30.一兎を奪う
name
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
眠っている間は一瞬だ。夢を見ない時はなおさら。
気づいたら真っ暗な空間に一人寝っ転がっていた。眠くて仕方がないけれど、頑張って体を起こせば見えない力に引っ張られて促されるままその中を歩き始めた。
何にも見えないけれど引かれる右手は温かい。ちりん、ちりんと呼ぶような鈴の音と温かなそれに引かれて真っ暗な空間をずっとずっと歩いて行けばふっと光が。
『せっかく面白い子って思ったのに、すぐに眠っちゃうなんてね。さっさと起きなよ、怒ってなんかないからさ』
『ハルタさん……?』
ぼんやりとした光の中から知っている声。輪郭がぼやけているけど近づけばやっぱりハルタさんだった。でも、こっちの声は聞こえてないみたいで名前を呼んでも反応はなくてそのうちに頭をなでたかと思うとあっさりどこかに行ってしまった。
不思議に思っていると次々に光が。マルコさんとかエ―スとか、サッチさんにビスタさん……隊長さん達だけじゃなくて隊員さん達もみんな名前を呼んでくれて頭やら肩やらをさすられて、そしてみんな同じ方を指さした。あっちに歩けと言うように。
促された通り歩けば、腕を引く力もだんだん強く。徐々に強まる、知っている匂い。そして、それを捉えた瞬間ぐうっと暗闇から引き上げられる感覚がして。
「いぞう、さん……?」
ゆっくりと瞼を持ち上げて見えたのは彼だった。目を開いてはじめに映ったのが彼なのがうれしくてふふっと思わず笑みをこぼせば、声はひどくてかすかすだったけれどちゃんと聞こえたらしい。素早く、けれど優しく抱きしめられた。
「おはよ、ございます」
「寝坊だ、馬鹿」
寝坊かもしれないけれどちゃんと目が覚めた。目が見えて、音が聞こえる。匂いがして、そしてあんまり力は入らないけれどぎゅっと抱きしめる腕からは温度が感じられる。
それがどんなに幸せなことか。
「夢、見ませんでした」
「……何も聞いてねェだろ」
「顔にかいてあったので」
ふふっと笑えばちょっとだけ不満顔ながらも優しく食われて、視線を交わしてから私からもそっと重ねた。しばらく何も言わず抱きしめ合っていたけれど、そのうちに外からドタバタと足音が聞こえて、扉は開かないものの私でも分かるぐらい気配がうずうずしているのが伝わってくる。
イゾウさんは知らんぷりしている様だったけれど、私は一体どれだけ眠っていたのか分からないし、この様子だとかなり心配をかけてしまったようだから顔を見せたいと袖を引けば大きなため息のあと「静かに入れ」と許可が出て。
『ユリト!!』
なだれ込むように人、人、人。みんなが名前を呼んでくれて、「良かった」と「目が覚めたか」といたわってくれて。私はそれら全てに笑顔を向け、深々と頭を下げた。
「おはようございます。そして……ふつつか者ですかどうぞよろしくお願いいたします」
私はここで『家族』と生きていく。
『こちらこそよろしくお願いします!!』と言う海賊らしからぬ……いや、勢いだけは海賊らしい返答に私は心から笑った。
『一兎 を奪う』2020.01.18 Fin.
気づいたら真っ暗な空間に一人寝っ転がっていた。眠くて仕方がないけれど、頑張って体を起こせば見えない力に引っ張られて促されるままその中を歩き始めた。
何にも見えないけれど引かれる右手は温かい。ちりん、ちりんと呼ぶような鈴の音と温かなそれに引かれて真っ暗な空間をずっとずっと歩いて行けばふっと光が。
『せっかく面白い子って思ったのに、すぐに眠っちゃうなんてね。さっさと起きなよ、怒ってなんかないからさ』
『ハルタさん……?』
ぼんやりとした光の中から知っている声。輪郭がぼやけているけど近づけばやっぱりハルタさんだった。でも、こっちの声は聞こえてないみたいで名前を呼んでも反応はなくてそのうちに頭をなでたかと思うとあっさりどこかに行ってしまった。
不思議に思っていると次々に光が。マルコさんとかエ―スとか、サッチさんにビスタさん……隊長さん達だけじゃなくて隊員さん達もみんな名前を呼んでくれて頭やら肩やらをさすられて、そしてみんな同じ方を指さした。あっちに歩けと言うように。
促された通り歩けば、腕を引く力もだんだん強く。徐々に強まる、知っている匂い。そして、それを捉えた瞬間ぐうっと暗闇から引き上げられる感覚がして。
「いぞう、さん……?」
ゆっくりと瞼を持ち上げて見えたのは彼だった。目を開いてはじめに映ったのが彼なのがうれしくてふふっと思わず笑みをこぼせば、声はひどくてかすかすだったけれどちゃんと聞こえたらしい。素早く、けれど優しく抱きしめられた。
「おはよ、ございます」
「寝坊だ、馬鹿」
寝坊かもしれないけれどちゃんと目が覚めた。目が見えて、音が聞こえる。匂いがして、そしてあんまり力は入らないけれどぎゅっと抱きしめる腕からは温度が感じられる。
それがどんなに幸せなことか。
「夢、見ませんでした」
「……何も聞いてねェだろ」
「顔にかいてあったので」
ふふっと笑えばちょっとだけ不満顔ながらも優しく食われて、視線を交わしてから私からもそっと重ねた。しばらく何も言わず抱きしめ合っていたけれど、そのうちに外からドタバタと足音が聞こえて、扉は開かないものの私でも分かるぐらい気配がうずうずしているのが伝わってくる。
イゾウさんは知らんぷりしている様だったけれど、私は一体どれだけ眠っていたのか分からないし、この様子だとかなり心配をかけてしまったようだから顔を見せたいと袖を引けば大きなため息のあと「静かに入れ」と許可が出て。
『ユリト!!』
なだれ込むように人、人、人。みんなが名前を呼んでくれて、「良かった」と「目が覚めたか」といたわってくれて。私はそれら全てに笑顔を向け、深々と頭を下げた。
「おはようございます。そして……ふつつか者ですかどうぞよろしくお願いいたします」
私はここで『家族』と生きていく。
『こちらこそよろしくお願いします!!』と言う海賊らしからぬ……いや、勢いだけは海賊らしい返答に私は心から笑った。
『