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Ruch

 ハットリくんそれは天使だ。

「鳩だ」
「シャラップ」

 天使を連れてる悪魔は今日も馬鹿にした笑いを湛えながらやってきた。たまにでいいから天使だけ来てくれればいいのにとは言ったら私の命が危ないので言わないが本気でそう思う。

 私は彼に目もくれず、早急に天使ことハットリくんを回収すると自分の肩に乗せ、即興歌を歌いながらコーヒーを入れにかかった。

「真っ白天使のハットリくーん、なーんであんなに物騒で、獣臭ーい男のところにいるの?非常食にされる前にうちにおーいで!」
『死ねっぽー』

 せっかく調子よく淹れていたというのに、物騒な返答に勢いよく振り返った。視界に入るのはあの馬鹿にした笑みだ。

「ハットリくんはそんなこと言わないもん!」
「ハットリが言ったんだろう」
「違う!」
『俺だっぽー』
「可愛い!天使!」
「…バカヤロウ」

 呆れた声など知るものか、天使は天使だ!と思いながらコーヒーは彼の分まで入れるのだから私は偉い。カップを一つソファーに座っている彼に渡して、ハットリくんにはピーナッツを小皿に出してあげると、肩から降りてそれを突き始めた。ニコニコ笑って見ていればぐいっと引かれる腰。

「何ですか」
「何も」
「じゃあ離してください」
「黙れ」

 横暴な物言いに流石に頭にきてそっちが何も言わないならとハットリくんに手を伸ばした。その瞬間。

「本当にハットリが天使だと思うか?」
「は…?い゛っ!?」

 答える前に鋭い痛みが首に走った。噛まれたと理解する前に引き倒され、追うように首を生暖かく柔らかい何かが肌を這った。目を白黒させながらもこれはまずいとだけは分かり、必死に彼の名前を呼べばピタリと動きが止まった。けれどホッとできたのは一瞬で。

「俺はハットリこそ悪魔だと思うが?」

 どうだ?と口だけ薄く笑う貴方の肩にはいつのまにかハットリ君がいて、わたしの首にかけられている手が冷たい。私は引きつった笑みが顔に浮かぶのが分かった。ため息をつきたいがつけば殺されるだろう事が分かってますますため息をつきたくなった。

 ハットリ君に構えば構うほど貴方が気に入らないのは百も承知している。そう言うことから言うなら確かにハットリ君は悪魔ではなくとも、悪魔の使い魔かもしれない。でもハットリ君が可愛いのは事実だから天使だというのは譲れないし、それに譲るも何も、彼は誤解してるのだ。

 答えを間違えれば殺す、と言わんばかりの空気の中で必死に私は貴方の目を見返した。そして首にかかる手に力が入る前に声を発する。

「…私は天使が一番好きだ、とは言ってませんよ」

 珍しく一瞬だけど見開かれた目。それを見てしまって、思わず笑ってしまったから再度噛みつかれ悲鳴をあげたのは言うまでもない。

『…バカだっぽー』

 落とされた声は羽音に消えた。




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