万有引力には逆らえない
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私にとって学校生活というものは憂鬱なものでしかなかった。いじめられたり、根も葉もない、心無い噂を流されたり、お母さんのことを好き勝手言われたり、嫉妬されたり、シャルロット家の令嬢だから取り入っておこうという魂胆が見え見えの人に近づいてこられたり。ざっと思い返してみるだけでも碌な思い出がない。全て嫌な思い出しかない…とかそういう訳ではないけれども、やはり蘇ってくる思い出は嫌なものばかりで蓋をして記憶の中の奥底へしまい込んでおきたくなる。
もしかしたら生まれて初めてかもしれない。沢山の友達が出来て、その友達と遊んだり、一緒にご飯を食べたり勉強したり…。他の子達がしていたであろう当たり前を、私は高校生になるまでしたことがなかった。だからマッシュ君達と友達になれて、今まで体験することを出来ていなかった当たり前を経験することが出来て、幸せ…なんて言葉では片づけられないくらい幸せだ。これからもこの幸せを噛み締めて、大切に大切にしていこう。そう心に誓った。誓った矢先に
「はっ?!マッシュ君が魔法不全?!」
とんでもなく衝撃的な、そしてとてもじゃないけれども信じられないような真相を聞かされた。
「ルーナちゃんしーっ!声が大きいよ」
フィン君に注意され、慌てて「ごめんなさい」と口を噤む。周囲に人がいないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。そして
「あの…ウォーカー先輩もご存じだったんですか?マッシュ君の事情について…」
恐る恐る隣を歩くウォーカー先輩へ疑問を投げ掛けてみると「あぁ…。発覚した時僕もその場にいたからね」とのこと。廊下を歩きながら遠い目をして「あれは最早ファンタジーだろ…」という先輩に対し思わず顔が引きつりそうになる。
それにしてもウォーカー先輩達七魔牙の人達がマッシュ君達と和解しているとは思わなかった。私があの男(名前をセル・ウォーというらしい。あの野郎、今思い出しても腸煮えくりかえりそうだ。いつか絶対リベンジしてやる)に殺されかけていた間にマッシュ君はウォーカー先輩との勝負に見事勝利を収め、無事先輩の魔法により人形にされていた生徒達のことを人間の姿へ戻すことに成功していたらしい。そして色々あった末に七魔牙と和解し、めでたしめでたし!ということになったらしい。めでたしめでたし…?どこが…?とんでもない問題が明るみになっているけど大丈夫なの…?と思ったのだが、とてもじゃないけれども言える空気じゃなかったから黙っておいた。それにしても…
「祝勝会するからおいでって誘ってもらえて嬉しかったけれども行ってみたらレアンの人達も来ていてびっくりしたわ…」
そう呟くと「だよねー…」とフィン君。「アビスの快気祝いも兼ねてもらっているからね。だからだよ」とウォーカー先輩。
マッシュ君に誘われて、内心わくわくしながら放課後に指定された部屋へ行ったらレアンの人達もいて、祝勝会という言葉の意味がわからなくなりかけたよ。…ついでに言うと今、ウォーカー先輩が忘れたというボードゲームを私とフィン君とウォーカー先輩の3人で取りに行っているというこの状況も意味がわからない。どういう状況なのよ本当に。
フィン君がすごく怖がっているのが手に取るようにわかる。大丈夫かなこの子。ウォーカー先輩に敵意がないのは明らか。だけども怖いのは仕方ない…のかな。フィン君臆病なところあるし。ていうか…
「ね、ねぇフィン君…マッシュ君って、ということは今まで起こしてた事象はなに1つ例外なく全て、魔法じゃなかったっていうこと、なんだよね…?」
声を潜めながら問い掛けてみるとフィン君も小声で「うん…そういうことみたい…」と答えられる。と、いうことはつまりは…
「じゃあ、私の氷壁を破壊したのも氷柱をキャッチしてバッティングみたいに跳ね返してきたのも、氷壁かき氷にしてきたのも全部やっぱり魔法じゃなくて本人の身体能力だけでしてたのね…。改めて意味が分からないわ。ていうか怖っ。なんなのあの人…」
思わず出た私の言葉を聞き、フィン君が渇いた笑い声を上げる。
「かき氷…?」
黙って話を聞いていたウォーカー先輩が怪訝な顔で私達のことを見ている。
「あっ…はい。前に私、マッシュ君と戦ったことがあるんです。級硬貨を賭けて。その時、私の氷魔法でマッシュ君が作ったんです。それで私負けちゃって…」
