転生勇姫・SS

 昼間は子供たちが遊ぶ公園も夜になればひと気もなく、ひっそりとしたものになる。
 最低限の灯に照らされた密やかで静かな空間が心地良く、たまにこうして足を運んでいた。

……何よりの目当てはその公園にある、そこの象徴的なものなのだが。

(伝説の勇者の聖剣……)

 かつて魔王を倒した伝説の勇者が持っていた聖剣は、今は主を失い石化してここに眠っている。
 その周りにはうっかり手を触れないように張られた結界と、さらにその結界にも一足飛びでは近づけないように少々厳重なくらいの柵が設けられていて……

 ちなみに厳重になった原因は、幼い頃の私が剣に惹かれて結界に触れてしまい、大怪我をしたせい。
 それが反面教師となったお陰で、リンネの人間で聖剣に無闇に触れようとする者はまずいない。

 そしてそんなことがあっても……さすがにもう触れようとはしないが、気づけばこうやって剣の前に来てしまうのだ。

(ここに来ると妙に落ち着く。霧が晴れて、空気が澄んでいくような感覚だ)

 勇者の聖剣に対してこんな気持ちを抱くのは妙なのだが、気心の知れた友人の隣にいるような……自分らしく、自然体でいられるような。

「……今日も来てしまった。聞いてくれるか?」

 しっとりとした闇に月灯が融ける夜、剣に一方的に語りかける私は傍から見れば不審者だろうか。
 最近あったこと、嬉しかったこと、悩みごと……などなど。
 きっと私はこうして口に出すことで心の整理をしているのだろうなと思いながら。

(勇者というものを神聖視するつもりも崇拝するつもりもないが……この剣を手にしていた者と語らってみたい、とは思うな)

 叶いもしないだろうことをぼんやりと考え、ふ、と笑みが零れる。

 本当に……不思議な感覚だ。

「さて、夜も更けてきた。見回りをしながら帰るとしよう」

 そうして剣に笑いかけると、踵を返して立ち去る。

 きっとこれからも続くだろう、私のささやかな夜の時間だ。
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