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Beckman

「子守唄と睡眠薬と気絶、どれがいいですか?」
「できればどれも遠慮したいな」

 書類から目を離さずそう返事を返すだけの余裕はあるらしい、いや逆に一周回って分かりにくいハイテンションになっているのかもしれないが。

 もともと厳つい顔に疲労が加算されて眉間のシワの凄い事。私はため息ひとつ付いてぐしゃっと白髪混じりの髪を崩してやった。

「寝てください」
「断る」

 積まれた書類は急ぎのものではないのだろう。「あいつはたまァに、ああなるんだよ」と苦笑したお頭が思い出される。そう言った時のお頭は珍しく返り血を浴びていたっけ。それほどの戦闘ならば高ぶっても仕方がないとは思うが流石に4日も寝ていないとなれば話は別だ。

 邪魔くさそうに髪を除けようとする手を取って、キュッと握った。動きが止まる。

 握った手を両手で握り直し、ゆっくりと揉むように指で押す。冷たい指先がだんだんと暖かくなり、ちらりと伺った副船長は先ほどまでの刺すような雰囲気を収めていた。持ってきていた白湯を渡し、チョコレートを口に放り込んでやる。もそもそと無言で口を動かす動作のなんとまあ可愛いことで。

 ごくり、と飲み込んだのを確認をしてさあ寝ましょうと手を引けば、急にやや乱暴に抱き上げられて。

「副船長?」
「子守唄と睡眠薬と気絶、どれがいいかと聞いたな」

 どさりと落とされたのはベッドの上で。

「起きるまでそばにいてくれ」

 寝るまで、じゃないのか。そんなこと問うまでもなく、すーっと静かな寝息が聞こえてきて。ひどい顔をしているがしっかり眠りに落ちたことに安堵する。

 起きるのはいつになるだろう。もしかしたら一日置きないかもしれないな。非番ではないからどうしたものかと思ったが、腰に回された逞しい腕を解くわけにはいかないかと1人納得した。
ころりと寝返りを打つ。

「おやすみなさい、副船長」

そっとまぶたに口づけを落として、私も目を閉じた。



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