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Marco

<厚い唇、青い炎>

厚い唇に喰われるのはいつも突然だ。

もちろんそういう関係だし、そういう雰囲気になったなっていうのは分かるんだけど、その雰囲気になるのがいつも突然で、どちらかの部屋ならともかく、廊下でそんな雰囲気になった時には焦ってしまって。でも焦ってる間に、ぱくり、そんな効果音がつきそうなほどあっさりと厚い唇に私のそれは喰われてしまうものだから少し悔しくもあって。

「ん……ふっ……」

喰われている時に目を開けようものなら、意地悪で楽しげに細められた目とぶつかる。ここでムキになって睨みつけてしまうと、ただえさえ呼吸困難だというのにさらに厚い舌があっという間に口内に割り込んできて、歯をなぞり歯茎をなぞり、上顎を擽って腰を抜かすまで離してくれないのは経験済みなのでもうしない。でもやっぱり悔しい。だから。

抵抗しないからか調子に乗って割り込んできた舌を強めに噛んでやった。だって、彼は不死鳥だもん。口内が血みどろにならないし、傷だって残らない。

小さく青が煌めいた。驚いて見開かれた目に、こういう時に能力をいいように使ってごめんなさい、と。でもだって、いつも負かされるのは悔しいから恋人の特権ということで許してほしい。

「これに懲りたら、もうちょっと加減してくださいね」

まだ呼吸が感じられる距離にいる彼を強気に睨みつけてれば、珍しく何故だかぼうっとしていた彼の目がパチリ。
でも、目が合ったのにしばらく何も言わないし、そのままじいっと唇を見つめてくるから何ですかと呼びかければ、彼は。

「いやねい……一瞬青い炎をおめえさんが喰ってるみたいに見えてよい」

興奮した。

聞いた瞬時に逃げようとした私は偉い。捕まったから意味ないけど。
ひょいと持ち上がる身体。影で美脚と呼ばれている長い足が向かうのは聞くまでもなく自室。

「うまそうに喰ってくれよい」
「……おじさん臭いですね」

ご機嫌な彼に私はそんな憎まれ口を言うしかなかった。


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