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Marco

青い花弁

あるナースのヒョウ柄ブーツは短い。

すらりと伸びた足は白く、もう見慣れた家族たちは過剰に反応することはないが島に降りれば男たちの視線を奪うのはいつものことで、しかしそんな邪な気持ちで見ていたならば、くるりと振り返ったその瞬間ギクリと顔を強張らせ「惜しい」と思う奴らは多い。

とあるナースの真白い足。その右足を正面から見れば、太ももから膝下にかけてまっすぐ一本の派手な傷がある。

「とっさに剣を蹴り飛ばすなんて、本当に女は強ェよい」
「患者が第一ですもの。傷1つ程度で命が助かるならば安いですわ」

俺は刺青を入れてもいいんじゃねえかとは思うが、そのナースは「船長さんのマークは入れさせてもらえないでしょう?」と笑うのみで、その傷を隠すわけでもなくむしろ見せつけるように短いブーツを履いている。

卑怯な敵なんて数えられないほどいる。負傷した者を狙うのは当然で、ただこの船に乗るナースを舐めていたのが運の尽きだと言ったところだろう。俺は傷をつけられた瞬間は見ていないが、遠くからではあるが見ていたらしいサッチによれば「俺っちあの回し蹴り食らえるなら死んでも惜しくねえと思うぜ」と真顔で抜かしやがったからまあそういうことだ。ちなみにサッチは海に落とした。

短いナース服から覗く足。傷は少し深く赤くケロイドになってしまっているがそれを惜しいと思う家族はいやしない。むしろその傷を誇らしく思い、感謝するばかりだ。親父に礼に何が欲しいと聞かれても「船長さんの健康を望みますわ」と答えるところまで呆れるほど強く美しく、俺は嘆息したのを覚えている。ただ本人は気にしていないとはいえ、やはり島に降りた時の視線はあまり気持ちのいいものではないだろう。いい男でもできた時にその傷のことを聞かれたらどうするのだろうか。白ひげ海賊団の名を出して嫌悪する奴らなどと一緒になるとは思わねェが、やはり傷もの扱いされないとは言い切れねェ。

「もし貰い手がいなかったら貰ってやるよい」
「あら、それは嬉しいですわ」

カルテを受け取りながらの軽口。くすくす笑うナースは他のナースと気品も腕も劣らない。ただ俺はうっかり忘れていたのだ。この船に乗っているナースは全員色んな意味で強かということを。

「……ギリギリアウトじゃねえかよい」
「親父様は機嫌良く笑っていましたよ」
「親父……」

くすくすくす。楽しそうに笑うナースはいつもよりも明るく見えた。俺はため息ひとつ。まあ、船に乗ってるやつらには分かる程度の刺青で、それで彼女がその傷を愛せるのなら許すしかないだろう。

とあるナースの右足に青い花びらが散った。だが家族にはそれが花びらでないことが分かるだろう。一本の赤い傷を彩るように散る青い花びらの刺青。それは花弁の形が不規則で炎のようにゆらめいていた。

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