Beckman
天気がいい日は気持ちがいい。
新人クルーである私は今日も雑務をこなす。気持ちの良い青空のもと仲間と洗濯をして船に張ったロープに手際よく干していた。
真っ白なシーツが揺れる中、派手で奇妙な柄のマントも揺れている。うちのお頭は基本的にはセンスがいいが、たまによくわからないチョイスがあって、それが顕著に現れた一つがマントだ。なんでも「幹部は強そうな服着てないとな!」らしい。その柄が強そうかはわからないが、幹部だという目印にはなっている、と思う。そこまで考えてふと思い浮かんだのはうちの副船長だ。
副船長とはあまり話したことがない。少年のようなお頭の分まで落ち着きがあっていつも冷静な副船長はその厳つい見た目とは裏腹に優しいことは知っているがいつも忙しそうで、私のような新人クルーが話す機会は船に乗った時以来ほぼないと言っていい。だから 仕事の邪魔はしたくないが、できれば副船長とも話しをしてみたいというのは普通のことで。
「おい!終わったら次こっちの掃除手伝ってくれ!」
「あ、はい!」
遠くから呼ばれる声がして慌てて返事をした。いけない、雑務はいくらでもあるのだ。急いで残りの洗濯物を干して、早く戻ろうと振り返った瞬間。
「んぶっ!?」
目の前が黒くなり、べちっと何かにぶつかった。転ぶことは流石になかったが、たたらを踏み、真正面から突っ込んだために鼻を打ったのか若干痛い。なんでこんなところに壁が...と打った鼻を擦りながらぺたっと壁に手をついて思わず固まった。あったかい。
理解した私がそのままの姿勢ですすすと下がればくつくつと笑い声。貴重だができれば違う時に聞きたかった。
あったかい壁もあるかもしれないが船ではありえないし、ひらりと視界の端で揺れるのは奇妙な柄のマントで。
「大変失礼しました副船長...」
「いや、気にするな」
恐縮している私に怪我はないか、と聞いてくれる副船長はやはり優しいが、気配にも気づけなかった私は今すぐにでも消えたい気持ちだ。確かに話しがしたいとは思っていたが、こんなキッカケはあんまりだ。
情けなくて恥ずかしくて、再度頭を下げて謝って横を駆け抜けようとしたら「待て」と声がかかった。体が固まる。なんとか振り返ればふうっとタバコの煙が風に流されていて、「なんですか?」と問えば、「このマントは強そうに見えるか?」と、尋ねられたのはそんなこと。
てっきりやっぱりなにか怒られるのだと思って身を硬くしていた私は拍子抜けで思わず間抜けに口を開けた。あまりに予想できなかった質問だったせいで「見え、ますよ?」とか適当な答えを返せば「そうか」とこぼされそれだけで。それ以上なにも言われないのでそれならもう行っていいかと一歩下がればバサリと布のはためく音が。
タバコの臭いが鼻をかすめ、半袖から出ていた私の腕を滑るのは意外にも肌触りのいい奇妙な柄の。
「強そうに見えるぞ」
突拍子があるっちゃあるがない言葉。本当に今目の前にいるのは副船長だろうかと思ってしまうほど少年のようなじゃれあい。しかし口元は対照的に大人の余裕を出した笑みが浮かんでいて。夢かと思うも、自分の肩にかけられた奇妙な柄のマントが嘘ではないと揺れていて、体格差のせいで引きずってしまう裾を慌てて巻き上げればぐしゃりと髪を撫でられた。
「俺が副船長だから緊張するのかもしれないが、そう堅くならなくていい」
好きな時に声を掛けろ、そう言って背を向けた副船長に、話しかけられるようになるのはいつだろうか。
「…かっこよすぎて無理じゃない?」
新人クルーである私は今日も雑務をこなす。気持ちの良い青空のもと仲間と洗濯をして船に張ったロープに手際よく干していた。
真っ白なシーツが揺れる中、派手で奇妙な柄のマントも揺れている。うちのお頭は基本的にはセンスがいいが、たまによくわからないチョイスがあって、それが顕著に現れた一つがマントだ。なんでも「幹部は強そうな服着てないとな!」らしい。その柄が強そうかはわからないが、幹部だという目印にはなっている、と思う。そこまで考えてふと思い浮かんだのはうちの副船長だ。
副船長とはあまり話したことがない。少年のようなお頭の分まで落ち着きがあっていつも冷静な副船長はその厳つい見た目とは裏腹に優しいことは知っているがいつも忙しそうで、私のような新人クルーが話す機会は船に乗った時以来ほぼないと言っていい。だから 仕事の邪魔はしたくないが、できれば副船長とも話しをしてみたいというのは普通のことで。
「おい!終わったら次こっちの掃除手伝ってくれ!」
「あ、はい!」
遠くから呼ばれる声がして慌てて返事をした。いけない、雑務はいくらでもあるのだ。急いで残りの洗濯物を干して、早く戻ろうと振り返った瞬間。
「んぶっ!?」
目の前が黒くなり、べちっと何かにぶつかった。転ぶことは流石になかったが、たたらを踏み、真正面から突っ込んだために鼻を打ったのか若干痛い。なんでこんなところに壁が...と打った鼻を擦りながらぺたっと壁に手をついて思わず固まった。あったかい。
理解した私がそのままの姿勢ですすすと下がればくつくつと笑い声。貴重だができれば違う時に聞きたかった。
あったかい壁もあるかもしれないが船ではありえないし、ひらりと視界の端で揺れるのは奇妙な柄のマントで。
「大変失礼しました副船長...」
「いや、気にするな」
恐縮している私に怪我はないか、と聞いてくれる副船長はやはり優しいが、気配にも気づけなかった私は今すぐにでも消えたい気持ちだ。確かに話しがしたいとは思っていたが、こんなキッカケはあんまりだ。
情けなくて恥ずかしくて、再度頭を下げて謝って横を駆け抜けようとしたら「待て」と声がかかった。体が固まる。なんとか振り返ればふうっとタバコの煙が風に流されていて、「なんですか?」と問えば、「このマントは強そうに見えるか?」と、尋ねられたのはそんなこと。
てっきりやっぱりなにか怒られるのだと思って身を硬くしていた私は拍子抜けで思わず間抜けに口を開けた。あまりに予想できなかった質問だったせいで「見え、ますよ?」とか適当な答えを返せば「そうか」とこぼされそれだけで。それ以上なにも言われないのでそれならもう行っていいかと一歩下がればバサリと布のはためく音が。
タバコの臭いが鼻をかすめ、半袖から出ていた私の腕を滑るのは意外にも肌触りのいい奇妙な柄の。
「強そうに見えるぞ」
突拍子があるっちゃあるがない言葉。本当に今目の前にいるのは副船長だろうかと思ってしまうほど少年のようなじゃれあい。しかし口元は対照的に大人の余裕を出した笑みが浮かんでいて。夢かと思うも、自分の肩にかけられた奇妙な柄のマントが嘘ではないと揺れていて、体格差のせいで引きずってしまう裾を慌てて巻き上げればぐしゃりと髪を撫でられた。
「俺が副船長だから緊張するのかもしれないが、そう堅くならなくていい」
好きな時に声を掛けろ、そう言って背を向けた副船長に、話しかけられるようになるのはいつだろうか。
「…かっこよすぎて無理じゃない?」