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Kaku

「すまんの」

 そう言う彼をいつもイライラして見ていた。

 最近の彼は特によく謝る。何もないのに謝るような不自然な姿を見せるのはその謝罪に隠した何かを知って欲しいからだろうか。でも「何が?」と問いただせば「いやなんとなくじゃがな」と笑うので多分、秘密があるという事を知って欲しいだけでその内容は知って欲しくないのだろう。

 秘密は苦しい。彼が苦しそうなのも私は苦しい。だから。

 美味しい秘密にしてしまおう。

 ちゅっと二人だけの空間に静かに落とされるリップ音。至近距離で交わる視線は私だけに向いていて心の中が甘い何かで満たされる。

『秘密にしたらキス一つ』

 交わした約束が最初で最期になるとは思わなかったが、苦しかった秘密が美味しい秘密になったからまあよしとしよう。
 あの時は最期になると思わなかった最期の夜。彼は約束をしてから言っていなかった謝罪の言葉を繰り返しながら私の至る所にキスを落とした。その一つはまだ私の首に残っていて。

「バカな人ね」

 秘密は秘密があると悟られたらもう秘密ではないと言うのに。何も言わず姿を眩ませてくれたら私も諦めがついたというのに。美味しい秘密はもう、クセになってしまったから。

「首を洗って待ってるといいわ」

 今度は私が貴方に美味しい秘密をご馳走してやる。

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