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Ruch

誕生日2019
※ほんのり現パロ


「誕生日を、自己申告してくれても、いいじゃないですか!!」

ちょっとばかりの八つ当たり。私は彼がいつも使っているグラスを机の上に置いた。力強く、とは置けないのはやっぱりちょっとだけ弱虫だから。このグラスは彼愛用のものなのだ。割ってしまったぐらいで今更捨てられなどしないとは思うが、不安要素を自分から作ったりなどしたくない。

グラスと並んで横に置いたのは年代物のブランデー。彼にあげようと思っていたのだけれど、もういいのだ。

私は彼の誕生日を知らなかった。今年で二年目なのに?と良く聞かれるが、もちろん付き合って一年目の時に聞いたことはあった。けど「知ってどうする」と言われてしまって知らなかったのだ。知ってどうする、は「過ぎた」という意味で間違いなかったと思うから、今年は教えてもらえると思ってたのに。いつ教えてくれても大丈夫なようにこうしてプレゼントも用意していたというのに、彼の誕生日は過ぎた。

知ることになったきっかけは彼が不在中に届いた誕生日カード。彼の友人からのもので、いいご友人がいるんだなあと思いつつも彼自身から教えてもらえなかったことがやっぱり少しだけショックで。

「……祝われるのはうざいとか思ってるのかなあ」
「バカヤロウ」

ジワリ、涙が滲み始めた瞬間に落とされた声に肩が跳ねた。え、と声に出しているうちに持ち上げられて乱雑にもソファーに投げられて若干痛い。突然のことだし、気配もなかったがこんなことできるのは彼しかいないから怖くはない。怖くはないが。

「……帰ってこないのかと思った」

変なヒゲ。無愛想に引き結ばれた口に何も映さない瞳に思わず溢れたのは少しばかりの文句と弱音。

私は彼の仕事を知らない。ちょっと特殊な仕事をしてることしか。教えられないと言われてるからそれは別にいいけど、偶然知った誕生日の日からパタリと今日まで連絡が来なかったのだから不安になったって仕方がないと思う。だって彼なら野良猫のようにふらっと何処かに行ってしまっても不思議はない。

「……誰にもらった」

私の声には答えずに彼は不機嫌そうに机の上のブランデーを見た。答えてくれなかったのはいつものことだけど、その顔に私はパチリと瞬きしてしまう。

「……誰からだと思います?」

普段なら問い返すなんて恐ろしいこと絶対しないのだけれど、嬉しくて少しだけ意地悪を。だって不機嫌に歪んだ顔がまだ愛されているという事実だから。でも、瞬時に首に手が伸びてくるところ生命の危機なので「私からです!」と最速の答え合わせ。全くいつも物騒だ。

彼はグラスにブランデーを注ぐと、くるりと回した後に一口飲んだ。分かりにくいけど満足してくれたかはその顔を見れば分かる。

「……仕事が忙しかった」

一息の間の後零された言葉。翻訳すれば「帰ってこられないのに教えても意味がないだろ」ぐらいだろうか。彼にしては優しい理由に少しだけ驚いて、それから少しだけ笑った。

「ハッピーバースデー、ルッチさん」

今回は仕方なかったけれど、どうか来年はちゃんと祝わせてね。会えなくたってスマホでメッセージだって送れるんだから。

ちゅっと珍しく私からキスを落とせば、彼は私の首筋に噛みついた。
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