フィンにルーナちゃん?何してんだ2人共」
不意に私達のことを呼ぶ、ドット君の声がした。
「ドット君。鍵、手に入れたんだ」
「おう。俺の爆破魔法とこの試験は相性が良くてな!」
2人はまだか?仕方ねぇな、手伝ってやるよ!と、そういうドット君の頭からは大量の血が流れている。そのことをフィン君が必死に伝えようとしているが、気が付いていない。
これは多分、ドット君が普通に怪我…
「ッ!!」
また足に痛みが走った。今度はさっきの位置より少し上だ。
「あ、あのっ!私、その、もう少しこの辺を探したいの。だから悪いのだけれども、私はここから別行動にさせてもらっていい?」
2人にそういうと「えっ」と不思議そうな顔をされた。そりゃそうよね、ここまで一緒に行動しておいて突然こんなことを言い出したりしたら不審に思われるわよね…。でも他に言い訳が思いつかない。なんとかして2人から離れないと…。
「あの、少し気になることがあるっていうかなんていうかその…」
なんとかしないと。早く2人に上手いこと言って離れないと。そう思うのに、足の痛みのせいで頭が上手く回らない。
「…わかった。じゃあ俺ら2人で先行くわ。また後でな」
行くぞ、フィン。と、何かを察してくれたらしくそう言いながらドット君がフィン君を連れて歩き出してくれた。フィン君は戸惑いつつも「えっう、うん…。ルーナちゃん、ありがとう」と、引き摺られながら声を掛けて来る。
「うん、また後でね」
2人に手を振りながら見送る。
そして2人の姿が見えなくなったのを確認して
「女の子の足をいきなり刺すのはあんまりじゃないの。すごく痛かったのだけども。酷いことするのね」
カルパッチョ君。そう声を掛けると
「正確には君の足を刺した訳じゃないよ。僕の足を刺したんだ」
言いがかりはやめて欲しいね、と言いながら物影からカルパッチョ君が出て来た。何が言いがかりよ。
「何か御用?私、鍵まだ手に入れることが出来てないから早く探しに行きたいのだけれども」
カルパッチョ君と戦って私に勝ち目はない。彼に勝負を仕掛けたりなんてしたら攻撃が全部返って来て戦闘不能になるのは私の方だ。だからなるべく刺激しない様にして、離れないと。
「なんであんな雑魚と関わるの」
微かに不機嫌な様子で問い掛けてきた。雑魚?
「雑魚って誰のこと?」
「フィン・エイムズ。君だって知ってるだろ、あいつが落ちこぼれだって」
あんなのといると君が損するだけだよ。関わるのやめた方が良いよというカルパッチョ君の言葉に眉間に皺が寄る。
「損なんてしてないわよ」
「してるでしょ。未だに鍵を手に入れられてないのが証拠だろ」
フィンの面倒なんか見ずに1人で行動してたら君なら鍵くらい楽々手に入れられたでしょ、と相変わらず不機嫌そうなまま言う。
「面倒を見ていた訳じゃないわよ。友達と協力していたの」
と言い返すと露骨に苛立っている顔をされた。いつも通り無表情だけれども、いつもよりも感情が分かりやすい気がする。どうして苛立っているのかはわからないけれども。
「中等部の頃、言ったこと覚えてる?」
「何?」
「人の足を引っ張る雑魚が1番嫌いだって」
じっと私から目を逸らさずに続ける。
「僕は君のこと、強い奴だって思ってる」
アホで考えなしで単純だとも思ってるけどと余計な一言を付け足しつつ。
「…何が言いたいの」
足の痛みが酷くなってきた。このままだと鍵を見つけることが出来ずに失格になってしまう。一刻も早くカルパッチョ君をなんとかしないと。
「僕が強いと認めている奴が、あんな雑魚に足を引っ張られているのがすごく不快なんだ」
不快って…
「私は、フィン君に足を引っ張られているなんて思ってもいないわ。勝手なこと言わないで。ていうか、フィン君は私の大切な友達なの。それを雑魚雑魚って…言わないでよ。不快は私のセリフよ」
確かにフィン君は臆病だし、成績もあまり良くない。中等部の頃から落第寸前で、お兄さんと比べられてダメな子と言われていた。けど、そんなことない。
「フィン君は、人のために怒ったり一生懸命行動出来る、とても強い人よ。カルパッチョ君よりもずっと、ずっと強いわ」
正直、この一言は余計だったなと言った後に思った。けど、どうしても我慢できなかった。
「そう…わかったよ」
私の話を黙って聞いていたカルパッチョ君が。静かに呟いた。そして
「ッッッ!!」
私の肩から、出血した。
