君の隣 番外編
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「もうすぐでバレンタインだから黛にチョコ作ってあげようと思うんだ!」
「やめなよ、アンタの手作りチョコなんか食べたら黛君死んじゃうから」
嬉々としながら話す私のことをルームメイトであり友人でもある森野はバッサリと切り捨てた。
「ちょっ酷くない?!いくらなんでもそんなそこまで言うことないじゃん!確かに私料理はちょっと苦手、だけどさ…」
そう言うと「ちょっとー?」と返って来た。
「アンタの料理の腕前はちょっと苦手なんて可愛いもんじゃないでしょ、何ふざけた事抜かしてんの。レモンの蜂蜜漬けのレモンは切れって何度も何度も言ってんのにこの3年結局1度も切らなかったよね?何度言えば切るようになるの。てかなんで丸々そのまま投入すんの?レモンの蜂蜜漬けの意味わかってるアンタ?ていうかレモンて丸ごと食べることあるの?そこがまず不思議で不思議でたまらないよ私は。あとピーマンの肉詰め作るとか言って間違ってハバネロ買ってきとこともあったね。しかもそのことに気づかずにそのまま作っちゃったこととかもあったよね?お陰で私と黛君と樋口君がひっどい目に遭ったんだよ、覚えてる?つか覚えとけや。忘れたとは言わせねぇからなこのアホンダラ。あと調理実習の時。アンタ毎回毎回砂糖と塩間違えてなかったけ。私の記憶違い?なんか1度も間違わずに入れてたとこ見たことない気がするんだけどな。気のせいかな。ンなわけあるか気のせいじゃねぇんだよチキショー。お陰でしばらく砂糖と塩トラウマになりかかったわどうしてくれんだ」
ゼェゼェ、と物凄い剣幕で一息で捲し立てる森野の迫力に圧倒されて、何も言えなくなってしまった。怖い…。そして
「わかった?そういう訳だから、絶対手作りチョコなんか上げちゃダメだからね?黛君殺したくないでしょ?渡すなら絶対市販のにしな。どうしても手作りで何かあげたいってなら、食べ物以外のものにしなさい」
と、半ば脅されるような形で手作りチョコをあげるのは諦めた。
◇
そんなやり取りをして早数日。もうそろそろバレンタイン近いし買わなきゃなー。黛ってどんなのが好きなんだろ。なんか甘いものは嫌いではないけど特別好きって訳でもないって言ってたんだよなー…。ビターチョコとかにすればいいかな?カカオ100%チョコ…?は、ないよね。てかそれならいっそカカオそのまま上げた方がいい気がする。
バレンタインのプレゼントあげれるのもしかしたら今年が最後かもしれないから、せっかくならすっごい喜んでもらえるものをあげたいけどどうしよっかなー…。
……もうすぐで高校卒業だな。卒業したらもう、会えなくなっちゃうのかな。卒業後の進路は別々だから、当然今みたいに会えなくなっちゃう訳で。卒業して、会わなくなって、そのまま連絡も取らなくなって…って感じになっちゃう可能性だってあるのかな。今だってもう自由登校だから、毎日会うってこともなくなってきてる。それすらも寂しいのに、卒業したらもっと、もっと会えなくなっちゃうんだ。嫌だな、そんなの。ずっと高校生でいれたらいいのに。
……って、何暗い事考えてんの私!バレンタインだよ、バレンタイン!せっかくなら明るく行こうよ!
