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Izo

<それが本当ならば>

16番隊長は美しかった。

 綺麗に結い上げられた黒髪に、珍しいキモノという衣装から覗く足。化粧の施された切れ長の目でこっちを見られ、妖美に微笑まれて男だと思う人間がいるだろうか、いやいない。

「本当に男なんですか」
「それを本人に聞く度胸は買ってやるぜ」

 そう言うイゾウ隊長は涙を浮かべるほど大笑いしていて、咽せるほど大笑いしているものだから他のクルーは驚愕しているし、他の隊長格は哀れみの目を私に向けている。哀れむのだったらもっと早く教えてくれればいいのに!

「ここまで俺が『男』だと気づかなかったのはお前が初めてだぜ」
「うるさいです!」

 きっと真っ赤であろう顔のままキッと睨みつけて叫ぶも、ますます笑われてしまって私は顔を背けた。
 複数人に気づかない方がバカでしょ、とも言われたが自己紹介の時も上品に袖で口元を隠して「16番隊隊長、イゾウと申します。どうぞよろしゅう」なんて言われたんだ。気づかなくても仕方ない。今思えば袖で口元を隠していたのは喉元を隠すためだと分かるが、今さっきまでは本当に女の人だと思って、女の戦闘員って……例外か、かっこいいなあとか、化粧習いたいなあとか、いい匂いだなあとか思ってたのに。

 気づいたのはついさっき偵察から帰ってきたエース隊長が、「まだやってんのか……なあお前も鈍すぎねェ?そいつ男だぞ」と教えてくれたから。流石に気づかず風呂まで入ったとかはないが、これまでの数々を思い出せば恥ずかしくて悔しくてそれ以上何も言えず唸っていればぽすんと頭を撫でられて。

「男だと不都合か?」

綺麗な顔がこちらを覗き込んでいる。少し下げられた眉は今となっては意図的でから揶揄っているのだろうと分かるが、それでも綺麗なものは綺麗で。まして、女性だと信じて違わなかったぐらいには「好みの顔」なのだ。何も言えなくなるというのは道理で、でもやっぱり悔しくて。

 衝動のまま覗き込んでいる綺麗な顔を捕まえた。少し驚いている隊長はそのままに、片手で頬を支え、片手でぐいっと拭ったのは。
「私は、男性が好きですよ」
 
 親指で拭った紅を自身の唇に。真っ赤に染まっただろうそれで精一杯にっこり笑えば。

「そいつはいいことを聞いた」

男らしい喉元がくつっと鳴った。



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