鳥籠の中夢視る
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「お帰り、綴。久しぶりだね。生まれて初めての学生生活はどうだい?」
穏やかな口調で問い掛けられて、眉間に皺が寄りそうになるのを必死に堪えながら
「別に普通」
なるべく淡々と答える。
「そうかい。せっかくなんだ。満喫するといい。きっと雄英での生活はお前にとってとても良い経験になる」
……何が満喫するといい、よ。私に嫌がらせしたいだけじゃない。
「どうして呼びつけたの」
「おや、せっかく久しぶりに会えたというのに冷たいね」
悲しくなってしまうよ、なんて言いながらニヤニヤしている。相変わらず、何を考えているのかわからない不気味な人。
「オールマイトの弱点は何かわかったかい?」
「わからないわ。そもそも、あの人学校内であまり見かけないのだけど。授業の時はいても、それ以外では数えるほどしか見たことない」
そう答えると
「そうか……」
と呟き、何か考え込み始めたのか黙り込んでしまった。
「……もう用事はおしまい?」
この人と、これ以上一緒にいたくない。早くこの場から去りたい。そう思って問い掛けると
「うん、終わりだよ。わざわざ来てくれてすまないね」
今度美味しいマカロンでも用意しておくよと言われるが
「いらない」
と答えると
「お前は本当に人の善意を無駄にするのが好きな子だねぇ」
そんなんじゃあ亡くなったお兄さんのような立派なヒーローになれないよ?なんてニヤニヤと愉快そうに笑いながら言ってくるオール・フォー・ワンを無視し
「黒霧、戻る」
と声を掛けると
「もう少しお話しなくてよいのですか?」
「いい。もう終わった。あんまり長いこと雄英で姿を消してると不審に思われるし」
そう言い返す私に黒霧は少し何か考えるようなそぶりを見せる。
「死柄木弔には会わなくてよろしいのですか」
死柄木?どうしてわざわざそんなこと聞くのだろう。というかなんでわざわざ引き留めようとしてくるのかと思いつつも
「会わない。早くワープゲート開いて」
というと黒霧は
「そうですか…」
と溜息を吐きながらワープゲートを開いた。
「綴」
不意に名前を呼ばれた。
「何」
返事をして振り返ると
「エンデヴァーの息子と、仲良くね」
エンデヴァーの…息子…?誰のこと…?というか、エンデヴァーの息子が雄英に通っているの?聞きたいことが沢山出てきた。首を傾げて尋ねようとしたが
「黒霧。雄英まで送ってあげてくれ」
という言葉と共にワープゲートに吞み込まれてしまい聞けなかった。
◇
雄英へ戻ると、どうやら今は昼休憩の時間らしい。A組の子達は食事中だろうか。誰かに見つかる前にどこかへ行こう。屋上…は、すぐに見つかってしまいそうだから他の場所を探そう。でも、どこへ行けばいいんだ。とりあえず人が少なそうなところを目指そう。そう思い人が来なさそうな方へ足を進めると
「あの、話って何?轟君…」
どうやら人生はそんなに甘くないらしい。物陰に隠れながらこっそり覗いてみる。と、緑谷君と轟君が何か話している。私があの人に呼び出されている間にあった試合について話しているらしい。気が付かれたら面倒なことになりそうだ。2人に見つかる前にどこかへ…
「俺の親父はエンデヴァー…知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ」
思わず、動きを止めてしまった。
『エンデヴァーの息子と、仲良くね』
あの人の言葉を思い出す。エンデヴァー…本名は確か、轟炎司…だっただろうか。轟……轟君の、父親……。ということはあの人の言葉は
『エンデヴァーの息子である轟焦凍と仲良くなり彼の懐に入り込み、彼から僕に有益な情報を引き出し持って来い』
……そういう意味だったのだろうか。もしもその読みの通りだったのなら
「ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが…それだけには生ける伝説のオールマイトが目ざわりで仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを越えられねぇ親父は次の策に出た」
この話は、聞いておいた方がいいかもしれない。
「何の話だよ轟君…僕に…何を言いたいんだ…」
緑谷君の困惑するような声を気にも留めずに
「『個性婚』。…知ってるよな」
轟君はひたすら続ける。…あの人の言葉の意味がやはり私の思った通り、だと思う。だけども、
「超常が起きてから第2~第3世代間で問題になってたやつ…自身の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び……結婚を強いる倫理観の欠落した前時代的発想」
だけどもこんな話……
「実績と金だけはある男だ…。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた」
聞きたく、ない。この場からすぐに立ち去ってしまいたい。なのに、
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうってこった。鬱陶しい…!そんな屑の道具にはならねえ」
