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Marco

「鳥の餌付けだね」

 冷たい果実の一切れをそうっと俺の口元に運ぶお前が言った。返答をする前にひとまず差し出された扇型に切られた黄色いそれを咥えて咀嚼すれば、甘みと程よい酸味が口の中に広がる。うまい。ゴクリと飲み込めばお前はくすくす笑った。

「なんだよい」
「本当に好きね?」
「うめェだろい」
「そうだね」

 くすくすくす。これで笑っているのがサッチだったら今頃海にでも落としているだろうが、愛しい恋人だ。それに今日のおやつとして出ていた果物を大目に貰って来てくれたのはこいつで、好物を食えることに文句は言わない。まして、恋人の手で食えるとなれば怒る理由は何もないだろう。

 再び差し出される果実を同じように咥えればまた「餌付けみたい」と笑われる。餌付けなどされなくとも俺はお前にベタ惚れだというのに。むしろ、心を許してなければ人の手から物など食わないというのに。

 あまりにくすくす笑うのでなんとなくその余裕そうな態度を崩したくなって、咥えていた果実を口に入れると素早くお前にキスをした。

 甘い唾液が極上の酒のようだ。薄目でそっと盗み見れば、お前は酔ったように顔を真っ赤にさせていて。キス一つでこれとはまだまだガキだな、と思いながらもこの顔を見るのは後にも先にも俺だけなのだと思うと年甲斐もなく心が躍り、思わずくつっと笑えばそれが伝わったのかぴくりとお前の方が揺れた。最後に甘い唾液と果実を飲み込めと、舌で促した。こくん、と喉が動いたのを確認して唇を離せば、息も絶え絶えのお前が苦しかったのか涙目で「な、んで?」と言うから。

「雛に餌をやらねェと可哀想だろい?」

 にいっと笑った俺はさぞ悪い顔をしていたことだろう。彼女にもそれが伝わったようで、まだ皿に残っている果実に目をやって、まさか、というように震える瞳がこっちを向いた。
察しが良くて助かるねい。

 逃げ出そうとするお前の腰をしっかり抱き寄せた。それでも暴れるお前に深く口づければ途端に力が抜けるから。

「いい子はちゃーんと全部食べられるねい?」

 返事は甘いキスに溶かした。



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