~渦中の王都~

 見れば長く伸ばした月白色の髪をゆるく束ね、整った顔立ちをした長身の青年が切れ長の目をこちらに向けて佇んでいた。
 瞳の色はカーマインで、凛とした印象を受ける。

「ハンサムさん、盗み聞きなんてあまり良い趣味とは言えないわよん?」
「失礼した。だが騎士として見過ごせないと思ったのでね。それに……」

 謝罪の意をこめて一礼すると、騎士の視線がミレニアへ向く。
 彼女は咄嗟に目をそらした。

「……ミレニア、どうしてこんな所に?」
「兄様……ひ、久し振り~なのじゃ☆」

 気まずさに苦笑を浮かべるミレニア。
 一瞬、場の空気が固まる。

「「「兄様!?」」」
「あ、あはは~……」
「これは一体どういう事なんだ? シブースト村にいたはずでは……それに、この方々は?」

 驚くデュー達を青年は不思議そうに見る。

「……その前にそっちから名乗ってくれ」
「ああ、そうだったね。私はトランシュ。ミレニアの兄で王都騎士団の部隊長だ。君は……」

 と、言いかけてトランシュは目を細める。

「…………君には、兄はいないのか?」
「なんだいきなり……」
「弟じゃなければ子供、にしては大き過ぎるしな……しかしあまりにも……」

 ぶつぶつと何やら神妙な面持ちで呟くトランシュにデューは眉間を寄せる。

「……なんだコイツ、気持ち悪いぞ」
「ああ、すまない。君が私の友人にあまりにもよく似ていたのでね」
「デューは記憶喪失なのじゃ。兄様の友人って?」

 ミレニアが尋ねるとトランシュはそちらへ顔を向ける。

「……残念だが私の友人とは別人だろう。彼は私と同期の騎士だ」
「むむ、デューとは年齢が合わんのぅ……」
「彼も行方知れずになって久しいが……もしこの少年が家族なら、何か知りはしないかと思ってね。けど懐かしいな……」

 よほどデューが友人に似ているのか、そのまま思い出の世界へ旅立ってしまいそうなトランシュをリュナンが咳払いで引き戻した。

「あのー、俺の話がまだ途中だったんですけど……」
「失礼、そうだったな」

 トランシュはリュナンの方へ振り向くと申し訳なさそうな顔で、

「……一般の人間を守るのが騎士の務めだと言うのに……我々の対応が遅れたばかりに、結界の外に自ら飛び出してしまう程不安を募らせてしまった。君以外にも外へ出た者は少なくないと聞く。そしてその大半は……」

 その先は、言わなくても容易に想像がつく。
 魔物に殺されたか、障気の毒に倒れたか。
 苛立ちが募り、トランシュは拳を握り締めた。

「もう一刻を争うというのに……聖依獣さえいれば……!!」
「え?」

 ふいに出た名前を聞いて仲間達の視線が一斉にシュクルに注がれる。
 彼は驚きに目を瞬かせ、尻尾をゆらゆらとさせてトランシュを見上げた。

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