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Izo

<赤のない口づけ>

イゾウさんが真っ赤な紅を引かない休日は少し特別だ。

髪に額に、鼻、頬、そして唇にと降ってくる口づけを笑って受け止める。ただ触れるだけのそれだけれど、ふわふわしてとても気持ちがいい。もっとと強請るように手を伸ばせば、首に唇が寄せられてそこを甘噛みされた。思わず漏れた吐息にくつっと喉が鳴らされる。

「好きかい」
「……ん」

聞かなくても分かるだろうに彼は意地悪だ。それでも答えれば嬉しそうに笑うから私も答えてしまうのだけれど。

イゾウさんは普段あんまりキスをしない。「紅が落ちるだろう?」と彼は笑うが多分そうじゃない。いや、それもあるのかもしれないけど彼は「キスをした」と周りに知られるのを好まないのだ。

周りが冷やかせばため息をついて顔を寄せられるがキスはしない。多分みんなの角度だとキスしているように見えてるのだろうけど、実際は頬を擦り合わせているだけだ。口にしろ!と周りが言った時はにいっと笑って着物の袖で口元を隠しながらそっと顔を寄せてくる。もちろんギリギリしていない。

キスをすれば多少紅が落ちてしまうから。薄くなった赤と、赤が移った色づいた肌は自分達だけで楽しむものだと彼は思っているのだ。

薄い唇が鎖骨を滑り、服で隠れる位置でじゅっと吸われた。ピリッとした痛みを感じ肩を跳ねさせれば、今度は唇を含まれる。

呼吸を奪うような口づけではなく優しく、ただ好きだと伝えるかのようにそっと唇が合わさる。そして伺うようにそろりと舌が唇を舐めてくるから、少しだけ開けば流れるようにそれが入り込んでくるのだ。

「ん…ふ……」

激しくないはずなのに呼吸はどんどん浅くなりとろりと脳が溶け出していく。いつもこう。私は飴玉にでもなったみたいに、彼に食べられてしまう。

「気持ち良さそうだなァ?」

私は返答する気力もなくただ溶けてるだろう瞳で、彼がぺろりと舐めずりするのをみた。赤は引かれていないからその舌を邪魔するものは何もない。

イゾウさんが真っ赤な紅を引かない休日は少し特別だ。

溶けてしまってもういらないと思うぐらい沢山の口づけが貰えるから。
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