~濃霧の中へ~
熱気立ち込める工房にて。
「オラ、出来たぜ」
机上に六つのアクセサリーを並べ、見るからに頑固そうな職人はギロリと睨みをきかせた。
ただし職人……ガトーをよく知るオグマには、思わずすくみ上がるようなそれが平常時の目つきだとわかっているが。
「指輪に腕輪、ペンダントにイヤリング……いろいろあるのぅ」
「それにとても綺麗な装飾ね。おじさまの手からこんな繊細なアクセサリーが生まれるなんてねぇ♪」
「ええ、素敵です!」
女性陣はそれぞれアクセサリーを手に感想を述べる。
と、デューがその光景を眺めながら首を傾げた。
「……けどこれ、シュクルの分はどれなんだ?」
「そのちっこいウサギの分なら作ってねぇぞ」
「なっ……!?」
自分の分がない、という事よりもまたウサギ呼ばわりされた事に思わず反応するシュクルをすかさず押さえると、ガトーの視線が向けられた。
「……そのウサギの首輪の石、そりゃ申し分ないくらい上等な蛍煌石だ。オマケに誰が施したかは知らねぇがちゃんと加工してある。見事なもんだ」
つまり、シュクルの分は最初から必要なかったのだ。
だが、だとすれば新たな疑問がひとつ。
イシェルナが口許に手を置いて呟く。
「あたし達は五人、だけどアクセサリーは六つ……どうしてかしらん?」
「あぁ、そりゃサービスだ。オグマにな」
「私に?」
オグマがきょとんとした顔をするとガトーは色黒の肌に目立つ白い歯を見せて二カッと笑う。
「余ったひとつは、おめぇにいつか大切な人が出来たら、そいつにやりな」
「大切な……」
「ホントならうちの娘を是非嫁に、とか思ってたんだけどな。その前に嫁に行っちまった」
そこまで言われて意図を理解したオグマが、目に見えるほど真っ赤になって慌て出す。
「わ、私は、そのっ……」
「もしかして誰かいるんですか?」
「ぃ……ない……」
恋話の気配に目を輝かせてフィノが尋ねるが、返答は期待とは違うものだった。
「なんじゃ、つまらんのぅ」
「コイツは昔から奥手だからな」
「ガ、ガトー殿っ!」
これ以上何か言われる前に阻止しようといつになく声が大きくなるオグマ。
しかし一瞬の後、その表情に陰が落ちた。
「……すみません…………今は、そういう気分には……」
「おめぇまさか、まだ……?」
ガトーがぐいっと片眉を上げてオグマを見上げる。
ややあって、はぁ、と吐息が洩れた。
「…………わかったよ。けどそいつは持っていけ」
「良いのですか?」
「良いも何もおめぇにやったんだ。それに、コイツらとの旅でそのうちそういう相手に巡り逢わねぇとも限らんからな」
「ガトー殿……」
そうこうしている間に仲間達はアクセサリーの中から好きな物を選び始めていた。
デューは腕輪、ミレニアは指輪を。
イシェルナはアンクレット、フィノはイヤリング。
余ったのはペンダントとブローチだ。
「貰えるもんは貰っておいたらどうじゃ?」
「オレ達はもう選んだぞ、オグマ」
「あ、ああ……すまない」
促されるようにしてオグマはブローチを手に取った。
「オグマ、つけてあげるのじゃ♪」
「……すまない」
ミレニアがオグマのコートの襟にブローチを飾る。
少し照れくさそうにしながらそれを見、次いでガトーを見た。
「ガトー殿……ありがとうございます」
「おら、とっとと行け」
「は、はい。それでは……」
少しばかり語気を強めたガトーの声にびくりと身を竦ませ、オグマは踵を返す。
仲間達もそれに続こうとした、その時。
「あぁ、そうだ」
ふいにガトーが声を発し、一行の足を止めた。
「おめぇら、オグマの事よろしく頼むな。娘の婿にはならなかったが、俺にとってコイツは息子みてぇなもんだ」
「ガトー、殿……」
ガトーの言葉にふっとデュー達の表情がやわらかくなる。
「わかっている。任せろ」
「がってん承知なのじゃ☆」
頼もしい返事に後押しされて、オグマは気恥ずかしそうにはにかんで、
「……行ってきます」
「おぅ」
今度こそ、ぞろぞろと出ていく一行。
彼等の後ろ姿を見送ると、
「……行ってきます、か。なんだかくすぐってぇや」
