Smoker
梅雨の話
じめじめと湿気が鬱陶しい。とある島での任務中、タイミングが悪いことにこの島の季節はちょうど梅雨になったところだった。
私はあまり梅雨が好きではない。髪は跳ねるしじとじとするし。涼しいのか熱いのか分からない気候は地味に嫌な気持ちになって、気分が沈むのだ。明るいお天道様の下、町を巡回するのがいいか、どんより雨の中町をめぐるのがいいのか尋ねられたら迷いなく前者だろう。私は窓辺に頬杖をついて溜息一つ。
サー……と言う静かな、でも若干強い雨が窓の外を飾っている。そう言えば中将は「俺が戻るまで待機しろ」とぶっきらぼうにも言い放って出て行ってしまったけれど、そう言えばあの人の能力は煙だったなと思い出す。
煙なんだけれど、実際初めて見た時は雲のようだと思ったことをよく覚えている。あれは子どもが夢見る雲だ。だって、触れるし乗れる。まあ、触らせてくれて乗せてくれることはめったにないのだけれど。
「この湿気を染み込ませたら、本当に雲になるのでは?」
「……なんの話だ」
独り言に返事が返ってきて肩をびくつかせつつ振り返れば中将が。びしょ濡れだから慌ててタオルを渡せば体を拭くのもそこそこに葉巻吸おうと思ったのかポケットを探るような動作があったが、もう一度言う。びしょ濡れなのだ。だから間違いなく葉巻もびしょ濡れだ。
「……さすがに葉巻はないですね」
ヘビースモーカーな中将に葉巻は必須。予備を用意しておくべきだったか、と少し眉を下げれば「おい」と声を掛けられて投げられたのは色とりどりの何か。半透明のつやつやしたビニール素材。赤、青、緑に黄色と豊富な種類のそれは……雨合羽だ。
投げられたそれはたぶん「着ろ」と言うこと。雨合羽は簡易な物のようだったけれど、帽子の部分にウサギや猫の耳らしきものが着いていて、私はいいけど男性陣が来たら普通に怖さ倍増じゃないかと思った。言わないけど。中将の趣味でこれを選ぶわけがないので、おそらく近場の店にこれしか置いていなかったのだろう。興味本位で視線だけで中将も着るんですか、と尋ねたが阿保かと言う顔をされて今にも殺されるんではないかと思うほどの殺気に近いものを飛ばされたので、私はおとなしく両手をあげてドアまで後ずさりした。
「海賊は拘束したが、今日この町は梅雨の祭りらしい。警備にあたるが、見た目がゴロツキばかりのやつらがうろうろして水を差すわけにいかねェだろ。それ着て出ろ」
「了解です」
指示に良い返事を返せば、中将はシケているであろう葉巻を咥えた。それを見て、中将は動かないことを察し私は一度敬礼するとドアノブに手をかけた。
「仮に俺が水分を吸収できるとしても、流石に晴れはしねェだろうな。何より葉巻がシケるのは俺はごめんだ」
部屋を出かけたところで落とされた言葉はそんなこと。驚いて振り返るもどっかりとソファーに腰を掛ける中将の背が見えるだけで私は瞬き一つ。それから少しだけ笑みをこぼしてこう言った。
「では、予備の葉巻をご用意しておきますね」
私は梅雨はあまり好きではない。それは中将も同じらしい。
じめじめと湿気が鬱陶しい。とある島での任務中、タイミングが悪いことにこの島の季節はちょうど梅雨になったところだった。
私はあまり梅雨が好きではない。髪は跳ねるしじとじとするし。涼しいのか熱いのか分からない気候は地味に嫌な気持ちになって、気分が沈むのだ。明るいお天道様の下、町を巡回するのがいいか、どんより雨の中町をめぐるのがいいのか尋ねられたら迷いなく前者だろう。私は窓辺に頬杖をついて溜息一つ。
サー……と言う静かな、でも若干強い雨が窓の外を飾っている。そう言えば中将は「俺が戻るまで待機しろ」とぶっきらぼうにも言い放って出て行ってしまったけれど、そう言えばあの人の能力は煙だったなと思い出す。
煙なんだけれど、実際初めて見た時は雲のようだと思ったことをよく覚えている。あれは子どもが夢見る雲だ。だって、触れるし乗れる。まあ、触らせてくれて乗せてくれることはめったにないのだけれど。
「この湿気を染み込ませたら、本当に雲になるのでは?」
「……なんの話だ」
独り言に返事が返ってきて肩をびくつかせつつ振り返れば中将が。びしょ濡れだから慌ててタオルを渡せば体を拭くのもそこそこに葉巻吸おうと思ったのかポケットを探るような動作があったが、もう一度言う。びしょ濡れなのだ。だから間違いなく葉巻もびしょ濡れだ。
「……さすがに葉巻はないですね」
ヘビースモーカーな中将に葉巻は必須。予備を用意しておくべきだったか、と少し眉を下げれば「おい」と声を掛けられて投げられたのは色とりどりの何か。半透明のつやつやしたビニール素材。赤、青、緑に黄色と豊富な種類のそれは……雨合羽だ。
投げられたそれはたぶん「着ろ」と言うこと。雨合羽は簡易な物のようだったけれど、帽子の部分にウサギや猫の耳らしきものが着いていて、私はいいけど男性陣が来たら普通に怖さ倍増じゃないかと思った。言わないけど。中将の趣味でこれを選ぶわけがないので、おそらく近場の店にこれしか置いていなかったのだろう。興味本位で視線だけで中将も着るんですか、と尋ねたが阿保かと言う顔をされて今にも殺されるんではないかと思うほどの殺気に近いものを飛ばされたので、私はおとなしく両手をあげてドアまで後ずさりした。
「海賊は拘束したが、今日この町は梅雨の祭りらしい。警備にあたるが、見た目がゴロツキばかりのやつらがうろうろして水を差すわけにいかねェだろ。それ着て出ろ」
「了解です」
指示に良い返事を返せば、中将はシケているであろう葉巻を咥えた。それを見て、中将は動かないことを察し私は一度敬礼するとドアノブに手をかけた。
「仮に俺が水分を吸収できるとしても、流石に晴れはしねェだろうな。何より葉巻がシケるのは俺はごめんだ」
部屋を出かけたところで落とされた言葉はそんなこと。驚いて振り返るもどっかりとソファーに腰を掛ける中将の背が見えるだけで私は瞬き一つ。それから少しだけ笑みをこぼしてこう言った。
「では、予備の葉巻をご用意しておきますね」
私は梅雨はあまり好きではない。それは中将も同じらしい。
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