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Crocodile

「雨!!」

 砂漠で雨が降るのは珍しく、思わず窓に飛びついてガッツポーズ。その瞬間苦いタバコの臭いが鼻をかすめて、匂いにつられて振り返ればいつも通りもふもふの黒いコートを着てタバコをふかす彼がいて。

「最悪だな」
「最高ですよ」

 不機嫌を隠そうともしない彼に笑えば眉をひそめられる。めちゃくちゃガラの悪い顔だけど、こんなことでは彼が怒らないのは知っているので知らんぷり。

「後でこの子達に感謝です!」

 ちょんと触るのは逆さになったてるてる坊主。カーテンのレールにかなりの量が整列しているそれは全部私が作って吊るしたものだ。

「趣味の悪ィもん作りやがったな」
「てるてる坊主ですよ」

 逆さに吊るすのはかわいそうだけど、雨が降って欲しかったのだから仕方がない。もう雨は降ったから、逆さにしてごめんね、と全て普通に吊るしてあげた。

 ザーザーと雨の音がする。未だに後ろに立っている彼にくるりと向き直ってぼふり。
 
「ふふ、捕まえた〜!」
「テメェなんかに捕まると思うのか?」

 そう言いつつも引き離すこともなく、むしろひょいと持ち上げてそのままソファーに座る彼は案外優しいのだ。

窓を叩く雨はいわば檻だ。
砂の彼を唯一捕まえることのできる檻。

 社長様だから忙しいのは知っている。けれど、どうしても寂しいことはあるし、それ以上に心配をする。

 横座りに彼の足の上に座ったまま手を伸ばしてそうっと彼の顔の傷を触った。じいっと鋭い目は私から離れない。するりと指を滑らせて指先で目の下を撫でればやっとできゅっと猫のように細まった。

 指先でたどったのは珍しい彼の疲労で。

「クロコダイル」
「あ?」
「お昼寝しよ」
「はっ。ガキだな」

 ガキでもいいから寝る、と目をつぶって身を預ければ何かがかけられる感触がして、きっと彼のコートだな、なんて。少し低い体温が意外にも心地よくて。

「...悪くねェな」

 すとんと眠りに落ちてしまった私が聞いた言葉は幻聴か。

 起きたら彼はもういなかったけど、コートは残されたままで、ふと窓の方を見ると晴れた空を映すそこに、てるてる坊主が一つだけ逆さまに吊るされていた。



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