職人は豪快に頭を掻き、仕事場に戻った。
「オラ、出来たぜ」
机上に六つのアクセサリーを並べ、見るからに頑固そうな職人はギロリと睨みをきかせた。
ただし職人……ガトーをよく知るオグマには、思わずすくみ上がるようなそれが平常時の目つきだとわかっているが。
「指輪に腕輪、ペンダントにイヤリング……いろいろあるのぅ」
「それにとても綺麗な装飾ね。おじさまの手からこんな繊細なアクセサリーが生まれるなんてねぇ♪」
「ええ、素敵です!」
女性陣はそれぞれアクセサリーを手に感想を述べる。
と、デューがその光景を眺めながら首を傾げた。
「……けどこれ、シュクルの分はどれなんだ?」
「そのちっこいウサギの分なら作ってねぇぞ」
「なっ……!?」
自分の分がない、という事よりもまたウサギ呼ばわりされた事に思わず反応するシュクルをすかさず押さえると、ガトーの視線が向けられた。
「……そのウサギの首輪の石、そりゃ申し分ないくらい上等な蛍煌石だ。オマケに誰が施したかは知らねぇがちゃんと加工してある。見事なもんだ」
つまり、シュクルの分は最初から必要なかったのだ。
だが、だとすれば新たな疑問がひとつ。
イシェルナが口許に手を置いて呟く。
「あたし達は五人、だけどアクセサリーは六つ……どうしてかしらん?」
「あぁ、そりゃサービスだ。オグマにな」
「私に?」
オグマがきょとんとした顔をするとガトーは色黒の肌に目立つ白い歯を見せて二カッと笑う。
「余ったひとつは、おめぇにいつか大切な人が出来たら、そいつにやりな」
「大切な……」
「ホントならうちの娘を是非嫁に、とか思ってたんだけどな。その前に嫁に行っちまった」
そこまで言われて意図を理解したオグマが、目に見えるほど真っ赤になって慌て出す。
「わ、私は、そのっ……」
「もしかして誰かいるんですか?」
「ぃ……ない……」
恋話の気配に目を輝かせてフィノが尋ねるが、返答は期待とは違うものだった。
「なんじゃ、つまらんのぅ」
「コイツは昔から奥手だからな」
「ガ、ガトー殿っ!」
これ以上何か言われる前に阻止しようといつになく声が大きくなるオグマ。
しかし一瞬の後、その表情に陰が落ちた。
「……すみません…………今は、そういう気分には……」
「おめぇまさか、まだ……?」
ガトーがぐいっと片眉を上げてオグマを見上げる。
ややあって、はぁ、と吐息が洩れた。
「…………わかったよ。けどそいつは持っていけ」
「良いのですか?」
「良いも何もおめぇにやったんだ。それに、コイツらとの旅でそのうちそういう相手に巡り逢わねぇとも限らんからな」
「ガトー殿……」
そうこうしている間に仲間達はアクセサリーの中から好きな物を選び始めていた。
デューは腕輪、ミレニアは指輪を。
イシェルナはアンクレット、フィノはイヤリング。
余ったのはペンダントとブローチだ。
「貰えるもんは貰っておいたらどうじゃ?」
「オレ達はもう選んだぞ、オグマ」
「あ、ああ……すまない」
促されるようにしてオグマはブローチを手に取った。
「オグマ、つけてあげるのじゃ♪」
「……すまない」
ミレニアがオグマのコートの襟にブローチを飾る。
少し照れくさそうにしながらそれを見、次いでガトーを見た。
「ガトー殿……ありがとうございます」
「おら、とっとと行け」
「は、はい。それでは……」
少しばかり語気を強めたガトーの声にびくりと身を竦ませ、オグマは踵を返す。
仲間達もそれに続こうとした、その時。
「あぁ、そうだ」
ふいにガトーが声を発し、一行の足を止めた。
「おめぇら、オグマの事よろしく頼むな。娘の婿にはならなかったが、俺にとってコイツは息子みてぇなもんだ」
「ガトー、殿……」
ガトーの言葉にふっとデュー達の表情がやわらかくなる。
「わかっている。任せろ」
「がってん承知なのじゃ☆」
頼もしい返事に後押しされて、オグマは気恥ずかしそうにはにかんで、
「……行ってきます」
「おぅ」
今度こそ、ぞろぞろと出ていく一行。
彼等の後ろ姿を見送ると、
「……行ってきます、か。なんだかくすぐってぇや」
職人は豪快に頭を掻き、仕事場に戻った。