チョコ、どんなのあげようかなー。あ、チョコじゃなくてマシュマロとかクッキーとかマフィンとかもありかな。どうしよっかなー…
「八島」
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
バレンタインの計画を頭の中で必死に練ってたら突然話しかけられて驚きのあまり奇声を発してしまった。教室にいた子達が一斉に私のことを見てる。恥ずかしい…。
「ま、黛…!吃驚した…」
「それは俺のセリフだわ。なんだようぎゃあって…」
私のことを呆れたように見ているその顔は、全然吃驚なんてしてなさそう。
「か、考え事してて…」
「あ、そうなのか。邪魔しちまったなら悪かったな」
「大丈夫、こっちこそ急に変な声出してごめん…。どうかしたの?」
と聞くと少し言いにくそうに「いや…」と声を潜めながら
「今週の日曜、空いてるか?」
そう質問された。今週の日曜日…
「13日?うん、空いてるよ」
チョコ買いに行こうとは思ってるけど。
「じゃあ一緒に出掛けないか?なんか赤司がプラネタリウムのチケット2枚寄越してきたんだ」
……はい?!そ、そそそ、それってつまり……!
「デート???!!!」
さっき以上の大声を上げてしまった。クラスメイト達の視線がこれ以上ないってくらい私達に向く。
「うるせぇよ大声出すな…!」
黛が珍しく焦った様に言う。
「ごめん、吃驚してつい…」
「だからそれは俺のセリフだっての…」
ハァ…と大きく溜息を吐きながら言う黛に帰す言葉が浮かばない。
「話し、戻すぞ。13、良かったら出掛けないか?」
そんなの答えは決まってるじゃん!
「うん、行く!絶対に行く!!」
元気よく返事する私のことを見て黛は苦笑しつつ、「じゃあ後で予定とかもろもろ決めるか」と言ってくれた。今からすごく楽しみだ。
寮帰ったら着て行く服とかヘアアレンジとかメイクとかいろいろ決めなきゃ!それとチョコも今日買いに行っちゃおう。1日早くなっちゃうけどせっかくなら13日に渡したいし。目一杯お洒落しなくちゃ。
あぁもうほんと楽しみ!赤司君、ありがとう。この恩は一生忘れないよ!!
◇
そんなやり取りをした月曜日。それからあっという間に時間は流れて。待ちに待った日曜日になった。天気も良く、気温もそこまで寒くなくて出掛けるには打って付け!というような日になった。嬉しくて嬉しくてとても気分が良い。待ち合わせ時間より少し早く着いちゃった。
「もしかして今日は黛よりも私のが早く…」
「残念だったな、今日も俺のが早く来てる」
真横から聞こえてきた声に絶叫する。
「お前、毎回それやらないと気が済まないのかよ…」
「そういう訳じゃないよ…黛が毎度毎度突然どこからともなく現れるからでしょ…」
そう返す私に「突然現れてねェよ」との返答が帰って来た。
そんなことないもん。絶対いつも突然現れるもん…。ムスッとしながら睨むと、吹き出された。腹立つ。
「まだ時間あるな。どっか入りたい店とかあるか?」
入りたいお店…特にないや。出掛けるのが楽しみすぎて考えもつかなかった。特にないよーと答えると「んじゃ適当にぶらつくか」と言われたので「そうだねー」と返事をすると「おう」といって歩き出した黛の後を小走りで追いかけて隣に並んで歩く。
車道側を歩いてくれたり、普段の歩くスピードよりも少し遅く歩いたりしてくれたり、さりげなく気遣いをしてくれている。優しいなー。こういうとこ、好きだなー。
◇
「プラネタリウム綺麗だったねー」
「そうだな。プラネタリウムなんて来たの、小学生以来だ」
「私も!あんまり機会なくて全然来てなかったから新鮮だった。久しぶりに来ると楽しいね。赤司君に感謝しなきゃ!」
だな、と微かに微笑みながら言う黛にドキリと心臓が跳ねる様な感覚がした。こんな風に微笑むなんて、珍しい。
黛とこんなに仲良くなれるなんて、1年の頃は思ってなかったな。存在知ったばっかりの頃は、こんなに色々な表情を見せる人だとは思わなかった。知れば知るほど、どんどん好きになる。
……もっと、ずっと一緒にいたいな。卒業してからもずっと、ずっと。大人になってからも、一緒にいたい。
「八島?どした」
急に黙り込んだ私のことを不審に思ったのか、黛が怪訝な顔で私のことを見ている。
「んー?黛と仲良くなれて良かったなーって思って」
そういうと「なんだそりゃ」と言って笑った。物凄く顔が良い。
「……もうすぐで卒業だね」
「あぁ、そうだな。あっという間な3年間だったな」
「ねぇー。部活終わって、受験も終わって、後は卒業だけだもんね。早いなー。黛は寮出たら上京して1人暮らしするんだよね?」
と尋ねると「まぁな」と返って来た。
「お前は森野とルームシェアするっつってたな。ほんと仲良いよなお前ら」
あんま苦労かけるなよ、と続けられた。
「ちょっとそれどういう意味?!酷くない?!」
「事実だろ。アイツいつもお前に振り回されてて苦労してんじゃねェか」
うぅ…言い返せない…!腹立つ…。
「なんだよその顔」
私の顔を見て盛大に吹き出す。女の子の顔見て吹き出すとか失礼過ぎない、この朴念仁!頬を膨らましながら睨むと余計笑われた。
あぁもうほんと腹立つ!
