このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Happy Birthday Marco ‼︎ (2019)


『すごく楽しそうだと思うし、いい考えだとは思うけど、君らどうやってくるのさ。僕は迎えに行けないよ』

 たぶん他の奴らも無理だね、と温度のない声で言う男にアンジュラは笑みをこぼした。電話の相手の電伝虫もいい笑顔をしているだろう。

「あら、行く手段なんてどうとでもなるわ。私はどれぐらい来られるのかお聞きしたいの」
『僕はいける。隊長の何人かは取り込み中で無理かな。音ぐらいは貰えるかもだけど、後は片っ端から声を掛ければ100はいけるんじゃない』
「まあ!元白ひげ海賊団とあろう方々はやっぱり違うわね?」
『……ねえ、絶対馬鹿にしてるよね?』
「ふふ、どうでしょう」
『女は怖いね』

 半数は約束してあげる、それ以上は期待しないでなんて言葉を最後に電話は切れる。冷たく聞こえるが、これが彼の通常だ。

 いい返事が聞けてアンジュラは笑みをこぼした。清潔な白い壁、白い天井。鼻を刺激するのはもう嗅ぎなれてしまったが、アルコールといくつかの薬の匂い。ナースと言う自分の立場を考えればこれ以上ないほどに合う空間と匂いだと言うのに、これではないと脳がちょっとばかしの拒絶をしているのはもう何年も前からだ。

「いい返事だったわね!」
「つながるかも微妙だったのに、やっぱりあの海賊団の隊長たちは最高ね」
「そうと決まれば準備をしなくっちゃ!」

 白衣の天使、とはまさに彼女たちの事。アンジュラの電話を聞いていた同じナース達は輝かんばかりの笑みを浮かべて善は急げと言うように動き出す。治療のためではない。海に出るためにだ。

「船長の思いに反するんじゃないかしら」
「なーに言ってんの、船長はいい女が大好きな方でしょう?」
「待つ女がいい女だなんてなんてだれが決めたの?」
「連絡一つよこさない男だなんて待ってたって無駄だわ」

 それもそうだわ、と笑う女たちの手にはそれぞれの得物。流石に小ぶりなものであるが、それでも上等の。短いナース服から覗く足は女のそれで、それにぴたりと飾られ浮き彫りにされた体のラインも美しいそれであるのに、それを辿ったその先に埋め込まれた双眼は天使とは程遠い。どちらかと言えば肉食獣の獲物に狙いを定めるそれである。 

「女の戦闘員は絶対に乗せないなんてもう最高にかっこいい船長さんだったけどねぇ」
「かといって女が戦えないかって言ったらそれはねぇ」

 ふふっと笑う女たちはみんな妖美。患者がいたなら寒気がしたことだろう。白衣の天使は、決してやさしくなどない。

「日取りはいいわね?ビブルカードは持ってる?」
「もちろん!」
「無理やり奪っておいたコレクションが役に立つなんてね」

 計画を確認するようにアンジュラが赤いペンでカレンダーを指せば総勢15名のナース達はそれぞれにうなずいた。これから決して安全とは言えない海に出ると言うのにその顔は晴れやかで、どこか浮き立つ空気さえ見える。

「あの人船医だったくせして自分の体には無頓着なんだから……今頃全身燃えてるんじゃない?」
「そしたら海に落とせばいいわね」
「誰が引き上げるのよ」
「みんなでに決まってるでしょう」

 船に乗り込み冗談を交わし合うそこにアンジュラが静かにしかしはっきりとそう声を落とした。

「『みんな』で引き上げるのよ。そしてもう一度――」

 先の言葉にナース達はみな、強くうなずいた。
1/3ページ
スキ