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Ace

「ほら、ここ座れ!」

 あったけェぞ!と笑うエース隊長は寝かしつけてやろうということしか考えておらず全く他意はないのだろうが、これはどうしたものかと眉を下げてしまう。

 事の発端は鍛錬の時、私がいつもより早くにバテたことに気づかれた事から始まる。自隊の隊長であるエース隊長は普段あまり落ち着きがあるとは言えないがし、どちらかといえば子供っぽいのが、案外(と言ったら失礼かもしれないが)周りをよく見ており、そして勘が鋭い。へばった私が見逃されるはずもなく、あれよこれよという間に質問ぜめ。熱がないなら何だ、と超ど直球に聞かれて私が「寝不足です……」と白状するのは早かった。

 そして今現在。満点の星空の元、見張り台で「遠慮なく来い!」と胡座をかいた膝を叩き催促するエース隊長はつまりここで寝ろ、と言っているわけで、私は目を覆った。

「眠れねェ時はあったかくしねェとな」
「……じゃあ毛布でもいいのでは?」
「人肌が一番いいらしいぜ」

 そんな適当な事言ったのは誰だと思うも、早くしろ、と腕を引かれれば力で叶うはずもなくあっけなくぼすんと膝の上。慌てるも、ぐるりとたくましい腕に囲まれてしまってはなすすべもなくて。困っていればクツクツと笑い声。

「大丈夫だ」

 とんとんと横向きに座る私の背を叩く隊長は兄のようで、さっきまでの戸惑いや緊張は何処へやら。何故だかほうっと息を吐いてしまった。そういえば弟が居たんだっけと思考するがそれもゆっくりで。早くもうつらうつらとしていればまたくつくつと笑い声。

「ガキみてェ」
「……エースたいちょうにいわれたくないです」
「まあ俺も末っ子だけどよ、弟はいるしな」

 そう言ってゆったりと話される弟の話。その声は普段元気に駆け回り、はしゃぎ、食べ、寝る隊長のそれとは違って、なんだか。
なんだか、優しすぎて無性に泣きたくなった。

 眠れなくなったのに理由はなかった。でも理由がないからこそどうすればいいかも分からず心は不安定になり、余計に眠れなかった。
 とんとんと背を一定のリズムで叩く手はそのままに、軽く頭を引かれて肩に寄りかかるようにされた。それは隊長からは顔が見えない位置で、言外に泣いてもいいと言われているようで、すん、と鼻を鳴らせば。

「ほら、寝ちまえ」

 今日だけ許してやる、とぽすんと一回頭を撫でられて。礼を言えばししっと笑った隊長に「明日のデザートでいいぞ」なんて返ってくるから。

「……おやすみなさい」

 一粒流れた涙は高い体温に溶け、返事のようにぽすんともう一度頭を撫でてくれた手はどこまでも優しかった。
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