と説明すると、ウォーカー先輩はより一層不思議そうな顔をして
「どうしてそこでかき氷が出てくるんだ。そもそもかき氷にしたところでどうする気だったんだ」
と尋ねてきた。
「マッシュ君とフィン君と私の3人で食べましたよ。ね?」
「うん。結構美味しかったよね」
ねっ!とフィン君と言い合っているとウォーカー先輩は私達のことを宇宙人でも見るような目で見ていた。そして
「…一応レインとエマには黙っておくよ」
そう呟かれた。何でそんな顔をされてそんな断りを入れられたのだろうかと思いつつも、フィン君と2人でお礼は言っておいた。
「そういえばウォーカー先輩。1つお伺いしてもいいですか?」
「なんだい」
「エマも七魔牙の一員なんですか?」
レアン寮であそこにいたのだからそういう事なんだろうけれども、どうしてもエマがウォーカー先輩達の考えに賛成するとは思えず違和感がずっとあった。あの家の連中は貴族至上主義の人が多いけれどもエマはどちらかというとそういった考えがあまり好きではない方なのでずっと不思議だった。だからこの際だからついでに聞いてみることにした。
「違うよ。前に1度、勧誘はしたけどね。ただその時は『あんたの下らない中二病に付き合っているほど暇じゃないの。他を当たって』と断られてしまってね」
失礼だろ、とのこと。
「えっそうなんですか?じゃあどうしてあそこに…」
とまた更に聞こうとしたら
「これ以上のことは僕の口からは言えないね。特に君に話したりなんてしたらエマに何言われるかわかったものじゃない」
どうしても気になるのなら自分で聞くと言い、と言われて答えてくれなかった。そんな会話をしつつ歩いていると、目的地であったウォーカー先輩の部屋につき、ボードゲームを持ってくることが出来た。
ウォーカー先輩、噂に聞いていた印象よりも柔らかい雰囲気の人だな。エマから聞かされてた話だともっと冷酷な人かと思っていた。
…もしかしたらマッシュ君の影響かな。あの子にはなんか、人の心を動かす力があるっていうのかな…。解かす力があるっていうか…。太陽みたい…と言ったら大げさかもしれないけれども。なんとなく温かいんだよな、あの子。すとん、と。心に来る、どこかで相手の言ってほしかった言葉をさりげなく言ってくれるみたいなところがあるなって思う。
…それ以上に、こっちの予想の斜め上の更にそのまた上の先の先を行くような、よくわからない子でもあるけれども。
「あれあの人…」
フィン君が怪訝な顔で見ている視線の先を私とウォーカー先輩も見てみる。そこにはマッシュ君達のいる部屋の扉の前でコソコソしている男子生徒がいる。フィン君の顔が少し険しい。
「フィン君?どうかしたの?」
「あの人…マッシュ君のことを淀んだ血とか、劣等人種とか言ってたんだ…」
もしかしたら嗅ぎまわってるのかも、と眉間に皺を寄せながら言う。
あぁ…マッシュ君の魔法不全の噂を聞きつけて色々とやろうとしている、ってことか。
不快な人。顔も頭も性格も全部悪そう。氷漬けにでもしてやろうかしら。なんて思っていたら
「ここに何の用だ」
ウォーカー先輩がそう言いながらドアの前に立っている生徒に声を掛けていた。先輩はただその生徒が何をしているのか気になって声を掛けているだけかもしれない。
だけれどもその姿は迫力満点だ。私が問い掛けられているわけではないのに思わずビクッとなってしまう。隣に立っているフィン君も小さく「ヒッ…」と声を上げている。声を掛けられている生徒も同じらしく、叫び声と謝罪の言葉を残し去って行った。そんな相手を見てウォーカー先輩は不思議そうに首を傾げていた。
マッシュ君、これから大丈夫かな。この世界で魔法が使えないというのは、死刑を意味する。マッシュ君が、死刑になる…?あんなに優しくて、人のことを思いやれる人が?悪いことなんて何もしていないのに?せっかく…せっかく友達になれたのに…?この世界はいくら何でも理不尽すぎる。あんまりだ。…なんて。そんなこと今言っても何にもならないし考えたって仕方ないか。
それにまだ学校内で噂になっている程度。魔法省や世間にバレたわけではない。だからまだ焦る時じゃない。焦ったって仕方ない。
今はマッシュ君の魔法不全がバレないように気をつけるしかないだろう。そのためにも、自分に出来る限りのことをしてマッシュ君のことを手助けしよう。なんて考えていた矢先、
