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Smoker

「...何日寝てねぇ」

 私の顔を見て苦々しげに聞いてきたのはスモーカー中将。それにコテン、と首を傾げて「さっきまで寝てました」と答えれば額を弾かれ二、三歩後退。椅子にぼすん。見上げれば厳つい顔をさらに厳つくした中将が。

「嘘つきは海賊の始まりって知らねえのか」
「おや、スモーカー中将からそんな冗談が聞けるだなんて4徹してるかいがありますね」

 はは、と乾いた笑いを溢す私の机の上には書類の山、山、山。嫌がらせのように、いや実際嫌がらせなのだけど大量に送られてくる書類を片付けるのは私の役目。軽口を叩く私に中将はしかめっ面のままため息をつく。それを無視して書類の続きに取り掛かろうとした私の手は彼によって止められ、あっという間に抱き上げられるとそのままソファーの上に落とされた。

「寝ろ」
「もうすぐで終わります」
「寝るのが先だ。そもそも量はアホみてェにあるが、急ぎのものはねェはずだろう」

 何をそんなに急いでいる、と言う貴方にぱちぱち瞬き二つ。なぜってそんなの決まっている。

 野犬と呼ばれる問題児上司だが、その信念は人一倍強く、誰よりも部下思いな人だという事を私は知っている。
 そんな部下から慕われないわけがない上司を、書類仕事なんかで邪魔をしようとする輩がいるなら。
 
 大量の書類を一気に捌けばここより上の部署が今度は同じ目に合うのだ。

ー野犬が一匹なんて誰が言った?ー

 せいぜいひーひー嘆けばいい、とは口にしなかったがにっと笑った私に何か読み取るものがあったのか中将のため息ひとつ。

「...問題児は俺1人で十分だ」
「やだなあ、なんのことですか?」
「減らねえ口だな」

 ぶわっと広がった優しい白。「寝ろ」と再度中将が言った。

「あとは俺がやっておく」
「卑怯ですよ...」

 中将の煙は私のお気に入り。それはもくもくと私を包み込んで、なんとも言えない心地よい感触が眠気を誘うのだ。意地を張っても体は正直で、睡魔に飲み込まれそうになるのに必死に抗っていれば、くしゃりと頭を撫でられた。子供扱いをするなと不満を漏らそうとしたが、珍しく中将の薄い笑みが見えて。

「起きたら任務だ」
「...ちゃんと起こしてくださいよ」

 返事の代わりというようにもう一度頭を撫でられた。



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