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Zoro

背中の傷は剣士の恥らしい。

 一度守られた時に見た彼の背中は大きくて逞しかった。守られたことが悔しくてそれでも泣くまいと歯を食いしばったのはいつだったか定かではないけれど、「強くなれ」と言うように乱雑に私の頭を撫でた手のひらの温度は覚えている。

 彼のことを目標にしつつ絶対に敵わないことをどこかで分かってしまった私は、剣士としての志だけは彼と並ぼうと誓ったのだ。

「行って」

 背に守った小さな命を押した。躊躇うように動かないそれに行きなさいと笑って。駆け出した小さな音と、肉が掻き切られる音はほぼ同時だったと思う。

 左肩から右腹にかけて燃えるような痛みが駆け抜ける。倒れそうなのをなんとか踏みとどまると、どさり。大きな音。
少しは強くなれたかな、なんてこんな大怪我していては言えないけれど。

 ふーっと長く息を吐く。よく知った足音が普段よりも早いリズムで背の方から響いて。
ぐっと体が持ち上がった。

「ぞろ」

 まっすぐ見つめれば横目で彼と目があった。にっと笑った私の顔は血の気が引いてきっとひどい顔だけど一言だけ、と口を開く。

「腹の傷は剣士の勲章?」

 アホ、と溢されたのは彼なりの激励だと思っておこう。
抱え上げてくれている腕の温度はあの時の掌の温かさと変わっていないことに安堵して、私はそっと身を任せた。



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