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「その場で意見しない奴が後からぐちぐち言うんでしょ」

よく切れる言葉は剣士の嗜みなのか、今日も鋭く的確なその太刀筋は、新人クルーの心を切った。ほとんど泣きそうな顔で、船内に戻っていく新しい家族に声をかけるのはおそらく今日だったらビスタは手が空いてたかなんて思いながら煙管をふかす。近づいてくる足音は聞こえているが、振り返ってもそうでなくてもどうせ来るのだから反応はしない。

「超ムカつく」
「お疲れさん」
「文句あれば言えばいいのにさ。声帯いらないんなら切ってあげるのに」
「やめとくれ、血が飛ぶだろう?」
「そんな斬り方しないよ」

あームカつく、ともう一度言いながらハルタはトントンと軽くその場で飛んだ。それから真っ直ぐにこっちを見て来るもんだから、俺はため息ひとつ。愚痴るだけで終わるかと思ったがどうやらそう言うわけにはいかないらしい。じっとりとした目で見返してみるも、譲る気は無いらしく俺は渋々煙管の灰を落とした。

「受けるだけでいいのかい?」
「怪我しないならね」

びゅっと飛んでくる拳を手のひらで受け止める。びりっと痺れる感覚に頬が引きつる。おいおい、本気じゃねえか……。

「手、痛めるなよ」
「僕が、そんなこと、すると思う?」
「今のお前さんならやりかねねェだろ」

できるだけ手に負荷がいかないようにと流すのも限界がある。しかも流すごとにハルタの眉間のシワが増えていくもんだから、俺はため息ひとつ。ったく、がっつり相手して欲しいなら先に言え!

「おい!サッチ!」

拳と蹴りを受け止めながら視界の端に捉えたサッチを呼んで片手を伸ばせば、意図を読み取ったサッチからサーベルが投げられる。そもそも俺の得物は銃であるし、刀じゃねえのはやりにくいが、使えねェわけじゃねえ。悪い、借りる。と目でかわしぐっと柄を握った瞬間、いつの間に抜いたのか、剣がぶつかり合う。派手な斬撃と若干頬にピリついた感覚がするから、切れちまったかもななんて思えば、ニヤついた猫のような顔を見てそれは確信に変わる。あーあ……ブチギレてやがるなァ。力任せとも言える渾身の斬撃はハルタらしく無い。

「綺麗な顔なのにごめんね」
「謝るところそこじゃねェだろ」

普段のハルタの戦い方は軽く優雅で、どこかの王子か、野を飛び回る蝶のようでもある。何れにしろハルタの戦い方に力勝負のクルーはついていけないのが事実で、さらにブチ切れてパワーまで加わった太刀筋を受け止められる奴は限られる。
ブチ切れたハルタの相手は大抵俺の役目。ほとんど鍛錬のような本気の打ち合いにどんどん家族が甲板に集まって来る。俺は相手してる当人だから知らねェが、打ち合っている姿が踊りのようで綺麗だとかなんとか。全く見世物じゃねェんだぞ……。
ゼエゼエと息が切れてきたところで終わりの合図に互いの喉元で剣を止める。それからハルタが剣を納めれば、あとは二人同時に倒れこんで終わりだ。

「……やりすぎだろ」
「感謝してるよ」
「嘘つけ」

速攻で否定してやればくすくすと笑い声。どうやら機嫌は治ったらしい。俺も全く仕方無ねえ家族だと小さく笑い声を落とした。


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