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Smoker

「スモーカーさん」

 机に上半身をだらし無く投げた状態で名前を呼べば、ソファーに座っている彼の目だけがこちらを向く。

「勉強したくない」
「やれ」

 一秒どころではない速攻の返答。的確な言葉は見事に私を撃沈させ、かろうじてあげていた顔まで伏せさせた。予想通りの返答で、ちょっとは甘やかしてくれないかな、なんて淡い期待は跡形もない。ゆらりゆらりと揺れる彼のタバコの煙に何故だか呆れられているようで腹がたつ。

「やらなきゃ泣くのはお前だろう?」
「わかってるけど...」

 分かっていてもできるかは別なのだ。ましてテスト勉強となかなか会えない恋人を天平に掛けろだなんて、無慈悲にもほどがある。うーうー唸っていればため息が聞こえて、彼が席を立った音がした。

 気を使ったのか呆れたのか。どちらにせよ彼が目の前にいない方が集中はできるかもしれない、なんて。そんなこと思ってもじわりと涙が滲むぐらいにはなんだか寂しくて。
でもうだうだ時間を無駄にしてしまうのも悔しい気がして早くやってしまおうと顔をあげたら、ふわりとコーヒーの匂い。

「ほら」

 見慣れた彼の仏頂面。ゴツゴツした大きな手が差し出す大きなマグカップの中でミルクが揺れていると言うことは私のだということを指していて。

「お前ならできるだろ」

 マグカップを両手で受け取ったら、乱雑に、でも私が好きな撫で方で頭を撫でられた。思わずぱっと顔をあげたら彼はすでにソファーに腰掛けるところで。

「スモーカーさん」

 彼の目だけがこちらを向く。

「終わったらデートしてください」

 あァ、という短い返事に私は笑って、揺れる彼のタバコの煙も優しく微笑んだ気がした。

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