Ruch
ネコはにゃあとは鳴かない
「ネコにはマタタビだよね」
だけど原物をそこらにポイと置いておく度胸はない。さてどうしたものか。
なんの話かといえば私の好きな男の話だ。付き合っているわけではなく、私が一方的に好いているその男は能力者で、その身を“豹”に変えることができる。悪魔の実の力がなくてもあの男はえげつなく強いのだけれど、戦闘時、その能力を使っているのを見たときに私はふと思ったのだ。
完全に豹になったところを見たことがない、と。
「頼んだってどうせなってくれないだろうし」
付き合っているわけではないけど、あの男はよく私の部屋に来る。勝手に来て勝手にソファーを占領し、寝てるなと思ったら勝手に私に噛み跡を残して勝手に出て行く、なんとも自由な男をそれなりに見ているが、思い返してみてもやっぱり完全に豹になった姿は見たことがない。そして見てみたい、そう思ったらもうどうしようもない。
動物は好き。猫は特に。頼んでもよくて無視なのは目に見えてる。ならばやるしかないと私はごくりと唾を飲み込んでポケットの中から小さなスプレーを出した。
しゅっと部屋とソファーに軽く吹き付ける。効いて気づかれればおそらく死亡案件だけど、好奇心には勝てない。それに。
「好きな人のみたい姿を見て死ねるなら幸せだよね!」
「ほう、そうか」
いや、確かに幸せだけど、もうちょっと生きたかったかも。
振り返れば任務に出ていたはずなのに、汚れひとつない真っ白スーツ。ぎぎっとぎこちなくも笑みを浮かべて「おかえりなさい」と声にすれば、はっと鼻で笑われた。もはや感心するとも言いたげな、いや完全に馬鹿にした笑みを浮かべた男は間違いなく、私が好きな男、ロブ・ルッチ。そしてマタタビはバレている。匂いでバレるかもとかそう言う以前に私の手にはまだマタタビスプレーが握られているのだから当たり前だ。赤文字で「これでうっとり!」なんて書いてあるのが憎らしい。
「前から馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな」
「マタタビってストレス解消にいいらしいですよ!!なんか酔った感じになりませんか!!気持ちよくないですか!!ついでにネコになりませんかってぎゃーーーー!?」
どうせ死ぬなら効いてやろうと声を張ればその瞬間首を引っ掴まれてひゅっと息を吸う間に投げられた。
これじゃどっちが猫か分かりゃしないなと思いつつ打った頭を撫でながら顔を上げればあら不思議。間近に映るは悪魔の笑みを浮かべるルッチさん。背中はふかふかソファーの感触。
あ、死んだわ。
「せめてサクッとやってくださいね……?」
短い人生だった。せめて苦しいのは勘弁したいと首にかかった手を掴みながら情けない声で希望すれば、彼はニヤリと笑った。
「にゃあ」
「え」
目を見開いても目の前には彼一人。驚いている私をよそに彼はもう一度にゃあと鳴いた。
え、まさか本当にマタタビが効いたのか。驚き半分ながら抱き起すように背に腕が回され、マーキングするように首元に擦り寄られて。
今なら言える、即刻逃げろと。いやまあ、無理だろうけど。
『ガルルルル……』
「いっ!?」
可愛くない声がしたかと思った瞬間首筋、いや、肩のところに鋭い痛み。慌てて引き離せば死ぬほどではないが血がべっとり。瞬時にこの男に痛ぶって殺す趣味はなかったはず、あれどうだったっけ?あ、でも噛み癖はあったな?と纏まらない思考で必死に考えていればクツクツと喉が鳴る音。
「気持ちいいかと聞いたな?」
ゆらりと斑点のある尾が揺れている。人型のままで尾だけがゆらゆらゆらゆらと、機嫌良さげなのは私の生存確率は上げているが、それに比例して発汗量も増えている。なぜか。
だってこの男の機嫌の良さはいいことだった試しがない。
「それに答えるのはお前の方だ」