まるで金縛りにでもあってしまったように身体が動かない。
轟君の声が、怒りを押し殺そうとしてるように聞こえる。
「記憶の中の母はいつも泣いている…。『お前の左側が醜い』と。母は俺に煮え湯を浴びせた」
煮え湯…。あの顔の痣は、その時のものだったのか。
「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、……使わずに”1番になる”ことで、奴を完全否定する」
……轟君が、私を気に掛ける理由がほんの少しだけわかったかもしれない。彼と私の境遇はちょっとだけ……本当にちょっとだけ、似ている、ような気がする。大人に振り回され、利用され、自分の望んだ道とは違う道に無理矢理立たされ、歩かされている人生が似ている…ように見える気がする。もしかしたら轟君も、私のことを見てそんな風に思ったのかもしれない。だからこそ、あんなに必死に引っ張ろうとしてくれているのかもしれない。
———……だけれども、
『そんな屑の道具にはならねえ』
だけれども、私は、彼みたいに、あんな風に強くなんて、なれない。…彼だけじゃない。
「僕はずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は誰かに救けられてここにいる。オールマイト…彼のようになりたい…そのためには1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない…。でも、僕だって負けてらんない。僕を救けてくれた人達に、応えるためにも…!さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!」
そう力強く宣言した緑谷君みたいにも、
『俺が1位になる。せめて跳ねの良い踏み台になってくれ』
開会式の選手宣誓の時にそう高らかに宣言していた爆豪君みたいにも、必死に戦って、高みを目指している他の生徒達みたいにも、なれない。
あの人達はどうしてあんなに強くなれるんだろう。どうしてみんな、あんなに自分に自信を持つことが出来るんだろう。同じ世界に生まれ落ちた、同じ人間のはずなのに、私はあの人達と決定的な何かが違う…。……早く、この場所からいなくなりたい。ここにいたら、私は壊れてしまうんじゃないかという気持ちに押しつぶされてしまいそうだ。
「おい、何してんだテメェ」
制服のスカートの裾を掴み俯いていると、上から声が降ってきた。驚いて顔を上げてみると
「立ち聞きでもしてたんか?随分と良いご趣味だな」
いつも通り、不機嫌そうな顔で眉間に皺を寄せながら、爆豪君が私のことを睨みつけていた。
穏やかな口調で問い掛けられて、眉間に皺が寄りそうになるのを必死に堪えながら
「別に普通」
なるべく淡々と答える。
「そうかい。せっかくなんだ。満喫するといい。きっと雄英での生活はお前にとってとても良い経験になる」
……何が満喫するといい、よ。私に嫌がらせしたいだけじゃない。
「どうして呼びつけたの」
「おや、せっかく久しぶりに会えたというのに冷たいね」
悲しくなってしまうよ、なんて言いながらニヤニヤしている。相変わらず、何を考えているのかわからない不気味な人。
「オールマイトの弱点は何かわかったかい?」
「わからないわ。そもそも、あの人学校内であまり見かけないのだけど。授業の時はいても、それ以外では数えるほどしか見たことない」
そう答えると
「そうか……」
と呟き、何か考え込み始めたのか黙り込んでしまった。
「……もう用事はおしまい?」
この人と、これ以上一緒にいたくない。早くこの場から去りたい。そう思って問い掛けると
「うん、終わりだよ。わざわざ来てくれてすまないね」
今度美味しいマカロンでも用意しておくよと言われるが
「いらない」
と答えると
「お前は本当に人の善意を無駄にするのが好きな子だねぇ」
そんなんじゃあ亡くなったお兄さんのような立派なヒーローになれないよ?なんてニヤニヤと愉快そうに笑いながら言ってくるオール・フォー・ワンを無視し
「黒霧、戻る」
と声を掛けると
「もう少しお話しなくてよいのですか?」
「いい。もう終わった。あんまり長いこと雄英で姿を消してると不審に思われるし」
そう言い返す私に黒霧は少し何か考えるようなそぶりを見せる。
「死柄木弔には会わなくてよろしいのですか」
死柄木?どうしてわざわざそんなこと聞くのだろう。というかなんでわざわざ引き留めようとしてくるのかと思いつつも
「会わない。早くワープゲート開いて」
というと黒霧は
「そうですか…」
と溜息を吐きながらワープゲートを開いた。
「綴」
不意に名前を呼ばれた。
「何」
返事をして振り返ると
「エンデヴァーの息子と、仲良くね」
エンデヴァーの…息子…?誰のこと…?というか、エンデヴァーの息子が雄英に通っているの?聞きたいことが沢山出てきた。首を傾げて尋ねようとしたが
「黒霧。雄英まで送ってあげてくれ」
という言葉と共にワープゲートに吞み込まれてしまい聞けなかった。
◇
