~蛍煌石を追って~

―北東の森―

 蛍煌石を盗んだ連中はこの辺りを根城にしているらしい。

 しかし一行が辿り着いた時には盗賊達は地面に倒れ伏していて……

「あん、弱っちくて物足んな~い!」

 蛍煌石を手に、倒した男の上に座って足を組む女性が一人。
 アンバーローズの長い髪を二つ結びにして、勝ち気そうな瞳をつまらなさそうに細めている。
 露出の高い服は、イシェルナと並ぶ抜群のプロポーションを隠すことなく見せていた。

「あれは蛍煌石……それに盗賊が倒されているだと!?」
「ん、アンタ達誰?」

 駆けつけたデューの声に女性が振り向く。
 歳はイシェルナより少し下、といった感じだ。

「オレ達はお前がその手に持っている物を……蛍煌石をそこの盗賊から取り返しに来たんだ」
「ふ~ん……そぉ」

 座ったまま足をぷらぷら遊ばせていた女性が弾みをつけて立ち上がる。

「でもこれはエクレアちゃんがこの人達から貰ったものだしぃ~、キラキラして綺麗だからあげない♪」
「なんだとっ……!?」

 エクレアと名乗った女性は不敵な笑みでデューを見下ろす。

「どーしてもって言うならアタシと戦ってよ?……コイツら弱くてつまんなかったのよね~」

 拳を構え、挑発するエクレア。
 それに応えるようにイシェルナが進み出た。

「ふふっ……どうやらちょっとオシオキしてあげないといけないみたいね」
「アタシに? オシオキぃ? 出来ると思ってんの?」

 バチバチと火花が散るのが誰の目にもよく見えた。
 入り込めない空気に、思わず後退る。

「ここはイシェルナに任せるか……」
「集団でボコるのはあんまりじゃしのぅ」

 という訳で、イシェルナとエクレアの一対一の戦いに。

「いくわよお嬢ちゃんっ!」
「おっそい遅い! そんなんで当たると思ってんの?」

 どうやらエクレアもイシェルナと似た戦闘スタイルらしく、素早い立ち回りでイシェルナの繰り出す拳や蹴りを躱して攻撃を叩き込んでくる。

 身のこなしは互角か、それとも……

「イ、イシェルナさん、大丈夫でしょうか……?」
「何なら占ってみるかの、フィノ?」

 はらはらしながら見守るフィノにミレニアが笑って言う。

「ま、結果は見えとるがの」

 とイシェルナの方を見やれば、彼女も笑みを浮かべていた。

「何よ、何がおかしいワケ?」
「エクレアちゃん、だったかしら?……結構強くて腕にも自信あるみたいだけど……」

 エクレアが突き出した拳をしゃがんで避けると、イシェルナはすかさず足払いをかけた。

「へ……!?」
「まだまだ、ね!」

 体勢を崩した所に容赦ない一撃で吹っ飛ばし、木に叩きつける。

「きゃんっ!!」
「うふ、勝負あったかしら?」

 かなりダメージを受けたらしいエクレアは悔しそうにイシェルナを見上げる。

「……うぅ~……」
「じゃあ蛍煌石は返して貰うわね♪」
「よ、よくもっ……」

 だが次の瞬間、イシェルナは紫黒の瞳を邪悪に細め、

「……一度勝負がついたんだから、余計なことは考えない方が良いわよ? 貴女は一人、こっちには頼もしい仲間がいるんだから★」

 と、強烈なトドメを刺してエクレアの戦意を殺いだ。

「~っマジ、信じらんない……!」

 それでもよろよろと立ち上がったエクレアは、悔し紛れに強くイシェルナを睨んだ。

「もーチョベリバっ! 覚えてなさいよ~!!」

 そして捨て台詞を残すと、ダメージがあるとは思えない動きでその場を離れていった。

 蛍煌石を手に入れたイシェルナはくるりと一行を振り返ると、

「……みんな、お待たせ☆」

 女神のような笑顔を見せたのだが……

「い……今の、まるでこっちが悪役じゃ……」
「言うなフィノ。気付いても言うでない」
「ところでチョベリバって何だろうか……」

 誰一人として、彼女の微笑みに見惚れる者はいなかったという。
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