案の定、良くはない言葉と共に逃げる間も無く身包みは全て奪われた。
「ネコにはマタタビだよね」
だけど原物をそこらにポイと置いておく度胸はない。さてどうしたものか。
なんの話かといえば私の好きな男の話だ。付き合っているわけではなく、私が一方的に好いているその男は能力者で、その身を“豹”に変えることができる。悪魔の実の力がなくてもあの男はえげつなく強いのだけれど、戦闘時、その能力を使っているのを見たときに私はふと思ったのだ。
完全に豹になったところを見たことがない、と。
「頼んだってどうせなってくれないだろうし」
付き合っているわけではないけど、あの男はよく私の部屋に来る。勝手に来て勝手にソファーを占領し、寝てるなと思ったら勝手に私に噛み跡を残して勝手に出て行く、なんとも自由な男をそれなりに見ているが、思い返してみてもやっぱり完全に豹になった姿は見たことがない。そして見てみたい、そう思ったらもうどうしようもない。
動物は好き。猫は特に。頼んでもよくて無視なのは目に見えてる。ならばやるしかないと私はごくりと唾を飲み込んでポケットの中から小さなスプレーを出した。
しゅっと部屋とソファーに軽く吹き付ける。効いて気づかれればおそらく死亡案件だけど、好奇心には勝てない。それに。
「好きな人のみたい姿を見て死ねるなら幸せだよね!」
「ほう、そうか」
いや、確かに幸せだけど、もうちょっと生きたかったかも。
振り返れば任務に出ていたはずなのに、汚れひとつない真っ白スーツ。ぎぎっとぎこちなくも笑みを浮かべて「おかえりなさい」と声にすれば、はっと鼻で笑われた。もはや感心するとも言いたげな、いや完全に馬鹿にした笑みを浮かべた男は間違いなく、私が好きな男、ロブ・ルッチ。そしてマタタビはバレている。匂いでバレるかもとかそう言う以前に私の手にはまだマタタビスプレーが握られているのだから当たり前だ。赤文字で「これでうっとり!」なんて書いてあるのが憎らしい。
「前から馬鹿だとは思っていたが、ここまでとはな」
「マタタビってストレス解消にいいらしいですよ!!なんか酔った感じになりませんか!!気持ちよくないですか!!ついでにネコになりませんかってぎゃーーーー!?」
どうせ死ぬなら効いてやろうと声を張ればその瞬間首を引っ掴まれてひゅっと息を吸う間に投げられた。
これじゃどっちが猫か分かりゃしないなと思いつつ打った頭を撫でながら顔を上げればあら不思議。間近に映るは悪魔の笑みを浮かべるルッチさん。背中はふかふかソファーの感触。
あ、死んだわ。
「せめてサクッとやってくださいね……?」
短い人生だった。せめて苦しいのは勘弁したいと首にかかった手を掴みながら情けない声で希望すれば、彼はニヤリと笑った。
「にゃあ」
「え」
目を見開いても目の前には彼一人。驚いている私をよそに彼はもう一度にゃあと鳴いた。
え、まさか本当にマタタビが効いたのか。驚き半分ながら抱き起すように背に腕が回され、マーキングするように首元に擦り寄られて。
今なら言える、即刻逃げろと。いやまあ、無理だろうけど。
『ガルルルル……』
「いっ!?」
可愛くない声がしたかと思った瞬間首筋、いや、肩のところに鋭い痛み。慌てて引き離せば死ぬほどではないが血がべっとり。瞬時にこの男に痛ぶって殺す趣味はなかったはず、あれどうだったっけ?あ、でも噛み癖はあったな?と纏まらない思考で必死に考えていればクツクツと喉が鳴る音。
「気持ちいいかと聞いたな?」
ゆらりと斑点のある尾が揺れている。人型のままで尾だけがゆらゆらゆらゆらと、機嫌良さげなのは私の生存確率は上げているが、それに比例して発汗量も増えている。なぜか。
だってこの男の機嫌の良さはいいことだった試しがない。
「それに答えるのはお前の方だ」
案の定、良くはない言葉と共に逃げる間も無く身包みは全て奪われた。