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16番隊隊長はたまに壊れる。

「1番隊、前線に出ろ!!3番隊は守りに徹しろ、16番隊は援護だよい!!」

突然の敵襲。そこそこ強く、人数もそれなりにある敵船に暇をしていた家族の楽しげな返事が響き渡る。これなら問題なく潰せるだろうと思った瞬間、独特の香りが鼻をかすめ、見慣れた桃色が目の端を横切った。

「なっ……!?」

1人敵に突っ込んで行くそれ。これでエースかどこかの隊員だったら間髪入れずに止めに入ったが、そいつはエースでもバカな隊員でもなくて。

「イゾウ……」

手に何も持たずに突っ込んで行く姿にまたか、と目を覆うのは許せよい……。代わりに俺も指示に従わなかったお前さんを許してやる。

「ま、マルコ隊長!!」
「あー、大丈夫だい。ほっとけ」

慌てて駆けてくる16番隊の隊員。その手には、イゾウの愛用している銃。落としたり、何か傷をつけたりしようもんなら一瞬で脳天ぶち抜かれるだろうなァ。ああほら見ろ、今にも隊員が泣いちまいそうだし、できるなら俺に受け取ってもらいたそうだ。ったく、突っ込むのはいいが隊員で遊ぶなよい……。

銃を受け取り、銃を預けられるほどに信頼されているらしい隊員にお前が隊に指示を出せ、と言えば気持ちの良い返事が返ってきた。流石、イゾウのとこの隊はキッチリしている。

感心しながら派手な音がする前線に目を向ければ、一番隊に混ざって敵を乗してく黒髪の男。いつも結い上げられている髪は乱れて落ちて、素手で殴るわ、素足で蹴るわで敵を次々に吹っ飛ばすその男がイゾウだと気づいた隊員が唖然としている。そりゃそうだ。普段は落ち着いている部類に入るような男、しかも隊長である男がやんちゃな末っ子と同じぐらいはしゃいでいるんだから。

男が見ても綺麗な顔を殴られても挑発的な笑みを深めるばかりで、怯まず寧ろ倍にして敵を殴りつける姿にとうとう動きを止める隊員たち。俺はため息を吐くしかない。だから隊員で遊ぶんじゃねえよい。

たまにこうなるイゾウを止めるのに「キレイな顔に傷つけられていいのかよい」と言ったのはいつだったか。完全に嫌味だったが返答が「それを悲しむ女はいないもんでなァ」だったのは思い出しても少しばかり腹立たしい。だぁー!分かってるよい!!親父がちっとばかし残念な顔するんだろい!!

俺が来ると分かっていて無防備な背をその思惑通り守るのは癪だが仕方がねェ。イゾウの背を狙う敵を蹴り飛ばしながら降り立てば、殴られて血の線が引かれた薄い唇が弧を描く。

「流石、我らが長男坊。加勢してくれんのかい?」
「馬鹿野郎。お前さんのせいで他の家族が動けねえんだい。

小言を溢せば愉快そうな笑い声が響く。それに仕方ねェ奴だとため息を落としちまう俺も大概だ。

「無駄に傷を作るなよい」
「じゃあしっかり守っておくれよ、おにーチャン」

減らず口を叩く兄弟と背を合わせて俺は甲板を蹴った。

16番隊隊長はたまに壊れる。
まあでも本当にたまにだから付き合ってやってるよい。
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