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Shanks

「シャンクス、恋人の特権ってなあに?」

 何の脈絡も投げた質問にキョトリとした目がこっちを向いた。

「そりゃァ、抱擁に、熱いキス。一緒に風呂。それから夜の、」
「それ他の女でもできるじゃない」

 言い終わらないうちに切り込めば、冷や汗をかきながらそろりと伺うような視線に変わる。けれど別に私は怒っているわけではないので返す反応もない。

 一途で遊びもしない海賊の方が珍しいが、彼が意外にも(と言ったら失礼だが)その一途な方である事は知っている。でもただそれは、何となく分かっているだけであって、実際他の女と絡んでいることはあるし、明確に彼がどの様に恋人と他の女と分けているのかは分かっていなかったから私は尋ねたのだ。

 私が純粋に聞いているだけだと伝わったのか、彼はキョトリとまたその少年の様な目を瞬かせた。それからにやっと笑って「何が欲しい?」と。

「何もいらない」
「だろうな」

 即答すれば愉快そうな笑い声。「そう言う女だから気に入ったのさ」とは何という口説き文句か。これだから好きなのだ、と思いながら「何が欲しい?」とこちらからも問えば。

「お前の全て」
「…強欲だね?」
「海賊だからな」

 可笑しくて笑いながら風にはためく黒いマントを引いてその逞しい身体に腕を回せば、ドクドクと命の音。優しさと強さが滲む笑みと、支配はしないが逃げさせる気もない目に促されて顔を寄せれば。

「恋人の権利は何か、だったな」

かしゃん

 左手が絡み合い、シャンクスの愛用している剣に触らされた。冷たい金属と温かい手の温度が混ざり合うのを掌で感じる。

「俺をこの剣で殺す権利をやるよ。それから死んだらこの剣をお前にやる」
「…殺せって?」
「権利をやると言ってるだけだ。殺せとも死ぬとも言ってねェ」

 ニヤリと海賊らしい笑みが浮かんでいる。

 私が彼を殺したいと思うのはきっと彼が死にそうな時だ。他の者にこの男が殺されるというならば、私はその前に彼を殺したいと思うだろうし、彼はそれを許すというのだ。そしてそれは同時に殺さない権利も与えていて、この男は誰に殺されようともいつ死のうとも悔いはないと言っているのだろう。

 即ちこの男はそう簡単には死なぬと言いたいのか。そして死ぬまで私を愛すと。

 思っていたよりも愛されていた様だ、と零せば目の前の男は心外だと言う様に肩を竦めた。

「貴方が死ぬときは私も死ぬよ?」
「じゃあベックにでもやるか」
「俺は生きている前提か?」

 シャンクスの肩越しにタバコの煙が揺れている。笑い声は一つじゃない。

「あーあー。お前ら空気読めよ」

 キスを貰い損ねた、と不満を漏らすお頭の後ろに並ぶのは赤髪海賊団総員で。

『お頭、誕生日おめでとう!!』

 それを合図に飲めや歌えやの大騒ぎ。少しだけでも二人の時間を作ってくれた副船長に感謝して、主役から離れようとすればぐいっと引かれた腰。

 目を閉じる間もない。抵抗する間もない。熱く重なった唇が離れるまでの一瞬だけ彼はただの男で。落とされた言葉は囃し立てる声に紛れ込んだ。

「一緒に死ぬ権利でどうだ?」
「…最高」

ハッピーバースデー、お頭。


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