「………そろそろ帰るか。門限過ぎるとやべぇし」
そう言われて時間を見てみると、門限が近付いていることに気がついた。
「あ…うん、そうだね…」
もう終わっちゃうんだ。やだな、もっと一緒に居たい。時間が止まればいいのに。どうして時間て止まってくれないんだろう。
「行くぞ。…女子寮まで、送る」
「えっ。い、いいよいいよ、悪いって!男子寮方向逆だし!!」
「今更気にすんなよ。俺が送りたいだけだしな」
ほら、とっとと行くぞ。そう言って歩き出した黛に、顔が熱くなってきた。送りたいだけって…!何それずるいよこの天然タラシ…!って、黛早っ!ちょ…!
「待ってよー!」
慌てて追いかけると、意外とすぐに追いつけた。あぁもうほんとずるいよこの男!!!
◇
「黛、今日はありがとね。すっごい楽しかった!」
女子寮の前まで送ってもらい、お礼を言うと「おう…」と言いつつ目を逸らされた。あれ、なんか黛顔赤い…?気のせいかな。
「俺も、楽しかった。ありがとな」
黛も、楽しんでくれたんだ…!嬉しい。赤司君に何度お礼を言えばいいんだろう。何度言っても足りない気がする。
「じゃ、俺帰るわ」
そう言って歩き出そうとする黛に慌てて「待って!!」と呼び止めると立ち止まって振り返ってくれた。
「あの、コレ…!」
カバンから小包を出して渡すと、首を傾げられた。
「あの、その、これ…1日早いけど、バ、バレンタインの、プレゼント…!」
というと「えっ…」と驚いたように声を上げつつも受け取ってくれた。
「わざわざ用意してくれたのか…。ありがと。コレ、チョコ、か?なんかその割に包みデカい様な…」
「うん、チョコもあるけどあと、マフラーも入ってるんだ…」
「マフラー?」
「うん。チョコ作ろうと思ったんだけど森野に私の手作りチョコなんて食べたら死んじゃうからやめておけって止められちゃって…。だからチョコは市販のにして、マフラー作ったの!編み方調べたら案外簡単そうだったから」
と説明すると「あぁ…」と呟いた。
「……ありがとな、大切にする」
柔らかく笑いながらお礼を言われた。喜んでくれたのかな?だったら、嬉しいな。作った甲斐があった。
「じゃ、今度こそ帰るわ。…また、明日な」
軽く挨拶していそいそと歩き出した黛の後姿を見送る。
今日はほんと、良い1日だったな。高校最後のバレンタインはきっと、一生忘れられない思い出になるだろう。
高校卒業まであと数日。さみしいなとか、嫌だなって気持ちはなくならないと思うけどでも、それでも残りの数日間を精一杯楽しんで過ごそう。今のこの時間はもう、何があっても絶対に戻らないんだ。だったら少しでも、大切に大切に過ごして悔いが少しでも残らない様にして過ごそう。
「やめなよ、アンタの手作りチョコなんか食べたら黛君死んじゃうから」
嬉々としながら話す私のことをルームメイトであり友人でもある森野はバッサリと切り捨てた。