雄英へ戻ると、どうやら今は昼休憩の時間らしい。A組の子達は食事中だろうか。誰かに見つかる前にどこかへ行こう。屋上…は、すぐに見つかってしまいそうだから他の場所を探そう。でも、どこへ行けばいいんだ。とりあえず人が少なそうなところを目指そう。そう思い人が来なさそうな方へ足を進めると
「あの、話って何?轟君…」
どうやら人生はそんなに甘くないらしい。物陰に隠れながらこっそり覗いてみる。と、緑谷君と轟君が何か話している。私があの人に呼び出されている間にあった試合について話しているらしい。気が付かれたら面倒なことになりそうだ。2人に見つかる前にどこかへ…
「俺の親父はエンデヴァー…知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ」
思わず、動きを止めてしまった。
『エンデヴァーの息子と、仲良くね』
あの人の言葉を思い出す。エンデヴァー…本名は確か、轟炎司…だっただろうか。轟……轟君の、父親……。ということはあの人の言葉は
『エンデヴァーの息子である轟焦凍と仲良くなり彼の懐に入り込み、彼から僕に有益な情報を引き出し持って来い』
……そういう意味だったのだろうか。もしもその読みの通りだったのなら
「ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが…それだけには生ける伝説のオールマイトが目ざわりで仕方なかったらしい。自分ではオールマイトを越えられねぇ親父は次の策に出た」
この話は、聞いておいた方がいいかもしれない。
「何の話だよ轟君…僕に…何を言いたいんだ…」
緑谷君の困惑するような声を気にも留めずに
「『個性婚』。…知ってるよな」
轟君はひたすら続ける。…あの人の言葉の意味がやはり私の思った通り、だと思う。だけども、
「超常が起きてから第2~第3世代間で問題になってたやつ…自身の個性をより強化して継がせるためだけに配偶者を選び……結婚を強いる倫理観の欠落した前時代的発想」
だけどもこんな話……
「実績と金だけはある男だ…。親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた」
聞きたく、ない。この場からすぐに立ち去ってしまいたい。なのに、
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで、自身の欲求を満たそうってこった。鬱陶しい…!そんな屑の道具にはならねえ」
まるで金縛りにでもあってしまったように身体が動かない。
轟君の声が、怒りを押し殺そうとしてるように聞こえる。
「記憶の中の母はいつも泣いている…。『お前の左側が醜い』と。母は俺に煮え湯を浴びせた」
煮え湯…。あの顔の痣は、その時のものだったのか。
「ざっと話したが、俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって……いや、……使わずに”1番になる”ことで、奴を完全否定する」
……轟君が、私を気に掛ける理由がほんの少しだけわかったかもしれない。彼と私の境遇はちょっとだけ……本当にちょっとだけ、似ている、ような気がする。大人に振り回され、利用され、自分の望んだ道とは違う道に無理矢理立たされ、歩かされている人生が似ている…ように見える気がする。もしかしたら轟君も、私のことを見てそんな風に思ったのかもしれない。だからこそ、あんなに必死に引っ張ろうとしてくれているのかもしれない。
———……だけれども、
『そんな屑の道具にはならねえ』
だけれども、私は、彼みたいに、あんな風に強くなんて、なれない。…彼だけじゃない。
「僕はずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は誰かに救けられてここにいる。オールマイト…彼のようになりたい…そのためには1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない…。でも、僕だって負けてらんない。僕を救けてくれた人達に、応えるためにも…!さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも…僕も君に勝つ!」
そう力強く宣言した緑谷君みたいにも、
『俺が1位になる。せめて跳ねの良い踏み台になってくれ』
開会式の選手宣誓の時にそう高らかに宣言していた爆豪君みたいにも、必死に戦って、高みを目指している他の生徒達みたいにも、なれない。
あの人達はどうしてあんなに強くなれるんだろう。どうしてみんな、あんなに自分に自信を持つことが出来るんだろう。同じ世界に生まれ落ちた、同じ人間のはずなのに、私はあの人達と決定的な何かが違う…。……早く、この場所からいなくなりたい。ここにいたら、私は壊れてしまうんじゃないかという気持ちに押しつぶされてしまいそうだ。
「おい、何してんだテメェ」
制服のスカートの裾を掴み俯いていると、上から声が降ってきた。驚いて顔を上げてみると
「立ち聞きでもしてたんか?随分と良いご趣味だな」
いつも通り、不機嫌そうな顔で眉間に皺を寄せながら、爆豪君が私のことを睨みつけていた。