「大変です!!マッシュ君が魔法省に呼び出されちゃいました!!!」
レモンちゃんから絶望的な知らせを聞かされたのであった。泣きそうなレモンちゃん、絶望で絶句する私とフィン君とは対照的に、マッシュ君はいつも通りの、何を考えているのかわからない無表情で立ち尽くしていた。てか、何。どんな感情なのこの顔。
もしかしたら生まれて初めてかもしれない。沢山の友達が出来て、その友達と遊んだり、一緒にご飯を食べたり勉強したり…。他の子達がしていたであろう当たり前を、私は高校生になるまでしたことがなかった。だからマッシュ君達と友達になれて、今まで体験することを出来ていなかった当たり前を経験することが出来て、幸せ…なんて言葉では片づけられないくらい幸せだ。これからもこの幸せを噛み締めて、大切に大切にしていこう。そう心に誓った。誓った矢先に
「はっ?!マッシュ君が魔法不全?!」
とんでもなく衝撃的な、そしてとてもじゃないけれども信じられないような真相を聞かされた。
「ルーナちゃんしーっ!声が大きいよ」
フィン君に注意され、慌てて「ごめんなさい」と口を噤む。周囲に人がいないことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。そして
「あの…ウォーカー先輩もご存じだったんですか?マッシュ君の事情について…」
恐る恐る隣を歩くウォーカー先輩へ疑問を投げ掛けてみると「あぁ…。発覚した時僕もその場にいたからね」とのこと。廊下を歩きながら遠い目をして「あれは最早ファンタジーだろ…」という先輩に対し思わず顔が引きつりそうになる。
それにしてもウォーカー先輩達七魔牙の人達がマッシュ君達と和解しているとは思わなかった。私があの男(名前をセル・ウォーというらしい。あの野郎、今思い出しても腸煮えくりかえりそうだ。いつか絶対リベンジしてやる)に殺されかけていた間にマッシュ君はウォーカー先輩との勝負に見事勝利を収め、無事先輩の魔法により人形にされていた生徒達のことを人間の姿へ戻すことに成功していたらしい。そして色々あった末に七魔牙と和解し、めでたしめでたし!ということになったらしい。めでたしめでたし…?どこが…?とんでもない問題が明るみになっているけど大丈夫なの…?と思ったのだが、とてもじゃないけれども言える空気じゃなかったから黙っておいた。それにしても…
「祝勝会するからおいでって誘ってもらえて嬉しかったけれども行ってみたらレアンの人達も来ていてびっくりしたわ…」
そう呟くと「だよねー…」とフィン君。「アビスの快気祝いも兼ねてもらっているからね。だからだよ」とウォーカー先輩。
マッシュ君に誘われて、内心わくわくしながら放課後に指定された部屋へ行ったらレアンの人達もいて、祝勝会という言葉の意味がわからなくなりかけたよ。…ついでに言うと今、ウォーカー先輩が忘れたというボードゲームを私とフィン君とウォーカー先輩の3人で取りに行っているというこの状況も意味がわからない。どういう状況なのよ本当に。
フィン君がすごく怖がっているのが手に取るようにわかる。大丈夫かなこの子。ウォーカー先輩に敵意がないのは明らか。だけども怖いのは仕方ない…のかな。フィン君臆病なところあるし。ていうか…
「ね、ねぇフィン君…マッシュ君って、ということは今まで起こしてた事象はなに1つ例外なく全て、魔法じゃなかったっていうこと、なんだよね…?」
声を潜めながら問い掛けてみるとフィン君も小声で「うん…そういうことみたい…」と答えられる。と、いうことはつまりは…
「じゃあ、私の氷壁を破壊したのも氷柱をキャッチしてバッティングみたいに跳ね返してきたのも、氷壁かき氷にしてきたのも全部やっぱり魔法じゃなくて本人の身体能力だけでしてたのね…。改めて意味が分からないわ。ていうか怖っ。なんなのあの人…」
思わず出た私の言葉を聞き、フィン君が渇いた笑い声を上げる。
「かき氷…?」
黙って話を聞いていたウォーカー先輩が怪訝な顔で私達のことを見ている。
「あっ…はい。前に私、マッシュ君と戦ったことがあるんです。級硬貨を賭けて。その時、私の氷魔法でマッシュ君が作ったんです。それで私負けちゃって…」
と説明すると、ウォーカー先輩はより一層不思議そうな顔をして
「どうしてそこでかき氷が出てくるんだ。そもそもかき氷にしたところでどうする気だったんだ」
と尋ねてきた。
「マッシュ君とフィン君と私の3人で食べましたよ。ね?」