「ちょっ酷くない?!いくらなんでもそんなそこまで言うことないじゃん!確かに私料理はちょっと苦手、だけどさ…」
そう言うと「ちょっとー?」と返って来た。
「アンタの料理の腕前はちょっと苦手なんて可愛いもんじゃないでしょ、何ふざけた事抜かしてんの。レモンの蜂蜜漬けのレモンは切れって何度も何度も言ってんのにこの3年結局1度も切らなかったよね?何度言えば切るようになるの。てかなんで丸々そのまま投入すんの?レモンの蜂蜜漬けの意味わかってるアンタ?ていうかレモンて丸ごと食べることあるの?そこがまず不思議で不思議でたまらないよ私は。あとピーマンの肉詰め作るとか言って間違ってハバネロ買ってきとこともあったね。しかもそのことに気づかずにそのまま作っちゃったこととかもあったよね?お陰で私と黛君と樋口君がひっどい目に遭ったんだよ、覚えてる?つか覚えとけや。忘れたとは言わせねぇからなこのアホンダラ。あと調理実習の時。アンタ毎回毎回砂糖と塩間違えてなかったけ。私の記憶違い?なんか1度も間違わずに入れてたとこ見たことない気がするんだけどな。気のせいかな。ンなわけあるか気のせいじゃねぇんだよチキショー。お陰でしばらく砂糖と塩トラウマになりかかったわどうしてくれんだ」
ゼェゼェ、と物凄い剣幕で一息で捲し立てる森野の迫力に圧倒されて、何も言えなくなってしまった。怖い…。そして
「わかった?そういう訳だから、絶対手作りチョコなんか上げちゃダメだからね?黛君殺したくないでしょ?渡すなら絶対市販のにしな。どうしても手作りで何かあげたいってなら、食べ物以外のものにしなさい」
と、半ば脅されるような形で手作りチョコをあげるのは諦めた。
◇
そんなやり取りをして早数日。もうそろそろバレンタイン近いし買わなきゃなー。黛ってどんなのが好きなんだろ。なんか甘いものは嫌いではないけど特別好きって訳でもないって言ってたんだよなー…。ビターチョコとかにすればいいかな?カカオ100%チョコ…?は、ないよね。てかそれならいっそカカオそのまま上げた方がいい気がする。
バレンタインのプレゼントあげれるのもしかしたら今年が最後かもしれないから、せっかくならすっごい喜んでもらえるものをあげたいけどどうしよっかなー…。
……もうすぐで高校卒業だな。卒業したらもう、会えなくなっちゃうのかな。卒業後の進路は別々だから、当然今みたいに会えなくなっちゃう訳で。卒業して、会わなくなって、そのまま連絡も取らなくなって…って感じになっちゃう可能性だってあるのかな。今だってもう自由登校だから、毎日会うってこともなくなってきてる。それすらも寂しいのに、卒業したらもっと、もっと会えなくなっちゃうんだ。嫌だな、そんなの。ずっと高校生でいれたらいいのに。
……って、何暗い事考えてんの私!バレンタインだよ、バレンタイン!せっかくなら明るく行こうよ!
