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本土連歌

『墓所にふたり』

「こんにちは」
少女の声が響いた。
「こんにちは。毎日熱心だこと」
「ええ、昨日は大雨で来られなかったのだけどね」

都内のとある寺院の裏にある共同墓地に、一人の少女が通い詰めていた。黒いセーラー服を着た少女はいつも黒い薔薇の花を一輪だけ持って墓参りに訪れる。それを、墓地の入り口付近で木陰に座り込む墓守の男は何も言わずに迎え入れた。
少女がいつ頃からこの墓地を訪ねるようになったのか、一体誰の墓参りをしているのか、その墓石はどこにあるのか、男は何も知らない。知る由も理由も無いからだ。しばらく経って墓参りを終えた少女は入口に帰り、男の横に座った。少女は男の座る側に体と顔を向け、尋ねた。

「貴方は、何年前からここで墓守をしているの?」
「もう月日なんぞ数えちゃ居ないさ。大体紅葉が十二回散ったぐらいかね」
「そんなに長い間、ずっと一人なのね」
「慣れればなんてこたあない。ただ時折、死んだ妻の事を思い出して虚しさを覚えるだけさ」
遠くの景色を見て淡々と答える男は、自らがそう言ったまさにその瞬間、少女がとてもとても穏やかな笑みを見せたことに気が付かなかった。少女の表情は、一瞬で元に戻る。

「……不思議だね、君は私の死んだ妻にどことなく似ている。私に妻なんていたことが無かったというのに」
男は少女に視線を移し、首を傾げる。その様子に、少女は微笑みを浮かべて返した。

「当然よ。何故なら私は、亡くなった貴方の妻ですもの」

「ああ、そうかそうか、そうだったような気がするよ」
少女を見つめると、これまで無表情だった男が声だけで笑った。
「そうよ。貴方の妻は、確かにここに居るわ。たとえ貴方に妻がいたことがなかったとしても、それは真実なの。だから聞かせて頂戴、貴女の真実を」
少女の声に揺らぎはなかった。その言葉を聞いた男は安心したように肩を落とすと、『亡くなった妻との思い出話』を始めた。少女は目を閉じてその思い出話に聞き入った。

これは死んだ妻の霊と共に生きる男の話ではない。
存在するのは、虚言に溺れた男と、その虚言を愛した少女、ただそれだけである。
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