~地中に潜む脅威~

 これまでとは明らかに格が違う、大柄な魔物の出現にデュー達に緊張が走る。

「ばかな、前に来た時にはこんな魔物は……」
「言ってる場合じゃないな、もう全員敵と見做されてる」

 魔物は動揺するトランシュを見据えると、息を吸い込んだ。
 僅かに開けた口の隙間から、炎が零れる。

「まずい!」
「痛み和らげる光の衣よ!」

 吐き出される火炎球にすかさずオグマが補助術を唱え、トランシュを守る。
 避けきれなかった炎が多少降りかかったが、術のお陰で大したダメージにはならなかった。

「すまない、助かった」
「予想外の事にも思考を止めるな。判断が遅れれば命取りになる」

 ぴしりと言い放つと、オグマは目の前の魔物を見上げた。

「……一筋縄ではいかない相手のようだな。私が魔術で切り崩すから援護を頼む!」
「了解っ!」

 リュナンは短く返事をすると、魔物の攻撃からオグマを守るように立ちはだかった。

「旦那には指一本触れさせません、よっ!」

 斧槍が重い一撃を受け止め、押し返す。

「こいつぁオマケだっ!」

 よろけた魔物に力任せに拳を叩き込んで、強引に距離を離させる。
 逆上した魔物は狙いを変え、いきなりリュナンに飛び掛かる。

「ちょっ、うわぁっ!?」

 巨体とは思えない動きに今度はリュナンが殴り飛ばされた。

「大丈夫か、リュナン!」
「……へへっ、体力バカですからね。これくらいなら、なんとか……」

 ふらふらと立ち上がるリュナンにひとまずは大丈夫だと判断し、デュー達は戦いに集中した。

「すまない、待たせたな!」

 そこにオグマの術が完成し、水浅葱の瞳が煌めいた。

「切り刻め、風狼の牙!」

 刃のように鋭い風が幾重にも魔物を襲う。
 これには堪らず魔物も呻き声をあげる。

「怯んだか……行くぞ、トラ!」
「!?……あ、ああ!」

 デューの呼び掛けにトランシュは一瞬思考停止しそうになったが、すぐに魔物に向き直る。

 デューは大剣を、トランシュは長剣を構え、駆け出した。

「見切れるか!」

 まずデューが懐に潜り込み、高く掲げた剣を振り下ろし、続いて下から斬り上げると反動を利用して一度離れる。

「これでっ……」

 さらにトランシュが回転斬りを食らわせ、着地から一歩下がる。

 最後は二人同時に地を蹴って、

「「終わりだッ!!」」

 両側から渾身の力をこめて一閃、二人の剣筋が十字に重なった。

 この一撃がトドメとなり魔物は倒れ、それきり動かなくなった。

「す、すごい……」
「兄様もデューも、息ピッタリなのじゃ……」

 デューもトランシュも一緒に戦うのは初めてのはず。
 その感覚に戸惑っていたのは、誰よりもトランシュ本人だった。

「……デュー君、だったね。君はさっき、僕の事をトラって……」
「ん、そんな事言ったか?」
「い、いや……覚えていないならいい」

 全く自覚のないデューに戦闘中の咄嗟のことだろう、とトランシュは忘れる事にした。

「それよりも今はこの先に進む事だ。一刻も早く牙をなんとかしなくては……」
「こんなどんよりした障気、さっさと晴らしちゃいましょ♪」
「簡単に言ってくれるな……」

 シュクルはこの先に待ち受けているであろう脅威を思い浮かべ、深く深く溜息を吐いた。

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