チョコ、どんなのあげようかなー。あ、チョコじゃなくてマシュマロとかクッキーとかマフィンとかもありかな。どうしよっかなー…
「八島」
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!」
バレンタインの計画を頭の中で必死に練ってたら突然話しかけられて驚きのあまり奇声を発してしまった。教室にいた子達が一斉に私のことを見てる。恥ずかしい…。
「ま、黛…!吃驚した…」
「それは俺のセリフだわ。なんだようぎゃあって…」
私のことを呆れたように見ているその顔は、全然吃驚なんてしてなさそう。
「か、考え事してて…」
「あ、そうなのか。邪魔しちまったなら悪かったな」
「大丈夫、こっちこそ急に変な声出してごめん…。どうかしたの?」
と聞くと少し言いにくそうに「いや…」と声を潜めながら
「今週の日曜、空いてるか?」
そう質問された。今週の日曜日…
「13日?うん、空いてるよ」
チョコ買いに行こうとは思ってるけど。
「じゃあ一緒に出掛けないか?なんか赤司がプラネタリウムのチケット2枚寄越してきたんだ」
……はい?!そ、そそそ、それってつまり……!
「デート???!!!」
さっき以上の大声を上げてしまった。クラスメイト達の視線がこれ以上ないってくらい私達に向く。
「うるせぇよ大声出すな…!」
黛が珍しく焦った様に言う。
「ごめん、吃驚してつい…」
「だからそれは俺のセリフだっての…」
ハァ…と大きく溜息を吐きながら言う黛に帰す言葉が浮かばない。
「話し、戻すぞ。13、良かったら出掛けないか?」
そんなの答えは決まってるじゃん!
「うん、行く!絶対に行く!!」
元気よく返事する私のことを見て黛は苦笑しつつ、「じゃあ後で予定とかもろもろ決めるか」と言ってくれた。今からすごく楽しみだ。
寮帰ったら着て行く服とかヘアアレンジとかメイクとかいろいろ決めなきゃ!それとチョコも今日買いに行っちゃおう。1日早くなっちゃうけどせっかくなら13日に渡したいし。目一杯お洒落しなくちゃ。
あぁもうほんと楽しみ!赤司君、ありがとう。この恩は一生忘れないよ!!
◇
そんなやり取りをした月曜日。それからあっという間に時間は流れて。待ちに待った日曜日になった。天気も良く、気温もそこまで寒くなくて出掛けるには打って付け!というような日になった。嬉しくて嬉しくてとても気分が良い。待ち合わせ時間より少し早く着いちゃった。
「もしかして今日は黛よりも私のが早く…」
「残念だったな、今日も俺のが早く来てる」
真横から聞こえてきた声に絶叫する。
「お前、毎回それやらないと気が済まないのかよ…」
「そういう訳じゃないよ…黛が毎度毎度突然どこからともなく現れるからでしょ…」
そう返す私に「突然現れてねェよ」との返答が帰って来た。
そんなことないもん。絶対いつも突然現れるもん…。ムスッとしながら睨むと、吹き出された。腹立つ。
「まだ時間あるな。どっか入りたい店とかあるか?」
入りたいお店…特にないや。出掛けるのが楽しみすぎて考えもつかなかった。特にないよーと答えると「んじゃ適当にぶらつくか」と言われたので「そうだねー」と返事をすると「おう」といって歩き出した黛の後を小走りで追いかけて隣に並んで歩く。
車道側を歩いてくれたり、普段の歩くスピードよりも少し遅く歩いたりしてくれたり、さりげなく気遣いをしてくれている。優しいなー。こういうとこ、好きだなー。
◇
「プラネタリウム綺麗だったねー」
「そうだな。プラネタリウムなんて来たの、小学生以来だ」
「私も!あんまり機会なくて全然来てなかったから新鮮だった。久しぶりに来ると楽しいね。赤司君に感謝しなきゃ!」
だな、と微かに微笑みながら言う黛にドキリと心臓が跳ねる様な感覚がした。こんな風に微笑むなんて、珍しい。
黛とこんなに仲良くなれるなんて、1年の頃は思ってなかったな。存在知ったばっかりの頃は、こんなに色々な表情を見せる人だとは思わなかった。知れば知るほど、どんどん好きになる。
……もっと、ずっと一緒にいたいな。卒業してからもずっと、ずっと。大人になってからも、一緒にいたい。
「八島?どした」
急に黙り込んだ私のことを不審に思ったのか、黛が怪訝な顔で私のことを見ている。
「んー?黛と仲良くなれて良かったなーって思って」
そういうと「なんだそりゃ」と言って笑った。物凄く顔が良い。
「……もうすぐで卒業だね」
「あぁ、そうだな。あっという間な3年間だったな」
「ねぇー。部活終わって、受験も終わって、後は卒業だけだもんね。早いなー。黛は寮出たら上京して1人暮らしするんだよね?」
と尋ねると「まぁな」と返って来た。
「お前は森野とルームシェアするっつってたな。ほんと仲良いよなお前ら」
あんま苦労かけるなよ、と続けられた。
「ちょっとそれどういう意味?!酷くない?!」
「事実だろ。アイツいつもお前に振り回されてて苦労してんじゃねェか」
うぅ…言い返せない…!腹立つ…。
「なんだよその顔」
私の顔を見て盛大に吹き出す。女の子の顔見て吹き出すとか失礼過ぎない、この朴念仁!頬を膨らましながら睨むと余計笑われた。
あぁもうほんと腹立つ!
