転生勇姫・SS

 かつての宿敵、勇者が転生したのは小さく可憐な姫だ。
 だから、何をしようと我が脅威にはなりえない……はずだったのだが。

「マオたーん」
「うおわ!?」

 自室で寛ぐ夜、突然窓の外から現れられたら思わぬ声も出ようというもの。
 これは仕方がないのだ。

「なんだよ、オバケでも見たみたいな声を出して」
「う、うら若き乙女でしかも一国の姫が夜中に窓から男の部屋に侵入を試みる姿なんか見せられてみろ! ファイあたりなら卒倒しとるわ!」

 この悲鳴はどちらかというとそういうアレで決して油断して心底驚かされたとかではないのだからな!
 と弁解する間もなく、勇者はよっこらしょと室内に降り立った。

「何しに来た? ま、まさか夜這……」
「もうすぐ今年が終わるだろ。だから」
「……だから?」
「年越しはお前とがいいなって」

 お前とがいいなって。

 いいなって。

 って。

「……空の彼方に広がる世界の話をされた猫みたいな顔してんぞ、お前」
「どっどっどどどどういう顔だ!」

 貴様が妙なことを口走るからだろうが!
 内心でいくら騒ぎ立てても届く訳がなく、勇者は窓の外へと紺碧の瞳を向けた。

「もうちょいで日付が変わって、年が明ける。その瞬間に花火があがるんだ」
「ああ、その習慣は各国共通だったな。もうじき時間か」
「それまで話をしようと思って。今年もいっぱい、いろんなことがあったからな」
「むう……そうだな。我はもう少し静かでも良いのだが……」

 勇者のペースに乗せられて、一年間の思い出話に興じてやる。
 旅をしている間は想像もしなかった、賑やかな日々。
 思えば、この宿敵と再会してからは毎日が祭だ。

「へへ」
「なんだ急に……気色が悪いぞ」

 瞬間、空に光の華が咲く。
 勇者の笑顔は、色とりどりの光に照らされて。

「あけましておめでとう。今年もよろしくな、マオ」
「むっ?」
「最初に言いたかったんだ、これ。こうすりゃ一番乗りだろ?」
「ぬう……っ!?」

 なん、だと……一番乗り……?
 そんないじらしい理由で、単身乗り込んできたというのか……?

「マオ……激辛タコ焼き口いっぱいに詰め込まれたみたいな顔してんぞ?」
「や、やかましいわ!」

 貴様が不意討ちなどするから!
 暴れる心臓を必死で押さえ、呼吸も苦しい……これが勇者の“かいしんのいちげき”というヤツなのか……!

「どうしたんだよマオ、何怒ってんだ?」
「き、き、貴様……貴様が……!」

 我は大きく息を吸い込み、全力で勇者を睨みつける。

「貴様がどうしてもと言うなら、よろしくしてやらんこともないッ!」
「お、おう……ありがとな」

 ちなみに。

 花火の音があるとはいえ、夜中にこれだけ騒いだら当然気づかれもするというもので……

「ユーシア様っ!」
「にゃー」
「どうして我まで……」

 声を聞きつけたファイに揃って叱られる羽目になる、これが今年の幕開けとなった。
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