第一部・~あたたかな村~

 場所は再び、シブースト村。

「この、ばかもんが!」

 再会の喜びも束の間、凄まじい剣幕で怒鳴りつけるミレニアに双子はびくっと跳ねた。

「「ご……ごめんなさい……」」
「一歩間違えばとんでもない事態になったかもしれないんじゃぞ、よく反省せい!」

 しょぼん、と揃って俯くカネルとシナモン。

 今回は運良く助かったものの、奥にいた魔物は戦い慣れた二人でも厳しかった。
 デューが抱えている小さな喋るうさぎ……聖依獣と名乗るシュクルの力がなければどうなっていたか。

「……うるさいぞ小娘、眠れぬではないか」
「む、気が付いたかの?」

 力を使い果たしたのかしばらく眠っていたシュクルだったが、今の騒ぎで目を覚ましたらしい。

 が、身体はまだ言うことを聞かないのかおとなしく抱かれたままだ。

 シナモンはシュクルに気付くと、とてとてと歩み寄る。

「うさぎさ…………シュクル、助けてくれてありがとう」
「ん……好奇心で危険な所に行くものではないぞ?」
「うん……もうあんな所には行かないよ」

 それを聞くと「よろしい」と頷くシュクル。

「さて、説教はこれくらいにして行くかの」
「ミ……ミレニアお姉ちゃん!」

 くるりと踵を返すミレニアをカネルが呼び止める。

「おれ、今度はシナモンを置いて逃げないよ! うんと強くなって、いつかシナモンを守るんだ!!」
「カネル……男は一度言った事は守るんじゃぞ?」
「うん!」

 少年の瞳は真っ直ぐで澱みがない。
 デュー達は双子に別れを告げると歩き出した。

「……子供が大言を……」

 ぽつり、とシュクルが呟く。

「今は無理じゃが、ちゃんと努力すればいつかは実る。カネルは頑張り屋さんじゃからの」
「……ふん」

 何か気に食わない様子のシュクルを撫でながらミレニアは笑った。

「……さて、次の町に行くかの。デューの記憶の手掛かりを探さねば」
「な……お前もついて来るのか!?」

 驚くデューにミレニアは唇を尖らせる。

「何を言うておる?……おぬし、この辺りの地理がわかるのか?」
「う……それは、地図があれば……」
「地図だけじゃやって行けんじゃろ。例えばこの先の洞窟では毒をもった魔物がいるからしっかり準備して行かんと痛い目を見るぞ?」

 びしり、と指を差されると彼女の勢いに押されデューはたじろいだ。

「うっ……だが、これはオレの問題で……」
「なに、乗り掛かった船じゃ。お姉ちゃんにどんと任せい!」

 これ以上は何を言っても無駄か、と溜息を吐く。
 それから視線を腕の中に落とした。

「……で、シュクルといったか。お前はこれからどうするんだ?」
「余は……」

 シュクルはもじもじとミレニアを見上げる。
 すると彼女は何か察したらしくにっこり笑った。

「旅は賑やかな方が良いじゃろ。おぬしさえ良ければ一緒にどうじゃ?」

 シュクルはぱぁっと目を輝かせたが、我に返るとデューの腕から逃れすぐさまそっぽを向いてしまう。

「そ……そこまで言うならついて行ってやらなくもないぞ」
「決まりじゃな♪」
「勝手に仕切るな……まぁ断る理由もないが」

 デューはやれやれと肩を竦めながら村の門を潜る。
 ミレニアとシュクルもそれに続いた。

「ミレニアちゃん、旅に出るのかい? 気をつけてなー」
「おう、行ってくるのじゃ!」

 門番の声を背に、二人と一匹はシブースト村から旅立つ。

 広い世界に、記憶の手掛かりを求めて。
3/4ページ
スキ