「………そろそろ帰るか。門限過ぎるとやべぇし」
そう言われて時間を見てみると、門限が近付いていることに気がついた。
「あ…うん、そうだね…」
もう終わっちゃうんだ。やだな、もっと一緒に居たい。時間が止まればいいのに。どうして時間て止まってくれないんだろう。
「行くぞ。…女子寮まで、送る」
「えっ。い、いいよいいよ、悪いって!男子寮方向逆だし!!」
「今更気にすんなよ。俺が送りたいだけだしな」
ほら、とっとと行くぞ。そう言って歩き出した黛に、顔が熱くなってきた。送りたいだけって…!何それずるいよこの天然タラシ…!って、黛早っ!ちょ…!
「待ってよー!」
慌てて追いかけると、意外とすぐに追いつけた。あぁもうほんとずるいよこの男!!!
◇
「黛、今日はありがとね。すっごい楽しかった!」
女子寮の前まで送ってもらい、お礼を言うと「おう…」と言いつつ目を逸らされた。あれ、なんか黛顔赤い…?気のせいかな。
「俺も、楽しかった。ありがとな」
黛も、楽しんでくれたんだ…!嬉しい。赤司君に何度お礼を言えばいいんだろう。何度言っても足りない気がする。
「じゃ、俺帰るわ」
そう言って歩き出そうとする黛に慌てて「待って!!」と呼び止めると立ち止まって振り返ってくれた。
「あの、コレ…!」
カバンから小包を出して渡すと、首を傾げられた。
「あの、その、これ…1日早いけど、バ、バレンタインの、プレゼント…!」
というと「えっ…」と驚いたように声を上げつつも受け取ってくれた。
「わざわざ用意してくれたのか…。ありがと。コレ、チョコ、か?なんかその割に包みデカい様な…」
「うん、チョコもあるけどあと、マフラーも入ってるんだ…」
「マフラー?」
「うん。チョコ作ろうと思ったんだけど森野に私の手作りチョコなんて食べたら死んじゃうからやめておけって止められちゃって…。だからチョコは市販のにして、マフラー作ったの!編み方調べたら案外簡単そうだったから」
と説明すると「あぁ…」と呟いた。
「……ありがとな、大切にする」
柔らかく笑いながらお礼を言われた。喜んでくれたのかな?だったら、嬉しいな。作った甲斐があった。
「じゃ、今度こそ帰るわ。…また、明日な」
軽く挨拶していそいそと歩き出した黛の後姿を見送る。
今日はほんと、良い1日だったな。高校最後のバレンタインはきっと、一生忘れられない思い出になるだろう。
高校卒業まであと数日。さみしいなとか、嫌だなって気持ちはなくならないと思うけどでも、それでも残りの数日間を精一杯楽しんで過ごそう。今のこの時間はもう、何があっても絶対に戻らないんだ。だったら少しでも、大切に大切に過ごして悔いが少しでも残らない様にして過ごそう。
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