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Izo

暑さに誘われて

「暑いな」
「即刻袖に腕を通して欲しいんですけど」
「無茶言うな、ぶっ倒れちまうよ」

船尾の物陰。桶に水を張って裸足の足を突っ込んだイゾウ隊長を発見して真顔で言い放ったのはそんなこと。いつも首元は緩めているとはいえ家族の中でも露出は少ない方なのに、今日はどうしたことか暑さには敵わないのかいつも結い上げている髪は一本に纏められ、キモノの袖から腕を抜いて上半身を惜しげもなく晒している。整った顔立ちのせいかぱっと見海賊には見えないが、晒されている体にはしっかりと過酷な戦いを切り抜けてきた痕があって、それでも綺麗な体に目を走らせれば、無駄なくついた筋肉、割れた腹筋。

「しっかり見てんじゃねェよ」
「眼福ですよ」
「潔いな」

くつくつと笑いながらもイゾウ隊長はどこから取り出したのかいつのまにか手に持っていた得物をくるりと一回回すと私の後ろを狙うように構えた。動く気配が複数。イゾウ隊長がにっこり笑って「野郎に見せる趣味はないぜ?」と大きくもない声で言えば姿は見えないまま大声量の謝罪と足音……どうやら色気の暴力は性別は関係ないらしい。

「苦労しますね、隊長」
「襲われたら助けてくれよ」
「襲われるような玉じゃないでしょう」
「どうだろうなァ」

カシャンと音を立てて得物が側に置かれた。すすっと目が伏せられて、流し目を送られる。

ああ……本当にこの人は。

本当に大胆に着崩しているものだから色っぽい腰骨のラインが少しばかり見える。そこに手を伸ばせばくくっと笑い声。

「触ってもいいが高いぜ?」

誘ったのはそっちのくせによく言うものだ。

「……いくらですか?」
「そうさなァ」

呆れつつも尋ねれば数センチ、かろうじて肌に触れていなかった手が引かれた。バシャッと音がして一度水に突っ込んだ足は一瞬で宙に浮く。向き合うように膝に座らされた私の腰を捕まえるのは熱い手のひら。にいっと笑っているイゾウ隊長の首筋を汗が伝っていた。

「お前で払って貰おうか」
「暑いんじゃなかったんですか?」

ちょっとした軽口はパクリと食べられた。
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