「うん。結構美味しかったよね」
ねっ!とフィン君と言い合っているとウォーカー先輩は私達のことを宇宙人でも見るような目で見ていた。そして
「…一応レインとエマには黙っておくよ」
そう呟かれた。何でそんな顔をされてそんな断りを入れられたのだろうかと思いつつも、フィン君と2人でお礼は言っておいた。
「そういえばウォーカー先輩。1つお伺いしてもいいですか?」
「なんだい」
「エマも七魔牙の一員なんですか?」
レアン寮であそこにいたのだからそういう事なんだろうけれども、どうしてもエマがウォーカー先輩達の考えに賛成するとは思えず違和感がずっとあった。あの家の連中は貴族至上主義の人が多いけれどもエマはどちらかというとそういった考えがあまり好きではない方なのでずっと不思議だった。だからこの際だからついでに聞いてみることにした。
「違うよ。前に1度、勧誘はしたけどね。ただその時は『あんたの下らない中二病に付き合っているほど暇じゃないの。他を当たって』と断られてしまってね」
失礼だろ、とのこと。
「えっそうなんですか?じゃあどうしてあそこに…」
とまた更に聞こうとしたら
「これ以上のことは僕の口からは言えないね。特に君に話したりなんてしたらエマに何言われるかわかったものじゃない」
どうしても気になるのなら自分で聞くと言い、と言われて答えてくれなかった。そんな会話をしつつ歩いていると、目的地であったウォーカー先輩の部屋につき、ボードゲームを持ってくることが出来た。
ウォーカー先輩、噂に聞いていた印象よりも柔らかい雰囲気の人だな。エマから聞かされてた話だともっと冷酷な人かと思っていた。
…もしかしたらマッシュ君の影響かな。あの子にはなんか、人の心を動かす力があるっていうのかな…。解かす力があるっていうか…。太陽みたい…と言ったら大げさかもしれないけれども。なんとなく温かいんだよな、あの子。すとん、と。心に来る、どこかで相手の言ってほしかった言葉をさりげなく言ってくれるみたいなところがあるなって思う。
…それ以上に、こっちの予想の斜め上の更にそのまた上の先の先を行くような、よくわからない子でもあるけれども。
「あれあの人…」
フィン君が怪訝な顔で見ている視線の先を私とウォーカー先輩も見てみる。そこにはマッシュ君達のいる部屋の扉の前でコソコソしている男子生徒がいる。フィン君の顔が少し険しい。
「フィン君?どうかしたの?」
「あの人…マッシュ君のことを淀んだ血とか、劣等人種とか言ってたんだ…」
もしかしたら嗅ぎまわってるのかも、と眉間に皺を寄せながら言う。
あぁ…マッシュ君の魔法不全の噂を聞きつけて色々とやろうとしている、ってことか。
不快な人。顔も頭も性格も全部悪そう。氷漬けにでもしてやろうかしら。なんて思っていたら
「ここに何の用だ」
ウォーカー先輩がそう言いながらドアの前に立っている生徒に声を掛けていた。先輩はただその生徒が何をしているのか気になって声を掛けているだけかもしれない。
だけれどもその姿は迫力満点だ。私が問い掛けられているわけではないのに思わずビクッとなってしまう。隣に立っているフィン君も小さく「ヒッ…」と声を上げている。声を掛けられている生徒も同じらしく、叫び声と謝罪の言葉を残し去って行った。そんな相手を見てウォーカー先輩は不思議そうに首を傾げていた。
マッシュ君、これから大丈夫かな。この世界で魔法が使えないというのは、死刑を意味する。マッシュ君が、死刑になる…?あんなに優しくて、人のことを思いやれる人が?悪いことなんて何もしていないのに?せっかく…せっかく友達になれたのに…?この世界はいくら何でも理不尽すぎる。あんまりだ。…なんて。そんなこと今言っても何にもならないし考えたって仕方ないか。
それにまだ学校内で噂になっている程度。魔法省や世間にバレたわけではない。だからまだ焦る時じゃない。焦ったって仕方ない。
今はマッシュ君の魔法不全がバレないように気をつけるしかないだろう。そのためにも、自分に出来る限りのことをしてマッシュ君のことを手助けしよう。なんて考えていた矢先、
「大変です!!マッシュ君が魔法省に呼び出されちゃいました!!!」
レモンちゃんから絶望的な知らせを聞かされたのであった。泣きそうなレモンちゃん、絶望で絶句する私とフィン君とは対照的に、マッシュ君はいつも通りの、何を考えているのかわからない無表情で立ち尽くしていた。てか、何。どんな感情なのこの顔。