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Beckman

<苦いキスは受け付けない>

「珍しいね?」

 書類をまとめて部屋を訪ねれば、すぐに許可の声がしたから遠慮なく入ったら強面の彼の頬は少しだけ膨らんでいて、それがころりころりと左右へ移動したり、なくなったりするものだから私はパチリ。飴を食べているのだな、と言うのはすぐに分かったのだけれど珍しい。彼はあまり甘いものを好まないから。

「船医に突っこまれた」
「ああ、なるほど。最近たばこの量多かったもんね」
「お前のせいでな」
「責任転嫁」
「事実だ」

お前のせい、とはたぶん数日前に私が彼からキスされた時に「苦い」とこぼしたことを言っているのだろう。そのあと「キスする前にはたばこ吸わないで」まで私が言ったものだから、四六時中たばこをくわえていないと落ち着かないと言っても過言ではない彼は拗ねてしまって、吸うなと言った反抗のようにたばこの量が逆に増えたのだ。
たぶんいつも私が体に悪いとか、今日はもうだめ、とか比較的優しい言葉で心底心配して声をかけていたから、今回もたばこの量を増やして吸いまくれば私が折れるとでも思ったのだろう。残念でした、これは譲れないのだ。

だって私、甘いものの方が好きだもん。

できれば苦いキスはご遠慮したい。
くすくす笑っていれ舌打ち一つ。彼ににらまれたらほとんどの人は怖がるだろうけど、私は別に。

「ベック」

呼んでも反応なし。ますます笑ってしまう。

「ベックマン」
「……なんだ」
「それ、何味?」
「……イチゴだ」

返事を聞くか聞かないか。それぐらい素早く、私は唇を重ねた。
驚いた彼の口内に舌を滑らせ、ころり。

「うん、おいしー。これならいくらでもいけるなぁ」

ソファーに座る彼の膝をまたぐように座った私はわざとらしくそう言った。瞬時に腰に絡みつくのは大きな手。調子に乗って服の中に滑り込んでくるものだからそれはペチリ。

「でも、私チョコレートの方が好き」
「ブラックでいいか?」
「キスしないよ?」
「それは困るな」

どこから出したのか、彼は空っぽになった口にチョコレートを放りこんだ。手早いことで、と私は苦笑。

「今私は飴を食べてるところなんだけど?」
「早くしないとなくなるぞ」
「はいはい。禁煙は?」
「一週間」
「一か月ぐらいどお?その間は毎日キスしてあげるよ」
「言ったな?」

にやり、と笑われた顔に若干冷や汗たらり。うんこれは言うセリフ間違ったなあなんてもう遅い。

「お手柔らかに」
「一か月よろしく頼むぞ?」

一か月、禁煙でできたかはクルーが二度見するぐらいご機嫌な彼を見て察してほしい。



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