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学パロシリーズ

怖い先輩



「おはようございます」

風紀委員は毎日校門の前に立って挨拶をする。スマイル0円という訳でもなく、まあ言われれば笑顔も向けるかもしれないけれど大抵の委員はなんとなく間延びした挨拶をして形ばかりの当番をこなしているみたいだ。

みたい、と言うのは私は今日が初めての当番だから。挨拶当番はなんとなく楽しそうと思っていたけれど案外そうじゃないっぽい?真面目に楽しくやりたい自分としてはううん……どう振る舞うべきか。やりたいようにしたいけれどあまりに浮くのは遠慮したい。
そんなことを考えつつ、とりあえず他の委員より幾分か元気に挨拶をしていると、委員の先輩から「あの先輩は怖いから気をつけた方がいいよ」と耳打ちされた。

「どの人ですか?」
「ほら!あの個性的な金髪で不機嫌そうな顔した人」

指を指された方を見れば学年で色の違うバッチを胸元につけた男の人。赤だから私よりも2つ上。先輩よりも1つ上。秋が深まってきて寒くなってきたと言うのにブレザーも羽織っていない。白いワイシャツに包まれた体は随分鍛えられているように見えるから筋肉の発熱効果でもあるのだろうか。

ううん、確かに仏頂面ではあるけれど1人で歩いているのにニコニコしている方人の方が珍しいし、奇抜な髪型髪色の人はこの学校には沢山いるからそれだけでは怖いのかなんなのかは分からない。適当な事を言って伝えることは伝えたと先輩はどこかに行ってしまったし……ううん……。

その金髪の男の先輩が歩いてくる。当たり前だここが入り口。大きな一歩。綺麗な姿勢。視線を感じたのか仏頂面で少し伏せられていた目がこちらを向いた。私はパチリと瞬き1つ。

「おはようございます」
「……おはよう」

あれ、挨拶が返ってきた。いい人では?

挨拶を無視する人の方が多いのに。すれ違う瞬間少しだけ浮かべられた笑みは間違いじゃないはず。
怖い先輩とは程遠いその表情に首を傾げつつ私は「おはようございます」と続々と登校してくる生徒に挨拶を繰り返した。

「おはようございます」
「おはよい」

「おはようございます」
「おは……上着ちゃんと着ろよい」

「おはよい」
「おはようございます」

金髪の先輩は少なくとも私が挨拶当番をするときは必ず挨拶を返してくれて、それどころか世話を焼くような一言や最近では先に挨拶をしてくれる。ううん、やっぱり怖い先輩ではないのでは?そうは思いつつも確かめる術はなくて。

ある日の当番。そろそろ予鈴がなると言うのにその金髪の先輩がまだ来ていない。大体みんな同じ時間に登校するから、何時頃どの子がくるとか覚え始めたのだけれど、いつもくる時間はもうとうに過ぎている。

今日は当番が経つ前に登校したのかあなあなんて、教室に戻りかけた時、けほっと誰かが咳をするのが聞こえた。

「あ」

けほけほと咳をしながらやってくるのはマスクをした金髪の先輩。欠席じゃなかったんだと思いつつ挨拶をしようと思ったらその前に先輩はトントンと自分の喉を指して見せたきた。

なるほど声が出ないみたい。季節の変わり目だ。いつも眠そうだし夜遅くまで勉強をしていて体調を崩してしまったのかも。私は少し迷いつつもポケットを漁った。

「おはようございます……よかったらこれどうぞ」

差し出したのはのど飴。蜂蜜味のそれは幾分か喉を増しにするはずだ。

「……ありがとよい」

いらないかなかな、という小さな不安は男性らしい骨張った長い指に摘まれた。

ちょっとだけ掠れた声が色っぽいだなんて風邪をひいてる人には不謹慎すぎるけど、本当に色っぽかった。声が出ないゆえにマスクを少しずらしてやや屈まれて落とされた声にしばらく動けなかった。

「確かに怖い先輩ではあるかも」

怖い人だと噂されていて、実際関わったらこうなのだから、やられた女の人は数知れずなのではないのだろうか。

「おはようさん。昨日はありがとねい」

次の日、回復力が凄いのか調子が戻った先輩は律儀に飴玉をくれた。のど飴じゃなくて普通の飴玉。いちご柄の包み紙のそれは失礼だけど先輩の見た目には合わなくて、挨拶するだけの関係の後輩のために持って来てくれたと思うとやっぱり怖い先輩だとは思えなくて。

「3年A組のマルコだい。お前さん名前は?」

そんな言葉に私は笑って返事をした。

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