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繋がるキャロル



_______おお、イエス様ご自身ほどに
美徳を備えた薔薇など
存在しないでしょう
イエス様の中には小さな
地球と天国があったのですから。
Res Miranda! (なんと素晴らしいことでしょう!)_______

モラヴィアは厳かに歌い終えると胸の前で組んでいた指を解き、蝋燭の灯りが美しく映る茶色い髪を揺らしながら振り向いた。

「さあ、貴方の番ですの」

ポーランド王国中で最も標高が高いとされているリスィ山の洞窟で、純白の祭壇が柊、蔦、そして煌々と輝く蝋燭に飾られている。ついこの前モラヴィアの美女に一夫多妻制を否定されてキリスト教に改宗したミェシュコ一世が王を務めるポーランドは、イエス・キリストの生誕祭___所謂クリスマス__の祝い方をモラヴィアに教わっていたのだった。この彼にとっては真新しい宗教をそこまで信仰する気もないポーランドは、モラヴィアに促されると渋々口を開いて歌いだした。まだ声変りしていないボーイソプラノが壁に跳ね返り、美しく響き渡った。が、

______この大地の何処ででも、
イノシシの頭は大切なのでしょう
何処で食べられていようと、
Servitur cum sinapi! (マスタードがかかっていますから!)____



ポーランドは手を叩き地面を跳ね回って拍子を取った。申し訳程度にラテン語で締めくくられているが、全く神を崇拝する気もない歌だ。

「こら、真面目にお歌いになって!!貴方はどうあれ、貴方の王が下した決断でしょう!?それに従うのが私たち国ですわ!」

モラヴィアはポーランドの素晴らしい歌詞が気に入らなかったようだ。かなりご立腹の様子で、腰に手を当ててポーランドを睨みつけている。暗い洞窟の中、蝋燭の明かりがまだポーランドよりも一回り大きい彼女の顔だけを赤く照らしあげたが、ポーランドは怖がる素振りも見せない。

「えぇ、だって信じてもない奴に賛美歌歌われたらカミサマだって迷惑じゃないん?大事なのは気持ちだって言ってたのはお前だしー。大体収穫期終わった途端に1か月も断食させといて、今度はお祈りしろとか何なん?マジわけ分からんし」

「むぅ、正論です、の...、今日のところは大目に見てやりますわ、でもこれからは野蛮な多神教等ではなくイエス様に御救いを求めるべきですわよ!」

「はいはい、わかったしー」

適当に生返事を返したポーランドは、全くわかってませんわ!と説教を続けるモラヴィアから逃げ出すと洞窟の外へと続く道を走り抜けた。モラヴィアも慌てて近くの燭台を掴むと、ポーランドが向かっていった出口へと駆け出した。

「こらぁ!!」


ふう、と一息つくと目の前に月明かりに照らされた山々が広がった。普通の人間ならこの一番近くにあるポラーニエ族の村からでさえも歩いて何週間もかかるような場所だが、国の化身である彼やモラヴィアなら瞬間で移動できてしまう。つい先程までいた麓の町のざわめきが幻であったかのように静まり返ったこの場所の空気は、いつもよりも清く張り詰めている気がする。

ポーランドは衣服の大きく垂れた袖の陰から一輪のパンジーを取り出した。透き通る紫色の花弁も暗い夜空の下では見えないが、今来た洞窟の方向に花を向ければ祭壇から届く光がパンジーを照らし出す。

「これ、お前にプレゼントなんよ」

そのまま、モラヴィアに差し出して彼女の髪に挿す。少し顔を赤らめてポーランドを見つめ返した彼女は、嬉しそうに頭の花を撫でた。

「ほ、本来はプレゼントを渡すのは新年の日ですのに…でも、ありがとうですの」

モラヴィアが照れているのが面白いか可愛らしいと思ったのか、それとも気がついてすらいないのか、ポーランドは彼女に近づくと心からの笑顔で更に言葉を続けた。

「だって、大切な人に贈り物するっつー最高な日、これ以上待ちきれんもん!」

黒く深い空とそれを縁取る草木に頬の赤みを隠すように、さっと身を翻して歩き出すモラヴィア。

「もっもう、早く帰らないと貴方の王に怒られてしまいますの!」

「はーいだしー」

二人の幼い国の子供の声がこだまするこの山を、神の生誕を祝福する冬の風が吹き抜けた。
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