カルパッチョ君の肩に、ナイフが刺さっている。本当、厄介な魔法。こんなのどうやって対応すればいいのよ。下手に反撃出来ない。
だからなるべく鉢合わせたくなかっ…
「イッ…!」
今度はさっき刺された肩をまた刺された。思わず傷を抑え込んでその場に蹲ってしまう。仮にも同じ寮で、中等部の頃からそれなりに長い付き合いと言っても過言ではない女子生徒…それもよく一緒に行動している生徒に向かってここまでする?ヤバい子だっていうのは知っていたつもりだけど、どこかで私には加減してくれるんじゃないかとか思っていた。甘かった…。そんなことを考えている間にも、腕やら足やら沢山刺された。そのせいで地面に倒れ込んでしまった。
「もう動けない?」
いつの間にかカルパッチョ君が目の前まで来ていて、しゃがみ込んでじっと私のことを見つめていた。動けないかなんて、聞くまでもないでしょ…!と内心悪態を吐きつつも何も答えずにいると
「ッ…イッ…ちょっ、と…!イタイッ!離してッ…!」
髪を鷲掴みにされ、引っ張られた。
「もう動けないんでしょ。だからこのまま出口まで連れて行ってあげるよ」
そう言いながら私の髪を掴んだまま引き摺って歩き出した。嘘でしょ抜ける…!痛い痛い痛い!!傷む傷む傷む!!!毛根が死ぬ!!!!勘弁してよ、いつも髪の手入れには何よりも手間と時間とお金をかけてるのに!!!抵抗しようとしてみるが、当然この状況でそんなこと出来る訳もなく、されるがままになるしかなく、ずるずると引き摺られることしか出来ない。と、そういう時に限って遠くから雄叫びが聞こえてきた。
まさか…と思いながら見てみると案の定というかなんというか。死霊が猛スピードでやって来ている。なんて漫画みたいなタイミング。最悪だ。ていうかこの状況、私だけじゃなくてカルパッチョ君にとってもまずいんじゃ…
「死霊の攻撃に当たったら強制的にスタジアムに戻るんだっけ」
不意にカルパッチョ君が問い掛けてきた。
「えっ…うん、確かそう説明されたけれども…えっ」
ちょ、ちょっと待ってまさかこの人…!
「なら、僕が連れて行くよりもこうした方が早いか」
「はっ?ちょっ、嘘でしょ…!」
予想通り、カルパッチョ君は私を思い切り死霊に向かってぶん投げた。本当に容赦ないな…!そう叫び声を上げる間もなく、死霊に思い切り鉈を振り下ろされた。
◇
カルパッチョ君が容赦ない人だということは知っていた。つもり、だった。けどもどうやらつもりだっただけらしいということを、今更思い知った。
死霊に斬り付けられた場所と、カルパッチョ君に刺された箇所が痛い。油断すると気を失ってしまいそうだ。でも、まだ失う訳には…
「ルーナ!!!!!!!」
ランス君の、私を呼ぶ声が聞こえる。力を振り絞って声の方に顔を向けてみると、ランス君とマッシュ君、フィン君にドット君が走り寄って来ていた。あぁ、良かった。みんな試験を突破出来たんだ。って、そんなこと言っている場合じゃない。早く伝えないと。カルパッチョ君に気を付ける様にって。
ランス君以外の3人は彼の中で雑魚認定されている可能性が恐らく高い。きっと再起不能になるレベルで潰される。そもそも、彼の反転魔法に対応する術なんてないだろう。
特にマッシュ君とカルパッチョ君が戦うなんてことになったら洒落にならない。マッシュ君のあのパワーが全て、マッシュ君自身に返ってくることになるんだから。早く、言わないと。
「マッシュ、くん」
「…何。仇取ってって話なら任せて」
そんな目に遭わせてきた人の名前を教えてくれたら僕が倒すよ、グーパンで。と宣言された。私の為に怒ってくれているみたいで正直嬉しい。けどそんなのダメなのよ。
「仇、取って欲しいじゃ、ない、の。カルパッチョ・ローヤンって生、徒…」
「その人を倒せばいいんだねわかった」
「ち、がう…!」
この脳筋野郎全く人の話聞く気ねぇ…!誰か翻訳機開発して、マッシュ・バーンデッド専用の翻訳機!!
って、あっ…ヤバい、意識が遠退いてきた…周囲の喧騒が聞こえにくく、なってき、た。
とその瞬間、ふわりと身体が宙に浮いた。誰かに抱き上げられているみたいだ。力を振り絞って、抱き上げてくれている人のことを見ようとしたが
「大丈夫だ。お前はもう休んでいい。後は俺達に任せろ」
と、その誰かに声を掛けられた。すごく聞き覚えのある声…。その声を聞いていたらなんだか安心して、意識を手放した。
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